FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

最後の仕事

書類はすべて番号順に並んだ。
不備のある書類もなくなった。
みごとに番号順。

そして最後の仕事は、このファイルケースを順番に倉庫にしまうこと。

ファイルケースがU字型というかみみずおに型に並んでいる大きな部屋の、2階上が倉庫階。
そこまで運んでいくわけだが、絶対に順番をくずすわけにはいかない。

そこで、書類が並んだ階から2階上の倉庫まで、階段に人員が配置されバケツリレー。

「だいたい均等に並んでね」と社員さん。
でも、ファイルケースがたくさん並んでいる部屋にいる人はちょっと多め。
なぜなら最初のうちは入口に近いケースを渡していくが、だんだん進んでいくと部屋の奥の方になる。
そのときちょうどいい人数がいないと、すごーく大変だから。

わたしはファイルケースのある部屋の出入口近くに立った。

ファイルケースを1つずつ次の人に渡していく。
「はい」「はい」「はい」「はい」・・・・・・
えんえん2階上まで。

最初にケースを番号順に渡す人と、最後に倉庫の鍵つきロッカーに入れる人は社員さん。
間はすべて派遣たち。
データ入力をしていた△△派遣の人たちも加わり、長い列をファイルケースが運ばれていった。

「はい」「はい」「はい」「これ、重いです(気をつけて)」「これも、重いです」・・・・・・

わたしはバケツリレーをこんなに壮大にしたことはなかったので、ちょっと面白かった。

2日目、帰る頃には体がぎしぎしいっていた。
そして月曜日、普段の仕事に行くと、筋肉痛がひどかった。

しかし、こうして並べていた書類、かなり極秘の書類だと思う。
内容は言えないけど。
機密書類ということで、個人情報をもらさないという注意書きも読まされたし、署名もした。
今、どこに行ってもするけれど。
部屋のドアには、指紋認証だの、個別のパスワードだのがいる装置がついている。
データ入力をするのだって、個別のパスワードがいる。
それであっても、何十名もの人員を使わなくてはならなくて、荷物を持ったまま部屋に入れるわけだから、機密保持って大変だなあ、と思ったものである・・・・・・
スポンサーサイト

番号順、さらに修正作業

大量のダンボールにぎっしり詰まった、超大量の書類。
27名が一日近くかかって、ようやく通し番号順に並べられた。

しかしまだ終わりではなかった。

別な階でも同じような作業をしていた。
そこの書類も同じものだがこの階のものと混ざっては困るというもの。
それはそれとしてまた並べ替え、ブルーのファイルケースに入れる作業をした。
(最初に並べ替えた書類はグレーのファイルケースに入れた。ここのはブルーのファイルケースに入れる。)

グレーのファイルケースに入れた作業は、大量でもあったし、大きな部屋で行った。
ブルーのファイルケースの書類は、量はさっきよりずっと少ない。
でも入力や検証の作業をしている部屋の片隅で整理した。
狭くて実にやりにくかった。

この部屋は狭いので、数人の人員だけが行った。
残った人たちが何をしていたのか、分からない。

この作業で一日目が終わった。

二日目、昨日ずっとグレーのファイルケースの部屋だった人はそのまま。
ブルーのファイルケースの部屋に行った人は、また別の階でデータ入力の手伝い、となった。
ブルーの部屋に行ってよかった。いろんな仕事が体験できて、楽しい。

入力が1時間ほどで終わるとまた、最初のグレーのファイルケースが並んだ部屋に戻された。

今度は必要なファイルのリストが渡され、それを番号のところから抜き出す作業をした。
番号のところにないファイルに関しては、端末を使って検索したり、必要なら入力をしたりする。

一方で、ブルーのファイルケースのものは不備があるものなので、入力作業をする。

すべてが終わった。
不備はなくなった。

不備がなくなったらもう混ぜてもいいので、ブルーのファイルケースの中の書類をグレーのファイルケースに入れるんだって。
もちろん、番号順の場所を探して。

ふぇ~、また?

ここまでして初めて、すべての書類が番号順に並んだことになる・・・・・・

並べ替え

さて、ファイリング。
12桁の番号がついている書類を、通し番号順に並べる、というもの。
まずは頭1桁を番号順に分けた。

次は、グループに分かれて2桁目以降を並べ替えよう、ということになった。
9で始まるものは圧倒的に多かったので、グループは①1~6、②9前半、③9後半の3つになった。

後は想像されるとおり。

わたしは②9前半のグループにいて、94で始まるものを3人でやっていた。
9前半の中でも、94で始まる番号は圧倒的に多かった。

やがて手の空いた人が応援に入ってくれる。

もう部屋中書類。3つある机の島も、床も。
分け終えたと思うと、まだここにもあった、というのが出てきたりする。
並べ終えたと思うと、これもそうだった、というのが現われる。

わたしは床の上に座り込んでいたし、ダンボールやまとめた書類を運ぶのも筋肉使うし、整理は立って行うことが多かったし、体力仕事だった。

それでも一日目の午後も半分終わる頃には、書類はグレーのファイルケースに整然と並んだ。
端の島から奥の島まで、U字に並べられる。
わたしにとっては、みみずおに式のほうがぴったりくる言い方だけど。

しかし実はまだこれでは、整然と、というものではなかったのだ・・・・・・

ファイリング

さて、わたしはファイリングになった。
結局2日間ほとんどファイリングだった。

『ファイリング』というと聞こえはいいけれど、単なる資料整理のこともあるし、力仕事になる場合もある。
『ファイリング』とは書類に関する様々な作業をひっくるめて表現できる、都合のいい言葉なのだ。
この仕事は単発派遣4年目に携わった仕事なので、わたしももう騙されない。
ファイリングかぁ、この人数だと軽作業かな、と移動しながら見当をつけた。

この会社は、たとえば××青森、××宮崎、というように、地域ごとに別の会社組織だった。
それが今度、全部がひとつの会社になった。
そこで東京に各地からすべての書類が送られてきた。
厖大な量の書類が届いたので、それを通し番号順にする、という。

書類は、1件ごとにA4サイズのファイルになっている。
そして1件ごとに重複しない番号、いわゆる「ユニークな」番号が割り振られている。
番号は12桁くらい。12桁を通し番号順にするって!?

約30名が、ダンボールを1つずつ与えられ、とりあえず散らばる。

まず、頭1桁を1~9に分けよう、ということになる。
ダンボールから書類を取り出し、分けてはその番号が置いてあるテーブルに持っていく。
1つのダンボールを空にすると、新たなダンボールをもらいにいく。

ダンボールはいったいいくつあっただろう?
100個? 200個? 300個?――それとも多く見えたけど何十個とかだったのか?

分けてみると、頭1桁目は、圧倒的に9が多く、次いで8や7や6が多く、1~5はあまりない。
じゃ、今度はそれぞれグループに分けて、2桁目以降を分けよう、ということになった。

グループは①1~6、②9前半、③9後半の3つになった。
9前半とは、9の次の数が1~4のこと。同じように9後半とは、9の次の数が5以降。

それほど9で始まる書類は多かったのだ・・・・・・

会社に着いて

駅での待ち合わせは大勢がわらわらいて、大変だった。

こんなに大勢で何をするのだろう。
電話の話では――
「データ入力かファイリング、どちらをどのくらいやっていただくことになるのか、申し上げられない」
ということだった。

「ファイリングの場合は立ち仕事になるが、よいか」とも言われた。
だから、仕事向きの靴の中で最も楽な靴を履いてきた。
つま先がはげていてちょっとみっともないのだが、立ち仕事の可能性があるのなら構っていられない。

立ち仕事かもしれない、というので仕事前に足を疲れさせたくなかったから、ぎりぎりにも来た。

駅から40名+営業2人でぞろぞろと歩いて、建物に着き、中に入る。

なんと建物の入口には別の派遣会社の男性営業がいた。
そして建物の中には、別の派遣会社から来ている人たちも3,40人いた。
実に大量の人員。
本当にこんなに大勢で何をするのだろう。

派遣会社が2つだったので、先方はこんなふうに分けた。
「じゃあ△△から来ている人はこの場所でデータ入力、
○○から来ている人は、1番~13番まではここでデータ入力
(1~13番の人は前にもここでデータ入力をしたことがあるからだ)、
それ以外の人は別の階でファイリングをしてもらいます」

「じゃあ、ファイリングの人は荷物を持って、別の階に移動してください」

わたしも移動だ。
わたしは○○から来ていて、15番だから・・・・・・

当日、駅にて待ち合わせ

9時半から始業なのに、待ち合わせは9時。これは結構早い。
やはり40人もいるから余裕をみているのだな、と分かるが、面倒な話。

わたしはぎりぎりに行くのは怖いタイプ。
慣れてくるとかなりぎりぎりになるのだけれど、単発の場合そこまでいないので、いつも余裕のある出社。

しかし30分前集合はさすがに急がなかった。
待ち時間が長いと、足が疲れてしまう。

路線検索をして8時53分に到着する電車を選んだが、これがちょうどぴったりだった。
ホームに到着して、改札までずーっと歩いていくと、結構はなれていた。
途中、案内図などを確認しながら改札を探したので、着いたのは8時58分頃。

しかし着いてみると、遅れてもよかったくらいだった。
たくさんの人がどやどやといて、派遣会社の男性2人を取り囲んでいる。

どうやら取り囲んでいるだけの人と、列に並んでいる人がいて、まず並んで名前を申告するらしい。
名前を言うと名簿にチェックを入れて、名簿に書かれている番号の名札を渡してくれる。

並んでいるうちに9時なんて過ぎてしまう。
5分10分遅れても何の問題もなかったろう、と思った。
早く来ても取り囲んで立っているだけなので、やはり足が疲れたことと思われる。
ぎりぎりで来て、正解。

名前を言って名札をもらう。15番。
これは早い番号だった。
1~13番は、前にこの会社に単発で来たことのある経験者用の番号だったからだ。

そして列を離れて、ざわざわと立っている人の中へ。
こんなに大勢で仕事をするのは初めてだ・・・・・・

土日、単発

土日、単発。
今月は休日祝日が多くて、来月の給料少ないなあ、と悩んでいたところ。
そう言いつつ、ここまで土日仕事に応募せずにいた。
けれど今週は一念発起、お仕事メールに返信してみる。

メール配信されたお仕事情報には、即返事が鉄則。
30分もあけてしまうと、もう決まっている可能性がある。
今回は15分後くらいには返信したけど、どうかなぁ。

お仕事を依頼する場合のみ返事、ということになっている。
だから、返事がなくても、なぜなのか不明。
人数に達したからか、わたしの能力不足のためハネられたのか。

とにかく今回は電話があったー!

電話の向こうはなんだか忙しそうな感じ。
こんなにせわしない雰囲気が伝わってくることって、ないんだけど。

営業さんの話を聞いていると、
「場所は○○、これこれこういう会社、・・・・・・、40名行きますから・・・・・・」

40名!? どうりでせわしないはずだ。
これなら30分後に返信しても仕事あったかも。

わたしは比較的早く決まったようだ。(当日もらった番号の書いてある名札、かなり早い番号だった。)
その後まだ何十名も探さなくてはならない派遣会社は、
「待ち合わせは午前9時、××駅改札、当日の連絡は***-****-****まで。
このお仕事は代替がききませんので、キャンセルはできません。
では、これで決定ということにさせていただきます」
と早口で説明、電話を切った。

キャンセルするつもりはなかったけど――ちょっと怖くなった・・・・・・

File20開始

5年目

20:ファイリング 支社合併のため

3時間だけのパソコン操作

うーん。
どうしたらいいんだろう?

「ファイル整理をお願いしたいんです」
――ファイル整理?
「今は適当なフォルダに適当にファイルがどんどん入っている状態なんですよ。
これを分かりやすくフォルダ分けして、いらないものは削除してもらって、整理してください」

そんなことを言われても・・・・・・

どれが必要でどれが削除していいファイルか、わたしには分からない。
業務の流れも分からないから、どういうフォルダに分けたらいいのかも、わたしには分からない。

捨ててはいけないものを削除してしまったら、どうする?
適当にフォルダを作っちゃって、明日使おうとしたら今以上に分かりにくくなってたら、どうする?

どこからどう始めていいか、分からない。

とにかく営業さんには悪いけれど、わたしは勝手にできるタイプじゃないから、もう聞いてしまおう。
「どれが必要でどれが不要かはわたしには分かりませんし、どういう整理をしたら分かりやすいかも分かりません。
伺いながら進めていく形でもいいですか?」

それはもしかしたら、先方の望んでいたこととは違うかもしれない。

先方が何か作業をしている間に、パパッと終わって「整理できましたよ」とわたしが言う。
翌日からは一目でわかるようにフォルダに分けられていて、まるで魔法。
――そんなふうには、とてもできなかった。

「これは必要ですか?」いちいちファイルを開いて確認する。
ファイルはWordで作ったコース説明書やポスターが多かった。
なるほど、こんなコースがあるのねぇ。

「それから、インターネットを使っているときに、ここをクリックすると、これまでに検索した単語がいっぱい出てきちゃうんですよ。
これをなくしたいんです。出てこないようにできますか?」

できるのだろうけど、わたしはあまりパソコンに詳しくないんですよ。
とも言えないよね、やっぱり。「詳しい人」ってことで呼ばれているんだもの。
今ならオートコンプリートと分かるけれど、あのときは蒼白な気持ちになった。

そんなぐちゃぐちゃの3時間が終わり、勤務は終了した。
たぶん二度と呼ばれることはないだろう――

でも最後に手作りケーキとお茶をごちそうになって、料理教室気分は満喫できたのだった。

綺麗な料理教室

お料理教室を見てみたいと思ったこの仕事。

たった3時間の仕事だったけれど、営業さんがわざわざ来てくれた。
一緒に勤務場所まで案内してくれて、営業さんはオーナーらしき女性に挨拶をしてから帰って行った。

支社の人だったようだ。
たぶん、今回はお試しということで、ぜひ今後もお願いします、という気持ちだったのだろう。
結果として次につながったように思えないので、申し訳ない。

教室は窓からたくさん光が入って、明るかった。
ワックスを塗ったかのように照り輝く木材の床や壁――木の種類は分からない。

教室のまんなかには大きな木のテーブルが並んでいて、ここでお料理をするんだな、と分かる。

教室内はもちろん清潔で、シンプルで感じのいいインテリアだった。
ちょっとした花の入った花瓶とか、小さな壁飾りとか、全体が温かい雰囲気。
まさに女性向けだ。

白いシャツブラウスを着た若い女性スタッフさんがいて、何か仕事をしていた。
でもわたしの仕事が終わるまでに、いつのまにかいなくなっていた。

なるほど、お料理教室ってこんな感じなのか、と興味深かった。

もちろん、生徒さんはいないので、実際はどんなふうにレッスンが進むのか分からない。
また、どのくらいの金額で、どんなコースを用意しているのかも、よく分からない。

「作業はこちらでお願いします」

言われて入った部屋は、とても小さなウォークインクローゼットみたいな小部屋だった。
パソコンや書類が置いてある。
事務作業用の部屋なのだろうけど、なんて小さい――!

広くて明るい教室と比べると驚くほどだけど、こんなものかもしれない。
重要なのはお教室なのだし、事務仕事は何人もでするわけじゃないだろうから。

さて、一体3時間のパソコン操作って何だろう・・・・・・

お料理教室でのお仕事

そういえば忘れていたけれど、お料理教室でパソコン操作の仕事をしたことがあった。
たった一日、3時間だけという仕事だったので、時期も思い出せない。
あまり最初の頃ではなかったと思うので、この場所に入れておくことにする。

大手A派遣会社の郊外支社から、直接電話があった。
「パソコン操作が得意な人を求めている料理教室がある」と言う。
その頃既にわたしの職歴には「パソコンインストラクター」が追加されていたので、連絡がきたらしい。

――あんまり詳しくないんだけどなぁ。

でもそんなことを言ってしまって、インストラクターの仕事があったとき「自信ないって言ってた」なんて情報が洩れては困るから、言わずにおいた。

ちょうどその日は午前だけの仕事があったので、「午後なら3時間ほど勤務ができます」と答えた。
先方は、その日であれば午前でも午後でもいいが、難しい内容ではないので3時間しか時給を払いたくないそうだ。

なるほど。
それはわたしより適任者がいたとしても、なかなか引き受けてくれないだろう。

わたしだって若干躊躇するところだ。
3時間の勤務のために交通費をかけたら、割に合わない。派遣は交通費が出ないのだから。

でもわたしには引き受けたい理由が二つあったので、受けた。

ひとつはPCインストラクター募集という仕事だったこと。
今後、もしかしたらA社からPCインストラクターの仕事が来るかもしれない。
A社での実績を積んでおいて損はない、と考えた。

もうひとつは、PCインストラクターとして働いている第一の職場は散発的な勤務状態で、わたしは第二の職場とダブルワークをしていた。
その第二の職場は、女性向けの雑誌を主に出している出版社で、料理教室の話題が出ることもあった。
だから、お料理教室というものに興味があったのだ。

でも通う気はしないので、仕事で覗き見できるならいいな、と思ったのだった・・・・・・

File19開始

4年目

19:パソコン操作 料理教室

この仕事をして――

結果として一番興味深かったのは、専門の調査会社のやり方を見られたこと。
アンケート入力の仕事で携わったのは、専門の会社ではなかったから、当然やり方がぬるい。
そうか、本場ではこうするのか、と勉強になった。

――勉強になったと言っても、それを生かす道はわたしのような末端にはないが。

逆に「同じようなことがあるんだな」と思うこともあった。

アンケート入力で「お子さんはいらっしゃいますか? 何歳ですか?」という質問に、「孫10歳」などと書いてくる人がいる。
結構多い。

そういうとき、日本語入力ができる回答欄なら、わたしは「孫10歳」と入力していた。
できない欄だったら、とりあえず子だろうが孫だろうが「10」と入れてしまっていた。

「子供がいるかどうか」が知りたいのか、「家庭に子供がいるかどうか」知りたいのか。

もし後者だったら、たとえ子供であっても「45歳」と書いてこられたら、知りたい統計とは違ってしまう。
67歳の人が「子供いるわよ、45歳よ」と書いてくるかもしれないのだ。
後者の場合、実際に知りたいのは「孫5歳」ではないか?

二度目の土日はいろいろと仕事があり、「このアンケートをチェックしてください」と言われた。
その際「子供の年齢のところに孫と書いてくる人がいます。そういうのはこの『孫保留(まごほりゅう)』箱に入れてください」と言われた。

専門の会社でも迷うところだなぁ。
料理のアンケートなら子供向けのレシピを載せるかどうかに関係してくるし、カー用品のアンケートならチャイルドシートとかに関係してくるもんねぇ。

この会社、その後もときどきWebなどで見かけた。
単発派遣を募集していて、「××駅徒歩○分」とあって「調査会社でのお仕事です」と書かれているので、すぐ分かる。

家からそれほど遠くないし、行けるものならまた行きたいと思いつつ、その後は機会がないままである。

若者でも社員

24歳か25歳くらいの若者でも、社員であるからには40代50代のパートさんより上の立場だ。

パートさんたちはたくさんいた。
軽作業はたくさんあるからだ。

平日にお手伝いに行ったとき、これらのパートさんの仕事を一部手伝った。

まずは、何かのカードを数える作業。
それから廃棄する封筒を数える作業。

廃棄する封筒というのは、アンケートが送り主に届かず、戻されてきた封筒である。
この封筒には名前や住所などの個人情報が書かれているので、確実に処分しなければならない。
一枚でも洩れてはいけないのだ。

ダンボールに何百何千と入っている封筒を数える。
数えた枚数と、郵便配達の人が「何枚」と書いて寄越した伝票の数が合っていれば、OK。

数えてみたところ、配達の数字と合わなかった。
どこかにないかとダンボールをひっくり返して捜索。

もう一度数えなおしてみたらどうだろう?
どこかに封筒が落ちてる可能性より、数え間違いの可能性のほうが高いと思うけど。

さんざん探したけど、見つからなくて、もう一度数えなおし。
今度は合った。

次は紙を数える。普通のA4サイズの紙の書類。
若者社員が指揮をとっている。

「今度は絶対に間違えないやり方でやります! 何度も数え直すのは、もう嫌です!」
――と言って、2枚ずつ数えると言う。
1,2と数えてテーブルに置く。1,2と数えてテーブルに置く。これが5回繰り返されれば10枚。

え、それが絶対に間違いの無いやり方!?

でも社員なので、誰も文句は言わない。
しかし本当にその方法で数えるのか? そっちのほうが間違える可能性は高いと思うが。

そこへ大先輩 女性社員が入ってきて、事情を聞き、「そんなやり方しなくていい」と言った。
若者は「いいですよ。僕はこの方法でやります。皆さんは絶対に間違いますから」

そう言われてより慎重になったのかどうか知らないが、間違わずにピタリと数が合った。
たいていの場合、若いゆえの自信は微笑ましいが、効率の悪いやり方を押し付けられるのは話が別だ・・・・・・

若者社員

若者というのは、自然に自分を信じていて、微笑ましい。
自覚して自信満々なのではなく、無意識の底から湧き上がる自信がある。
それがどうも鼻につく、という場合もあるけれど、単発仕事で少しだけつきあうなら面白い。

この会社にいた若者も、若者だなぁ、と微笑ましく見ていた。
こういうことを微笑ましく感じられるようになった辺り、わたしも年をとったものである。

若者社員と二人きりで勤務した日があった。
だいたいはおとなしく沈黙して仕事していたが、時々話しかけてみた。

――この会社に入って長いんですか?
「僕は、まだ半年ですよ。前は、名前は言えないですが、業界最大手の携帯会社にいました。
二年くらいそこにいたんですが、転職してこの会社に入ったんです」
――業界最大手?
「名前は言えませんけど。ま、一番大きいところですかね」

「この会社も業界では有名ですよ。業界最大手の会社の仕事を請け負ったりもしてますし」
――すごいですね。
「そういう意味ではプレッシャーですよ。勉強しなきゃならないことがたくさんありますし」
――さっきから読んでらしたその本は、そういうお勉強の本なんですね。
「まあ、そうですね。実はこの会社の社長が書いてるんですよ。まあ、業界ではかなり有名な会社なんで」

――休日なんかは、どうやって過ごしてるんですか?
「読書とかしてますね。まあ、文学部出身なんて、そんなもんですよ」
――そうなんですか。どういう作家がお好きなんですか?
「まあ、いろいろですね。特殊な好みなんで、言っても分からないと思いますよ」
――でも聞いてみたいです。言ってみてください。
「××とか○○とか」
――××、わたしも大好きです! 『・・・・』と『・・・・』とかいいですよねぇ。
『・・・・』は買ったけれど、まだ読んでないんですよ。面白いですか?
○○は『・・・・』を書いた人ですよね。一度読みたいと思いながらまだ読んだことがなくて。

あ、失礼、パートのおばさんみたいなわたしが読んでいるべき作家じゃなかったかな。
大人げないことをしないで、「名前も知りませんでした」とか言っといたほうがよかったね・・・・・・

平日の様子

土日の仕事が終わった後、平日の雑務に2日ほど行かせてもらった。

この時は、回収されたアンケートの処理や、封筒の始末など、色々な雑用をした。
封筒ひとつにしても、きちんと数を合わせて廃棄しなければならない。
なぜならば、そこには個人情報が書いてあるからだ。
ダンボール何箱分もの封筒を2度数えたりもした。
厳しいんだなあ、と思った。

土日に行ったときは、シーンとしていたオフィスだったが、平日は賑やかだった。

パートさんがたくさんいたのだ。
普段、いろいろな仕事をこなしている人たちの数はこんなに多いのか、と驚いた。

これで全部ではない。
ここにはオフィス用の部屋が3つか4つあり、いろいろな作業用になっていた。
それ以外に別なところに社屋があり、そこにはさらに大勢のパートさんがいる。
データ入力などは、別の社屋のほうで行っているようだ。
なので、そちらはここよりも広い。

わたしはこの会社で、役職付きの男性と、ベテラン女性社員と、新人男性社員を見た。
でもパートさんたちの数は、桁が違う。
ここだけで何十人もいるようだった。

土日だけしか行かなかったら、わたしの印象は「シーンとして物音のしない会社」だった。
実際はなんてたくさん人がいる会社だったのだろう・・・・・・

アンケート調査

わたしにとって調査会社というものを見たのは初めてで、とても興味深かった。
このとき既に、出版社でのアンケート入力の仕事経験があった。
それだけに、本格的なアンケート調査というものについて、興味があったのだ。
それまでに自分が見ていたものとどう違うのか、知りたくて。

調査はやはりしっかりしていた。
統一がとれていないといけないので、「こういう場合はこう、こういう場合はこう」と予め決まっている。
たとえば、本のアンケートでも『価格は高いと思いますか』という質問に対して、「普通」と「やや高い」の両方に○をつけたり、「その中間くらい」とメモを書いてきたりする人がいる。
そういう判断に困る時について、対応があらかじめ考えられているのだ。
さすがだなあ、と思った。

電話の仕事がない時にしていた「修正」とは、このようなことだ。
不明な答えのところに赤字でチェックをする。
あらかじめ決められたルールに従って。

・評価欄、「よい」と「普通」の中間に印をつけて来たような場合は、低いほうにする。
・自由に解答を書く欄に「特になし」と書いてきた人は、その解答に対して無効とする。
他、いくつかの決まりがある。

入力作業員が機械的に効率よく入力できるように、あらかじめチェックをつける。
入力はリズムで行うから、その場で「あれ?こういう場合は?」と迷うと効率が悪い。
なるほど、と思った。

今までにわたしが見ていたアンケートは、このような厳密なやり方をしていなかった。
それにはそれなりの理由があったのだろうが、専門の会社ではこうやるのだな、ということを垣間見ることができて、興味深かった。

本当に、ただ「垣間見た」だけだが・・・・・・

電話応対はできたか?

わたしの弱点は電話応対だ、と自分でも思っていたので、この仕事は頑張ろうと思った。
練習、と言ったら派遣先に申し訳ないが、1回でも多く電話を受けて慣れることができたら、と期待していた。

結論としては、最初の土日、かかってきた電話は土曜2件、日曜1件。計3件。
次の土日も同じようなもの。

まあ、そりゃそうだ。
アンケート用紙の表紙に、「お問い合わせはこちらまで」というような文句とともに、アンケートを依頼した大企業の電話番号が記載されている。

調査を担当しているこの会社の電話番号は、会社名や住所と共に書いてあるだけだ。
さらにそこには「土日祝日は受け付けていない」ということも書いてある。

問い合わせようと思った人は、企業のほうに電話をかける。
もしこの会社に言ってやろうと思っても、電話番号を見れば、同時に今日は休みだということが分かるはずだ。

それでもゼロではないということが、むしろ驚きだ。

最初の土日は「暇疲れ」というのをじっくり味わった。
「来週には別の仕事ができる状態になっているから、退屈はしないかも」と言われた。

次の土日には、確かに他の仕事があった。
アンケートの回答を校正する仕事だった。

電話はやはり合計して5件もなかった・・・・・・

初めての電話応対

土日、単発。
電話応対。
この仕事は自分から応募したのではなく、派遣会社の方から連絡があった。
単発の仕事で、期間中平日勤務するメンバー5人と、休日勤務するメンバー1人。
この休日の1人がわたし。

自宅から遠くなかったのが決め手だった。
この仕事は2週にわたってあった。土日、土日、計4日。

会社そのものは、調査会社。
今回、さる大企業の製品についての調査をしていた。

その企業の顧客名簿などをもとにアンケートを送付しているので、ことによると「どこから住所を知ったのか」「なぜこのようものが送られてきたのか」などの指摘もあるかもしれない。
それ以外にも、記入方法が分からない、謝礼はあるのか、など、色々な問い合わせが想定される。

そのため、電話応対要員をその期間だけ補充していた。
また、本来は土日祝日は対応していないが、今回に限り1人は置いておくことになっていた。

実は、配ったアンケートの問合せ先のところに、土日祝日はつながらない旨の記載がある。
それでも電話してくる人もいるかもしれないと、顧客である大企業が懸念したのでわたしが雇われた、というわけだ。

調査をするような会社はさすがにしっかりしていて、たった4日の仕事だったが初日に2時間くらいかけて説明してくれた。
本当は平日の補充要員さんの研修のときに、土日のわたしも来てくれと言っていた。
しかしそのとき月-金で仕事をしていたので、行けなかった。

そうしたら、わたしだけのために2時間もやってくれたのである。
研修講師役の女性社員さんと、新人生徒のわたし、二人きり。

ちょっときつかった・・・・・・

File18開始

4年目

18:電話受付 調査会社

仕事の終わり

目当ての女の子にアプローチしたい『白Tシャツくん』の作戦、飲み会。

飲み会はその週の金曜日に決行された。――らしい。
その日はメンバーの間で、時間や場所について確認や会話がひそひそと取り交わされていたので、察した。

そう、メンバーや経緯については、すべてこうした観察に基づいた推測である。
でも、それほど間違っていないと思っている。
まあ、『白Tシャツくん』の人選が、論理的思考によるものなのか、本能によるものなのかは、判断つかないが。

『白Tシャツくん』にとっては、ラストチャンスだ。
彼女は月曜にはいないからだ。
携帯番号にまで行き着いたのだろうか――?
彼女も休み前でもあるし、今日で最後だしね、という気持ちが働くから、参加しただろう。
彼女はその先へ進んだのか?

結果は分からない。わたしの契約期間もその日で終わったからだ。それだけが心残りだ。

でも、1週間で充分な仕事だった。
遠くて交通費がばかにならないし、通勤時間もかかる。
若い人やアーティストと交わるのも楽しいが、これ以上の期間になると浮いてくるだろう。

それになんといっても、スリッパなのだ!
初夏の季節、玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えるのは、若干不安だった。
スリッパは毛のむくむくしたタイプで、素足の人もたくさんいるのだ。
「水虫に感染するのは、病院のスリッパやスポーツジムのバスマットなど。素足で他人と共有するものは気をつけましょう」と雑誌にもよく書いてある。
かといって、自分専用の上履きを常に持ってくるのも嫌味なものだ。

期間満了の日にはほっとした。

『白Tシャツくん』の作戦

可愛い女の子を狙っていた『白Tシャツくん』。
彼女に「今週いっぱい」と言われると「延長しなよ」と言っていた。
しかしあえなく彼女に「できないんですよ、次の仕事が決まってるんです」と言われていた。

しかし、彼はそのままでは諦めなかった。
彼は飲み会の機会を作ったのだ。

若い人も多いから、(そして多少年齢は上でもミュージシャンなどは「若い人」に入れるから)、そういうことがあってもおかしくない。
しかし人が流動的な職場なので、これまで形にはなっていなかったようだ。
それには絶対彼の「作戦」があったとにらんでいる。

白Tシャツの彼は、可愛い女の子と二人で昼食に行くことはできていなかった。
男同士で行っていた。
まずはその仲間から、「今度飲みに行こうぜ」と固めていった。

一方で、多分、心の中で参加者の選定をしていた。
彼女が紅一点というわけにはいかない。
彼女も来づらいし、男性の比率が高いと競争率も高くなる。
しかし彼女と合わないような人選をすると、肝心の彼女が「行かない」と言い出すかもしれない。

彼の人選は、わたしも感心する。
彼は彼女のために、彼女とは違うタイプの女の子を選んだ。
『柴田さん』。

美人タイプではない。可愛らしい女の子タイプでもない。
彼女を表現するには、たいていの人が「個性的」「オリジナル」「変わってる」という言葉を使うだろう。
そういう人がいいのだ、可愛い女の子のようなタイプには。
『柴田さん』は素晴らしい。
彼女と競合しないし、かといって違うタイプの女性にいちいちつっかからない。
女性であるより先に、『柴田さん』であることを強く望むからだ。
どんなタイプの女性にも有難い飲みメンバーであり、可愛い女の子にとっては更に有難いメンバーなのだ。

でかした、『白Tシャツくん』!

さて、主要女性メンバーが決まると、次は必然的に決まってくる。
『柴田さん』が来てくれるような人選をする必要があるからだ。
この時点で、『ミュージシャン』、『バンドマン塚田』の参加が決定となった。
(本人の意思はともかくとして)。
実は、『ミュージシャン』は『白Tシャツくん』のランチ仲間なので、問題なかった。
『バンドマン塚田』も多分問題ない。飲み会は好きだろう。

しかし、これではあまりにもミュージシャン系に傾くことになり、可愛い女の子は異質になりかねない。
そこで、『21歳若者』の登場。
毒にも薬にもならなそうなタイプ(真実は知らないが)、彼も誘われた。

あとは、にぎやかしに何人か増やせばよい。
女の子もできればもう1人2人、それで完璧だ・・・・・・

『白Tシャツくん』のアプローチ

各自が適当に座る場面になると、なるべく目当ての可愛い女の子の近くを狙っていた『白Tシャツくん』。

わたしも一度、彼らの近くに座ったことがあった。

「前は、何の仕事してたの?」
「フツーの事務」
「(ここの仕事)いつまでやるの?」
「今週いっぱい」
「延長しなよ。今やってる人が優先されるから、できると思うよ」
「できないんですよ。来週から次の仕事が決まってて」
「それも事務?」
「そう」
「次が決まってるんじゃ、仕方ないね」

彼女のほうは彼に対して、それほど積極的に見えなかった。
保留にしている感じだった。
今週いっぱいだから、特に断らなくても自然にフェードアウトしていけるのだし、様子を見ているのも道理だ。

彼女のほうから彼の個人情報を質問しているのは、あまり見たことがない。
彼との話でも、自分の情報に関しては最小限の答えをしていた。

何しろ、長いつきあいではない。
彼にしても彼女をどれほど好きになれるのかどうか、まだ分からないだろう。
お互い様子を見合っているように見えた。
そして、彼のほうが少しだけ、女の子より熱心だった。

小さな行動を起こしたのだ・・・・・・

『白Tシャツくん』

髪を染めている白いTシャツの若者。
彼は第一日目、同じテーブルだった『白Tシャツくん』。

彼は慣れていて、仕事もリードしていたし、どことなく怖そうな雰囲気も漂っていた。
「怖そう」とはわたしの基準による。
つまり、渋谷にでもいそうな若者、という意味だ。
こういう人は礼儀正しい態度だったりするのだ。
キレたりするものなのかどうか分からないのに、「キレるのかな?キレるのかな?」と勝手にこっちが怖がる感じ。
多分に見た目によるものなのかもしれない。
茶髪で色黒だからとか、そういう単純なもの。

彼は悪くない顔をしていた。
「万人がハンサムと認める顔」とまでは言わないが、悪くない造り。
そうであれば、あとは服装や髪型、雰囲気や態度が、その人の「かっこよさ」の度合いを決める。
そして、その度合いは、まあまあだったのではないかと思う。

彼の顔は初日に覚えたので、ずっと見分けがついた。
そしてすぐに気づいた。
とても可愛らしい若い女の子に、よく話しかけていた。

そのアプローチがどの程度のものだったのか、はっきりは分からない。
「この集団の中では、一番可愛いな」程度?
「つきあいたいな」とまで思っている?
「告白するところまで行くかどうか分からないけど、とりあえず可愛いので関心を持っている、手探りな状態」くらい?

その可愛い女の子とは、何度か話をした。
わたしは、若くて可愛い女の子には、それほど嫌われない。
なんといっても年上の同性には、優しいものなのだ、彼女たちは。
相手が彼女たちに反感を抱いている場合は別だけど。

彼女は遠くから見ても可愛らしい顔立ちで、近くで見てもやはり可愛らしかった。
そして、流行に忠実だがどぎつくはないメイクで、その魅力を強化していた。
髪も長くて、サラサラだった。

白Tシャツの彼は、適当な席に座る場面になると、なるべく自然に彼女の隣を確保した。
たとえば、朝。
たとえば、仕事が一段落して、適当に座ってて、と言われるとき。

さりげないふうを装っているけど、絶対狙ってるな、と分かった。
そして彼女のほうも、気づかないふりをしているけど、絶対分かってた・・・・・・

『21歳若者』

『21歳若者』は、顔を見ただけで若いと分かる。つやつやしている。
彼はもう1ヶ月この仕事に通っていて、この後も2ヶ月はこの仕事をする予定なのだ。

21歳。フリーター。
何かソフトウェア関係の仕事に就いたこともあったらしいが、別にプログラムができるわけではない。
パソコンに詳しいわけでもない、と言っていた。

彼は――若者だった。刹那刹那に生きる――!

一緒に組んで仕事をしたとき、えんえんと続くメール操作に疲れてきて、彼は言った。
「適当でいいんじゃないかな」

操作する手順の文章を読むのも、面倒なものだ。
意味を理解しようとするのに、あっというまに疲れて、彼はうんざりしていた。
「そんなにしなくていいと思う」と言う彼。

彼は既に1ヶ月もいるので、年は若くても先輩だ。
わたしは先輩をたてるようにしているので、普通ならここで「そうですか?」と言ってその通りにする。
だけど、それにしてもまずいのではないか、と思う適当さ。

その10分後、彼は「さっき、社員の人が――――って言ってたの、昨日の僕たちのことかもしれない。もっと詳しく書かなきゃだめなんじゃないかな。詳しく書きましょう」と言い出す。

どっちなのよ?

ついでに、社員の人が言ってたことは、絶対に『昨日の僕たち』のことではないと思う。
一般論として言っていたし、『昨日の僕たち』の中にはわたしもいて詳しく書いていたのだから。
あれ以上詳しく書く必要はない。
だって、ほかの人はもっと雑だった。

しかし、彼にとってそんなことは関係ないのだ。
今言われたことが気になる! ――それだけ。
そして5分後には別のことを思い、正反対のことを言い出す。

刹那に生きてるなあ、若者・・・・・・

『××携帯くん』

わたしと一緒の日に新しくやってきた男性、仮に『××携帯くん』とする。
というのは、彼は試験している携帯ではなく、他社携帯を使っていたからだ。
いや、他者携帯を使っている人は彼以外にも大勢いたろうが、彼は常にそれを言っていたのだ。

「え、何これ!? こうなっちゃうの? 使いにくいよ!
××携帯はこんなふうにできるよ。こんなの、よく使ってるね、○○携帯の人って」

「え、これこれができないの? ホント?! ××携帯ならかなり古い機種でもできるよ」

「○○携帯って使いにくいんだねー。僕、××携帯しか使ったことないからさー。
でも、これは誰がどう考えたって使いにくいでしょ? ××携帯みたいにすべきでしょ」

「もっと他の会社の製品を研究したほうがいいんじゃない? ××携帯なら――」

・・・・・・ずっと言っていた。

割と早い段階から、社員の人にもそれを言っていた。
(社員とは○○携帯の社員ではない。○○携帯のテストをする会社の社員である。)

「そういうのも参考になるので、ぜひリストにしてください」
と言われて、かなり本気であれこれ指摘していた。

本当に参考になると思って言っているのだろうか、単なる「善処します」パターンだろうか?
――年をとって歪んでしまったわたしなどは、ついそういう疑いを抱いてしまう。
彼は決して若くはないふうだったが、素直に指摘していて、純粋な人だなぁと思った。

この人も沸点、結構低い、と予感して、あまり近寄らなかった。
沸点に達しない限り、いい人だった。

それにしてもホントにあなたは××携帯が好きなんだね、と思った・・・・・・

『バンドマン塚田』

『バンドマン塚田』は、あるお笑い芸人さんに似ていた。
別に彼自身はお笑いの人ではないんだろうと思った。でも似ていた。

彼にはとても興味を持っていた。
だって、若くは見えなかったからだ。
30代、それも「なりたて」というわけではない――はず。

男性でその年齢で、こうしてバイトまがいの単発派遣をしているというのは、どういう人なのだろう?

何か思うところがあってのことか、それとも目指すものがあってのことか?
いや、別に馬鹿にしているわけではない。
真実、興味があるのだ。

彼と近くで仕事をすることはなかったので、直接話したことはあまりない。
露骨に近づくこともできなかったので、幾度か話しただけだ。

その会話と、それから洩れ聞こえてきた会話から組み立てると、彼はバンドをしているらしかった。
既婚者。子供もいる。

え、家族持ちでこの時給は厳しくない?――厳しいらしい。

できればもうちょっと時給のいい仕事に就きたい。

なぜだめなのか?――それは分からなかった。
スキルが足りないという単純なことなのか、外見か(僅かに髪が長め)、バンドと両立させるために他の条件が譲れなくて時給が後回しになるのか、それとも何か?

彼はシャイだ。
年齢からいって、「シャイです」と押し通すわけにはいかないので、人並みの社交性を発揮している。
でも、どことなく分かってしまう。
だから、なかなか新しく入ってきた人たちと打ち解けない。
わたしと話をしたのも、週の半ばを過ぎてからだった。それも少しずつ。
あまり自分の話をしない。できないのだ、シャイだから。
だんだん慣れてくると、徐々にいろいろな話をしてくれるようになる。

彼は、若くも見えないし、ちょっと色黒だ。
だけど、繊細で、少し警戒している。
戦闘的なタイプではなく、おずおずと警戒している。
日を追うにつれ、そしてこちらが悪い人ではないと分かるにつれ、打ち解けてくる。

そういう様子がほほえましく感じられて、わたしは彼が気に入っていた。
でも、残念なことに、一週間では色々話をするところまで行けなかった・・・・・・

『ミュージシャン』

『ミュージシャン』は、見るからにミュージシャンなのだ。
役者って感じはしない。

『ミュージシャン』は、髪は黒い。
だから普通の人に見えてもよさそうなんだけど、見えない。
不思議なことに、ミュージシャン、バンドといったオーラをまとっている。
あれは何によるものなのだろう。
服? 喋り方? 態度? 髪型?

どれも特殊な感じはしなかったが、どうもミュージシャンぽかった。

彼は、危うい印象で、沸点が低い気がした。
普通の人よりも少し早く臨界点に達し、激情が爆発するような予感があった。
しかし、触れてはいけないところに触れない限り、いい人でいられるだろうと思えた。

30年以上生きていれば、こういう勘にも磨きがかかるものなので、彼と深入りした会話をすることは避けた。
彼は芸術家気質だった、ということかもしれない。

たまたま近くでテストの仕事をしているときなど、1時間に10分の休憩時に話をすることもある。
また、彼と2人1組になったことはないが、2つの組が合同でテストしたときに一緒になったことがある。
そういうときは、ちょっとどきどきしたものだ。

あ、あとほんの少しでキレる臨界点に達しそう、と思うことがあったからだ。
でも一週間の仕事というのは、そこが気楽でいいところだ。
ずっと一緒にやっていくわけではないのだから・・・・・・

『柴田さん』(仮名)3

彼女が休憩時間に道端で煙草を吸っていると、通りすがりのミュージシャンたちが話しかけていくことがあった。
彼女がマネージャーをするバンドは、今△△でレコーディングをしている。
だから、仕事帰りに寄ることもできて便利だと彼女はこの仕事に来ている。

実はある程度長く働いていたデータ入力の仕事を辞めたばかりなのだ。
バンドのレコーディングが終わったら、次の仕事を考えることになるのだろう。

話しかけていたミュージシャンたちは彼女のバンドのメンバーだったのか、知り合いのバンドだったのか、聞いたけど忘れてしまった。
髪が黄色くて、痩せている、いかにもミュージシャンといった男の子が一人いたのを思い出す。

彼女もブログをつけている、と言っていた。
「今、みんなやってますものね。・・・・・・日記とか書いてるんですか?」
と尋ねてみた。
「うん。自己満足ですけどね。でも、自分の気持ちを発散する役に立ってるから」

彼女は闇に落ち込み始めると際限なく暗くなっていく。
そういう日は、長い日記をブログに書くこともある。
時には一日に何度も書き込むこともある。
そうして心のバランスをとっている。
誰が読んでくれなくてもいい。

彼女のブログを覗いてみたいような気もしたが、「教えて」とは言わなかった。
覗きたいけれど、知りたくないような気もしたのだ。
それに、彼女がわたしに教えたいかどうか、判断がつかなかった。

彼女の顔は、はっきり思い出せる・・・・・・

『柴田さん』(仮名)2

『柴田さん』とは、たまたまお昼に入ったファーストフード店で一緒になり、一度だけ同じ席で食べた。
その後、休憩時間に二、三度話した。

休憩時間は、何しろ一日に何度もあるのだから、色々な人とたくさん話すことができる。
ただ、わたしは煙草を吸わないので、外で煙草を吸う人たちに合流することはあまりなかった。
だから、二、三度だけ。

彼女はこういうインパクトの強い外見をしていても、人づきあいが苦手で、内気だと語っていた。
ひどいときは、どこまでも落ち込んで、絶望感に苛まれる。
人に自分を理解してもらうのが苦手だし、また、たいていの人には理解してもらえない。
人は勝手なイメージを彼女に抱き、それを押しつけるのが嫌いだ。
特に女性とはうまくいかない。
男友達とのほうがうまくいく。女性とうわべを合わせてやっていくのは、頑張ってみてもなかなか成功しない。
まあ、そういう空しい努力をするのも苦手。

いつのまにか自分はそういうことができるようになっていたけれど、昔を思い出して共感した。
きっと、一緒に働いていた人のうち誰一人、わたしのような凡人が『柴田さん』に共感を抱いたことなんて、信じられないだろう。
だから、『柴田さん』にも、あまり詳しく自分の気持ちを語りはしなかった。

若者の世界では、外から見ていると明るくて人気者の人が、孤独や疎外感を感じている場合がある。
『柴田さん』は、明るくて笑いを取るのが得意で、皆から好かれ、その個性が一目置かれていた。
でも実は内気で、自分を理解してくれる人はいないと感じていると言う。
かつて回転寿司店でバイトをしていたときに出会った美人フリーターの若者も、美人で明るくて面倒見がよくて皆の憧れ、若者のカリスマだったけれど、実は疎外感や孤独を抱えていた。

共感したとはいえ、わたしにはそういうことが、完全には理解できていなかったかもしれない。
でもこれだけは確実に分かる――感じる。
「きっと彼女たちは、地味で平凡なおばさんになっているわたしに共感されても、嬉しくない」
最終的に、平凡なおばさんになっているわけだから、わたしは彼女たちとは違う人種ってことだ。
そんなふうに思うのが、若さってものだ。

だからあえて、「わたしもそういう思いを感じた昔が少しはある」なんて言わなかった・・・・・・
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。