C市:ステーキ屋事件

いよいよ、3回目のお料理教室、C市。

目黒さんと荒川さんは前日に現地入り。
会場となる調理師専門学校などで、午後は準備をする。

どこかの駅で待ち合わせ。
新幹線に乗るなら東京駅とか、飛行機に乗るなら羽田とか。

そして現地に着いたら、二人でお昼を食べたりする。

C市には有名なステーキ専門店があるそうで、そういう情報には敏感な目黒さんは「ぜひ行こう」と荒川さんに言っていたそうだ。
「有名なお店なのよ!」

荒川さんの話によると、店の中に入ると赤いじゅうたんを歩いていくような演出で、高級店らしい雰囲気を出していたそうだ。
ランチだからか、あまり人はいっぱいでなくて、ゆったりと席に着いた。

「で、目黒さんがメニューを開いてさー。
チラッと見てたんだけど、パタン!て閉じて、「ハンバーグでいいわね!」。
え、ステーキ食べましょうよ! せっかく来たのに!と思ったけど、もう店員にハンバーグ頼んじゃってさ」

――え、それ、どういうこと?
値段が高かったからってこと?

「そうなんじゃない。メニュー見せてくれなかったから、ステーキがいくらしたのか知らないけど。
で、せっかくステーキ屋に入ったのに、ハンバーグ食べて帰ってきてさー」

それなら別に、無理してステーキじゃなくても良かったね・・・・・・
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3回目、関西C市

荒川さん、3回目のお料理教室は関西のある都市、C市。
今回からメニューが変わる。

この時のお料理教室は、2回連続で行われていた。
・東北 10月A市、11月B市 イタリアン
・関西 1月C市、2月D市  メキシカン

三度めともなると、荒川さんもだいぶ手順が分かってくる。
荒川さんは2回目以降は司会もしていた。堂々としたものだ。

違うメニューなので、今回はまた試作がある。

でも慣れているので、荒川さんはさっさと手配する。
「前の日にスーパーに行って買っておきます。午後でいいですか?」と指定しながら確認。
「編集に説明する試作は、青梅さんに編集部の都合を聞いてみます」ピッピッピッと内線電話。

「会場の出張、そんなに遅くていいんですか? 今月行ったほうがよくないですか?」
「会場はどこに決めました? もうそろそろ必要ですよね?」

テキパキと仕事をこなしていく。

でももちろん、目黒さんはそれを上回る逸材だ。

「会場の下見は、今月はナントカの会議とカントカの打ち合わせがいろいろ入ってくるし、来月ね」
「でも来月だとギリギリですよ。×日までには決めないといけないですし」
「大丈夫よ。来月の頭に行くから」

――で、実際に来月になって、荒川さんは憤慨する。
「そして、どうしても外せない会議が入っちゃって、頭に行けなくてさ。
その後の土曜は、自分が風邪ひいて行けなくなってさ。
だから早く行っとけって頼んだのにさー。
会場が決まらないと何の手配もできないから、切羽詰まっちゃってバタバタするんだよねー!」

急に決まること、目黒さんが言い忘れていたことも出てくる。

「今日、打ち合わせね。マナヅル大介事務所。14時」
「え!? 今日ですか!? 聞いてませんけど」
「言わなかった? 14時よ。青梅さんも一緒に行くから」

――で、荒川さんは憤慨する。
「今日の午後、あの仕事をやっちゃおうと思ってたのにさ!
言っておいてほしいんだよね! 急に言うんじゃなくてさー。
言うのを忘れてるなんて、そんなのありだと思う? ないでしょ、普通」

それでも、一筋縄でいかないながらも、準備はそれなりに着々と進んでいく・・・・・・
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司会のコツ

コツなのかどうか分からないけど、品川さんには「司会はこういうことに注意すべき」という品川メソッドがあった。
聞いていると、なるほどな、と思えた。

たとえば、イベントでは事前にレシピを把握しておかなければならない。
もし料理家が違うことを言ったら、司会がフォローすべきだからである。

人にもよると思うけれど、特にノリでデモンストレーションをするタイプの人だと、書いてあることと違う手順でやったりする。
「ここでレモン汁をかけるとおいしいんだよね!」

――でもレシピにはそんなこと、書いてない。
参加者全員に配布しているのに、ひとことも書かれていない。

「レシピには書いてないけど、かけてもおいしい、ってことですよね」とすかさずフォローする。

手順には「1.卵を入れる 2.醤油を入れる 3.さっくりと混ぜる」と書いてある。
なのに、料理家は「卵を入れて混ぜ、醤油を入れてまた混ぜた」りする。
ついでに景気よく「卵を入れたら混ぜて! それから醤油を入れてまた混ぜる!」なんて言っちゃうかもしれない。

「レシピとは違いますけど、どっちでもいいってことですか?」と注意を促す。

なるほどねぇ。

「結構、適当にやるのよね。特にマナヅル大介なんて、その場のノリが一番大切だからさ。
適当にやっちゃうのをあたしがいちいち突っ込むから、あたしの司会は嫌ってたね」

――マナヅル大介さんの料理教室も司会したりしてたんですか。
じゃ、顔見知りなんですね、もともと。

「広告部のイベントでよくやってたからね。
マナヅル大介のほうは、あたしのこと嫌いだと思うよ。
いろんなこと、すぐ突っ込んでたしさ」

そうなんだ・・・・・・
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絶対、司会は荒川さん

なぜか目黒さんは、司会は絶対荒川さんにやらせていた。

荒川さんは一度、こんなことを言っていた。
「なんか体調が悪くてさ。やばいなーと思ってたんだけど、当日もあまりよくなかったんだよね。
喉も痛くて、声を出すのが苦痛だったからさ、目黒さんに司会は難しいって言ったの。
でも絶対やれ!ってきかないんだよね。もう、ホントにきつかったよ」

そのくらい、司会は絶対、荒川さんだった。

しかし荒川さんの中には、自分はやらないほうがいいのではないか、という思いがあった。

ひとつには、自分がアルバイトだから。
ちゃんとした司会ができるとは思えない。
そういうことについて経験豊富な目黒さんや品川さんがしたほうがいい、と荒川さん自身は思っていた。

もうひとつは、雑用ができないから。
司会をしているということは、その間は持ち場を離れられないということだ。

「司会だからさー、位置についてなきゃいけないじゃん?
デモンストレーションのときにさー、話し始めたら、目黒さんも一緒になって席に座ってるんだよね。
編集の人たちはそういうとき、何もしてくれないからさー。
それでは、マナヅル大介さん、どうぞ! って言っても、誰もドアを開ける人がいなくてさ。
あたしが司会してるんだから、目黒さんが開けてくれなきゃ、誰も開けてくれないのにさ」

――で、どうしたの?

「どうぞ!って言ってもドア開かないし、目黒さんはどっかり座っちゃって、参加者や編集と一緒になって“あっはっは”とか笑っちゃってるし、あたしが慌ててドアのとこに行って開けてさー」

――司会はデモンストレーションのときだけするの?

「ずっとしてるのはデモンストレーションのときだけなんだけど、実習のときも何かと言ってるんだよね。
そろそろスープの作業に入ってください、とかね。だから他の仕事ができなくてさ」

そうなんだ。
確かに雑用多いだろうから、手は空けておきたいよね・・・・・・
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司会、荒川さん

最初の回は目黒さんが司会をした。

でもその最初の回から、荒川さんは言われていた。
「司会をやってもらうから〜。最初は分からないだろうから、あたしがやるけど〜」

荒川さんは何度か言っていた。
「え、でも、あたしはアルバイトだし、目黒さんがやったほうがいいと思います」
目黒さんは取り合わなかった。
「だぁいじょうぶよ、できるから!」

足立さんのときも、目黒さんは「司会を」と言っていた。
でも足立さんは言っていた。
「あたしはアルバイトだし、何かあったら困るから、アルバイトである限り司会はできない。
それだけは何と言われてもやらないつもり」

足立さんとのお料理教室では、とりあえず慣れるまでは目黒さんが司会をすることになった。
そして3回目で足立さんは辞めていってしまった。
――だから結局、足立さんは司会をしていない。

荒川さんには目黒さんはかなり強硬に出て、たぶん2回目くらいには司会をしていた。

品川さんもかつてはイベントでよく司会をしていた人なので、品川さんがやってもよかった。
でも目黒さんは頼まなかったし、品川さんも頼まれないのに手を出したりはしなかった。

荒川さんはお笑いが好きで、できることならお笑い芸人になりたかった、という人だ。
だからやってしまうとすぐに慣れて、上手にこなしていたようだ。

本人は「上手じゃないよ。ぐだぐだの司会だもん」と言っていたけれど・・・・・・
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これ知ってる?

荒川さんは人と打ち解けるのがうまい人で、編集部とも親しくなった。
編集部と飲みに行った読者ホットラインのアルバイトは、後にも先にも彼女しかいない。

さて、その行った先で、大変気持ちよく飲んで盛り上がり、カラオケに行ってさらに盛り上がった。

編集部のスタッフとも気兼ねなく喋る荒川さんの様子が目に浮かぶようだ。

編集部の若い社員さんにとっては、荒川さんは不思議な存在に映るらしい。
アルバイトなのに目黒さんと並んで、まるで社員のように仕事をしているからだ。

編集部アルバイトの三鷹さんなどは、あくまでもアルバイト。
記事も書かないし、こういうイベントなどにも参加しない。
するとしてもいつも雑用係なのである。

それほど若くない社員さんは、慣れている。
荒川さんに限らず、読者ホットラインではいつもアルバイトが社員並に仕事をしている。
料理教室でもそうだし、読者プレゼントを作るときもそうだ。
業者さんとのやりとりだって、アルバイトがしちゃうのだ。

若い編集部スタッフさんは荒川さんに言う。
「でも、荒川さん、バイトなんだよねー?」
「そうですよ、私、生粋のバイトですよ〜!」

するとこう言われたそうだ。
「“きっすい”って何?」

おいおい!
編集者なんだから、「生粋」くらい知っておこうよ。

と話を聞いたときは思ったけれど、まぁ、いいのかな。
入社するときは国語力で入ってくるわけじゃなくて、編集部に配属されてからいろいろ覚えるのかも。

だって、即戦力の派遣を雇おうというのじゃない。
編集部にいるからには、その人は社員のはずだものね。

10年もすれば、「その程度のことは知っておけ」と後輩を叱れるようになっているのかも・・・・・・
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荒川さんの進出

荒川さんという人は面白い人で、いつのまにか人に好かれるという特技を持っている。
編集部の人たちともあっというまに打ちとけた。

わたしが見ていた中では、一番編集スタッフと仲良くしていたアルバイトさんだった。

編集部スタッフで料理教室に参加するような人たちは、全員社員だ。
編集部のアルバイトさんは記事を書くことも、読者と接することもない。
雑用のために雇われているのであり、雑用をしている。

たとえばわたしは、座談会会場では特に誰と話すでもなく、おとなしくしている。
目黒さんは編集長と話したりする。
編集スタッフ同士話したり、編集スタッフと編集長の話に目黒さんが口をはさむこともある。
でもわたしは、その場で座っていても必要がなければ口をきかない。そして必要はほとんどない。

座談会担当のアルバイトさんも、だいたい似たようなものだ。
わたしよりは編集スタッフの名前も顔も知っているし、わたしよりは話せるとしても、やはり控えめだった。

仕事をしているのは編集部と目黒さんであり、わたしたち「社員未満」は目黒さんの補佐をしている。
なんというか・・・・・・、目黒さんや編集部と同列に並んで立っているわけではないのだ。

お料理教室担当のアルバイトさんもそういう位置どりで、常に「対 目黒さん」で仕事をしていた。

でも荒川さんは違った。
なぜか、いつのまにか、人は彼女と仲良くなってしまうのだ。
――たとえばわたしは仕事上の知り合いに対しては丁寧語が抜けない。「ですます」調で話す。
でも荒川さんだけは、いつのまにかわたしの「ですます」調を崩してしまった。
彼女自身は「あたしはずうずうしいからね」と言うけれど、そういう感じもしない。
ずうずうしく感じる人だったら、あれほど好かれないと思う。

回を重ねるごとに、荒川さんは編集スタッフとも仲良くなっていた。
まず編集部側のイベント担当、青梅さんと打ちとけるようになった。
それからその他の編集スタッフとも顔なじみになり、ついには編集部と飲みにまで行っていた。

お料理教室のときは前日泊だが、編集部は編集部仲間で食べに行ったり飲みに行ったりする。
やっぱり気のおけない仲間同士で行きたいから、目黒さんは別行動。
目黒さんと足立さんなり荒川さんなりの担当アルバイトは、二人で夕食に行く。

でもその日、目黒さんとは簡単に済ませて、荒川さんが路上を歩いていると、編集部スタッフに出会ったそうだ。
「あれ、荒川さん、どこ行くの?」
「ホテルに戻るんです」
「これから飲みに行くんだけど、一緒に行かない?」

行った先には編集長もいて、その後のカラオケボックスでは編集長と一緒に歌っただか肩を組んだだか、伝説を作っていた。
何度も言っているけれど、本誌ハッピーライフの編集長は特別である。

荒川さんの前にも後にも、編集部と飲みに行ったアルバイトはいない。
それに、後にも先にも、荒川さん以外に編集長とカラオケで盛り上がったアルバイトはいない・・・・・・
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目黒さんのこだわり

目黒さんはこだわりがある人だ。
料理イベントでも、細部にまでこだわりを持っていた。

料理学校で会食用に食器を貸してくれない場合は、レンタルになる。
紙コップや紙皿で食べるなんて、目黒さんには許せないことだった。

「どうせなら素敵な食器で、気分よく食べたいじゃない?」

座談会をするときも、そういえばそうだった。
お菓子を載せる紙ナプキンの柄にもこだわっていた。

紙ナプキンなんて、誰も使うわけじゃなし、飾りである。
でも無しにはできないのだ――だって、そんなの、素敵じゃない。

ずっと後になって、長期派遣の杉並さんが辞めることになったとき、退社まで日がなかったので、お別れ会は豪華お弁当を買って社内でランチということになった。
品川さんが昼休み時間に会議室を予約し、弁当も注文。
せっかくなので、お料理教室イベントで使うランチョンマットも出しましょう、と目黒さんが用意。

わたしも会議室のセッティングを手伝い、ランチョンマットも並べた。
目黒さんが入ってきたので、「目黒さん、こんな感じでいいですか?」と聞いてみた。

「ん〜。いいけど――実は、これ、こっちが表じゃないの〜」

――そうなんですか!?
なんか、縫い目が見えたから、そっちが裏側かと思っちゃいました。

「これがね〜、模様なの。これを見せるようにするのよ」

それ、縫い目じゃなくて模様だったんですか・・・・・・。

その日、一緒に帰るとき、荒川さんにその話をした。
「ああ、あのランチョンマットねぇ〜。あれは目黒さんのすごいこだわりがあるからねー。
料理教室のときあれをどんどん並べてたらさー、ものすごい顔で飛んできてさー」

怒られたのだそうである。
「それはそこじゃないわ!! 順番があるんだから!!!」と。

そういえば、茶色、オレンジ、赤、緑、とカラフルだったなぁ。

「でしょ? その並べ順があるんだってさ。
そんなの分かんないからさー。適当に並べてたら順番が違うって、すごい剣幕で飛んできた」

イベントじゃなくて良かった。
そんな重要なランチョンマットを裏返しに置いてたなんて・・・・・・
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違う視点

別の視点が入ったことが、目黒さんの敗因だったと思う。
――つまり、荒川さんと日野さんが批判的な気持ちになったことの原因。

第一期黄金時代を知るわたしは、よく第一期が懐かしく思い出された。

墨田さんと足立さんの時代は、目黒さんしか直接の上司はいなかった。
千代田さんと大田さんは男性で、読者ホットラインの派遣やアルバイトとそれほど親しくしなかった。

当時は、目黒さんという視点しかなかったのだ。
目黒さんの視点から見た「千代田さんと大田さん」。
目黒さんの視点で捉えた「会社の長所、短所」。
目黒さんの考えるところの「読者に対するホスピタリティ」。
目黒さんの思うところの「求められているやり方」「理想の形」。

足立さんだって、準備って面倒だな、大変だなと思ったに違いないのだ。
でもそれが正しいか間違っているか言う人は、目黒さんしかいなかった。

「うちは読者を大切にするからね〜。そのための予算なんだしね〜」
「やっぱり面倒だと思っても、こうして何度もやっておかないとね〜。
昔こういうことがあったのよ――云々。だからやっぱり面倒でもやらないとね」

そうなのか、と足立さんは思う。

荒川さんの場合は、そう目黒さんに言われて「なるほど、そうなのか」と思っても、品川さんから反対意見が出る。
「いくら読者を大事にするからって、無駄にお金をかける必要はないわよね」
「ホスピタリティってよく言うけど、ホスピタリティと非効率的なのとは違うからね。
やり方がいきあたりばったりで、効率が悪すぎるのよね」

言われてみればそうだ、と荒川さんは思う。

どちらが正しいってこともないかもしれない。
でも今までは「絶対目黒さんが正しい」だったことが、「どちらが正しいってこともない」になるだけで、ずいぶん堕ちたものである。

後は個人の好みというか、そのアルバイトさんがどちらの考え方に共感するか。
――荒川さんは、品川さんに共感するタイプだった。

しかし荒川さんも、後に異動して離れてみると、品川さんについて別の見方があることを知った。

品川さんはかつての部署では鬼上司だったらしく、そういう体育会系の厳しさが苦手だった人からは評判が悪かった。
また中には、品川さんについていけず、目黒さんに共感する人もいると分かった。

違う視点というのは常にあるものだ。

まあ、目黒さんはできれば好かれたいみたいだけど、上司っていうのは嫌われるもの。
それでいいんじゃないかな。

わたしはサービス業時代にそう思ったけどな・・・・・・
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品川さんのやり方

やっぱり、品川さんのやり方は、目黒さんとは違うのだった。

前も書いたけれど、広告部のお料理教室と編集部のお料理教室は、目的も進め方も違う。
品川さんのは、クライアントがいて、一日に二度三度と行われる、広告部式のやり方なのだ。

それに目黒さんと品川さんは、性格も違う。

毎回でも新しい発想が湧いて、毎回でも新鮮に一から始められる目黒さん。
効率や熟練に価値を見出し、何度もやったものならより効率よくできるはず、と思う品川さん。

そして二人の役職名は、同じ「マネージャー」。

一応、品川さんは目黒さんを立てようとしていた。
このイベントは目黒さんの業務だし、自分は手伝いに来ているという立場。

でもあまり目に余ることがあると、つい言ってしまう。「こうしたほうがいいんじゃない?」

目黒さんも最初のうちは気を遣っていた。「品川さんがいてくれて助かるわ〜」
でもやっぱり口を出されると面白くない。

ちょっと可哀想だと思ったのは、荒川さんの立場だ。

品川さんは目黒さんに直接言っても無駄だと分かり、あまりにもひどいと思うと荒川さんに言うようになった。
「こういう進行の仕方をしたほうがいいと思うわよ。これこれこうだから」

往々にして、荒川さんは目黒さんから反対の指示を受けていた。
「こうしましょうね。そのほうがこれこれだから」

板挟みになるのは大変だと思った。
どちらのマネージャー社員から見ても、「同じ部のアルバイト」。
荒川さんは、どちらの言うことにも逆らえない。

彼女は仕事のできる人だったから、そういう立場もなんとか乗り切っていた。

でもわたしだったら絶対無理だったろうな・・・・・・
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