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ランチ

ランチについては、いろいろなところで折に触れ、書いてきた。
とにかくこの食堂は有難かった。

やはり社員食堂なので、安い。
その上、栄養バランスが良い。病院らしく、ちゃんと栄養士さんが管理している献立だ。
ご飯、汁物、主菜、副菜、きちんと揃っている。

給食方式で、一日に献立は一つだけ。
食べられない人はその日は他のものにする。お弁当とか、売店のパンとか。
ただし、その場合は食堂は使えないので、休憩室などで食べることになる。

食堂ではいろいろな人が食べているが、だいたい服装で分かる。
白衣を着ているのはドクター。
ナース服を着ているのは、当然ナース。
事務服を着ているのは、事務員さん。

事務の制服は、病院はいろいろあることが多い気がする。
受付の人は、ベージュのジャケットスーツ。薬局窓口の人は、紺のベストスーツ。
レントゲン画像を診察室に持ってくる事務の人は、紺に縞模様のベストスーツを着ているんだけど、どこの人?
という具合に、部署によって違うようなのである。

こういう人たちが雑多に座って、同じものを食べている様子は面白い。

誰もが一律に並んで皿をとり、食べ終わったらどんな偉そうな先生でもお盆を下げて、流水ですすいで食器入れに入れる。
それも面白い。

一人で食べているときは、一時間ここにいることもできないので、休憩室などに行く。
休憩室とは違うのだが、なぜか通路の壁に沿って本棚が置かれているところがあった。
そこにはソファも置かれていて、「自由に読めるA病院文庫です」というような張り紙がある。
本を読んだことはないが、このソファにぼんやり座っているのは、お気に入りだった・・・・・・
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精神科

精神科はとても行きたいところだ。
皆、『精神』と呼んでいた。

前にも書いたが、『精神』にだけは窓がある。
光が入ってくる通路なので、それだけで心が明るくなるのかもしれない。

こちらもシーンとしているけれど、内科に比べると空気が穏やかだ。
なぜなのだろう? やはり光のせい?
とてもゆったりと、まるで休憩時間のように過ごすことができる空間だ。

内科と同じで、先生の声も聞こえず、静かだ。
診察がまだ行われているのか、それとも終わったのか、分からないくらい。

なぜか先生は、患者さんと同じほうの通路を通ることが多いので、終わったと気づかないこともあった。
『精神』の終わりは、本当に分からない。
もともと終わりが読めないのだ。

外科で、もし呼び出し掲示板に番号が3つ点灯していたら、3人待ちだ。
どんなにかかっても1時間くらいだろう。
でも『精神』では分からない。
3人目の人が2時間くらいかかるかもしれない。

最初のうち、『精神』の藤さんは、帰るに帰れなかった。
診察が終わっていないのに、持ち場を離れるわけにはいかないと思ったからだ。
「じゃ、先にミーティングに行ってますね」と他のメンバーは控え室に戻った。
でもなかなか、藤さんは戻って来ない。

ミーティングも終わり、自分たちが帰る時間ギリギリになって、ようやくやってきた。
結局終わらなかったけど、戻って来た、と言った。

お昼もその調子で、もし午前の診療があったらそれが15時にでも16時にでもなる。
でもお昼は誰かが交代するようにして、11:30~14:00の間には全員がとっているので、やっぱり『精神』が一番当たりの担当区域だ。

藤さんもそれはいつも認めていた・・・・・・

内科

内科はあまり行きたい場所ではない。

前にも書いたけれど、気難しい先生がいるから、というので、内科の通路ではシーンとしていなくてはならない。
話をするのも、隅のほうに行って、ヒソヒソコソコソ。

でもちょっと怖いもの見たさで、行ってみることはあった。
時々、だ。
あまり頻繁に行くと、内科担当の桜さんと椿さんに迷惑をかけそうだから。

確かに、たまに見かける内科の先生は、気難しげな顔をしていると思った。
質問にもサッと答えられないと嫌味を言われる、と言っていた。

朝晩、ミーティングでどんな質問が出た、という報告をしているが、内科と外科ではやっぱり内容が違う。
一応書き留めているけど、それは外科では聞かれないかな、と思うものも多い。
たぶん、内科の二人にしても、「ナースセンターからこんな質問が出た」なんて、全く関係ないと思っていたろう。

でも呼び出しや検査予約、画像診断(レントゲンのこと)などに関しては、同じ質問が出るかもしれない。
わたしたちは素人だから、「関係ないや」と思っていても実は、同じような質問が出るかもしれない。
なんとも言えないので、互いに熱心に書きとめている。

内科の担当になった二人は、このグループの中では一番若い人と、二番目に若い人だ。
それでも二人の間に2歳くらいの差はあったが、若い人同士仲良くしていた。
タイプは違うけど、美人の二人だったので、見た目もさまになっていた。

内科は静かだ、と言ったけれど、診察も静かだった。
たぶん、先生が患者さんに何か話していると思うけれど、ほとんど聞こえない。
話し声がするのかどうかも分からないほどだ。

これではちょっとでも話し声をたてれば、うるさいと言われるはずだ・・・・・・

だんだん慣れてきて・・・

だんだん仕事に慣れてきた。
なんといっても、システムの使い方に慣れてきた。
もう基本的な質問なら、マニュアルを見なくてもちゃんと答えられる。

しかしその頃には多くの先生も慣れてくるので、わたしたちの出番は減っているのだった。

一緒に働く仲間たちとも仲良くなって、あれこれ話せたりしたのも楽しかった。
お昼を誰かと一緒に連れ立っていくということはできなかったが、行ってみると食堂に誰かがいたりする。
3人4人が一緒になることもある。
早い時間にお昼休憩に入った人は、「私は時間だから」と先に帰っていく。

よく診察に入るドクターの癖も分かってきた。
たとえば、いつもサクッと切り上げて、サッサと帰っていくドクターもいる。
小児科や産科のドクターの中には、体調などをあれこれ聞いてから処方するドクターもいて、そういうときはいつまで待ってもお昼タイムにならない。
午前の診療が終わらないうちに、別な診察室に午後の先生が入ってしまう。
だから、終わらない日のランチは、誰かに交代してもらう(このために固定されていないメンバーがいる)。

一人しかいないときでも、様子を見て、他の科に行ってみるようになった。
たとえば、何か答えられない質問を受けたとき、他の人の知恵を借りに、ちょっと抜け出す。

そういうとき、最初のうちは通路を出て、患者さんの待ち合い場所を横切り、別な通路の入り口からドアを開けて入っていた。
でも慣れてくると、空いている診察室があるときは、そこを通り抜けるようになった。
診察室の向こう側は、患者さんが診察室に入るための通路。
その通路の反対側にも診察室があるので、そこも空いているところを探して通り抜ける。
すると内科の通路に着く。

見回り役の人がそれぞれの科に順番にやってきて、交代してくれることも一日に一回くらいずつあった。
「1時間くらい休んできて」
「ありがとう」

憩いの精神科通路に行って、集まった人たちと話してもよし。
休憩がてら、ロッカーのある旧棟や、職員用休憩室に行ってもよし。
売店などをうろついてもよし・・・・・・

椅子問題、解決

1日、2日、数日、と経つにつれ、だんだん慣れてきた。
劇的に変わったのは、椅子問題だ。

外科の通路はゴチャゴチャしていて椅子もスペースもなく、小さくなって立っていた。
だが、しばらくして座れるようになった。
内科や精神科はゆっくり座れる場所があっていいなぁ、と思っていたので、嬉しかった。
とても楽になった。

毎日見かけるナースさんが、こう言ってくれたのだ。
「あそこの小さい休憩室(ナース用)の椅子を持ってきて、どうぞ座ってください。疲れますでしょう」
――ナースさんたちの忙しそうな様子を見ているので、それに比べたら疲れるなんて、と恐縮。
でも大変ありがたい。せっかくの好意なので、使わせていただくことに。

それは会議室用の椅子だった。
内科や精神科の通路に置いてある椅子は、座り心地の良さそうなオフィスチェアで、それと比べると座り心地は落ちる。
でも座れればなんでもいい。

しかしこれはあくまでもナースさんたちの休憩用なので、ナースさんが誰か休憩しに来たらお返しする。
ナースさんは何人も勤務しているから、頻繁に立つことになる。
互いに恐縮――。

この問題もじきに解決した。

精神科の通路から、余っている丸椅子を借りてくることにしたのだ。
「外科は立ってなきゃならなくて」とわたしがこぼし、よく外科に入っていた桂さんが「そうなんですよ」と相槌を打ち――。
精神科担当の藤さんが、言ってくれたのだ。
「精神には椅子がたくさん余ってるけど、誰も使ってるとこ見たことないから、あれを持っていけば?」

「いいかなぁ? いいよね?」「そうだよ、言われたら返せば」
ということで、毎朝一番に、ガラガラと丸椅子を借りてくることにした。
終業時には返しに行く。

本当に楽になった・・・・・・

薬剤部

前の記事で、薬剤部のことを少しだけ書いた。

オーダリングシステムを使うようになって、今後は劇薬扱いの薬品の管理が厳重になる。
今までだったら普通に処方箋を書けば良かったが、これからは薬剤部の許可が必要になる。
処方をしたければ、あらかじめ薬剤部の許可をとらなければならない。

D先生の専門は大腸がんだったので、抗がん剤を頻繁に処方する。
診察したら毎回と言っていいほど処方するものを、いちいち薬剤部に事前の許可をもらうのではやってられない。
D先生以外にも、がんを治療している先生はいるだろうから、今後どうするのだろう?

抗がん剤に限らず、劇薬指定された薬剤については、同じ問題が出た。

「この薬品が処方できないんだけど」
「こちらのお薬は、薬剤部の許可が必要なんです」

自分はこれこれこういう治療をしていて、そのためにはこの薬品がこういう風に必要である。
これは実によく使う薬品であるので、これが使えないと治療に支障をきたす。
――いつもはわたしたちと長く話すことなどなく、質問があったときも少しでもまごついたら「もういい」と言うような先生が、長々と説明してくれる。

つまり、「君たち素人は分からないだろうが、この薬はこんなふうにされては困るのだよ」ということだ。
そして「君たち下っ端では解除できないだろうが、このことをシステム会社の上のほうのSEに言ってくれたまえ」ということだ。

――はぁ、そうですよねぇ。ごもっともです。
と最初は困っていたが、この問題はすぐに解決した。

「薬品のマスターは薬剤部が作っていて、システム会社はその通りにしただけ。
マスターを変えないといけないので、そのことに関しては薬剤部に直接言ってください」
と説明すればいいことになった。

薬剤部というのは、病院ではかなりの力を持っているものなのだろうか?
薬剤部に言ってくれ、と言われると、ほとんどのドクターが沈黙する。
「よし、じゃ、言ってやる!」と受話器をとるような人はいない。(D先生は取った。で、しばらく紙でいいと了解を得た。)
そういうことを言うには、ドクター会議か何かでまず決定して、正式に申し入れなくてはならないようだった。

なかなか病院の勢力図も複雑なようだ・・・・・・

D先生の専門

D先生ははっきり言っていた。
「説明会もあったけど、僕はどうせ忘れちゃうから覚えなかった。
実際にやりながら教わろうと思って。
たくさん聞くと思うけど、よろしく頼むね」

いい人なのである。
言ってることも一理あるのである。

ドクターたちは、診察が終わるとさっさと帰っていく。
わたしたちサポートには目もくれない。
でもD先生だけは、「お疲れさん」と声をかけていってくれる。
よろしく、なんて言ってくれた人は、この先生だけなのだ。

専門の大腸がんに関しては権威らしく、患者さんたちは皆信頼しているようだった。
とにかくすべての診療が「病名:大腸がん」だったようなので、これがご専門なのだと思う。

専門に関してはちょっと問題が起きた。

先生の診察は、多くの場合、抗がん剤をオーダーする。
でも危険な薬品に関しては、今後は薬品部を通さなくてはならないことになった。
このオーダリングシステムを入れたとき、ついでに管理を厳重にしたのである。

紙だったときは、処方箋に薬品名を書いてしまえばよかった。
しかしこれからは、コンピュータなので融通が利かない。
オーダーできないのだ。
薬品名はグレイアウト。前回の処方をムリヤリ持ってくると、警告アラートが点滅。

「どうしてこれ、普通に処方できないの?」
「劇薬扱いのものに関しては、事前に薬剤部への連絡が必要になったようです」
「でも、僕の場合は、ほとんどいつもこの薬をオーダーするんだよ。これができないと処方できないんだよ」
――そうですよねぇ。

でも先生はつわものだから、平気なのだ。
「じゃ、紙で出しとくわ。紙のほうが便利でいいねぇ」

融通はききますね・・・・・・

D先生は消化器外科

最初の日、D先生は一度サポートのわたしを呼んだら、そのままずっとだった。
診察している間、半分以上はわたしがいるので、患者さんに対して恐縮してしまった。
だって、そこには患者さんの体の個人的なことが出ているわけだから。

「それで、ここに病名を入れたいんだ」
「では、ここをクリックしてください。病名は何ですか?」
「大腸がん! 大腸がん!」

――いや、その。
患者さん本人が今ここに座っているというのに、そう病名を連呼されてはこちらがいたたまれないです。

「では、DAのキーを押してください。『だ』から始まる病名の一覧が出てきます」
「ああ、なるほどね。D、A――大腸がん、大腸がん、で、これをクリックすればいいんだな?」
「はい、お願いします」

「で、次は薬を出したいんだ。前と同じ薬。×××だ、×××」
「前と同じオーダーでしたら、前回の画面から持ってくることができます。ここを――」

・・・・・・中略・・・・・・

「じゃ、次の予約を入れておきましょう。3週間後だな、3週間後。どうやればいいかな?」
前半は患者さんに、後半はわたしに言っている。
中間はご自分のつぶやきと思われる。

予約まで取れば、診察は終わりだ。でも予約ってやり方をよく覚えていないんだよね。
「こちらから、先生のお名前で――」
「ないよ」
――ん!? 本当にない!! なぜ!?

パニック――でも、パニックになっている場合じゃない、患者さんもいる前でオタオタしている場合じゃない。
画面上でどこか違う箇所、どこか違う箇所・・・・・・
「先生、ログインは、本院・消化器外科・D先生でなさいました?」
「分院だよ、今日、分院に来てるし」
「先生、所属を選んでいただきますので、先生の場合は本院になるんです」脱力・・・・・・。

でもこの先生、憎めない先生だったし、患者さんの信頼も篤かった・・・・・・

外科で勤務 消化器外科医

覚える気のない先生というのもいるもので、消化器外科のD先生がそうだった。

わたしは、通路の診察室脇に張ってある予定表を、よく見る。
――今日は診察1(号室)はA先生、午後はB先生か。診察2は一日中形成のC先生か。診察3は午前がD先生で、午後はないんだ。

しばらく勤務すれば、人も分かってくるので、前もってチェックしている。
「明日はD先生だ。午前中はいろいろ聞かれるかも。午後のB先生とA先生は何も言わない先生だからなぁ。退屈かも」
「あ、土曜日に診察3に入っていた先生の名前が消されてる。診察なくなったのかな~」
「水曜の診察2午前の先生、知らない名前だ。どんな先生だろう?」

――わたしはチェック好きなのである。

消化器外科のD先生は、最初の勤務の日の朝一番から質問が出た。
診察室に患者さんが入って、5分もしないところでだ。

診察室の裏側カーテンが開かれ、先生の顔が覗く。「あー、ちょっとお願い」
年配、というか、ベテランの風貌の先生だった。

マニュアル片手に入っていくと、患者さんと付き添いのご家族が丸椅子に座っている。
――診察途中だったりすると、患者様がいらっしゃるのが緊張するなー。
と思いながら、キビキビしたビジネスウーマン風を装う。

D先生:「ああ、あのさ、診療しようと思うんだけどね、どうやってこの画面にカルテを呼び出すの?」
――え、そこから!?

言ってみれば、第一歩の作業。
「昨日Excelで作ったファイルを開きたいんだけど、どうやって開くの?」と聞かれたようなもの。

ここをクリックして、これを選んで、患者番号を入力して――
「ああ、なるほどね。で、今日は××っていう薬を処方したいんだけど、どうすればいいの?」
それはこうして、こうやって、薬品名は何ですか?、じゃ、ここで選んでください、でこうして――
「それで? これを僕はどうすればいいのかな?」
紙が出てきますので、それを患者様にお渡しいただき、患者様がそれを薬局の窓口で提示することになっております。

――え、そこまで!? ・・・・・・

産科医 その2

B先生は産科のドクターで、A先生がとても若く見えたのに比べると、かなりベテランに見えた。

この先生は3週間のうち、たった一日しか来ていなかった。

大きな病院というのは、先生は毎日診療するとは限らない。
というか、毎日診察する先生は、たぶんいない。

A先生は水曜のみ、B先生は火曜と木曜、C先生は隔週土曜、D先生は月水金。
そんなふうに診察日が決まっている。
同じ産科でもA先生にかかっている人は、水曜に来なければならない。

でももしかしたら、緊急の際は別の先生に見てもらうことも可能なのかもしれない。

また、ここは分院なので、常駐の先生はあまりいない。
病棟があって、入院患者さんもいるようだったので、この分院に所属している先生も少しはいたのかもしれない。
が、ほとんどが本院所属の先生だった。

本院に所属しているけれど、週に一回はこの分院で診察する。
まあ、人によっては週に三回だったり、月に一回だったりするけれど。

産科のB先生は月一回くらいだったのだと思う。

B先生の診察は、午後3時半過ぎには終わった。
終わった後で診察室に呼ばれた。

「あのね、こういうことをしたいのだけれど、こうなってしまうのよ。どうしてかしら?」

分からなかった。
ちょうど来てくれていた見回り役の桂さんと、さんざんマニュアルを見たりしたけれど、分からなかった。

B先生は、本院へ帰るから、4時のバスに乗りたいらしい。(駅から遠いので、送迎バスが出ていた。)
「4時のバスに乗らなきゃならないからいいわ」

先生は帰っていったが、分からないままでは気持ちがすまないわたしたち。
「使ってみようよ」ということで、空いた診察室で操作してみた。
あれこれやってみて、原因が分かった。

B先生に伝えたかった――と、思ったら、まだバスは外にいる!
バスに乗り込み、B先生に「設定の日付が未来になっていると、ああなってしまうんです」と説明。
バスで駅まで連れ去られたくなかったので、慌てて降りた。

まあ、先生は正直、こんな帰り際にバスの中で言われても覚えてられないし、どうでもよかったろうけど・・・・・・

外科で勤務 産科医

左側の診察室は産科医のドクターがよく使っていた。
なぜか女医さんばかりだった。

若いA先生と、ほんの一日しか来なかったB先生。
他に小児科の先生も来ていたなあ。

A先生は若いだけに、操作もサクサクできた。
でも、若いだけに勉強熱心なのか、「この機会に聞いておこう」という姿勢で質問が多かった。

診察が終わってからも、診察室で何やら練習しているらしい。
これから先、こういうことも使うわね、といった感じで。
疑問点が出たら呼ばれる。
「別に今日使うというわけではないのですが、こういう場合はどうやるのかしら?」

えーと・・・・・・少々お待ちいただけますか?

でも「今日使うわけではない」というので、必殺のインストラクター技を使うことができる。
――お調べしておきますので、明日でもよろしいでしょうか?
『明日』の部分は、その講習会が一日限りだった場合は『終了までに』、週一だった場合は『次回までに』となる。

今回はさすがに次回までに、とは言いにくい。
「すぐにお帰りですか?」と尋ねて「もう少しいる」と言われたら、お調べします、と言っていったん引き取る。
通路で必死でマニュアルをめくる。
どうしても分からなければ、内科や精神科やまたは見回っている仲間に助けを求める。
三人寄れば文殊の知恵、何か浮かぶこともある。

大胆な一人が「空いてる診察室で使ってみようよ。画面を見ないと分からないよ」と言い出す。
「いいのかな? いいよね? 決定しなければいいんだもんね」と誰かが賛同。
慎重派も背に腹は変えられず「そうだよね」と言い出し、操作して分かったこともある。

分かったこともあるというか・・・・・・一度やってしまえば怖くない。
その後からは自由自在に操作確認するようになったのだった・・・・・・

サポート

ドクターというのは、お医者さんになるくらいなのだから、頭がいいのである。
だから、こういう新しいシステムだって、すぐ覚えられるものなのである。

汎用性を考えて作られているのだから、「あ、これかな?」と思うボタンをクリックすればできるようになっている。
出てきたダイアログの内容は、わたしたちにはちんぷんかんぷんでも、ドクターには分かる。

□ シスプラチン   □ ペプロマイシン   □ ゼローダ
□ イフォアファミド □ テガフールウラシル □ エストラムチン  (※適当です)

わたしたち:何、これ?
ドクター:ああ、ここで薬品を設定するんだな。じゃ、これとこれ。

そんなわけで、質問殺到、ということはない。
――つまり、ちょっと習ったくらいではできない範囲のことで質問される、という可能性大。

恥も外聞もなく、呼ばれたらマニュアル持参で診察室へ。
聞かれたことが即座に分からない場合は、マニュアルを開いてその通りに説明する。

結局、マニュアル頼み?
――いやいや、これはこれで重要なのだ。
大切なのは、覚えていることではない。マニュアルの何ページに書いてあったか知っていることだ。
聞かれたときに、「それは確か、この辺りのページに書いてあったはず!」とパッと開くことができる。
そうすれば、すぐに分かる。
ドクターがマニュアルをひっくり返して探すなんて、時間がかかりすぎるのだから。

このために、わたしたち派遣サポートスタッフは、暇な時はマニュアルを読んでいる。
「こんな質問が出たよ」という朝のミーティング時の発表をメモしておいて、常に見返している。
話し合う機会があれば、「朝のあの質問、対応はこれでいいんだよね。メモしきれなくて」と確認しあっている。

一応、できるだけの努力はしているのである・・・・・・

初日パニック

さあ、所定の位置にもついた。
わたしと桂さんは外科。
ちょっと立ちっぱなしが辛そうだけど。

いよいよ診察時間が始まる。
もう既に受付を済ませて待っている患者さんがいらっしゃる。

初日、午前、まずは呼び出しシステムが作動する。
そう、今まではマイクで呼び出していたが、今後は呼び出しもシステム化されるのだ。
ドクターが「呼び出し」をクリックすれば、次の患者さんの番号が掲示板に点灯する仕組み。

順調に滑り出したかに見えたが、30分もするとなんか変だ。

・・・・・・うまくいかない。

「いつまで待っても呼ばれないんだが」という患者さん。
「クリックしたのに、呼び出し掲示板に反映されてないみたいよ」というドクター。
さらに「待っている人がいる、という表示がこっちに出ないんだけど」という指摘。

時間が経つごとに、うまく動作しなくなっていく。
「どうなってるの?」「全然使えないんだけど」と診察室から出てきたドクターが言う。

あたふた、あたふた・・・・・・でも、こんなこと、分かんない、なんでダメなのか。

「もういいわ、とりあえずマイクで対応するから」「申し訳ありません」

やがてオーダリングシステムも、何やら動きが悪くなっていく。
どんどん遅くなる。ついにはフリーズ状態。

「ちょっと内科がどうなってるか見てくる!」と桂さんが走る。

旧棟のシステム会社控え室に、誰か行ってみたほうがいいのではないか?
どこかにSEさんはいないか?
臨時サポート同士で話し合いたいが、全員が持ち場を離れて一か所に集まることはできない。
伝言ゲームのように連絡をとりあい、対応を協議する。

SEさんたちはどうしていたか?
――立ち会っている「病棟」(入院病棟ということ)で、パニックに対応していた。

孤立した派遣スタッフたちがようやく手に入れた情報は――
負荷がかかりすぎて、システムがダウン状態らしい。
こんなのまだいいほう、本院は患者さんの数も多いから、大パニックになっているらしい。

それで、初日は午後も半ばまで、結局は紙ベースの診察に戻っていたのだった・・・・・・

外科通路の辛さ

初日、外科にはわたしと桂さんが立ち会っていた。

内科には桜さんと椿さん。
精神科には藤さんと松さん。

内科の通路には、書斎用みたいな座り心地のいい椅子があった。
広いテーブルもあって、そこでマニュアルを見たりすることができた。

精神科の通路には、よく会社で見かけるような椅子があったし、くるくる回る丸椅子もあった。
テーブルもあって、のんびりすることができた。

外科の通路は、もともと物が多いので、立っているのも気が引ける。
椅子はなかった。
わたしと桂さんはずっと立っていた。
マニュアルも手持ち。
何かしたいことがあって、ちょっとマニュアルを置いておこうと思ったら、血と膿で汚れた包帯が入っているポリバケツの蓋の上しかない。

疲れた。

操作説明は、ドクター、ナース、それぞれ受けている。
ドクターが使うのはオーダリングシステムで、ナースが使うのはナーサリーシステム。
両者は連携しているけど別物で、わたしたちはドクター用のシステムのみ、サポートする。
入院用の操作も、わたしたちはしない。
入院病棟にはシステム会社の人と、システム会社の下請けのサポート会社の人が立ち会っている。

で、始まってみて気付いた。

「私たちはナーサリーシステムのサポートはしない」、と言ってはいられないってこと。

外科の通路はナースセンターとつながっている。
ナースセンターで何か分からないことがあると、ナースさんたちは「あそこにサポートの人がいたわ!」とやってくる。

よく、アルバイトに「お客さまはバイトだとか社員だとか、分からない。あなたがたバイトも会社の顔なんだから」と言うが、まさに同じだ。
ナースさんたちに「私たちは単なる派遣で、実はこのシステムも全然詳しくないんですよ」とは言えない。

一応、行ってみて、答えられる範囲で答える――教わってないけど、そこは応用で。
ダメそうだったら、こちらでSEさんを呼ぶとか何とか、対策をしなくてはならない。

ナースセンターからも聞かれるのか~! 習ってないのに!
これが外科通路で一番の厄介な点だったと思う・・・・・・

外科の通路

外科の通路は雑然としていた。
何日かして余裕が出てくると、他の人のところも覗きに行ったりしたが、こんなに雑然としたところはなかった。

雑然としている上、ナースセンターの喧騒が聞こえてくる。
ナースセンターと通路をつなぐドアは、当然いつも開けっぱなしだ。

ナースさんは頻繁にやってくる。
診察室に呼ばれたから。
または、通路に置いてある物品を取りに来たから。
または、汚れた包帯をポリバケツに入れに来たから。休憩しに奥に行くから。その他。

ドクターもいきなり出てくることがある。
シャッ、とカーテンが開いて、つかつかと歩いて行く。
でも別に、ユーザーサポートに何か聞きたいわけではないらしく、ナースセンターへ。ホッ。
「・・・・・・XXX・・・・・・XX」――何か話している。
またつかつかと戻って来る。

だいたい診察室の引き戸も開いていて、ただの目隠しカーテンなので、話し声もなんとなく聞こえてくる。
何しろ基本的に、雑音に満ちているのである。

内科の通路に行ってみたら、シーンとしているので驚いた。
張りつめた静けさだった。
内科にいた人は「内科の先生は気難しい方が多くて、少しでも話し声が聞こえると怒られる」と言って、静かにするよう合図してきた。
本当にひそひそ声で話をする。それもはばかられる。

精神科の通路もシーンとしている。
でも張り詰めていない。
一番端なので、入って左側に窓があるからかもしれない。
外は見えない窓だけれど、光があるのは心が和む。
精神科の先生は、患者さんの話を辛抱強く1時間でも2時間でも聞く構えでいるし、患者さん向け慈愛の態度が身についている。
だからゆったりした空気が通路にまで流れているのかもしれない。

精神科は後に、一息入れたい人たちの憩いの場となった。
時々、気分転換に内科にも行くことがある。

もちろん雑然とした外科に休憩に来る人は、いなかった・・・・・・

外科

わたしの持ち場は外科。
今後ずっと外科だ。

外科の関係者用通路は、一番右側にあった。
関係者しか入れないので、通路はドアで閉まっている。
別に鍵がかかっているわけではないけれど。

ドアを開けて通路に入ると、そこは診察室の裏側だ。

診察室は、患者さんが入ってくる引き戸と、その反対側に、ドクターやナースが出入りする引き戸がついている。
しかし外科の診察室の大半は、ドクター用引き戸は開けっぱなしだった。
長い病院用のカーテンだけが引いてあった。

通路は、なんだか雑然としていた。

薬類が乗ったカートがある。
ごみ箱に使うようなブルーの大きなポリバケツが置いてある。
その中は、血や膿がついた包帯でいっぱいなのを、後で見た。
ラックがあって、いろいろな物品が置いてあった。
通路の奥はカーテンで仕切られていて、椅子が2つとカラーボックスが3つ置けるくらいの空間だった。
ナースさんたちが一息つくのに使うらしい。

どうしてこんなに雑然としているかというと、診察室・通路・ナースセンター、なのだ。
ナースセンターから溢れ出たいろいろな物が置かれているのだ。

そうだよなぁ、外科とナースセンターがくっついているのが合理的だよなぁ、と変に納得。
急患が来たとき、じゃ、ちょっと消毒してここに絆創膏を貼って、なんて指示するかもしれない。
そのときナースセンターがものすごく遠かったら、大変だ。

そう。
大きな病院だから、診察室で治療はしないのだ。
診察室は診察をするところ。
注射は注射をする場所でするし、包帯を巻くのなんかはナースセンターでする。
検査は、それぞれの検査をする部屋に行って、検査技師や検査医がする。

患者さんが移動するのだ・・・・・・

診察室

さて、わたしは外科担当である。
――と言っても、大雑把な区別だ。
そこには産科の先生も診察に来たし、形成外科のような外科の先生も来れば、消化器外科の先生も来た。

大きな病院というのは、だいたい同じような構造になっていると思う。

まず正面玄関を入った来院者は、受付に行く。
そこで診察券や保険証を出して、「どこどこの科を受けにきた」というような申し込みをする。
番号札のようなものを貰う。
銀行の窓口に並ぶとき、番号が印字されて出てくる機械があるが、あれと同じようなもの。

番号札を手にして、ちょっと奥に進むと、待ち合い用の場所がある。
ソファや椅子に腰かけて待っている。

膝の関節が変形して、形成外科の××先生の診察を受けに来た、という85番の人が座っている。
呼び出し掲示板に、パッと85の番号が点灯する。
病院によっては、「85番さん、1ブロック1番診察室にどうぞ」など、マイク呼び出しがあるかもしれない。

呼び出し掲示板は、診察室の番号が並んでいる。
1号診察室のところに「85」と点けば、85番さんは奥に入って行って、1号と書かれたドアを開ければいい。

診察室はブロック分けされていたりする。
このA病院は、3つのブロックに分かれていた。

待ち合いソファの正面に、3つの通路が口を開けている。
(本当は通路は6つあるのだが、3つは職員用なのでドアがついていて、閉じている。)
1つ目の通路を入って行くと、右左両側にそれぞれ診察室のドアが4つ5つ並んでいる。
2つ目の通路を入って行くと、これまた診察室のドア。
3つ目の通路も、これまた診察室のドアが並んでいる。

1つ目の通路を入った診察室では、外科や産科などの診療が行われている。
2つ目には内科系列が集まっていて、3つ目はその他、たとえば精神科とかが診察している。
という仕組み。

で、わたしは1つ目の通路の裏側にスタンバっているわけだ・・・・・・

緊張の初日

年末に3日間の研修をし、いよいよ年明けから勤務開始だ。
三が日はお休みで、それぞれに正月を過ごした。

「実は私、全然マニュアル見てないんだけど~」
「大丈夫かな~」

口々に言う女性スタッフたち。

誰一人遅刻もせず、所定の場所に集まった。
派遣会社から部長さんも来ていた。
初日は確か、全員が出勤していたと思う。

旧棟には研修を受けた部屋がある。
そこはシステム会社のSEさんたちの詰め所になっている。
研修を受けた部屋の隣が、わたしたちの控え室だ。
――と言っても、ここには朝晩のミーティングでしか来なかったが。

控え室に全員集まり、会議でもするように、向かい合って座った。

部長さんがまず、口を切る。
「これから、毎日、朝はここに集まって、ミーティングをしましょう」
――しましょう、と言っても、部長さんは明日からもう来ない。
「ここで、朝の確認事項などの打ち合わせをしてから、それぞれの立会い場所に行ってください。
帰りも一度ここに集まりましょう。
その日受けた質問などを発表して、情報を共有するようにしたほうがいいと思いますから」

勤務時間は長くとられていた。
病院が開く30分前から、閉まる30分後までの時間帯だ。
だから、ミーティングをすることに異議はなかった。

「ミーティングは、では、リーダーの『男性』さんが議長というか、リードする形で・・・・・・」
『男性』さんは、彼のものと思われる小さなノートパソコンを持参していた。
そこにミーティングの内容を入力する、と言っていた。

「では、そろそろ行きましょうか」
いよいよ、始まるのだ・・・・・・

シフト表

さて、研修の間に、シフト表が渡された。

わたしたちの契約期間は3週間。
その3週間のうち、どこかダメな日があるかどうか、あらかじめ予定を提出させられている。
最初のうちは人数が多くないといけないが、皆さんが慣れてくればそれほどいらなくなる。
だから、毎日勤務できるからといって、毎日シフトに入れるわけではない、と言われていた。

その日出勤する人と、誰がどこで勤務するかが書いてある。
わたしたちは、基本的に診察室近くで立会いをすることになるのだ。
誰がどこで立ち会うかも、シフトの一部だった。

シフトはうまく組まれていた。

わたしは出勤日は全部外科。
藤さんは全部精神科。
桜さんは全部内科。

桂さんと松さんは、浮動要員。
見回って、質問が多そうなところを手伝う。
ランチの時間には、交代要員になる。

初日から2,3日は、浮動ではなくて、どこかの科にいる。
その期間は各科二人体制だからだ。
桂さんはそのときはずっと外科、松さんはずっと精神科。

椿さんは最も出勤希望日数が少ない。
なので、初日から2,3日の二人体制期間は、ずっと内科。
それ以降は、桜さんがお休みの日や二人いたほうがいい日に、内科に入る。

なるほど、だいたい専門を決めておくのはいいものだ、と思った。
たとえば精神科では薬のオーダーが多いだろうし、外科では注射やレントゲンのオーダーが多いだろう。
ある程度固定することで、その科での知識が増え、不必要な知識は覚えなくてよくなる。

うまいものだ、と納得した・・・・・・

食堂

このA病院分院には、新棟と旧棟があった、と前の記事で説明した。

新棟と旧棟は1階に通路があり、つながっている。
この通路部分は、地下階もある。
ただし、地下階は新旧は結ばれていない。
スペースがあるだけ。行き来はあくまでも1階から。

通路部分の下の階には、一般の人はやってこないし、業務用区域のイメージがあった。
大きな台車にシーツ類が山と積まれて置かれていたり、作業服姿の職員さんがいたりする。
業務用エレベーターがあり、1階に通じていた。

この地下階的な空間のどこかに、食堂もあった。
ちょっと分かりにくい、秘密めかした場所で、最初はなかなか覚えられなかった。

長細い廊下のようなところがあり、壁にドアがある。
ただドアだけがぽつんとあるので、見逃してしまいそうになるけれど、これが食堂だ。
ドアを開けると急に喧騒が襲ってくる。

病院の食堂だけあって、栄養管理がしっかりしているのが魅力だった。

値段も500円くらいで、とても安かった。
ドクター、ナース、事務の制服を着た人、検査技師や、その他のいろんな役職の人、そしてわたしたちのような者まで、皆が食べられる。
メニューは一種類しかないので、その日のメニューがダメな人は食堂以外で食べる。

――と言っても、病院以外には何もないところだった。

もし食堂で食べないのなら、病院の売店で何か買って食べるか、病院内のレストラン(来院者用)で食べるしかない。
または、お弁当を持参して休憩室で食べるという手もあるが。

休憩室は、食べ終わった人がテレビを見たりして休むことができる部屋で、旧棟の1階にあった。

わたしは毎日、食堂に行った。
希望者には回数券を売ってくれたので、回数券でさらにリーズナブルに食べた・・・・・・

新棟と旧棟

便宜上、この病院をA病院と呼ぶことにする。

A病院の本院は都心にある。
この山手線沿線から30分くらいの土地にあるのは、分院。

分院だが、やはりそれなりに大きい。
敷地も広かった。

分院は新しい建物と古い建物に分かれていた。
新しいほうは新棟と呼ばれ、医療行為はすべてこちらで行われていた。

古いほうは旧棟。
旧棟はガランとして、お化けでも出そうな雰囲気がある。
でも壊されていなかった。

わたしたちの控え室は旧棟にあった。
研修はここで行った。
実際に勤務開始となってからも、毎朝毎晩のミーティングはここで行った。

ナースさんたちの更衣室も、この旧棟にあった。
鍵付きロッカーがズラリと並んでいる。

わたしたちは、ナースさんたちと違って、着替えをする必要はない。
でもこの更衣室に、わたしたち用の鍵付きロッカーを用意してもらった。
朝は、荷物などをロッカーに入れて現場に向かう。
ロッカーは2人で1つだった。

システム会社の人たちが詰めている場所も、この旧棟内にあった。
(しかしそのため、何かものすごい不具合が起こったとき、旧棟から来るので時間がかかる)。

旧棟はやはり古い建物なため、トイレや手洗い場の作りなどが、まるで昔の映画にでも出てきそう。
廊下やドアの感じも、古い。
傷んでいる、というより、デザインが古い。昔風なのだ。

だからお化けが出そうに見えるのだと思った・・・・・・

仲間たち

一緒に働く短期ユーザーサポート仲間。
約3週間のつきあいになる。

リーダー、男性。

女性7名――1名が研修中に「家の事情で」リタイヤしたので、6名。
・一番年齢の高い、藤さん。
・まじめそうな、桂さん。
・マダム風なムードの、松さん。
・爽やか美人の、桜さん。
・くるくるパーマ、お目々ぱっちり美人の、椿さん。
・わたし。

女性たちは全員、OAインストラクター。

ただし、内容はそれぞれだ。
・藤さんは、「最近ホントに仕事がないわ」と言い、
・桂さんは、「しばらく仕事を休んでいたから、復帰のリハビリ兼ねて」と言う。
・松さんは、「前やってたけど、今は知り合いの社長の仕事を手伝ってる」そうで、
・桜さんは、「派遣会社のスタッフ研修とか、その他にもいろいろやってる、頑張ってる」人。
・椿さんは、「扶養範囲内でいいの。普段は大学の情報授業をやってる」そうだ。

わたしは、インストラクターになってまだ1年ちょっと。
経験は――どうなんだろう? これって多いの?少ないの?、というくらい。

リーダー、男性は、インストラクターではないらしい。
「前にもこういう仕事してるんですよ。常にリーダーで。
まぁ、はっきり言ってこういうシステムってどこも同じようなものなんで、だいたい分かりますね」
研修でも、3人で1台のマシンを使って練習するとき、一度も触らなかった。
「だいたい分かってるんで。いいですよ。どうぞ使ってください」
と言っていた。有難く使ったが。

リタイヤした人の代わりは入らなかった。
この人数で3週間、こなしたのだった・・・・・・

医療システムってどんなもの?

単発派遣ユーザーサポートたちは、なかなかどっしりしたマニュアルを1人1冊渡された。
これは機密だから、仕事が終わったら返すことになっている。

でも仕事中は家に持ち帰るのもOK。

研修は3日しかないので、実際の稼働までの数日間、自宅で正月を過ごしながら勉強することも可能。
――と言いつつ、なかなかやらないものだが。

マニュアルを見ただけでは頭に入らないだろう、と分かっているインストラクター経験者たちは、3日必死。
1人1台はないので、組になった別の人が操作練習をしているときも、その画面を見て覚えようとする。

医療システムはドクターが使うものとナースが使うものとあるらしいが、今回わたしたちがサポートするのはドクターが使うシステム。

たとえば、ある患者さんが診察室に入ってくる。
今までだったら、事務の人がカルテを探し出して持ってくる。
でも新しいシステムでは、その必要はない。(過去のデータがないので今は必要だけど、なくなるはず)
お医者さんはその患者さんのカルテを、パソコンで呼び出せばいい。

画面上にその患者さんのデータが開く。
前回こういう処方をしたのか。
それで、今はどうですか? ふんふん、なるほど。
では、今日は血液検査をしてください。

――と言って、血液検査のオーダーを出す。システムで。
つまり、血液検査ボタンをクリックし、開いたダイアログ内で検査項目にチェックをつけ、OKボタンをクリック。

ちょっと患部を見せてください。
あ~、こうなっちゃってますね。注射しましょう。

――と言って、注射ボタンをクリック。
どんな薬品を入れるか、量はどのくらいか、などを設定して、OK。

本当はもっといろいろあるけれど、簡単に言うとこういうものである・・・・・・

研修3日間

研修は年末に3日間あった。
3日で人をサポートするほど覚えられるのか、と緊張しながらの研修だった。

前に書いたように、いろいろなところにシステムを導入している大きな会社には、子会社がある。
そのシステムに精通し、導入時のサポートをしたり、導入後のヘルプデスクをしたりする。

今回わたしたちの研修で説明してくれたのは、その子会社の綺麗なお姉さんだった。

講習会ではたいてい補助の人がいる。
操作が遅れてしまった人や、分からなかった人をフォローする役だ。
補助についてくれたのは、たぶんわたしたちよりずっと若いお姉さんだった。

綺麗なお姉さんは、実際に稼働するときには本院に行っている。
分院にはこの若いお姉さんがいてくれるそうだ。

集まった派遣スタッフは、男性1名、女性7名、計8名。
男性がこの臨時派遣チームのリーダーなのだそうだ。
女性たちは皆、インストラクターたち。

研修は、普通に朝から夕方まで、8時間くらいの時間がとられていた。
しかしパソコンの台数は人数分用意されていない。
2名、または3名で1台を使う。

だから自由自在に練習することができない。
本当にこれで大丈夫かな――?

この研修中に、1人の女性スタッフがリタイヤした。
「これはなんか違う」と感じたのだと思う。

確かにこれは、いわゆるOAインストラクターが普段している仕事ではない。
説明したり、講義したりというのとは違う。
しかしちょうど時代は変わりつつある時期だったので、他の人たちは辞めなかった。

わたしも、とにかく触ってみなければと思い、遠慮せずにパソコンを使わせてもらうことにした・・・・・・

状況説明

国は医療に関しても電子化を進めていて、今までの紙ベースからコンピュータに移行中なのだそうだ。
いついつまで、という目標を定めて、病院にも実施するよう求めているということだった。

この病院でも、電子化をしていかなくてはならない。

今回、診断や治療などの医師オーダーを電子化する。
看護システムも電子化する。
まだ始まってもいないので紙のカルテも残っているけれど、ゆくゆくはすべて電子カルテになるのだそうだ。

さらに、いずれはレントゲンなどの画像も、フィルムではなく電子データとして残すようになる。
場所もとらないし、探し出しやすい。
でもこれは、まだ先。
今回は見送られることになっている。

この病院はとても大きな病院だった。
東京で何番目、というところまでは知らないが、わたしでさえ名前はよく知っている病院。

この病院には分院がある。
大きな病院は、ちょっと郊外みたいなところに分院があったりするものだ。

わたしの勤務場所はこの分院のほうだった。
本院は都心にある。
そちらは当然、分院より規模も大きいし、日々の診察件数も断然多い。
だからシステム会社の人のほとんどは、そちらに詰めている。

いろいろなところにシステムを納めている会社は、サポート専門の子会社や下請け会社を持っていたりする。
そこで働く人たちは、そのシステムに精通し、導入時の説明会やサポート、稼働したらヘルプデスクなどをする。
そういった子会社からもたくさんの人員が来ていたが、多くはやはり本院に配置されていた。

そこで分院には、わたしたち臨時の派遣スタッフが入ることになったのだ・・・・・・

インストラクター募集

登録したけれど働いたことはない、という派遣会社から電話があった。
「OAインストラクターの方を募集しています」

でも仕事内容はインストラクターではない。
新システム導入のユーザーサポート。

「新しいシステムの講習をする、というお仕事ではないのですが・・・・・・。
稼働時にユーザーの方のヘルプをしていただくという内容ですが、いかがですか?」

3週間の仕事+研修3日。

時は冬――12月に入ったところだった。
勤務開始は来年1月から。年内――たぶん年末――に3日間の研修がある。
年末年始は仕事が見つけにくく、前の年の1月はズルズルと無為に過ごした。

「ぜひお願いいたします。実は今年の夏にユーザーサポートの仕事に参りまして――」

ちょっと宣伝しておかないと、他の人になってしまうかもしれない。
それに、この派遣会社はスキルや職歴の更新をしないので、アピールしておかないと。

「そうでしたか。ぜひそのご経験を活かしていただければと思います」
この派遣会社に登録した時点でのわたしの職歴は、インストラクターとしては寂しいものだったから、経験が増えたことを聞いて明らかにほっとしているようだった。

でも、たぶん、夏の経験はあまり役に立たない。

今回の勤務場所は、病院。
導入するのは、オーダリングシステムと呼ばれる医療システム。

サポートする内容が全然違う。

ちょうどその頃、かつての職業訓練クラスのクラスメイトが、また失業していた。
解雇とか、そういうものではなく、単なる自己都合。
そしてまたもや職業訓練に通っていた。今度は、医療事務。
医療の世界も今やコンピュータ時代。
申し込んで通い始めた頃、妊娠が分かったので、しばらく働くつもりはないそうだ。
だが、医療系のソフトが使えたら、仕事に復帰したいと思ったとき役に立ちそうだし、と語っていた。

それを聞いて興味を持っていたところだったので、この仕事は内容的にも嬉しかった。
そういう勉強が、時給をもらいながらできる・・・・・・

File08開始

2年目

08:ユーザーサポート 医療システム

それでも終了の時は来る

たった2日3日の仕事である。
前回もすぐに終わりは来たが、今回もやってきた。

単発派遣同士はひとつのグループみたいに仲良くなり、仕事も楽しくできた。
お昼は楽しみだった。

でもやっぱり終わりは来る。

その後、この仕事に行くことはなかった。
今でも毎月発生しているのだろうか?
そして、一緒に働いた人たちの誰かが、今でも行ったりしているのだろうか?

二度目に行ったときの仲間とは、一応メールアドレスなどを交換した。
でも長く一緒にいたわけでもないので、その場は楽しくても後はなかなか続かない。

何度かはメールのやりとりもしたが、それきりになっている。

この会社の店舗はあちこちにあって、わたしは今でも利用する。
そうすると、あのときの会社の様子が眼前に浮かんでくる。

ときどき、どこかの店の将来を嘱望されているであろう店長が、社員になるための面接にやってきていた。
だから体育会系のノリがあるのかもしれない。

短い仕事だったし、何があったということはないけれど、会社経理の経験ができてよかったと思っている。

毎日一緒にランチ

二度目にこの仕事に行ったときのメンバーとは、とても楽しく話をした。
同じテーブルで仕事をしていたからだと思う。

最初のときは、ぽつんぽつんと空いた席のパソコンで仕事をしたが、今度は場所が用意されていた。
会議室用テーブルを向い合せに置いた島に、ノートパソコンが人数分、置かれているのだ。

関西チームも関東チームも、データチェックのときはここで仕事をする。
おかげでいろいろな話をした。
なんとなくお昼も一緒に出かけて、皆で食べた。

こういうところで偶然出会う人と話すと、いろいろな話を聞けるので面白い。

「私は月に5日くらい、タイムシート入力の仕事をしているの」という人がいた。
なんと、わたしたちが派遣されているこの派遣会社のタイムカード、つまりわたしのタイムシートも彼女が入力するのだ。
タイムシートというのは、勤務時間や休憩時間を書くシートだ。
そこに派遣先の印鑑を貰わなくてはならない。
あちこちで働くたくさんの派遣スタッフたちのタイムシートが送られてきたら、彼女たちが入力する。

そういう仕事もあるんだなぁ、と思った。
その後、長い仕事の場合は、Web上で入力できるシステムができた。
派遣先の人もWeb上で承認することができる。
だから、タイムシート入力の仕事は少し減ったかもしれない。

「いろいろよくしてもらってるので、辞めるわけにはいかない」と言っていた。

横浜に住んでいる既婚者で、交通費を考えるとこれこれの地域でしか働けない、と言っている人もいた。
なるほどと思った。

皆でお昼に行くと、この辺で働いたことがあっておいしい店を知っている、という人の意見なども聞けるので有難い・・・・・・

経理の人の権力

経理の人というのは、怖いものなのではないだろうか。

――というような感想を抱いたのがこの仕事である。

他の部署の人が経理部の女性に何か話しかけるときは、いつも低姿勢だった。
そして経理部の女性は厳しかった。
そういうのはダメだ、やり方が違う、というようなときは、容赦しない。

特に忙しい関西チームのリーダーは、怖いと思われても仕方なかったかもしれない。

わたしは二度目に行ったとき、別な仕事を手伝わされた。
関西チームのリーダーが、「単発たちは暇そうだ」と見て、他の用を言いつけたのだ。
誰か一人、ということで、封筒開封の仕事に行った。

その仕事は2人の男性社員がやっていて、関西チームのリーダーはそこへわたしを連れて行った。
封筒は様々な大きさで、種類も様々だった。
書類入れのようなもの、固い小包みたいなもの、分厚い封筒のようなもの。
その中には、各地の店舗から送られてきた伝票が入っている。

小さなテーブルで、わたしは男性社員に混じって封筒を開け、中身を取り出した。
しかしそれほど数があるわけでもなく、まもなくめどがついた。
男性社員たちは、わたしがいることで気の置けない会話をすることができずにいた。

「もう後は大丈夫だから、戻っていいですよ」

そう言われて単発派遣仲間の席に戻ったが、やがて関西チームのリーダーが気付いた。
「封筒の仕事をしてって言いましたよね?」
きつい口調だった。目も怖かった。
「もうすぐ終わりなので、後は必要ないと言われまして――」

関西チームのリーダーは、もう一度わたしを連れてそこに乗り込んだ。
「どうして勝手に戻すの!? 今、やることなくて暇なんだから」
遊ばせてちゃ勿体ないじゃないの、とわたしは心の中で付け加えた。

「もう終わるから・・・・・・」
「とにかくここで仕事させて」
シーンとなったわたしたちを残して、関西チームのリーダーは席に戻って行った。

経理、強し・・・・・・
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