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ホームグラウンドが決まって

少なくとも3月まで、わたしのホームグラウンドは、10月から開始した職業訓練校だ。
そこで仕事をする日が一番多いからだ。

ただ、その仕事は、毎日あるわけではない。

会計事務所に毎日通っていて、夜間や土日にイロハPCスクールで仕事をする――それは安定していた。
収入は一定していて、イロハPCスクールで働いた分が残業代のように余禄としてついてきた。

しかし新しいホームグラウンドの収入は、安定というには少なすぎた。
それにコンスタントでもなかった。
「月10日」というのはだいたいの話だった。
実際は「10/12から10/25まで平日10日間」「11/8から11/18まで」「11/29から12/10まで」のようになっている。
12月は勤務日8日間だ。
まったくない月もあった。1月だ。

「3月まで」と思っていたので、最初わたしは何もしなかった。

時給は良かったが、月に(最大)10日しかないのと午前中だけしかないのとで、1ヶ月の手取りは会計事務所をも大きく下回った。
会計事務所は勤務時間6時間でパート時給、決して多くない(というかかなり少ない)給料だったのに、それをも下回るのだ。

でも3月までである。
それまではのんびり働く期間ということで、一種のお休みのようなものと考えよう。
10月いっぱいまでは午後から会計事務所に通っていたし、イロハPCスクールの仕事も既にいくつか受けている。
11月にはB先生のところで8日間働くことになっている。
だから仕事が少ないのは、12月から翌3月までの期間だけだ。
そして4月が近くなったら、また面倒な就職活動の再開だ――!

ところが勤務を始めてみたら、もしかしたら来年度もあるかもしれないと言う。
つまり4月から次の3月までの一年間だ。

さらに一年間この手取りが続いたら、それは厳しい。

11月のB先生のところでの仕事が片付いたところで、12月1月、わたしは単発探しを始めた。
Webで仕事情報を検索して、午前の仕事に重ならないものを探す。
いろいろな派遣会社に登録に行く。
インストラクターの派遣をすることで有名な会社にも登録に行った。
事務職派遣を求めて大手派遣会社にも登録に行った。
いい仕事をWebで見つけたら、その仕事を取り扱っている派遣会社に電話して登録に行った。

(こうして見つけて行った単発の仕事は、「派遣単発時代」カテゴリをどうぞ。)

こののちは、ホームグラウンドとする職場の空いた日を、インストラクターや派遣の単発で埋めていくことになる・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)
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職業訓練校の仕事 2

この施設は障害者を対象としている。
だからクラスに来る人たちは全員が何かしらの障害を持っていた。
特殊なこともあったけれど、たいてい問題はない。

ここに入れる人たちは、「職業に就ける」と判断された人ばかり。
日常生活もままならない場合は、まずそういう訓練をしてから入ってくる。
世の中には生活訓練をしている病院や施設もあって、そこで自分の状態に合った移動方法や、座り方、勉強の仕方、パソコンの使い方まで習得してくる人がほとんど。

だから内容は、一般の講習会や、健常者の職業訓練と同じレベル。
パソコンに不慣れな人もいれば、できすぎて退屈になってしまう人もいる。
そこのところも普通の職業訓練と一緒だ。

ひとつ大きく違うのは、聞こえない人もいるので、説明を入力すること。

普通、講師の画面は操作手順を示すために使われる。
受講者さんと同じ手順をする。

しかしここでは、画面の片隅に(だいたい左半分に)、メモ帳やWordなどを出しておいて、そこに説明を入力する。
もし「このポイントは重要なので、覚えておいてください」と説明したとする。
そうしたら、「このポイントは重要なので、覚えておいてください」と入力する。
口頭説明は、車椅子や杖や内臓や精神の障害の人用。
入力説明は、聴覚障害の人用だ。
受け取る情報に違いがあってはいけないから、何を言ってもとにかく入力する。

それ以外は普通に進めていった。

だいたい皆さん、問題なく進めていけるけれど、ときには勉強になることもあった。
たとえば手に麻痺があって、ドラッグが得意でない。
「範囲選択をドラッグしないでする方法ってありますか?」
そんなふうに違う方法を求められることもある。

何しろわたしは経験が浅い。
知らない方法などもあって、なるほどと思うことがあった。

進行役は進行するのが役目だから、そういう場面にはフォロー役のほうが多く出くわす。
それに後ろから見ているから、内容にも精通する。
受講者さんがいつもつまずく箇所が分かってきたり、誤解を受けやすいテキストの表現も分かってくる。

この職場では、同じテキストを使って今月も、来月も、再来月も、同じことを繰り返す。
それをずっとフォローし続けた。
これは大きな経験になった。

今でもわたしは、派遣会社などからサブの仕事の依頼が来たら、時給が安くてもなるべく引き受けたいと思っている。
それは勉強になるとこのときに知ったからだ・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

職業訓練校の仕事 1

この職場については、改めて章を設けるつもりなので、詳しくはそのときに譲る。
今は簡単に、この仕事の特徴について触れておく。

仕事は午前中のみ。
3時間半×5日でWordの基礎、同じく5日でExcelの基礎、計10日間だ。
とにかく10日間ということは同じだが、同じ日から始まるわけでも同じ曜日から始まるわけでもない。
だいたいは連続して10日間だが、施設の行事があったり、都合が悪かったりすると、その日は除かれる。
だから連続平日10日のはずだけど、ときどき全体の期間は平日11日分になったり、12日分になったりする。

使用するテキストはイロハPCスクールと同じシリーズだったので、やりやすかった。

基本的に二人セット。
わたしは経験も浅いし、後から入ったし、自然にサブになった。
このときのメインの方が一時休職したときまでずっとサブだった。
でもここでは「サブ」とは言わない。「メイン」でもない。
「進行する人」と「フォローする人」で、時給も同じ、上下もないと言われた。
――まあ、そうは言ってもやっぱりわたしはサブだから、進行役の先生に従うようにした。

二人枠に二人なので、代わりはいない。
でも午前中だけの上、1~2ヶ月に10日だけなので、あまり休むことはなかった。
わたしは元々予定の入っていた11月の職業訓練クラスと重なった日だけ。
「進行役」の先生は乳児がいたが、仕事の日はご両親に預かってもらっていたので、どうしてもはずせない用があるとき何日か。

そのときはそれぞれ一人で担当した。

前の人が急に辞めてから、「進行役」の先生は2コースくらい、一人でやっていたらしい。
しかし、10月にどうしても出られない日ができてしまった。
そのため、なんとしてもその日までに人を補充しなければならなかったのだ。
――だから経験が浅くてもなんでも、未経験でないのならいいと、わたしが雇われたようだ。

勤務場所は、家からそれほど遠くはなかった。
ただ駅からかなり歩く場所なので、ドアツードアで考えると50分程度かかる。
辞めてしまった会計事務所や、イロハPCスクールもそのくらいだから、まあ普通だ。

この仕事は忙しい時期に始めたので、とにかく行って仕事をして帰ってくるだけだった。
テキストは使いなれたものだから、それほど予習もいらなかった。
メインの先生がいるのだから、何かあったら聞けばいい。

会計事務所の仕事を辞めることになったのは残念だった。
が、11月の前にもうひとつ経験を追加できるのは、嬉しかった・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

いよいよ11月――の前に

黒部先生の全8回、2ヶ月にわたる講習会のサブをしたり、榛名先生の休日講習会のサブをしたりしている間に、実は今に至る仕事の依頼があった。

9月のある日、職業訓練時代の恩師B先生から電話があったのだ。

ある障害者向けの職業訓練所が、PC講師を探していた。
しかしなかなか見つからず、担当している課長さんが、職業上の知り合いであるB先生に助けを求めた。

B先生ははじめ、EP先生を考えた。
EP先生はわたしも職業訓練時代、ExcelとPowerPointを教わった先生だ。
そしてわたしにこのイロハPCスクールの仕事を仲介してくれた方でもある。

しかしEP先生は当然他でも仕事をしていて、重なる日が出てしまうので引き受けられなかった。
また、今回募集している仕事は、月10日。それも午前中だけ。
そして3月になったら終わってしまう、たった半年間の仕事だった。
B先生の考えでは、この仕事のために以前からの仕事を棒に振らせるのは、ちょっと酷だった。
半年経って終わってしまったら、どうなる?
以前の仕事には他の人が就いているだろう――

B先生はEP先生が(案の定)ダメだったので、わたしに連絡してくれた。
話をしているとき、B先生はしきりに言っていた。
「でもダメよね。だって午前中だけなのよ。それに半年で終わっちゃうでしょう。
だから断ってくれていいのよ」
しかし同時に、
「紹介してくれって言われて、何もしないわけにもいかないから、私も困っちゃってね」
とも言っていた。

時給は良かった。
ただ、午前だけの仕事なので、一日分としては多くもなかった。
既に働いている先生がいて、そのサブに入る。

ただわたしも会計事務所の仕事がある。
インストラクターは夜間や土日に留めていて、一度仕事のために早退したことはあるが、辞めるつもりはなかった。
11月にB先生のところで8日間ほど働くことになっていたが、このときは会計事務所を休むつもりだった。
会計事務所の大先輩女性パートI澤さんに相談してみたら、「11月は暇だから大丈夫じゃないかしら」ということだった。
でも、それ以外に月に10日も午前中に仕事があっては、会計事務所は無理かもしれない。

結局わたしは面接には行くことにした。
B先生も、面接に行く人が一人でもいれば、顔が立つということだった。

で、面接を終えて、その施設の廊下を歩きながら、天の啓示のように突然思った。
「ここで働こう」って。
そのために会計事務所を辞めることになっても、それでもここで働こう。

――そしてやはり辞めることになった。いくらなんでも毎月10日も午後から勤務は無理だった。

後から分かったが、この仕事は急募だった。
勤務開始は翌月10月半ばだったが、既に7月から探し続けていた。
条件が悪い部分もある仕事の割には、基準が厳しかったのだ。
でもまもなく10月のコースが始まってしまうので、とにかく(ほぼ)誰でもいいから決めたい。

そういうわけで、またしても「急募」によって、わたしは職を得た・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

サブの心得 6

受講者さんは、メインの先生に対する態度とサブに対する態度が違うことがある。
サブはメインよりも知識や経験が劣る人がやっていると思うのだ。

そうとは限らない。当然。

講習会を請け負ったその会社では、後から入ったからサブになっているだけかも。
いつもその会社でやっている人がメインになっているが、他ではメインをやっているサブかも。

同じ人同士がずっと組んでいく場合、メインとサブを交代でする仕組みになっていることもある。
昔はインストラクター志望の新人がサブをする形式で問題はなかったが、需要が減ってパイが縮小すると新人を採れなくなる。
だから、ベテランでもサブをしなくてはならないのが現状だ。

でもそんな事情は知らない受講者さんは、サブを一段低いと見なすことがある。

そういうとき、「私は今日はサブだけど、メインと同じくらい知識があるのよ!」とイラついても始まらない。
一緒になって、「そうですよね~、××先生は素晴らしいから」と言える余裕が欲しい。

ときどき、メインインストラクターの言っていることが気になるときもある。
「それ違うよ」と思ったり、「それはどうかなぁ?」と思っても、言わないほうが無難。

たとえば「これはEnterでは確定できません」と言っているけど、それは前のバージョンまでの話で、このバージョンではできるとか。
「関数は絶対に手入力しないでください。そのほうがスペルミスがなくてよいです」と言っていたけど、世の中には手入力のほうがいいという人もいる、「絶対に」は言い過ぎじゃないかとか。

これはもうどうしようもないことだ。
人前でそんなことを指摘したらメインが恥をかくことになるし、それは教室の雰囲気も悪くなる。
結果的に講習会自体を失敗にしかねない。

陰で指摘するのも難しい。
メインとの間がぎくしゃくすると、それは教室全体の雰囲気も悪くしかねない。

実は思ったほど実害はないことが多いのだ。

復習のためとか、無料だからとか、何かの理由で来ているすごーくできる受講者さんは、もう既に知っていたりする。
でもあえて口には出してないなんてこともある。

初心者の方は、そんな細かいことまで全部覚えていない。
メモしたって、細かいメモまで後からは見直さないことも多い。
だから何かの拍子にその機能を使うことになったら、間違ってEnterを押してしまって「Enterでいいんだな」と覚えるかもしれない。
または、会社の同僚などが、「そこEnterでもいいんだよ」と言ってくれるかもしれない。
「へぇ。前に講習会でダメって教わった気がするけど、できるんだな」くらいのものかもしれない。

その細かい指摘のために、他の重要なことを犠牲にするわけにはいかないのだ・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

サブの心得 5

ときどき、順番にしか見られない人がいる。

Aさんに質問を受けた。
Aさんはどうも数ページ前から遅れてしまっているようだ。
Aさんに対して、説明も交えながら、操作を指示して、今のところまで追いついてもらう。

ところがBさんがその間にお手上げになってしまって、サブを呼ぼうと手を挙げた。
サブはAさんに教えているから、気づかない。

メインは教室のほうを向いているから、Bさんが手を挙げているのが見える。
無視するわけにはいかない――そんなの、冷たい先生じゃないか。
サブに指示するわけにもいかない――今、Aさんにつききりなのは全員が見えている。
だからメインが行くことになる。
その間、進行は滞る。
他の人たちは手持無沙汰に待つことになる。

この状況だと、サブは「あ、メインの人に行ってもらっちゃった、すみません」と思うはず。
でも中には「あ、行ってくれたからいいんだな」と思う人もいる。

そして後者の場合、次に誰かが手を挙げても、平然としているようになる。
「あ、あの人はメインの先生に近いから、前もメインの先生が行ってくれたし、いいんだわ」
「私は今、この人のところで教えてて手が空いてないから、あっちはメインの先生が行けばいいわ」

メインだって、手は空いてない。
進行しているのだから。
たとえ今、全員の操作が終わるのを待って、何も喋っていなかったとしても、手は空いていない。
操作が終わるのを待つのは10秒のつもりだったのに、手を挙げた人のところに行ってフォローしたら30秒、1分とかかる。
もし厄介なことになっていたら、またはその方が操作の遅い方だったら、3分4分とかかるかもしれない。

誰かをフォローしているときでも、教室全体に神経は向けておかないといけない。

サブは教室全体をフォローしなければならない。

サブの仕事は、全員が遅れずに進行についていけるようにすることだ。
メインに行ってもらうことがないようにするのがベスト。

もし誰かのフォローをしていて、それが時間のかかりそうな内容で、さらに別の人がつまずいていて、それはすぐに終わりそうなことなら、「少しお待ちくださいね」と言って終わりそうなほうを先にフォローする機転が要る。
または、どうしてもマシントラブルを直せなかったら、「ここは後でまた見ますので、今は皆さんと一緒にここを進めていただけますか?」と言い切る判断が要る。

サブは自分ひとりで20人、30人を遅れずについていけるようにフォローする。
メインは近いところなら自分が見ようとする。
こうして互いのカバー領域が重なるくらいで、ちょうどいいのだ。

そしてメインは、サブがあまり動かなくて済むように、分かりやすい教え方をしなくてはならない。
遅れる人が多いということは、自分の説明が早いか分かりにくいかだと考えて、対処しなくてはならない。

当然サブは、メインがBさんをフォローしていたら、自分がAさんのフォローを終え次第、その場に行く。
「すみません。後は代わります」
そして、メインは進行に戻り、Bさんのフォローはサブが引き継ぐ。

ところがこれが、来ない人もいるのである・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

サブの心得 4

講習中は、操作のみ教える。
――これは些細なことのようで、意外と重要だとわたしは思っている。

講習中に遅れている人や間違っている人を見つけたとき。
「ここをクリックしてください、元に戻ります、そうしたらここをクリックして、ここをクリックして、これが出てくるので、ここで数値を変えて、OKをクリック」
わたしはボタンを指し示しながら、操作だけとりあえずやっていただく。

でも慣れてきて、自分の知識や自分の考えが固まってくると、つい説明もしたくなる。
「これはいわばこういうことなんですよ、これをこうするのはこういう意味があるんですよ」
「ここをこうしてしまったから、違っちゃったんです、これこれはこういうことなので」
と自分の言葉で説明したくなってしまうのが人情だ。

ところが説明をすると、どうしても長くなってしまう。
その間にメインはさらに進行しているし、またまた追いつくために操作を指示して、説明もする。
「次はこれをやってます。これはこういうことで、こういう機能なんです、じゃあここをクリックして・・・・・・」
また長くなる。

その間に他の席で他の人がつまずいていたりする。

また、メインは割とサブを見ている。
どうやら一人の人に長引きそうだと思うと、進行を待つことがある。
どんどん進行してしまうと、その間に他でも遅れる人が出たりして、収拾がつかなくなることを避けるためだ。
待っているときに自分の言葉に置き換えて説明をしているサブは、困る。
サブが自分なりに説明している間、他の人も進行できずに待たせることになってしまうのだ。
度重なると、予定時間に予定のところまで終わらないこともある。

わたしはこれに関してはあまり欲求がないので、常に操作のみ指示する。
最初に断る。「とりあえず今は操作だけ追いついてしまいましょうか」
そして付け加える。「もし分からないことがあったら、休み時間などに来ますから言ってください」
でもだいたいの人は、操作をしているうちに「ああ、そういうことか!」と分かる。

遅刻してきた人、休憩時間に仕事の電話でもあったのかだいぶ遅れて戻ってきた人などに、サブはフォローをしなければならない。
このときも同様で、わたしはとりあえず操作を追いついてしまおうと言う。
で、ここ、ここ、ここ、とクリックしたり、入力したりしてもらって、ハイペースで追いつく。
当然これは、テキストに慣れている必要があるが。
だから使ったことのないテキストは、事前に予習をしておかなくてはならない。

人によっては、操作だけをすることが不安な人もいる。
わけが分からないのに操作だけして、大丈夫かしら?
――そういう人だったら、簡単に説明することもある。空気を読むわけである。
そして「今は簡単にご説明しましたが、後で休み時間にまた来ますから、そのとき詳しく見ましょう」と言う。

言ったからには、休み時間に必ず行くようにする。

これまで一緒にお仕事をさせていただいた、その日だけのメインインストラクターは何人もいる。
だいたいほとんどの人は、わたしのこのやり方がお気に召す。
そして、もう誰かをフォローしていても気にせず進めるようになる。
待たなくてもコイツは教室全体を追いつかせてくれる、と信頼してくれるのだ。

自分がメインに入ったときに、自分の言葉で説明も入れる型のサブの方に当たると、やりにくい。
講習がもたつく。
待ち時間が長いのだ。
一人に長くかかっているために、メインの自分もフォローに回る必要が出ることも多い。

分かりやすく説明してあげよう、と思う熱意は見習うべきだと思うのだが、それは邪魔にならないタイミングでするべきだ。
と、わたしは思う・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

サブの心得 3

サブインストラクターの心得――と言っても、きちんとマニュアルを教わったわけではない。
今まで仕事をしてきて、自分なりに考えた理想。

足が疲れる。覚悟して行くこと。
――場合によっては、メインの方が「状況を見て座ってもいいわよ」と言ってくれるかもしれない。
しかし期待して行くと、違った場合辛いから、最初から立ちっぱなしと思って行くほうがいい。

ついでに言うと、メインの先生が「疲れるから座ってね」と言わない限り、講習中は座らない。
朝会って「今日はよろしく」と挨拶をしたときに、「椅子がありますから座ってくださいね」と言われたなら座ってもいい。
言わない先生だったら、座らない。

座るとしたら、説明をしているとき。
たとえば「これはこういう機能です」と説明しているときや、「これからやる絶対参照はこういう意味です」と説明しているとき。
Excelだったら絶対参照のところはたいてい説明が長いから、そこでは座れるものなら座る。
でも操作をしているときは、たとえ簡単な操作であっても、わたしは座らない。

水分は控えておき、休憩時間もなるべく教室にいる。
――質問したい人がいるかもしれないから。

邪魔にならないところにいるようにする。

受講生の方の画面を把握し、遅れている人をチェックしておく。
――遅れていても即教えに行くのはNG。
あうんの呼吸で相手の希望を読み、自分でやりたそうだったら近寄らない。
これまたあうんの呼吸で、お手上げになって訊きたそうだったら話し掛けやすい位置に移動する。

雑用はなるべく自分が行い、メインは他のことに集中できるようにしておく。

そしてわたしがいつも思うのは、メインの先生を立てることが重要ということだ。

教室の運営についてはメインがする。
――いつ休憩時間を取るか、たとえばこういう場合やああいう場合どう対処するか。
とにかくメインの運営方法を素早く察知して、それに合わせる。
分からないときは自己判断せず、聞く。

操作を訊かれたら、基本的にはメインの先生が教えた方法で教える。
――「さっきのコピーってどうやるんでしたっけ?」と質問されたとする。
もし講習中にメインが「コピーボタンをクリック」と説明していたら、ボタン操作を答える。
メインが「今回ボタンを使いましたが、右クリックでもできます」と言っていたなら、ボタン操作を説明してから「右クリックでもできます」と言う。
講習中にボタンを使っていたのに、右クリックで教えない。
右クリックのことは言っていないのに、「右クリックでもできるんですよ、あとキーボードを使ってもできるんですよ」と勝手に説明しない。
――基本的にはそうするが、たとえば「老眼だからボタンが見えなくて」というような事情を言われたら、「右クリックもあるんですよ」とお伝えする。

メインインストラクターを立てること、と言うべき内容が多いが、それは大事なことだ。
サブインストラクターは、半分は受講者さんのため、半分はメインのために仕事をしているのだ。
メインインストラクターがやりやすい環境を作っていくのも、サブの重要な仕事である・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

サブの心得 2

サブインストラクターの仕事とは、具体的にどんなものかというと――。

操作が遅れている受講生さんの補助をする。
遅れて入って来た方のフォローもする。

その他、必要に応じて雑用をする。
――たとえば、プロジェクタが見にくいから講習中は電気を消すことがある。そのときは、挨拶が終わり講習に入ったらスイッチを切ったり、休憩に入ったら電気をつけたりする。
――空調が入っている場合、寒くなりすぎたり暑くなりすぎたりしたら調整する。

それから、多くの講習会でインストラクターは雑務も割り当てられている。
初日の朝、入ってくる人にテキストを配り、有料の場合は金銭の授受を行うこともある。
教室に入ってくる人に出欠表に記入していただくこともある。
机の上に名札を用意して、決まった席に座っていただく講習会もある。
最後にアンケートを配布して、記入済みの紙を回収する。(アンケートはないところはほとんどない。)

そういった仕事は、サブインストラクターがすることが多い。
メインインストラクターは、講師用PCやマイクや指示棒の動作チェックをしたり、プロジェクタに写る画像をチェックしたり、今日やろうと思う内容を頭の中で確認したり、他にやることがあるからだ。

その中で、やはり一番大きな比重を占める仕事は、「受講生さんの補助」。

これをスムーズに行うには、条件がある。
・そのテキストのレベルの知識があって、その内容の操作に慣れていること。

変になったときサッと直せないと困るし、たまたま見ていなかったときにおかしなことになっていた場合「ああ、間違ってあそこをクリックしちゃったんだな」と分からなくてはならない。

それから、これを問題なく進めるには、条件がある。
・受講者さんの気持ちを察することができる、空気を読めること。

すぐに手助けして欲しい人もいれば、できるだけ自力でやりたいから放っておいて欲しい人もいる。
放っておいて欲しいと思う人にしつこく手を出さないこと。
でもこれ以上放っておいては駄目だという、必要なときはすぐに手を出すこと。
空気を読めないと、相手を不快にさせ、講習会自体の雰囲気が悪くなる。

そして、絶対しなくてはならないことがある。
・常に受講者さんの画面に注意していること。
・メインがどこを進行しているか、常に把握しておくこと。

とにかく操作をしているときは、全員の画面を注意深く見ているべきだ。
でも近寄って覗きこむわけにはいかないから、教室の後ろや横で見渡すようにする。
誰がどこで違っているか、把握しておく。――たとえその人が近寄ってほしくないタイプでも、把握だけはしておく。

今どこをやっているのか分からなければ、当然遅れた人のフォローはできない。
これは何事もないときだけのことではない。
遅れた人のフォローをしているときでも、メインが何を喋っているか、横耳で聞いておく。
そうでないと、遅れた部分をフォローし終わったとき、「で? 今どこまで進んだんだ?」となってしまう。
フォローしている間にもメインは進めていることがあるので、フォローすることだけに夢中になってはいけない。

遅れているところを終えて、フォローしている間に進んだところも終えて、追い着いたら、
「今、ここまで進んでいます。後は、ご一緒に進めてください」
と言って引き下がる。

こういったところが、わたしの基本スタイルである・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

サブの心得 1

イロハPCスクールでのサブ。
今でもホームグラウンドとしている職場での2年にわたる、サブのみの期間。
空いている日に派遣などで行く講習会での、いろいろな先生のサブ。

その経験と、メインになってからの経験から、わたしにはわたしなりの理想のサブ像がある。
自分がメインとなってサブの方のお力を借りると、より一層見えてくるものもある。

理想といっても「こういうサブであってほしい」ということではない。
自分が「こういうサブでありたい」という理想である。

なぜなら、どのような方と組んでもそれなりの結果に持っていくのが、わたしなりの理想のメイン像だからである。

言わずもがなだが、前で説明しながら講習を進める人がメイン。
後ろや横など、邪魔にならないところで補佐をするのがサブである。

基本として大切なことは、「サブは黒子」と心得ることだと思う。

これは簡単なようで、難しい。
人はつい「私が!私が!」と自己を表現するほうに走る。

華やかなことはすべてメインに任せて、サブは黒子に徹する覚悟がいる。
メインの先生はとってもすごい人ですよ、という態度を貫く必要がある。

メインよりさらに柔らかい態度で、受講者さんに接するほうがよい。
もし教室内で、まるで犬の群のように順列をつけるとすると、メイン→受講者さん→サブ、と思うくらいでよい。

たまに行く派遣の仕事なら、わたしはこれを全く問題なく実行できる。
しかしホームグラウンドとしている職場では、やはり自分を評価してもらいたい気持ちが出てしまう。
でも人間だから仕方がないとは思って、自分を追い込まないようにしている。

黒子に徹するのは、なかなか難しいものである・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

榛名先生のサブ――名前を覚える

受講者さんの名前を覚える。

これは基本中の基本だ。
でもなかなか全員覚えるのは難しい。

年を取るにつれ、記憶もできなくなっていく。
また、次に会ったとき、忘れている。

まだ研修のときに聞いた榛名先生の「インストラクター指導法講座」の中でも、名前を覚えることの重要性が語られていた。
受講者さんは自分の名前を覚えていてもらうと嬉しいものである。
「しっかり覚えて、話しかけられたときは、会話の中に相手のお名前を入れるようにしましょう」

そうは言ってもなかなかすぐには覚えられない。
しかし相手の名前を覚えていない、間違った、忘れたというのは、あるまじきこと。
もし記憶力に自信がなかったら、あらかじめ座席表を作っておくとよい。
そこに当日、皆さんの名前を書き込んで、カンニングペーパーにする。
――というテクニックも語られていた。

わたしなんて全然ダメだ。

当時も、マンツーマンの人でさえ混乱しそうになっていた。

現在ホームグラウンドとして働いている職場では、入って間もない生徒さんに基礎を教えるコースを担当している。
そこで出会った生徒さんと、翌月廊下で会ったりすると、顔は分かるが名前が出て来ない。

この時期の1年半ほど後に、勤労会館でわたしはWeb講座のメインインストラクターを担当した。
3日のコースだったが、2日目のときに男性受講者さんの一人から話しかけられた。
「先生は、以前にもこちらにいらしてましたよね」
――え?
「夜間のExcelの講座で。もう2年前くらいになるでしょうか? そのとき私、いたんです」
――黒部先生のサブをしていたときの受講者さんですか!!
申し訳ないことに、まったく記憶がなかった・・・・・・。

今、わたしはホームグラウンドとしている職場の仕事の合間に、第二の職場で事務補助をしている。
そこの直属上司は、カリスママダムとして有名なF氏のイベントを、かつて担当したことがあるそうだ。
「F先生はね、これまでの生徒さん、みーんな覚えてるの。
イベントのときに先生に挨拶しに来た人がいてね、その人は以前に先生のお菓子教室に通っていたらしいのよ。
F先生はその人が近寄ってきたら、すぐに『××さんじゃない! お元気にしてらした?』って駆け寄ってね。
ちょっとお教室に通ってたくらいで覚えていてくれてるなんて思わないから、相手は感激するわよ。
名前だけじゃなくて、ちょっと講習会で挨拶したような人のことも全部覚えていて、『あなた、以前あたくしの講習会に来てくださった方? あのときは小さいお子さんがいらして大変ってお話しされてたけど、今はどうですか?』なんて言ったりするのよ」
この話を聞いたのは一度じゃないから、直属上司はよほど感動したのだろう。

わたしの場合は、F氏のように自分でサロンやお教室を開いているわけではない。
フリー業務に近いと言っても常に雇われの身ではあるが、こういうところは見習うべきなのだろうと思う。

思うけど、なかなか思うように記憶にとどめておけないのが、実情である・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

榛名先生のサブ――美しきことは美しきかな

美人であることは武器である。

「はじめまして。私が2日間皆さんの講座を担当させていただきます、榛名です」
とニッコリ華やかに笑顔を見せられたら、気分がいい。

榛名先生は端正に整った顔立ちというよりは、愛嬌のあるタイプだった。
あまりにも整い過ぎていても親近感がわかないだろうが、そういう顔立ちではない。
目はパッチリしていて二重。
鼻は筋がピーンと通ってはいないが、低くてぺっちゃんこというのでもない、中庸派。

でも服は綺麗で華やかで、榛名先生を引き立てている。
服やメイクや髪型や靴などで、その人のかっこよさってずいぶん幅が出るものだ。
榛名先生はうまかった。

この人のこの個性は、今でもわたしは忘れられず、知らず知らず参考にしている。
すりこまれてしまったのだ。インストラクターは印象が大事、ということを。

わたしが今、主に働いているところは、ジャケット着用が義務づけられていない。
もしスーツを着なければならなくなったら、わたしは悲惨なことになるだろう。
スーツは定番しか持っていないし、美しいスーツは高いから買いたくない。

でもこれまで出会ったメインを張るほどの先生は、半数以上がちょっとひねりのあるスーツだった。
派手すぎはしない。あくまでもきちんとしたものだ。
が、裾の近くにちょっとフリルがついていたり、シェイプがとても綺麗だったり、ブラウスが華やかだったり、形が少し個性的だったり、スカートの丈やスリットが洒落ていたり。

美人でない先生も、こうして服でカバーする。
教え方のみ重要、という姿勢を一貫して通した黒部先生は、希少な存在だ。
(別に変な格好をしていたわけではない。ただ、洒落ようという気持ちがなかっただけ。)

だからわたしも自分を引き立てるものを選びたいと思う。
もしキビキビした能率的な女性を装っても、顔や体型がそれに合わないので、わたしはしない。
榛名先生のような「私は華やか美人女性よ」というのを強調したくても、美人じゃないので、しない。
わたしは声が柔らかく、きついことを言ってもきつく聞こえないとよく言われるので、甘いテイストにしている。
好みにも合うのは事実だけど、仕事のときは意識して甘めな演出をする。

たまに違う趣味のものを着たくて買ったとしても、重要な仕事のときは着ない。

とにかく、印象は大事だ。
アンケートに書かれる評価に、何割かは絶対関係してくる。
つまりは、その講習会が受講者さんにとって良いものだったかどうか、成功だったかどうか、ということだ。

よく派遣会社などの研修やビジネスマナーの講習などで、「人は第一印象で8割の評価が決まる」ということを言われる。
ああいうことだ。
もちろん、インストラクターとして働いている間ずっと評価されているわけだから、第一印象だけでいいわけではないが、外見の印象って人の評価にかなり影響を与える。
だから服が自分に合っているかも重要だし、笑顔でいられたかどうかも重要だし、受け答えの態度も重要だ。

そして講習会は、役に立ったかどうかだけではないことが多い。
役に立たなかったら意味ないけど、楽しかったらもっといい。
「なんか、楽しかったなー。受講して良かったなー」と思えるのは、教室の雰囲気が良かったときだ。
メイン講師の外見の印象(美人ってことではない)は、教室の雰囲気作りの重要な要素だ。
特に20人30人といたら、1日程度の講習で、全員と質問や世間話などを交わす機会はない。
全体に向けて話しているときの見た目や、雰囲気や、声や、喋り方で決まるのだ。

サブは別。
わたしはホームとしている職場以外で仕事をするときは、ときたまなのでたいていサブ。
そういうときは定番スーツを堂々と着て行く。

サブはメインより目立たないほうがいい。
メインは花嫁さんで、サブはその友達。ほどよくきちんとして、主役よりは目立たないほうがいい。
――と、わたしは思っている。
サブがきちんとメインを立てられるかどうかも、教室の雰囲気作りに欠かせないと思う。

だからやっぱり、メインのときはちゃんと堂々と振る舞えるように、気張っていくほうがよい。

美しきことは美しきかな・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

榛名先生のサブ――勉強になったこと

グラフで塗りつぶし効果などを使ってグラデーションを作るのは、受講者さんにウケがいい。
なるほど。

それからグラフではもうひとつ、あった。
同じく塗りつぶし効果から、パターンを使う。
「プリンタが白黒だったりすると、棒の色が分かりにくかったりします。
このようにパターンをつけると、白黒印刷でもひとつひとつの棒の区別が分かりやすくなります」

おお! なるほど!!
――この説明は、何度か使わせてもらった。
そのうちやめた。
時代が変わってカラーが多くなったので、このテクを披露する前に「プリンタはカラーですか?」と質問するようにしたのだ。
そうしたら、会社から研修で来ている人たちはほぼ全員「カラーです」と答えるからだ。

たとえば中小企業の経営者向けで、自営業の人も多い講習会をよくしたなら、今でも使っていたかも。
それとも今ではそういうところで経費を削減したりはしないのかな。カラーレーザーもあるもんね。

範囲選択のときは、榛名先生が必ず言う言葉があった。
「D1にマウスを合わせてください。マウスの形が白い十字になります。
そうしましたら、ズルズルズル~~~ッと下におろして――」
――『ずるずるずる』だ。

マウスを使い慣れていない人がいたら、イメージとしてつかめるので良かったろうと思う。
榛名先生は美人タイプだったし、そういう演出もしていた。
『ずるずるずる』ってなんか合わない。
でも必ずマウスをドラッグするときは言っていた。「ずるずるずる~っと」

合わない言葉がもうひとつ。
Dの読み方だ。
これは日常でもよく使う。
「D1」を「でぃーいち」と読んだのでは、ディーなのかビーなのか分かりにくい。
そこで「でーいち」と読む。

「デーイチにマウスを合わせてください。・・・・・・ずるずるずる~~っと下におろして」

でも分かりやすいのが一番である。
美しく装った榛名先生を見て、日常から「でーいち」と言っているわけではないことは、皆さん分かるだろう。

こういう姿勢は参考にすべきである。
でもマウスを使えない人というのが激減したので、わたしは「ずるずるずる」は言っていない・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

榛名先生のサブ――アンケートのよしあし

榛名先生は優しかったし、サブだけに仕事をさせたりすることもなかった。

でも最後に、皆さんが帰った後は、わたしが片付けているのをそのままに、アンケートを読んでいた。
「○○さん、片付け、お願いしちゃってもいいですか?」とわたしに言う。
そして勤労会館の方にも、「今後の参考に、アンケートを拝見してもよろしいですか?」

そして熱心に、一枚一枚、アンケートを見詰めていた。

アンケートとは、そういうものなんだ、大切で重要なものなんだと分かった。

当然、自分の講習がどう受け取られたかは気になる。
分かりやすくできたかな、皆さんは満足しているのかな。

当然、気になるけれど、それだけじゃない。
アンケートこそ、そのインストラクターが得る評価であり、査定なのだ。

主催者が「この先生良かったみたいだから、またこのスクールに頼もう」と思う根拠。
もしかしたら「あのときの先生がいいんですけど」と言われるかもしれない評価。
オーナーが「アンケートの結果も良かったって言ってたから、次もあの人に振ろう」と考える理由。

アンケートがすべてではない。
インストラクター側に信頼があれば、一人二人否定的なことを言ったり文句を言ったりしていても、「この人は特別に操作が覚束ない人で、講習についていけなかったのかな」と思われる。
だけどやっぱり気になるものである。

榛名先生はご自分がじっくり見た後、「○○さんもご覧になります?」と言ってくれた。
ここで「はい!ぜひ!!」と言うべきなのか、「いえ、わたしは・・・」と言うべきなのか、経験がなさすぎて分からない。
つまり、やる気があったことを見せるべきなのか、黒子的立場を守って控え目にするべきなのか。

どちらともつかない態度でとりあえず見せていただいた。
あまり熱心に読み込まずにサラリと――だけど全部見てみた。

おおむね好評だったので、榛名先生もホッとしたことだろう。

ところで、この日のアンケートは、箱に入れていただいた。
サブのわたしが、ポストのように口の開いている箱を持って立ち、皆さんがそこに入れる方式で回収した。

「アンケートは無記名です。どうぞ忌憚のないご意見をお書き下さい」

そしてポストというか、ティッシュケースというか、とにかく口が開いている箱に投函。
そう言ったわけではないが、なんとなくイメージとしては、アンケートは主催者だけが見る感じ。
箱は開けないまま主催者に渡され、主催者である区の職員が後で見る。「ふんふん、なるほど」

でも実際は、受講者さんが帰ったらすぐ、箱のふたを開けて取り出した。
そして榛名先生は熱心に読んでいた。

こんなふうに数秒後には開けられているとは・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

榛名先生のサブ――終わり良ければすべてよし

榛名先生の講座、2回目のExcel応用のとき。

初日は関数とグラフをした。
関数は基礎編では合計、平均などをするが、応用編ではVLOOKUPやCOUNTIFなどをする。
グラフは基礎編では普通に作り編集、応用編では複合グラフを作り、塗りつぶし効果をつけたりする。

応用編のテキストに出てくる関数は、初めてその関数を使う人にはちょっと難しい。
引数といえばドラッグして範囲選択するだけだった基礎編に比べると、ダイアログでいろいろな引数を設定する応用編は混乱する。
それに厄介な絶対参照が切り離せない。

今はこの程度は使いこなしている、という方も多いが、この当時はあまりいなかった。
「なんか難しいことをしている!」という達成感はあるが、それを凌駕する疲労感が教室に漂う。

そしてグラフ――合計だけを折れ線にして、第二軸を使う。
疲れた後に地味な作業。

でもその後、グラフエリアを塗りつぶすのだ。
基礎編みたいに一色でじゃない。グラデーションを作る。
ここはテキスト通りではなく、好きな色で好きなバリエーションを作ってもらっていた。

今はいろいろなソフトもあるし、ちょっとグラデーションを作ったって大した感動もない猛者も多い。
でも当時は、皆さんとても楽しく、熱心に色を組み合わせていた。

こういうのは楽しい。
関数の達成感もいいが、目で見て分かりやすく、また自分の好みを反映できる。
一度やってしまえば操作も難しくない。

「色を変えたいから、もう一度出したいんですけど、さっきのどこから出しましたっけ?」
はいはい、任せて。
「こちらをクリックしてください。それからこちらの三角形をクリックして、塗りつぶし効果を」
「あー、そうだったそうだった」
後はもういらないよ、とばかり、色の選択やバリエーションの選択に夢中になる受講者さん。

カチッ、カチッ、カチッ、OK――あら、イマイチね。もう一度、カチッ、カチッ、カチッ・・・・・・

教室を見回っていた榛名先生、
「皆さん、個性的で素敵なグラデーションが出来上がっていますね!
本日は、まもなく終了の時間になりますから、せっかくのグラデーションの塗りつぶし、上書き保存してください」

皆さんがウキウキで帰った後、榛名先生に言った。
「皆さんグラデーションはとっても楽しそうでしたね」
「あれはだいたいいつも受けがいいんですよね。
だから私は必ずあれを一日目の最後に持ってくるの。
終わり良ければすべて良しって言うでしょう?
最後にあれをやると今日一日が全部楽しかった気分になってくださるんですよ」

なるほど~!
確かに朝から苦労してぐったり疲れていた関数までも、楽しい思い出に変わって、「今日は良かった!」と思える。

テキストの作りによっては、クライマックスをうまく持ってこられないかもしれない。
地味な内容の章が最後にあったらどうしようもない。
テキストにない楽しいことを紹介するなんていうのもいいが、時間が余らなければできないし。

でもこれは覚えておく価値のあることだ。
クライマックスは最後に持ってくる。終わり良ければすべて良し。

わたしは今、4日間とか3日間というコースもするが、最終日には何か一つ「役に立った」と思われるようにしたいと思っている。
初日に「へぇ! 役に立った」と思っていただいても、最終日にはその気持ちを忘れてしまっているかもしれない。
他の日には教えないということではなくて、最終日に何か一つは目玉を持ってくるということだ。

それから、最後の日はアンケートがあるので、やはり笑顔多め、より優しくなる。
終わり良ければすべて良し。
この日「いい先生だな」「優しいな」と思ってもらえれば、多少は大目に見てもらえるかもしれない・・・・・・



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(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

榛名先生のサブ――インストラクターに休みなし

榛名先生のサブ、最初はExcel基礎編の後半2日目だった。
(1日目はマンツーマンが入っていて出られなかった。)

どうなってもいいように、一応前日からパンを買って用意していた。
外でランチを食べるような時間があるものなのか?
でも中に食べる場所があるのか?
パンだったら、食べなかったらそのまま持って帰ればいい。

榛名先生はサンドイッチを持って来ていて、「一緒に食べましょう」と言ってくれた。
「上の階に飲食できる休憩場所のようなところがあるので、そこに行きませんか?」

3階への階段を昇り切ったところは、病院の待合室のように、茶色く細長いベンチがたくさん並んでいた。
ここでは食べ物を食べてもいいことになっているそうだ。
奥には小さな売店もあった。

「どうですか? でももう黒部先生のサブに入っていらっしゃるから、慣れてますよね?」
「でも夜間講座は一日ではないので、やっぱり違いますね~」
「インストラクターは休憩をとれないことが多いから、一日は大変ですよね」

休憩時間はある。
だいたい1時間ごとに5分なり10分なり取るのが一般的。
でもそれは受講者さんの休憩であって、私たちの休憩時間ではない、と榛名先生は言う。

「生徒さんの中には休憩時間に質問したい方がいらっしゃるかもしれないし、私たちがトイレに行ったりしてしまったら聞けないですもんね」
だからトイレなどは朝のうちに済ませておいて、始まったらお昼になるまで行かないのだそうだ。
午後も同様で、お昼に済ませておいて、後は帰るときまで教室を出ない。
「何か聞きたいと思ったときにその場にいられるように、休憩時間中も教室内にいるようにしてるんですよ」

○○さんはサブだから気にしないで休憩していいのよ、と榛名先生はニッコリした。
でもまあ、もっともだと思うし、こういう心構えを語られて自分だけ休憩を取ることはできない。

今では初心者の方というのは減ったし、受講する方の意識も変わってきた。
昔は確かに、休憩中も熱心に復習などをしていて、「時間がもったいない」「人一倍頑張ろう」みたいな人が多くいた。
しかし最近は、「休憩中はちゃんと休んでリフレッシュ」という考え方が広まっている。
「自分は初心者だから人の2倍も3倍も頑張らなきゃ」みたいな人も少なくなった。

だからわたしはトイレくらいは行ってしまうけど、すぐには行かない。
質問したい人がいれば受けられるように、少し時間をおく。
いなさそうだったらトイレや水を飲みに行ってしまうけど、できるだけ早く戻ってきて待機する。

これは榛名先生のこのときの話がずっと頭に残っているからだ。

――もちろん、自分が主導権を握れるときの話である。
サブで出かけて行ったなら、メインの方のやり方に合わせるのが筋というものだ・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

榛名先生のサブ

「黒部先生の夜間講座のサブを引き受けてくれたら、榛名先生のサブもセットでつけるよ」
と、琵琶さんは言った。

榛名先生の講座は、10月の初めの土日、2日間でExcel基礎。
そして、10月の最後の日曜日と11月3日の祝日、2日間でExcel応用。

でもわたしが仕事に就いたのは、基礎の2日目と応用2日間、計3日。
当時の勤務報告(これで給料を請求していた)を見ると、そうなっている。
書き忘れかと思ったが、そうではなかった。
基礎の1日目の土曜日に、イロハPCスクールに行ってマンツーマンを2コマ担当している。

どうやら、既にマンツーマンが入ってしまっていて、その日は講習会に行けなかったようだ。

榛名先生のサブに最初に入る日、わたしはバスで行くつもりでいた。
バス→バスと乗り継いでいくと近いと分かったからだ。
電車では大変遠回りになってしまう。

ところがバス停に行ってみると、なんとバスは1時間に1,2本しかなく、絶対に間に合いそうもない。
慌てて駅に向かいながら、榛名先生の携帯に電話をした。
「何かあったら、ここに電話をくださいね」と言ってくださっていたからだ。

今にして思うと、榛名先生にはいつも本当にいろいろ甘えてしまっていた。
呆れたりイライラしていたりしたかもしれない。
でもそんなところを見せない方だったので、わたしの記憶には残っていない。
もし心から優しくしてくれていたのだとしたら、できた方だと思う。

インストラクターは早めに現場に着くべきである。
遅れて行く人も見たことがないし、ギリギリに着く人もまずいない。

それなのにわたしはこの日、10分前くらいに滑り込んだ。
榛名先生は、遅いことを責めず、「電話があったから、遅れるかと思ってました」と笑顔だった。

わたしはその日、スーツだった。
インストラクターらしい格好を思いつかなかったからだ。
榛名先生は「○○さん、そういう服だとインストラクターに見えますね」と言ってくれた。

ということは、これまでのはカジュアル過ぎたってことですね!?・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

講習会の準備は大変

ある日、イロハPCスクールでマンツーマンの仕事をしていたら、榛名先生がやってきた。
また区民センターで講習会があると言う。
だから準備にやって来たということだった。

わたしは夜間の仕事だったが、榛名先生もかなり遅くまでいた。
榛名先生がどんな準備をしていたのか知らないが、実際の講習会より準備のほうが時間がかかる。

職業訓練時代の友人の一人が、美容関係の仕事をしていて、その一環で取った資格を活かして講習会なども企画している。
その様子をブログなどで見ても、講習より前段階のほうが断然時間がかかる。

たぶん、わたしたちインストラクターより、彼女のほうが遥かに時間がかかっているだろう。
わたしが講習会をするとしたら、テキストが決まっていて、それに沿って進めることになる。
(逆に、これはどうよ?と思う箇所があっても、テキストをけなしたり外れたりすることはできない。)

でも彼女には未来の希望が、わたしよりたくさんあるような気がする。
「こういうものをやりたい」という自分の希望を実現できるし、いつか人を雇ったりするかもしれない。
わたしは決まった時給しかいただけないが、彼女は大当たりをするかもしれない。

ごく少数を除いてほとんどのインストラクターは、どちらかというと職人である。
主催者の望む内容、望む到達点、誰かが決めたテキスト、誰かが決めたカリキュラム。
前回やった講習とは、今回は違うテキストで、違う教え方をすることになるかもしれない。
前のテキストでは「右クリックは便利だからたくさん使いましょう」と書いてあったのに、今度のテキストでは「右クリックは使わないようにして、アイコンを使いましょう」となっているかもしれない。

普通は、決められたテキスト以外にプリントや資料を配ることはない。
自分で委託されている講座なら別だが、そうでなければテキストを主に使用する。

だから、時間が余りそうになったらどこで話を膨らませるか、というのが重要になってくる。
インストラクターは引出しをいっぱい持っていて、すぐネタを取り出せるようにしておかなければならない。
同時に、いらないときは出さないことも必要だ。

講習会は時間オーバーは厳禁。
予定がある人だっているし、会場によっては時間で決められていることもある。
過不足なくぴったりの時間に終わらせるテクニックはとても大切。

そのためには、そのときそのときで違うテキストに事前に慣れておいて、流れや構成を何度か頭の中で検証しておく。
何はなくとも、これだけは絶対必要だ。
行ってみたら操作が覚束ない方が多くて予想より時間がかかったり、できる方ばかりで予定より早く進んでしまったりする。
臨機応変に対応して、テキスト全てが終わったところで所定の時間が来るようにする。

でもこのときの榛名先生は資料作成をしていたのだから、何か独特な内容の講習会だったのかもしれない。

こういう姿を見ると、メインって大変だなぁ、と思った。
やりたいかって言われると、どうかなぁ、と思った・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

受けなかった講習会

琵琶さんが営業して取って来た仕事、秋は不動産業協会(仮名)の講習会があった。

わたしは「メールの利用」を担当させてもらった。
その後、翌3月にも「パソコン入門」をやらせてもらった。

でもどちらも受講者さんは多くなかった。

「パソコンの基礎」的な講座や、Word、Excel以外にも、科目があって、そちらは多かったのかもしれない。
不動産業を営む人が使う、不動産業協会が推しているソフト(システム?)があったのだ。
それを教える講習会も何度か予定されていた。

琵琶さんは、インストラクターを探していた。
「○○さん、やってみない? きっと面白いよ」

そう言われても、自分が聞いたこともないソフトを教えることができるなんて、とても思えなかった。
「いえ、絶対無理です、できませんよ」

こういう募集はときどき見るので、それもインストラクターの仕事のうちなんだ、と気付いたのは何年も経ってからだった。
知らないソフトを、現場で使う方々より一足先に覚えて、要点をお伝えする。
そういう仕事は結構ある。

後に「ユーザーサポート」という名称で働いた医療システムのサポートは、まさにそうだった。
新型レジの操作を教えるとか、会計システムの操作を教えるという仕事も見たことがある。

やってみたら琵琶さんの言うように面白かったかもしれない。
でも、それは、今のわたしなら。
あのときのわたしには、そんなことはできなかった。
技術的なことだけでなく、精神的にも無理だったと思う。

正直、こういう面倒な仕事はあまりやりたくない、って人がたぶん多い。
でもお給料としては悪くなかった。
イロハPCスクール内での講習会は安いはずだったが、この不動産業協会の案件に限り、勤労会館など外の講習会と同じ時給だった。

ある日、イロハPCスクールにいたら、黒部先生がやって来て言った。
「琵琶さん、ちょっとあのシステム、使わせてもらうわね」
そして予定表を見ると、いよいよ始まるそのソフト(システム)の講習会のところには、黒部先生の名前があった。
榛名先生も本栖さんの名前もなかった。
黒部先生だけ。

黒部先生、プロだ・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

小さな講習会をまた担当

琵琶さんが営業して取って来た仕事、秋は不動産業協会(仮名)の講習会があった。

内容というか、システムはこんな感じ。
この区の不動産業協会が、登録している業者さんたちのために講習会を企画する。
何月何日はWindows入門、何月何日はメール、何月何日はまたWindows入門、というふうに。
そして協会が送っている会報で、受講者を募る。先着10名まで、という条件で。
イロハPCスクール側は、場所とインストラクターを提供。
その日、受講者さんが10人集まろうが、1人しか集まらなかろうが、いただく料金は同じ。

イロハPCスクールにとっては、嬉しい講習会だ。
自分で受講者を募集するとなると、一人も集まらなければ中止だけど、これはそんなことはない。
とにかく料金はもらえるのだ。

この一連の講習会のひとつ、「メールの利用」の回を担当することになった。
黒部先生の夜間Excel講習会のサブを2回、終えたところだった。

時間は3時間、午後だった。
平日だったので、会計事務所は休んだ。(まだ辞めていなかった。)
その日はちょうど火曜日で、終わったら勤労会館で黒部先生のサブに就く予定だった。
3回目だ。

メールの利用はマンツーマンで何度もやったことがある。
少人数講習会はこれで二度目、初めてではない。

「定員10名」と言ってはいたが、今回も受講者さんはほんの3,4名だった。
こんなことがあったと思い出すこともないくらい、無難に終わったらしい。
「やった」という記憶はあるが、教室の情景については全く記憶にない。

またひとつ、わたしの引出しに経験が加わった・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

黒部先生のサブの間に――

黒部先生のサブをしていた期間は、マンツーマンも忙しい期間だった。

以前に聞いていたように、確かに夏は暇だった。
春になって一念発起した人や、区の受講料補助があって始めた人のラッシュが終わると、受講者さんは減った。
夏から始めようという人は、あまりいなかった。
夏休みもあるし、暑いし、気持ちも全然習い事になんて向かないし――

というわけで、夏は暇だった。
以前から受けていたマンツーマンコースの人が、継続して8月中に3回ほど来ただけだった。
それから8月から始めた稀有な人が1人。
全部合わせても90分を4回だけ。

その夏の間に、11月に一人で担当するPhotoshopとFlashの準備をしようと思ったが、わたしも夏はダレてしまい、停滞して気分は最悪だった。
「こんなことじゃダメだ」と思う気持ちがストレスになって、「また今日も思ったほどやらなかった」と落ち込んでしまい、さらにストレスになる・・・・・・という悪循環。

そんな自分も世間も停滞していた夏が終わり、秋に入ると少しずつ忙しくなった。
そして9月後半から11月にかけては、マンツーマンコースを始める人もまた増え、講習会は開催され、仕事は増えたのだった。

9月10月11月は、それぞれ8回ずつマンツーマンの90分を担当している。
一日に2コマ担当した日がどの月も偶然1回ずつ。

それ以外に9月10月は、黒部先生のサブと榛名先生のサブを担当した。
黒部先生は毎週火曜日、夜間3時間×8回、榛名先生は土日コース1回、日祝コース1回だ。

11月には、かつて自分も受けた職業訓練コースで講師をした。

それから、10月からある訓練機関で午前4時間の講師をするようになった。
これは毎日ではなかった。
10月に10日ほど、11月から12月にかけて10日ほどの仕事だった。
サブの役だったので、気持ちは楽だった。

会計事務所の仕事は10月いっぱいまで辞めていなかったので、9月10月がわたしにとっては忙しい時期だった。

今日マンツーマンでExcelをしたと思ったら、明日はWord。
今Excelの4回目をしたと思ったら、次のコマはExcelの1回目。
土曜日のへんてこな時間帯に1コマだけ入っていて、そのためにイロハPCスクールまで行ったり。
火曜日はイロハPCスクールには行かず、勤労会館で黒部先生のサブをする。

10月の一時期は、一日に3つの仕事をすることがあった。
午前は新しく紹介された午前の仕事、午後は会計事務所、夜はイロハPCスクールか黒部先生のサブ。
そしてまた次の日の午前は午前の仕事に行き、午後は会計事務所に移動、夜はマンツーマン。

春の頃も毎日のように夜の仕事があって、わたしは少し疲れてしまったことがあった。
でも秋は、小刻みに目標や到達点があり、疲れたりうんざりしたりする暇がなかった。
「この講習会まではあと何日」「この仕事が終わるのはあと何日」

そして秋は仕事以外何もせずに過ぎて行った・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

サブをしてみて

一番不安だったのは、予備機がないことだった。

マンツーマンのときは、自分用に1台、PCを起動しておくことができる。
そこで操作を確認できる。
最悪のときは「ちょっと待ってくださいね」と言って、自分用に起動したPCでやってみたらいい。

わたしはイロハPCスクール時代にこういう方法でやっていたせいか、受講者さんのマウスを持たないようにする。
わたしが見たたいていのインストラクターは、やはりマウスを持たない。
受講者さんが間違って操作したために混乱してしまった画面も、受講者さん自身に操作してもらう。
「では、直しましょうか。ここをクリックして元に戻してください。もう一回クリックしてください」
というような具合に。
それが面倒な操作だったとしても、人のマウスを奪うのはしてはいけないことだと覚えた。

「ちょっとマウスをお借りしていいですか?」と言って自分で操作して直すのは、基本的にはマシントラブルのときだけだ。

でも講習会には予備機がなかった。
あるときもあるのだが、このときは全ての席に受講者さんが座っていて、空いているPCはなかった。

自分でマウスを持って、「ここだったっけ? 違うな、ここだっけ? あ、そうだ」と操作するのはできても、見ないでやるのは難しい。
受講者さんに「ここをクリックしてください。あ、ごめんなさい、違いました。こちらをクリックしてください。あ、これでもないですね」と言うわけにはいかない。
試しに操作してみなくても、自分でマウスを握らなくても、「ここをクリックしてください、今度はここをクリックしてください」と言えるようにしなくてはならない。

インストラクターになるための資格には、そういうふうに頭の中に画面をイメージできる能力を問われるものもあるそうだ。

予備機がなかったので、余計にわたしは黒部先生の説明とテキストをしっかり追って、少しでも違うときはすぐフォローした。
さっと直せないかもしれないから、取り返しのつかないところまで間違いを進めて欲しくなかった。

今、インストラクター志望の未経験の若い方が受講者さんのマウスを持ったりすると、わたしは心の中でつい舌うちしてしまう。
マウスを持って代わりに操作するなら、インストラクターじゃなくたってできるんだよね。

でもそれは言わない。
受講者さんのいるところで言ったりしたら、教室の空気が悪くなるのもまた、身にしみているからだ・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

世間は狭いことと時代の淘汰について

黒部先生のサブをしたのは、この夜間のExcel講習会だけだった。
実を言うと、イロハPCスクールの先生方、黒部先生、榛名先生、本栖先生のサブは、それぞれ一回ずつしかしていない。

わたしはあっという間にメインへの階段を昇ってしまい、そしてイロハPCスクールからは少しずつ離れてしまったのだ。

でも最初に見せていただいたこの方たちの講習会は、後から見たいろいろな先生方よりもはっきり思い出に残っている。
特に黒部先生は、怖かったこともあったし、最後にはとても感心してしまったので、印象深い。

イロハPCスクールは、「辞めます」とはっきり言ったことはなかったけれど、なんとなく遠のいて、たまに仕事をもらうくらいになっていった。
行けばいつもいる正社員の本栖さんとは、顔を合わせることになる。
黒部先生とはあまり顔を合わせなくなった。

黒部先生のサブが終わってからちょうど一年くらい経ったとき、単発の派遣仕事で、病院の診察システムのユーザーサポートをした。
そこは分院だった。
システム会社のSE、それからサポートを専門にしている子会社のスタッフのほとんどは、忙しい本院に配置されていた。
分院のほうは派遣会社から単発で雇われたインストラクターたちが6,7人、配置された。
(この仕事については「派遣単発時代」の「08:ユーザーサポート 医療システム」に記載)
http://koori2.blog18.fc2.com/blog-entry-833.html

そのインストラクター仲間の中の一人と、休憩室でたまたま一緒になり、仕事の話をしていた。
斜陽の業界だったので、「どんな仕事があるか?」「これからどうなるか?」が主な話題だった。
仲間の中には「もう今は現役じゃない」「今はインストラクターは休止中」「扶養範囲」という人もいたが、この人は熱心に働いている人で、そういう人との会話はわたしも興味津津だった。

「あと、私は資格の学校みたいなところにも、一応所属しているんですよ」
「えー、たとえばTACとかLECとかDAI-Xみたいなところですか? すごいですね!」
「××なんですけど、でも、私は常時クラスを持ってるわけじゃないんで、すごくはないんですよ」

そういう大手の資格学校ではどのような感じなのか聞いてみたり、その他のことを話したり・・・・・・

「インストラクターはサービス業ですもんねぇ」
「ホント、そうですよねぇ。教えてやろう!って感じの人は今はいませんもんねぇ」
「愛想よく接することができない人は淘汰されていってますしね」
「私が行ってる資格の学校××でも、一人、すごく厳しい先生がいるんですよ。
その人は生徒さんからもときどき苦情が出たりしていて、次に苦情があったらクビだって噂されてるんです」
「へぇ~」
「でもその方は、私は他でも働いてるからここを辞めても問題ないって言ってるらしいんですけどね」
「わたしも以前サブについた先生、すごく怖かったです。講習中に怒鳴られて――」

そういう話をしていて、二人ともなんとなく、あれ?と思うところがあった。
「ちなみに、その先生って、なんていうお名前ですか?」

お察しの通り、わたしたちは二人とも、黒部先生のことを話していたのだった。

そうだったのか、黒部先生、その学校でそんなことになってるんだ――
確かに、厳しい先生というのは時代に合わなくなっていた。
一応「先生」と呼んではいるけれど、受講者さんはこちらを偉いと思っているわけではない。
むしろお金を払っているのだから、お客さま――それは相手側も自覚している。
極端に言うと、「自分にない知識を教えていただいている」のではなく、「お金を払って教えさせてやってる」のだ。

でも昔は厳しくて、怖いくらいの先生もたくさんいたようだ。
入った時代が遅くて、わたしは黒部先生しか知らないが。
イロハPCスクールの生徒さんも「何年か前にも受講したことがあるが、そのときの先生はすっごく怖かった」と言っていた。
後にある講座で出会った元男性インストラクターさんは、小中高生を教える学校の先生のようだったらしい。
ビシビシ指導していた、と当時を知る女性インストラクターさんが言っていた。

そういう先生方は、時代に合わせて変化していくか、または淘汰されていくしかない。
そうでなくても、需要が減って辞めていくインストラクターは多かった。
榛名先生もこの一年後には、OLに戻っていた。

黒部先生はその後、どうなさっただろう。
辞めるなんて、あの教える技術がもったいないと思うが、どうなったのか分からない・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

黒部先生のサブ――すごいかもしれない

黒部先生の教え方は、テキパキ、キビキビ、表情は硬い。
「こんなふうに(ホワイトボードにガシッガシッと図を描いて)串で刺したように同じセルを計算するので、串刺し演算とも言われます! 3Dのようにワークシートを立体的に計算するので、3D集計とも言われます!」
断定的にきっぱり言い切る様子。
鋭い眼光で受講者さんたちを睥睨し、張り詰めた空気の中でピシピシと説明していく姿。

榛名先生がニコニコ、ニッコリ、花のような笑顔で、
「ここにマウスを合わせましたら、ズルズルズル~っと引っ張ってきて~、(ニッコリ)、はい、H24で止めま~す」
と言っている様子とは室内の空気が違う。

榛名先生はモノトーンの花柄とか、原色がアクセントに使われた柄とか、おしゃれ感があった。
黒部先生は落ち着いた、どちらかというと地味な服装で、おしゃれな感じはほとんどなかった。

黒部先生の回は夜間だったことも関係しているかもしれない。
外は真っ暗で、だんだん秋が深まっていたから、なんとなく明るいイメージはない。

正直、最初のうち受講者さんも委縮していたと思う。

でもそのうちに他の先生では味わったことのない、奇妙な連帯感が教室全体に生まれていた。
まるで鬼軍曹と新兵チームのようなイメージである。

厳しいけれど、実は部下のためを思っていて、最後には部下の兵士たちから絶大な信頼を得る軍曹のように、黒部先生は信頼を獲得していった。
厳しいけど――、楽しいおけいことは違うけど――、好き嫌いは別として――、黒部先生に間違いはない。
この人についていけば、素晴らしい知識が身につく。そんな気になる。

この教室におけるわたしの立ち位置は、かなり受講者さん寄りだった。
わたしも黒部先生にとっては、できの悪い新兵だろうから。

もう少しプロだったら、「今回はこうですよね」とか、いろんな話ができたのだろう。
でもわたしは何も話すことができなかったから、受講者さんとたいして違いはなかった。

一兵卒から見て、黒部先生は偉大だった。
それが時代に即しているかどうかは別として。(優しいインストラクターが歓迎されるサービス業的色合いが濃い時代に入っていたのだ)。

あんなふうに、最後には「戦友」としてまとまったクラスは、後にも先にも見たことがない・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

黒部先生のサブ――最終日

全8回の夜間Excel講習会、ついに6回目まで終わった。
あと一息である。

わたしにとっては、本当にあと一息、第7回で終わりなのだ。
8回目の最終回は出られないとあらかじめ言ってある。
それでもいいというので引き受けた仕事だった。

黒部先生にとっては、あと2回。

6回目が終わって帰る、22時近い真っ暗な道。
「あと2回ですねぇ~」
「先生は最後まで来られないんですよね?」
「はい。すみません。次回が最後です。でも皆さん、すごく上達されましたねぇ」

こんなことも言えるくらいには、わたしも黒部先生に慣れていた。

「そう?」
「××さんとか、△△さんも、もう今はあまりフォローもいりませんよ。
こんなふうに皆さんがどんどんできるようになってくださると、やりがいがありますね~」

黒部先生にとっては、こんな初心者丸出しの感想は、それこそ鼻で笑うようなことだったかもしれない。

しかし黒部先生はプロ、使えるものは使うのだ。

次の回、わたしにとっての最終日、講習会の始めに黒部先生は言った。
「あと2回で終わりですね。今日も頑張っていきましょう。
○○先生(わたし)は今日が最後です。
前回、帰るときに、皆さんがとても上達しましたね、やりがいがありますね、と言ってました。
今日もいい気持ちで帰らせてあげましょう」

多くの受講者さんが振り返ってわたしを見たので、照れてしまった。

黒部先生は親切心もあったのかもしれないけれど、やっぱり計算もあったと思う。
こうして教室内の空気をいい方向に変えていく。
これがテクニックなんだと思った。

なんといっても次が最終回。
最終回にはアンケートがある。
「内容はどうだったか?」「講師はどうだったか?」という質問がいろいろ並んでいる。
受講者さんも人間なので、なかなか人柄と教授法を切り離して考えてはくれないのだ。

もうひとつ、うまいと思ったのは、この人は今日までですよ、というのをさりげなく伝えたことだ。
2ヶ月にわたる期間、毎週顔を合わせてきて、最後の日に来たら違う人だった、というのはなんだか変な気持ちだ。
だから「この人は今日までだ」というのを伝えたほうがいい。
でももったいぶって「○○さんは今日までです」「皆さんお世話になりました」なんてことをするのも、おかしな話だ。
ま、しても悪くはないかもしれないけど、それは黒部先生の美意識には合わなかったのだろう。
このやり方は、これまでの黒部先生の無駄話の少ない講習方法とも合っていて、自然だった。

いろいろな意味で、黒部先生、プロである・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

黒部先生のサブ――怖かったこと

黒部先生のサブ、やっぱり何事もなく終わりはしなかった。

まだ基礎編のテキストを使っていたときのことだったので、3回目か4回目だったと思う。
わたしたちはグラフを作った。

範囲を選択して、グラフウィザードを出して、種類、元データ、オプション、場所と進んでいく。
(Office2007よりも前のバージョンでは、そういうウィザードを出してグラフを作成したのだ。)
「OKをクリックしてください。グラフが作成されました」

「作成されたグラフの、白い紙のような部分をクリックしてみてください。
そうすると、グラフツールバーというのが出てきます」
(そういうのが出てきたのだ。2007以降で言うグラフツールのタブみたいなものだ。)

そして黒部先生はプロジェクターに映ったグラフツールバーを指し示した。

一人の人が「出てきません」とわたしを呼んだ。前のほうの席の方だった。
「あ、本当ですね。それでは、えーと・・・・・・」

とやっている間に、黒部先生は何か言っていたらしい。
夢中になってしまったわたしは気づかなかった。

「出ていない方はいいです、って、先生に言ってるんですよッッッ!!!!」

!!!

ひゃっ!と思ったわたしは、すぐさま後ろの定位置に引っ込んだ。

今なら――そう、今ならわたしももう少し余裕を持って、「あ、すみません!」と明るく言えたかもしれない。
そうしたら、受講者さんもホッとしたかもしれない。
でもそのときは、驚きでいっぱいで、何も言えなかった。

教室はシーーーンと静まり返った。

わたし自身は、いったん怒られてしまうと逆に落ち着いてきて、心臓のドキドキはすぐに収まった。
まさに「殺されるわけじゃない」というのを体験できて安心した。
そうか、怖いと言っても口で言われるだけだもんね。

落ち着くと、自分を省みることもできた。

講習中、インストラクターはひとつのことに夢中になってはいけない。
一人をフォローしているからって、他の人に全く目を向けなかったら、遅れる人が続出するかも。
その場その場で判断して、今のフォローを早く切り上げるとか、時間がかかりそうなら待ってもらって他の人を先にフォローしてくるとか、対処していかなければならない。
20人いるなら20人全員がメインの進行についていけるように配慮するのが、サブの役目である。

当然、メインが今何をしているか、どこを進めているかも把握しておかなくてはならない。

それなのに聞いていなかったのだ。
わたしの失敗だ。

黒部先生は、グラフツールバーが出ていない人はこうして出してください、と説明を続けた。
そしてテキストを進めて行ったが、教室の空気は南極のように凍りついたままだった。

叱られたのはわたしだったけど、最後は金切り声のようになっていたので、皆さん怖くなったのだと思う。
もともと皆さん真面目に受けていらしたので、何がどう違うというわけではないのだが、明らかにピキーンと張り詰めている。

黒部先生はプロだった。
しばらくして言ったのだ。

「皆さん、ごめんなさいね、ちょっと中断してしまうけれど、いいですか?
あたし、さっきオニババみたいに言っちゃったから、気になってしまって。
(と、ここでわたしに向かって)ごめんなさいね」

――あ、いえいえ、そんな。

今なら、もう少し余裕をもって、笑って空気を緩和できたろうけれど、そのときはオロオロするばかりだった。

それでも、張り詰めた空気を破って、テキスト外のことを受講者さんに語りかけたことで、氷が割れた。
わざとわたしに謝ることで、さっきの出来事を受講者さんにも取り消してもらうことになった。
春の雪解けのように・・・・・・とはいかないけれど、教室の空気は氷点下から脱した。

この日、講習会が終わって後片付けをするときも、帰りに一緒に歩いているときも、黒部先生はこのことについては一言も言わなかった。
「ホント、ごめんねー、怖かったでしょう?」なんていうことは一言も。
悪いと思っている様子もなかった。

わたしが叱られたのは当然であり、場の空気を戻すために謝って見せたけれど、本当は謝る必要なんてないのだ。
だからといって、イライラしていたり、八当たりしたり、ということもなく、普通だった。

プロだ。

非があったのはわたしだから、わたしは謝るべきだったろう。
でも何も言えなかった。蒸し返すのは怖くて。
殺されるわけじゃない、と言ったって、まったく平気なわけではない。

アマチュアだ・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

黒部先生のサブ――勉強になったこと

黒部先生のサブ、他の人が口をそろえて言うように、確かに勉強になった。

わたしは何も知らなかったからなおさらで、ひとつひとつ、へぇ~と思った。
できるだけ覚えておこうと思ったけれど、忘れそうなことは、軽くメモをとった。
――あまりノートに書き込んでいたら「あなた仕事しに来てるんでしょ!」と言われそうで怖かったので、なるべく目立たないようにサッとメモをした。

AVERAGE関数のところでは――
「平均を取るときには、注意しなくてはならない点があります!
こんなふうに(と入力してみせて)空白セルがあると、平均の答えが狂ってしまいます!
途中に空白があっても、選択したセルの数で割るようになってしまうので、本当はこれを4で割って欲しいのに5で割ってしまうんです!」

そうなんだ~、と思ったけれど、この説明を自分で使ったことはない。
この会場では2000を使っていたけれど、わたしがメインになる頃には2000はだいぶ少なくなっていた。
「もし皆さんがお使いのパソコンが2000なら――」と説明するには、少数派になっていたのだ。

グラフのところでは――
「じゃあ、テキスト通り作る前に、ひとつ簡単な方法で作ってみましょう。
表を範囲選択してください。
キーボードを見てください。一番上にFのついたキーが並んでます。F11キーを押してください。
はい。棒グラフが別のシートに一発でできましたね」
おお~、ああ~、という感嘆の声。

これはときどき使わせてもらった。
派手なパフォーマンスなので、上手にもっていけばとてもウケがいい。
ただ、わたしは上手にもっていくことが得意ではないので、しらけそうなムードのときは使わない。

説明の言葉は分かりやすく、わたしはかなりその表現を盗ませてもらった。
ホワイトボードを用いて説明するところも、上手だと思った。
進め方はスムーズで、その日の予定のところまで自然に終わった。
時間が余ることもなく、足りなくて急ぐこともない。
滑舌がよく、つっかえることがなかったから、聞きやすかった。
声はほどよく大きく、アルトでしっかりしていたから、聞きとりやすかった。

「怖い」という思いがあったので、わたしは一生懸命仕事をしようとし、常に後ろから皆さんの画面を見渡していた。
違うことをしていたら、すぐに近寄れるようにしよう、と片時も目を離さなかった。

今だったら、もう少し余裕を持って見ることができる。
「ああ、あの方、間違っていらっしゃるなぁ」と思っても、すぐに駆け寄るのではなく、タイミングを見計らうことができる。
進行の邪魔にならないように静かにゆっくり近寄る余裕、受講者さんが「あら?」と思ったときに着くようにする余裕。
まだ操作途中で、「あら?」と思ってもいないときに、「間違ってます!」と言われてもピンと来ない。
「あら?」と思った直後がベスト――と、わたしは思っている。
直後でないと今度は不安になってしまうので、気づいたら注意していて、ほどよいタイミングで近寄れるようにする。

そうなってから近寄っても、メインの進行からさほど遅れることなく直していただけるのだ。
――自分の知識と経験が増えたから。

でもこの頃はそんな余裕はないので、ちょっとでも違うとすぐフォローしに行った。
対処できない事態になって、黒部先生に助けを求めたりしたら・・・・・・想像するのも恐ろしい。

その後の長いこと、黒部先生が補足として話していたことや、注意点などをテキストにメモして、自分が担当するとき使っていた。
確かにとても勉強になった・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

黒部先生のサブ――第一日目の後で

第一日目の3時間は、なんとか終わった。

あの位置に立っていて良かったのだろうか?
テキストを常に持っているのって、良かったのだろうか?
じっと立っているほうが良かったのだろうか?
それとも歩きまわって見回ったほうが良かったのだろうか?

今でも黒部先生がどうしてほしかったかは、分からない。

でも結果として遅れる方がいなければ、問題なかったのだろうと思う。
たとえ鳴沢さんのように「よくやってくれたわね!」と言われなくても――

黒部先生の教え方はうまかった。
なるほどと思ったところはメモをとった。
そのためのノートを用意していた。
――これは、黒部先生は嫌だったろう。
自分が努力の末に身につけた知識や、観客(受講者さん)を湧かせるテクニックが、惜しげもなく新人ライバルに盗まれてしまうのが講習会というものだ。

あ、ライバルというのは、未来のなるかもしれないライバルということであって、現時点では歯牙にもかからない。

黒部先生の指示を受けて後片付けをし、一緒に勤労会館を出た。
駅まで歩いていく間は、険悪なムードにもならず、わたしも普通に話すことができた。
何を話したか覚えていないが、きっと黒部先生を誉めたと思う。
お世辞を言おうと思ったわけではなくて、本当に上手だったから。

黒部先生は「あなた、ずっと来るの?」と聞き、わたしが出られない日が2日あると言うと、途端に仕事後ののんびりムードが消えた。
「それ、琵琶さんは知ってる? 何日と何日? 確認しておくわ」

黒部先生は琵琶さんのちょっぴりルーズなところをよく知っているらしく、釘をさしておかないと危ないと心配になったようだ。
すぐさま携帯で琵琶さんにかけ、歩きながら話し始めた。
わたしは黙って横を歩いていた。

「あ、琵琶さん? お疲れさまです。ええ、今もう終わって帰るところです。
それでね、サブの方が出られない日があるっておっしゃってるんだけど、代わりの方の手配はできてるの?」
――できていないらしかった。
「本当に大丈夫ね!? 当日になっていないなんて、なしにしてくださいね! 絶対大丈夫ね!? そう、×日と×日よ。大丈夫ね?」

プロだ。
完璧な授業のためには、こういう気配りや措置が大切なんだ。
自分だけが完璧にできても、環境が整わないとダメなんだ。
そう思った。

それにしても相変わらず、大変お強い黒部先生である・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

黒部先生のサブ――いよいよ始まる

どんなに恐れていようとも、その日は着実にやって来る。
どうせ絶対来るものなら、いっそ早く来てしまったほうがいい、と思えてくる。

黒部先生の勤労会館での講座は、Excelだった。
Excel基礎と応用、テキスト2冊を、3時間×8回で終える。

毎週火曜日、18:30~21:30 8回なので2ヶ月かかる。

初回は9月7日の予定だった。

引き受ける時点で、わたしはどうしても出られない日が2日あった。
中間の一日と、最終回の8回目に当たる日である。
琵琶さんに「自分はこの日とこの日は出られない」と言うと、琵琶さんは鷹揚だった。
「ああ、大丈夫大丈夫。メインじゃないから。サブだから。
他の人を当てるから。2日間だけね?」

できればインストラクターは全日出勤が好ましい。
でもどうしても無理なら、サブだったら交代してもいい。
というルールがだいたい一般的なようである。
メインが休んで他の人が代わるというのは、講習会では見たことがない。

いよいよ9月がやってきて、わたしは昼間の会計事務所が終わると、初めての勤労会館出勤だ。

ついでに言うと、会計事務所の後で勤労会館まで行くと、同じ区内とはいえ結構時間がかかる。
一応琵琶さんには、昼間仕事をしているから早くて30分前だと伝えてあるが、黒部先生は何とおっしゃるか・・・・・・

会計事務所の駅から3駅ほど下って、そこからバス。
バスは時間が読めないので緊張する。

バスを降りてからもどっちに行ったらいいか、地図を見ても今ひとつ分からない。

なんとか勤労会館にたどり着いたが、今度はそこからどうしていいか分からない。
勤労会館の受付に行けばいいのか、直接教室に行けばいいのか――

こういうことは普通は事前に指示される。
「現場に着いたら、直接教室に行ってください」とか「受付の方に頼んで、××課の××さんを呼んでもらってください」とか。
でもなんたって琵琶さんだから、そういうところは細かくないのである。

結局、受付の人に声をかけてみたけれど、意味が分からないという顔をされ、「2階かなぁ?」と言われたので2階に行った。
するとパソコンルームがあったので、こっそり中に入ってみた。

黒部先生はもう来ていて、パソコンで何かをしていた。
ご挨拶をして、自分は何をしたらいいか指示を仰いだ。
――だって、講習会は初めてだったから、何をしたらいいのか分からない。

「生徒さんのPCの電源を入れてください」
ピシッという音が聞こえるような、きびきびした喋りだった。

はいっっ・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)

本物の講習会――サブの話

別にイロハPCスクールでの短期集中講座が偽物だというわけではないが、やはり別会場で大々的にやるのこそ「講習会」という気がする。

短期集中講座の受講者さんは、3人+身内1人(琵琶さんの奥さん)。
でも勤労会館などで開催される講習会は、20人くらい集まる。

そういうところでサブをしたら、とても勉強になると思う。
それに、11月に自分が前に立ってインストラクターをする前に、ベテランの先生を見学しておきたい。

琵琶さんがチャンスをくれたら、頑張ろう!
――でも黒部先生のサブは嫌。恐ろしい。

研修時に会った黒部先生の怖いイメージがぬぐい去れないわたしは、未だに黒部先生恐怖症だった。
「黒部先生は厳しいけど、教え方は上手で勉強になる」――わたしには前半の「厳しい」しか聞こえない。
「黒部先生に挨拶したら、あなた本番もそのヒールで来るつもり!? 転んでも知らないわよ!、と言われた」――わたしの恐怖は増すばかり。

ときどきイロハPCスクールで顔を見ても、怖い気持ちを消し去ってくれるような笑顔は一度も見なかった。

琵琶さんはチャンスを少しだけチラつかせてくれた。
「鳴沢さんは最初は厳しいことを言われていたけど、終わったときよくやったって誉めてもらってたよ」
――鳴沢さんだからですよ。彼女はデキる人じゃないですか。
「○○さんも今度やってみない? 勉強になるよ」
――黒部先生のサブだったら、恐ろしくて気絶すると思うから、無理です。

わたしは精神的に弱い人間なので、体育会系が苦手。
先輩後輩とかも苦手。
厳しく育てるとか、愛情をこめて厳しく指導するとか、そういうの、苦手。

だから本当に、洒落や冗談じゃなく、恐ろしかったし、黒部先生のサブなんて目の前が暗くなる思いだった。

「本当に勉強になるとは思うんですけど、どうにも怖くて震えるくらいなので、できると思えません」
榛名先生にもこぼした。
榛名先生のサブだったらやってみたいけど――

「○○さんがそれほど苦痛なのだったら、無理して受けなくてもいいと思いますよ」
榛名先生に言われて、すごーく気が楽になった。
そうよね、そうよ。
それからは堂々と断れるようになった。

ところでわたしは、ある日突然、啓示のように閃くことがある。
悩みに悩んでも結論が出ないでいるのに、ふとある瞬間に「そうだ」と思うタイプ。

だんだん時が迫っているのは気付いていた。
どこかで講習会を経験しておかなくては、とも分かっていた。

琵琶さんがこう言ったとき、転換点が訪れた。
「○○さん、黒部さんの勤労のサブさぁ、やってみない? 夜間で全8回。勉強になるよ。
引き受けてくれたら、10月の榛名さんの勤労の講座のサブもセットでつけるよ」

どんなに黒部先生が怖くても、これを受けるしかない、と急に思った。
殺されるわけじゃない、と自分に言い聞かせようと決意した。

分かりました、やらせてください・・・・・・



Chapter 2 集合授業へのステップアップ
(初講習会サブから職業訓練コース講師まで)
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