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小料理:社員たち

ママの旦那さまで、青空会社で日雇い労働者の仲介をしている「社長」は、面倒見がいい。
「社員」たちを連れてくることはあまりなかったけれど、この店は「社員」たちの御用達だった。
社員のほとんどは「ホームレス」と呼ばれる人たちだった。

ホームレスだけど、清潔である。

彼らは決して公園や駅前にだけ宿泊しているわけではない。
サウナに行く。サウナでは寝台に寝られるからだそうだ。
飲みに来るときは、たいていサウナで綺麗になっているときだった。
(それに仕事があってお金のあるときだった。)

一度、何か全く関係のない冗談から、一番神経質な「社員」の人が何度も言ってきた。
「俺たちは匂わないよな? 匂うはずないよ、サウナ行ってるんだから」
「ええ、全然そんなことないですよ」
「毎日サウナに行ってるんだから、大丈夫だ」
全然そんな話をしていないけれど、ずっと気にしていた。

その日は、「社員」さんたちはずいぶん大勢でやってきて、にぎやかに飲んでいた日だった。
景気のいい仕事があったのかもしれない。女の子もたくさん席に座った。

ところでこの「社員」さんたち、ママにとってはお客でしかない。
「社員」なだけに社長からの情報でどのくらい手持ちがあるかも予想がついていて、お金があるうちは飲ませてもらえる。
だが、底をつくと即座に帰らされてしまうし、安くしてもらうこともないのである・・・・・・
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小料理:社長

社長というのはお客さんであり、かつ、ママの旦那さんでもある。

なぜ社長かというと、それは会社をやっているから――だけど青空会社。
つまり社屋はない。

わたしも詳しいことは知らないが、そういうのがあるらしい。
本当に登記しているのとは違うのかもしれないし、それも詳しく分からない。

社長がやっているのは人材派遣業。
今でもあるのかどうか分からないけど、昔はそういう人たちがたくさんいたそうだ。
社長は土木建築業の会社などから、「今日は何人ほしい」と依頼を受ける。
そして昔だったら職安へ行き、日雇いの仕事を欲している人をかきあつめる。
今では「ハローワーク」となっている職業安定所――この時点でも日雇いの人が集まる場所だったかどうか、ちょっと分からない。

でも日雇いの仕事を欲している人ならたくさんいそうな土地だった。

雇われるのはたいていホームレスと呼ばれる人たちで、彼らは自分たちを仲介してくれるこの人を「社長」と呼んでいた。
店の女の子もたいていが「社長」と呼んでいた。
かえでさんとママだけが、「○○さん」と名前で呼んでいた。

社長は大柄で、灰色がかった髪、にこやかな人だった。機嫌の悪いときを見たことがない。
いつも「社員たち」を可愛がっていた・・・・・・

小料理:あざみちゃん

あざみちゃんは美人だった。
派手やかな顔立ちではなくて、整った美人。

彼女は異色のキャラだった。

もう歩く姿が異色。なんだかけだるそうに、物憂い感じで歩く。
アンニュイな喋り方――つまりなんだかだるそうな喋り方。
低い声で落ち着いた印象。

歌う歌は「アカシヤの雨がやむとき」「ラストダンスは私に」。

♪アカシヤ~の雨にうたれて このまま~死んでしまいたい~♪
と始まる歌は、初めて聴いたときは衝撃だった。
あざみちゃんが歌うのを聴いて覚えてしまい、友達とカラオケにいったりすると歌ったけど、わたしの声には合わない。

彼女は劇団員。
自分たちで主宰する小さい演劇グループではなく、有名な俳優さんの研究所のようなところ。
尊敬するのは、山本五十鈴。
必殺シリーズにも出ていたが、本当は彼女は舞台が好きで、テレビなどにはあまり出ないのだ。
――と、熱く語っていた。

物憂げだけど、夢は熱いあざみちゃんだった・・・・・・

小料理:D川くん

遊びを知らないD川くん。
前回、さくらちゃんに5万円もするネックレスをプレゼントしたことを書いたが、彼はかなり満足したようだ。
女の子たちが「わぁ~、すごーい」と驚いてくれたからだ。
「良かったね~、さくらちゃん」「綺麗だね~」ともてはやしてもくれた。

D川くんはまるで、水商売の女の子に入れあげている男性のようになってしまった。

席についてちょっと話して、少し仲良くなったら贈り物をしてしまう。
肩を抱いたり、頬にキスをしたりしても文句を言わない子には、6万でも8万でもするネックレスを買ってしまう。

誰も自分から「買って」とねだったりしないけれど、彼の財布の紐は恐ろしくゆるい。

ちいママみたいな役目をしているかえでさんは、つくづく言っていた。
「D川くん、そんなにぽんぽん買わないで、ホントの彼女ができたときのためにお給料はとっときな!」

もはや彼の恋人はこの店の女の子全員。
ブランドものの何十万もするようなプレゼントをしなくたって、こう立て続けに買い込んでいては貯金だってなくなるのでは――
D川くん本人は両側に女の子を置いて、両方の肩を抱いたり、とても満足だったようだ。
だけど、周りのほうが心配した。プレゼントをもらった女の子だって心配した。

我が世の春、という言葉が頭に浮かんだけど、もっとレベルの高い春だってあるだろうに・・・・・・

小料理:さくらちゃん、続き

女子大生のさくらちゃん。
その初々しさというか、素直さを愛したお客もいた。

D川くん。
彼は店の女の子たちから「くん」づけで呼ばれていた。
若いからもあったし――どことなく世間知らずなところがあったためかもしれない。

世間知らずというのは、おぼっちゃま的というのとは違う。
恋愛というか、色ごとに関して「うぶ」な感じ。

D川くんはいわゆる「いい人だけどね」と言われてしまうタイプ。
そしてその中でも、恋愛相談にさえ乗れないタイプ。
生まれてこのかた、彼女がいたとも思えない。まともに片思いや告白なんてことをしたようにも見えない。
シリアスな側面なんてないかのような能天気に見えるキャラ。
片思いや彼氏の相談なんて、理解もしてもらえない気がする。

そんな彼だが、さくらちゃんに夢中になった。
さくらちゃんは「あしらう」ってことができない子だったから、D川くんはまるで恋の駆け引きをしているような気持ちになった。

ある日、5万円もするネックレスを買ってきて、さくらちゃんにプレゼントした。
D川くんはたぶん普通の遊びも知らない人なので、お金の使い方を知らない。
給料の4分の1くらいになってるんじゃないかと思うのだが・・・・・・

小料理:さくらちゃん

さくらちゃんは女子大生。
女子大生らしいういういしさがあり、なかなかの顔立ちでもあった。

だからといって特別人気の女の子だったというわけではない。
この店の常連さんは、気心の知れた従業員を好む。
まださくらちゃんはそこまで店に溶け込んでいなかった。

でもある日やってきた、常連ではないお客さんは、さくらちゃんをとても気に入ったようだった。
その人は一人でやってきて、ずっとさくらちゃんと話していた。
飲食代だけで女の子がついてくるので、リーズナブルな店だ、という気持ちが見てとれた。

ちょっとホステスをくどいているようにも見えるなー、と思って眺めていた。

二、三日後、さくらちゃんと話したら、彼女はちょっと悩んでいた。
いろいろ言っていたけど、要するに自己嫌悪。
自分は格別個性的でもないし、人生に大胆でもないし、平凡な人間なのかな、という(当時の)若者らしい悩み。

「それで、この間のお客さんいたでしょう? あの人は大阪から出張に来てたの」
――ああ、そうなんだ。だからあのときしか店に来てないわけね。
「あの人と・・・・・・ホテルに行っちゃったんだ・・・・・・」
――えー!
「だからお前はダメなんだ、そこで一歩踏み出せば世界が変わるかもしれないのに、って言われて。でもやっぱり何も変わってないように思えるし」

さくらちゃん、それは――馬鹿すぎる、という言葉を飲み込んだわたしだった・・・・・・

小料理:さつきちゃん

もう一人、お店のお客さんとつきあった子がいた。
さつきちゃん(仮名)。

やっぱり若くて、つきあった相手も若い男性だった。

でもわたしは二人がつきあっていることは知らなかった。
わたしが辞めてからの話だったので。

さつきちゃんは、本名は「みつき(仮名)」ちゃんと言うが、同じ名前の子が既にいた。
ママは面接時、「名前は? みつき? それはもういるから、じゃ、あんたはさつきね」と断定。
どうせ源氏名なら、好きな名前を選びたかったと言っていた。

彼女はマスコミだったか、芸能だったか、そういう業界志望で、かんなちゃんと仲良しだった。
かんなちゃんと年も近かったので、互いに店を辞めてからもよく会っていた。
具体的にはどういう仕事をしていきたかったのか、直接聞いたことはないので知らない。

話が面白い子で、そういうキャラで売っていた。
美人というほどでもなく、普通の女の子。

彼女はその店のお客と結婚して、半年楽しく暮らした。
嫌いになったわけではないけど、別れた。
まだ若くて、やりたかったことを極めないまま結婚してしまったからだ。

自分の夢を実現するためにできる限りのことをやってみたくて――そういう別れ方だった・・・・・・

小料理:かんなちゃん、その後

さて、かんなちゃんもついにおつきあいをすることになった。
つまり、彼氏ができた。

相手は『松野』のお客。
若くて、いつも1人で来る人だった。仮にじろちゃんと呼んでおく。

じろちゃんはこういう店に来るくらいだから、学生ではない。
人がよさそうで、誰にでも調子を合わせてくれて、話を聞いてくれる。
ちょっと気弱そうに見えるところもあったけれど、いい人だと思えた。

仕事の内容を聞いたことはない。
スーツを着るような職ではなかったことくらいしか知らない。
高卒でずっと働いていたそうだから、スーツを着ないといってもデザイナーとかマスコミ関係とかではない。

もうその頃には、とうにあかねちゃんはいなくなっていた。

久しぶりにかんなちゃんと会ったとき、彼女は愚痴をこぼしていた。
――キレるんだ、じろちゃん。
そして羽毛布団を見せてくれた。「これもカッターで切りつけたの。かんなの布団なのに」

羽毛布団は、新しいのを買ってもらったそうだ。
でもやがて、切られた布団も新しくもらった布団も処分した。
殴られて鼻を骨折して、かんなちゃんはじろちゃんと別れたからだ。

完全に手を切るには時間がかかり、そして苦労もしていた・・・・・・

小料理:カリスマ、かんなちゃん

かんなちゃんはたいていのお客から好かれていた。
でもそれはちょっと違うかも――好かれるというか、なんというか。

誰もがかんなちゃんを「いい女」扱いする。
――と言っても、まだ若いので女々した扱いではないけれど。
かんなちゃんがもし誰かに告白するとか誘うとかしたら、相手は断れないかも。
だって彼女から言っているのだから――なんかそういうムードが流れていた。
かんなちゃんが常に上というか。

まぁ、かんなちゃん側がそういう恋愛ムードを漂わせないからかもしれないけど。
つきあってと言われたら100人が100人OKする美人、というわけではない。

特別、かんなちゃんを気に入っていて、彼女が困っているときに部屋を使わせてくれた人もいた。
「俺は、帰らないことが多いから、好きにつかっていいよ」
変なことは考えないから――と言っていたそうだが、確かに何もないまま、部屋を使っていた。
そして「遊びにおいで」とわたしを誘ってくれた。
マンモスマンションの2DKだった。

なんとなくかんなちゃんには、いやらしいことを考えられない雰囲気があった。
絶対愛人として考えられないタイプ。
何かアクションを起こすとしたら、それは本命として考えるときでなくてはいけない。

わたしはそういう「特別感」のない人間だったから、ちょっと憧れていた・・・・・・

小料理:かんなちゃん

かんなちゃんは専門学校生だった。
ジャーナリズムの勉強をしていた。

同じ学校に通う1年先輩のボーイフレンドがいた。
同じ学校でも専攻は違っていて、かんなちゃんは文章系で、彼のほうは写真の勉強をしていた。

「ボーイフレンド」と言ったのは、彼氏ではなかったからだ。
でもとてもいい感じで、危うくつきあっちゃいそうな――
彼のほうは明らかにかんなちゃんとつきあいたがっている。
でもあえて告白できない――彼女のためらいが分かるから。

彼女のためらいというのは、彼は今年卒業してしまうから、遠距離恋愛になってしまうのではないか、という不安。
それで大好きで、その写真の腕やジャーナリズム哲学に憧れているけれど、思い切ることができない。

青春だね~

そして彼は卒業してしまい、卒業後も二人は連絡を取り合っていたけれど、やはり遠距離なのでつきあうには至らなかった。
だって、彼はとりあえず就職を延期し、日本中、時には世界にも足を伸ばして見聞を広めていたから。
いろんな物を見て、たくさんの写真を撮って、彼女に語る彼。

話すことがたくさんある、彼氏彼女寸前のときが一番、楽しい。
2人は、一番楽しい時期のまま、終わりを迎えてしまったけど・・・・・・

小料理:あかねちゃん、その後

あかねちゃんは、その後、実家に帰った。
実家は関東にあったが、東京に通勤できるかというと――かなり厳しいという土地。

実家に帰ってもときどき消息は聞いた。

そしてまた東京に出てきた。
今度は社員の仕事を探して、就職したのだ。
もともとフリーターだったので、正社員になりたいと言っていた。

「これがやりたい!」というよりは、「正社員になりたい!」という思いで仕事を探したようだった。
なったのはエステティシャン。
ハードな仕事だったようだ。

でもあかねちゃんのいいところは素直なところ。
別に大望を抱いて就いた職ではないが、入ってからは誇りと希望を持っていた。
「いろいろ勉強しなきゃいけないことがあるんだ!」

あかねちゃんは素晴らしいテクニックを磨いて、立派なエステティシャンになることを夢見ていた。
ときどきはかんなちゃんの家に泊まることもあって、わたしも何度か会った。
だけど、生活が変わればだんだん一緒に過ごす時間は少なくなる。

今はどうしているかなー。
その後ずっとエステの仕事を続けたのだろうか・・・・・・

小料理:居残り組

わたしはかんなちゃん、あかねちゃんよりちょっとだけお姉さん。
だけどわたしたちは共通点があった。
帰りが電車でなかったのだ。

女の子たちは、ちいママみたいなかえでさんも含め、終電の都合で「11時組」と「12時組」に別れていた。
さらに、徒歩や自転車で通っている「居残り組」もあった。

「居残り組」はドキドキしながら閉店時間を迎える。
閉店は午前0時だけれど、まだお客さんがいることは多々あった。
ママが「××、○○、12時半までいてくれる?」と声をかける。
あ~あ、居残りだ・・・・・・

お客さんがまだいても、ママの判断で帰ることもある。
ママはいろいろな要素を考慮して、何人残すか、何分くらい残すか、決める。

――残っている客はこれ以上料理や酒を注文しそうにないから、女の子を残す必要はないだろう。
――残っている客はどれも上客だから、印象よくするためにも女の子を複数残しておこう。
――このグループとこのグループだけだから、あたし1人で充分だわ。

たぶん、そんないろんなことを総合的に判断して、ママは決定を下す。

その日、その時にならないと、帰れる時間が見当つかないというのは、わたしは苦手だった。
しかも仕事の残業と違って、ここまで終われば帰れるというのはない。
相手の「飲みたい」気持ち次第なのである・・・・・・

小料理:かんなちゃんとあかねちゃん

かんなちゃんとあかねちゃんも友達同士だった。
けれど二人は元からの友達ではない。
この店『松野』で知り合った。

今では二人はルームメイト、部屋代節約のため、かんなちゃんのワンルームマンションにあかねちゃんも住んでいた。

かんなちゃんとあかねちゃんの年はほぼ同じ。
あかねちゃんの方が1歳年上だったけれど、かんなちゃんがしっかり者であかねちゃんの面倒を見てる、という図だった。

かんなちゃんは丸顔、奥二重、黒髪、短い髪型。
おとなしそうに見えるのは、声がおとなしいからだろう。

あかねちゃんはうりざね顔、肩までのパーマ。
派手ではないけど、地味でもない。

かんなちゃんは学生、あかねちゃんはフリーター。
かんなちゃんが拾った猫一匹と暮らしていた。

二人はとても仲良しだったけど、ときどきケンカもしていた。
「あかねのことは好きだし、一緒に住んでて楽しいけど、やっぱり狭いからね。ずっと一緒にいると衝突もするよ」
かんなちゃんは言っていた。そりゃそうだよね。

二人はケンカしたりしつつも、仲良く暮らしていた・・・・・・

小料理:ももちゃんとつつじちゃん

ももちゃんとつつじちゃんは友達同士だった。

ももちゃんはちょっぴりふくよか、色白でお餅のよう、頬はピンクに染まっていて、雪深い土地の美人を思わせた。
美人と言っても、親しみやすい顔だちで、顔は丸顔、髪は漆黒で長く伸ばしたストレート。

つつじちゃんは痩せていて、顔もとがった印象。
にぎやかな子でガーガー喋るイメージ。
元気で落ち込むことなんてなくて、口が悪いけど根はいい子、というキャラで売っていた。

二人は同じ年で、互いのことは呼び捨てだった。
基本的にこの店は本名の下の名前が使われる。タイムカードも「もも」とか「つつじ」となっている。
別の源氏名をつけているわけではないので、日常生活の友達同士の呼びかたがそのまま持ち越されている。

もも&つつじペアは人気があった。
二人の若い掛け合いが楽しいからだ。
それに二人は下ネタも上手だった。少しくらいのことは笑って受け流したし。

たとえばある日、60代の男性客2人が、ももちゃんとつつじちゃんに乳がん検診の大切さを説いていた。
「こうやって、手を上げて自分で胸を触ってもしこりが分かるんだよ」
「えー、こう? あたししこりあるかなー?」
「ちょっと触っていい? 教えてあげよう」
まじめそうな顔をして、なるべくいやらしくない手つきで触診するおじさん。
受けるももちゃんもまじめな顔で「大丈夫? しこりない?」と聞く、あうんの呼吸。
そしてつつじちゃんも「あたしも見て見て~」と絶妙の申し出。黄金コンビだった・・・・・・

小料理:つばきちゃん

もう一人、OLさんがいた。
つばきちゃんは、バンドをやっていたらんさんより、年上だったと思う。
でも、そう長くいなかったので、わたしの中で「一番年上」というとらんさんになっている。

どのくらい年上だったかというと、たぶん30代後半にはなっていて、他の女の子たちからしたら「お姉さん」。
かえでさんに比べたらずっと若いけど、ひよっ子の女の子たちの中では頭ひとつ出た存在。

頭ひとつ出ているのは、年齢ではなくて客さばき。
やはり大人なので、うまい。
ママのような「かわいい顔して、その実――」という豪快さではないけれど、かえでさんのようなそつのなさがあった。
かえでさんはチャキチャキな感じでやっているけれど、もう少し落ち着いた感じだった。

しっとりしたバーとかスナックのママさんを思わせるムード。

実際つばきちゃんは「客商売が好きなので、いつかお店を持てたらいいと思っている」と言っていた。
なかなか簡単にはできないと思うけど、と付け加えた。

わたしはこの人にはなついていたけれど、辞めてから連絡を取り合うことはなかった。
それでもずっと忘れられないのは、ささやかな思い出のため。
「わたし、うにって好きじゃない」と言ったとき「私も東京のうにはねー」という返事が返ってきた。
「私は北海道の生まれだから。北海道のうには本当においしいけど、東京のは違うものみたいで」

そうか~、新鮮なうにならおいしいのか~、と目からうろこが落ちたのだった・・・・・・

小料理:ききょうちゃん

ききょうちゃんはOLさん。
それもかっこいいOLさんだった――少なくとも当時の私にはそう見えた。

きちんとしたメイク、キリッとした服装、OLらしい髪型。
顔立ちもなんかすごーくOLっぽいと思った。
それがどんなものかと問われれば、答えるのは難しいことなのだけど。

ききょうちゃんは週にだいたい3日くらい出勤していて、会社帰りにバイトしていた。
お客さんも、自分たちと同じように昼は企業で働く社会人として、なんとなく節度を持って接していた――ように見えた。
たとえば、ききょうちゃんに下ネタを振っているのを見たことはないし、さりげなく体に触れたりすることもなかったようだ。

ききょうちゃんの終業時間は11時だった(終電の都合で)。

あるとき、とても盛り上がった会社仲間の団体席で、
「ききょうちゃん、帰っちゃうの~!? じゃ、最後にこれ、飲んで飲んで!」
とビールを勧められていた。
それはもう会社仲間の一員になっていたか、あるいは合コンのような親しげな感じだった。

「火の国の女は一気にいかなきゃあ!」
ききょうちゃんは高知出身だったらしい――そしてそれを話していたらしい。

一気にクイーッと空けて、「おぉーっ」と場が盛り上がっている間に、軽く会釈してききょうちゃんは帰っていった・・・・・・

小料理:らんさん

らんさん(仮名)は、女の子たちの中ではたぶん、一番年上。
20代後半じゃなかったかと思う。それにお姉さんっぽい雰囲気の人だった。

そのためか、女の子たちからもお客さんからも一目置かれていた。
ほとんどすべての「女の子」はちゃんづけだったのに、彼女だけ「らんさん」と呼ばれていたのだ。
さんづけで呼ばれるのは、ちいママと言ってもいい役どころの、かえでさんとらんさんだけ。

らんさんはバンドをやっていた。ボーカル。
それらしい感じだった。
薄茶色の髪は、ボサボサ系で肩に長く垂れていて、ジーンズの記憶しかない。
スカートなんて見たことなかった。
痩せてる。顔は別に美人てこともなく、不細工ってこともない。

「らんさん、歌ってよ」とお客さん同士が結託して何度も依頼すると、らんさんはカラオケを歌った。
カラオケもついている店だったのだ。カラオケは無料だった。

ハスキーボイスで、独自の「Yesterday」や「My Way」を歌う。
もうひとつの持ち歌は「TAXI」――鈴木聖美。
この歌はらんさんのを聴いて覚えた。

ときどき自分でもカラオケに行って歌うことがあるが、らんさんのようには歌えない。
全然、この曲に合う声質ではないからだ。
ずっと何年も後、インターネットでいくらでも音楽が聴ける時代になって、この歌を聴いた。
らんさんの「TAXI」はらんさん自身の歌になっていたと分かった。
らんさんのハスキーボイスはよく合っていた・・・・・・

YouTube 「TAXI」
http://jp.youtube.com/watch?v=r7g0Fb_moA0

小料理:レンさんとゆりちゃん

板さんの手伝いをしたり、皿洗いをしたりするのはレンさん(仮名)という中国人だった。
レンさんはずっとカウンターの中のキッチンにいて、雑用係をしているのだ。

なぜ彼女は接客をしないかというと、日本語がカタコトだからだ。

もう一人、ゆりちゃんという中国人がいた。
もちろん本名は違う。
お客さんが呼びやすいように「ゆりちゃん」という通称がついていた。
ゆりちゃんは日本語が堪能なので、『ウェイトレス』の仕事をしていたのだ。

ただ、ママはとてもやり手だったから、中国人の彼女たちの時給は安かったようだ。

店は夕方6時から開けているけれど、その頃に来るお客さんはほとんどいない。
だから時給のかかる女の子たちは7時から雇われていて、早い時間はかえでさんが店番をしていた。
そしてゆりちゃんも6時から来ていた。
かえでさんだけじゃなくて若い子もいたほうがいい。でも時給はたくさん払いたくない。
そこでゆりちゃんがいた。

たまに早くから何人もお客さんが来ていると、かえでさんは7時を待ちかねている。
「あ~、××、あそこのテーブルついて。○○と△△は4卓ね。あ、◎◎来たか、6卓行って」

ママはすべての客が引けるときまでいる代わりに、出てくるのは遅かった。
8時までは来ないので、かえでさんが仕切る。

レンさんとゆりちゃんは中国人同士だったけれど、特に特別仲良しというわけでもなく、二人とも女の子たちの中に溶け込んでいた・・・・・・

小料理:板さん 2

レパートリーが多く、どれも和食や創作和食っぽいもので、本物だと思わせる板さん。
彼は京料理の店で修業をしたのだそうだ。
――いや、もちろん真偽のほどは分からないが。

でも納得の腕前だった。
あくまでウェイトレスなので、飲んだり食べたりはなるべくしないのだが、ときどきお客さんが「食べてごらん」と言ってくれることがある。
新しい板さんの料理はおいしかった。

単なるあたりめだって、ちょうどいい具合にあぶって出す。

何よりも、季節の素材を使ったり、季節感を大切にした料理が出るのがすごいと思った。
築地とか行ってるのかな~?とまで思ったわけではないが、地元のスーパーで買い物している板さんを見かけたときはちょっとがっかりした。
わたしと同じスーパーで買っていたのか!

「そりゃそうだよ、この量で市場まで行っていられないよ」
ごもっともである。

この人は、ある日お客さんが持ち込んだすっぽん一匹を、みごと調理してみせた。
いきなり「すっぽん持ってきたよー、板さん料理してくれよ」と言われても大変だろうと思うけど――。

すっぽんは捨てるところがないという。そのとき初めてそれを知った。
板さんはすべて使ってすっぽんコース料理を調理しきった。
このときわたしは、すっぽん鍋というものを初めて食した。

おいしかった・・・・・・

小料理:板さん 1

前も書いたように、わたしが働き始めたときの板さんは、まもなく辞めた。

しばらく板さんがいない日が続き、これで『小料理』と言っていいのかというようなメニューが続いた。
それを作っていたのは、皿洗い兼調理補助をしていたレンさん(仮名)だ。
でも常連ばかりなので、お客は誰も文句を言わなかった。それどころかレンさんを励ましにやってきた。

そして新しい板さんがきた。
今度の板さんは前の人より大柄でふくよかで、話しかけやすい印象だった。
正直、前の板さんはわたしには怖い人だった。

新しい板さんが来て、劇的に変わったことがある。
メニューだ。

当然いつも用意されているメニュー、あたりめとかするめとか枝豆とか冷奴。
それ以外に、その日によって違う板さん独自のお品書きが、紙に書かれてメニューにはさまっている。

前の板さんのときは、このメニューは十年一日のごとく(少なくとも1ヶ月の間は毎日)、3つしかなかった。
唐揚げ。あとの2つは覚えていない。季節感がなかったことは確かだ。

それが新しい板さんになったら、毎日5つ6つの品が並ぶようになった。
その上、日によって違う料理。
季節を反映したメニューも必ず2つ3つある。

この板さんは本物だ・・・・・・

小料理:かえでさん

ママがおっとりしたタイプ(に見える)とすれば、かえでさん(仮名)はチャキチャキ江戸っ子タイプだった。
ママはふくよかだったが、かえでさんは痩せ型だった。
「女の子たち」はだいたい30歳くらいまでだったが、かえでさんは明らかにもっとお姉さんだった。
でもきっと、ママよりは若かった。

この店は日曜だけ店を閉める。オフィス街だったので、日曜に開けても客が来ないからだ。
かえでさんは毎日出勤していた。
誰よりも早く来る。多分、店を開けるのはこの人だ。

ママが女の子たちを束ねていくのを助けていた。
まさにちいママだった。

でも誰もかえでさんの深い事情を知らない。
深い事情があったのかどうかも知らない。
ママだけは知っていたのかもしれないけれど、女の子たちはどんなに古い子もかえでさんのプライベートを聞いたことがなかった。

かえでさんは離婚して、子供がいるとかいないとか。
どう考えてもただの憶測でしかない話を聞いたこともあった。

この店の閉店は午前0時だけれど、お客さんが残っていればその後も開けている。
でもかえでさんは終電に乗れる時間に必ず帰っていった。
もし誰かと話の途中でも、うまいところで上手に笑って「さ!帰ろ帰ろ」とエプロンを外して立ち上がる。
電車で通っていることだけは、間違いないようだった・・・・・・

小料理:ママ

まずはやっぱりママからだろう。

ママは目が大きくて、タレ眉、頬の肉付きもよく、人のよさそうな顔立ちをしていた。
動物にたとえるならタヌキ。それも本物ではない。イラストのタヌキだ。

ママはちょっと小太りな感じで、明るく元気。
キレイ系でもセクシー系でもなく、美人とも言えない。
強いて言うなら「愛嬌がある」。

でもママの芸歴は長いのだ。
キャバクラで働いていたと聞いたことがある。
今風のキャバクラを想像してはいけないと思う。
今風のも昔風のもよくは知らないのだが。

「あたしみたいな美人じゃない女は、パンツ見せてお客とるしかなかったのよ。そんだけの苦労してきたんだよ」

だから人のよさそうな顔をしていても、ママを侮ってはいけない。
わたしはママがある客の襟首をひっつかんで、座敷から引きずり出すのを見たことがある。
そのまますごい剣幕でズルズルと引っ張っていき、玄関から文字通り叩き出し、「帰れ!」と怒鳴りつけた。

「あたしはいつかもっといい土地に、割烹の店を出してみたいと思ってる」
そんな夢を聞いたことがあった・・・・・・

小料理:店とお客の人員構成

店は次のような構成になっていた。
ママ、かえでさん(仮名)、板さん、女の子たち多数。
かえでさんというのはちいママみたいな存在だったけど、決してちいママとは呼ばれず「かえでさん」だった。

板前さんは常に「板さん」と呼ばれていた。
わたしが店に入ったときにいた板さんは、1ヶ月しないうちに辞めていった。
なのでよく知らない。
見た目は怖い人だったが、前からいた子に言わせると「いい人だった」ということなので、わたしの勝手な好みなのかもしれない。
次にやってきた板さんはちょっと太めで、前の板さんよりずっと話しかけやすかった――気がした。

お客さんはやっぱり常連さんが多かった。
1人で来る人もいたけれど、連れ立ってくる人も多かったので、新しい常連はたいてい前からの常連の連れだった。

お客さんの中に、特別な人たちがいた。
まず第一に「社長」と呼ばれる人物。
この人はママの旦那さんだ。
それから「社長」の「社員」たち。
社長はいわゆる青空会社の社長なので、社員というのは主にホームレスの方々だった。

ちなみにタイムカードの計算をする人はママの息子で、月に2回、店にやってきてタイムカードを回収していく。
しかしそれ以外は全く顔を見せなかった。
この人が「社長」と血のつながった息子なのかどうかは、分からない・・・・・・

小料理:お客さんと女の子

ほぼホステスさんと考えていいのだが、お客と女の子の関係はもっと和やかだ。
お客も水商売と考えないことが影響していると思う。もっと友達感覚だ。
女の子側はウェイトレスとはいえサービス業なので、友達ってわけにはいかないが。

まぁ、まさに「よく行く喫茶店のなじみのウェイトレス」と「常連客」というイメージだ。

お客さんはお酒を飲んだり料理を食べたりするために来る。
女の子がテーブルに座ったら、一緒におしゃべりを楽しむ。
でも忙しくて女の子が少なければ、誰も来ないかもしれない。女の子目当ての店じゃないから。

だから団体客も多かった。
複数でやってくるお客さんのテーブルに、複数の女の子が行くと、親しい飲み会みたいになった。
雰囲気がそうだということで、女の子がお酒を飲むわけではない。

1人で来る人は女の子たちが話し相手になるし、カウンターに座って板さんと話す人もいる。
別に誰と話さなくても1人で飲んでいる、という人もいる。

ホステスさんだと「指名」がある。
でもそんなものはないので、「僕はあの子がいいんだけど」というようなえり好みはない。
そしてそれが主体の店でもないので、「この子は嫌いだから席によこさないで」ということもない。
あくまで紳士的に、なじみのウェイトレスと話をする感覚――それをお客も楽しんでいる店だった。

「同伴出勤」もないし、指名もない。だから営業する必要はない。
店の外で会うのは自由だけれど、それはまったく個人の自由であり、ここでもキーワードは「紳士的」だった・・・・・・

小料理:初出勤

翌日、夜7時に間に合うように店に行った。

服装は自由。その上に店で用意したエプロンをつける。
水商売ではパンツやジーンズはダメで、必ずスカートということが多いが、この店は自由。
だって水商売じゃないから――やってることはほぼ同じなのだけど、お客の側もウェイトレス側もそう意識することで、ニッチな店になっていた。

ウェイトレスなので、それらしい仕事をする。
お客さんが来たら空いている席に案内する。
注文をとる。
板前さんに注文を通す。
料理が出来上がって呼ばれたら、運ぶ。

会計はママだけができる。

お客さんが帰ったテーブルの後片付けをする。
あまり皿洗いがたまると、「ちょっと××、皿洗って」とママが手の空いている子に指示する。

それ以外のときは、お客さんのテーブルに座っている。
まるでフロアレディ状態で、話をしたりお酒を作ってあげたりする。
追加の注文は女の子が誰かしらテーブルにいることが多いので、すぐ受けられる。

次のお客さんが来たら、複数いるテーブルから自発的に女の子が立って出迎える。
このあたり、あうんの呼吸でうまく流れる――流れなかったときはママが指示・・・・・・

小料理:小料理『松野』

何か仕事を見つけなくちゃ――と焦っているとき、通りすがりに募集のチラシを見た。
クリーニングで働き始める前のことだったと記憶している。

「ウェイトレス募集 時給1500円 小料理『松野』」
どうやら、このビルの2階に店があるらしい。
時給からして、単なるウェイトレスとは思えない。
当時、バイトの時給の相場は750円~950円だった。
でもとにかく、何でも良かった、仕事をしなければ!

毎日のように通る道だったので、毎日のように「応募しようかなぁ」と考えながらチラシを見ていた。
そしてついに、経済的にどうしようもなくなったとき、面接に行った。

行ってみると、店の作りは寿司屋みたいなカウンター席もあり、座敷にいくつもテーブルがあり、パブやクラブのようなものではなかった。
前にフロアレディとして働いた店と比べたら、照明もずいぶん明るかった。

でもやっぱり「ウェイトレスだけど、ときどきはお客さんの横に座ってもらう」という話だった。
そういう店だとすると、本名は嫌だなと思ったが、『ママ』という人は有無を言わせなかった。
「この近くに住んでるの? あんたの名前は? あ、そう、やつで(仮名)ね」とタイムカードに「やつで」と書いてしまう。
「じゃ、明日からね。7時に来て」

履歴書も身分証明書もなし。即決。
仕事内容の説明もたいしてなく、オンザジョブトレーニングってことらしい。
そうだろうとは思ったけど・・・・・・

Open-小料理屋編-

--小料理屋編 始まります--

スナック:ゴール

2ヶ月経って、引っ越し資金の目標額には少し足りないが、店を辞めることにした。

本当は貯まってから辞めたいけど、それは無理。
昼間も働いているので、このダブルワーク生活をこれ以上続けることはできなかった。

だってこのお店、わたしの勤務時間20:00~4:00だったのだ。
4:00に終わって、昼の仕事は9:00に出勤。
若かったからなんとかやれたけど、若くても長期間は難しい。

4:00に終わって、4:00にあがれるわけじゃない。
ボーイなんて存在がいないので、女の子でお掃除をする。

椅子を全部あげて、床に掃除機をかけて――

どんなに早くても4:30にはなってしまう。
それから家に帰って、せめて顔くらいは洗うとすると、5:00。
8:30まで寝たとしても3時間半。

お客さんがなかなか帰らない日は、店が閉まるの自体遅くなってしまう。
この店の形式では、追い出すわけにはいかず、やんわり言うくらいのことしかできない。

その頃昼の職場には、宗教活動で忙しくて睡眠時間が少ないからいつも眠い、という人がいたが、わたしもそんな状態。
わたしと二人で店にいるときは、その人はいつも寝ていた。
なので、わたしもいつも目を閉じていた。

必死で日々を過ごしていた2ヶ月だった・・・・・・

スナック:若いうちは

このスナックは姉妹店があったので、ときどきそこに応援に行かされた。
お姉さまがたは自分の店になじみがたくさんいるだろうから、わたしが行ったほうがいい。
それに、この新人がどれだけできるものなのかチェックする必要がある。
――と、そういうことなのだろう。

姉妹店のほうはもっと繁華街にあって、もっと広くて、女の子もたくさんいた。
終了までいることもあったし、忙しい時間帯を過ぎるともとの店に帰るよう言われることもあった。

ばっちり昔ながらの水商売って店だったので、どっちの店でも厳しかった。

ぬるい環境でしか働いたことがないので、知らないルールも多かった。
それを教えられるときは、きつい口調で言われた。
「前の店からお客を呼べ」と言われたりしたけど、いやいやいや――無理です。

勉強になったこともあった。
酔いどめに柑橘類をお酒と一緒にとると良いとか。
ウイスキーやブランデーを飲むときは、レモンの輪切りを浮かべる。
そうすると女らしくて見た目もいいし、二日酔いや悪酔いを防ぐ。
――これは本当に効いた。
飲みすぎたと思ったときは、今でも家でポッカレモン100%を飲むようにしている。

あるとき繁華街の姉妹店で最後まで働き、女の子たち皆でお店を出たことがあった。
ある女の子がわたしに忠告してくれた。
「まだ若いんだから、銀座で働けばいいのに。
銀座はいいよ~。若いうちは銀座でやらなきゃダメ。
どうせ年をとったら新宿や渋谷に落ちていかなきゃいけないんだから」

でも、わたしには入ることさえ難しいと思うな・・・・・・

スナック:特別な香水

引っ越し資金が欲しくて、この店で働いていた。
なぜかというと、早く引っ越ししたかったから。

お風呂もない4畳半のアパートで、トイレも共同。
でありながら、月45,000円。

この店で働いている間、お風呂に行ける時間は限られていた。
昼の仕事から帰って来て、夜の仕事に行くまでの間。
銭湯もコインシャワーもすぐ近くにはなかった。
――コインシャワーというのは、小さいシャワールームがいくつも並んだところ。
100円を入れると決まった時間だけお湯が出る。

コインシャワーが一番近かったけど・・・・・・
男性はよく利用しているのを見たが、女性向きではないから行きたくない。

ある汗ばむ陽気の日、シャワーにも銭湯にも行けず出勤した。
朝シャワーなんてもちろんしてないから、丸一日以上経ってしまった。

中高年世代のお客さんの隣で座っていたら、その人が香水の話を始めた。
「よく女性はさ、自分の愛液を耳の後ろにつけたりしてセクシーさを演出するものなんだよ。
知ってるかい?」

ごめんなさい、どうしてそういう連想したのか分かりますよ。
体臭、きつかったですか・・・・・・
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