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お休みします

明日から2日間、お休みをいただきます。

8月1日からカフェ記事をUPしていきます。

また8月からよろしくお願い申し上げます。

ご来店、心からお待ち申し上げております。
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Close-OAインストラクター-

--OAインストラクター編はここまでです--

ついに終わりました!

この章が始まってしまったときは、終わりまでたどり着ける自信がありませんでした。
なんとか無事に終わることができて、大変嬉しく思っています。

これも見てくださった皆さまのおかげ、励ましてくださった皆さまのおかげです。
決して多いアクセス数ではないけれど――(いや、はっきり言って少ないですけど)
地味な日記を自分以外の誰かが見てくださったというのは、本当に有難いことです。
その喜びに励まされてここまで来ました。
拍手をくださった方々には、特に感謝しております。ありがとうございました。

少し休憩記事をはさんで、次の章に入ります。

またのご来店を心よりお待ち申し上げます。

あとがき

この仕事もずいぶん長くしてきたな、というのが、今の気持ちです。

始めてしばらくして「斜陽の時代になってから業界に入ってしまった」と思ったのに、あれから10年――気がつけば10年です。

入りたての新人だった自分と今の自分は当然違います。
自分の書いたものを見てあの頃を思い出すと、そういうこともあったと改めて思い出します。

それは当然だろうけど、つい2年くらい前にこの章を下書きしていた自分と比べても、また少し違っているのだと気付きました。
いい方向にとか、悪い方向にとか、成長したとか、惰性や手抜きを覚えたとか、ひと口には言い切れないようです。
「成長したんだ」という単純なことではない部分でも、自分は変わってきている――

公開された文章を毎朝チラリ見るとき、自分の変化を発見していました。
こんなことを考えていたのかと不思議に思う日もあれば、大げさに語っている自分にこそばゆさを感じる日もありました。

また1年2年したら、さらに変わっている自分を発見するかもしれません。
でももうこの章は、これ以上増えることはないと思います。

ここまでおつきあいくださって、ありがとうございました。

おまけ編はここまでとなります。
同時にPCインストラクター編も終了です。

次はおまけ編のまえがきでもお話しした「ホームグラウンド編」(仮)です。
その前にいくつか息抜き記事を挿入します。

またこのカフェにお越しくださいませ。

心よりお待ち申し上げます。
ありがとうございました。

おまけ:振り返る道のり

なんだか最後は、文句を言っているのかなんなのか、分からない展開になったように感じる。
書いてみたけど、消してしまい、でもやはりまた書き始めると同じようなことを言っていたり。

結局は、この章のまとめとして、言わずにはいられないことなんだと悟った。
自分はこうなんだ、というのを見つめないと、この章を終われないんだと分かった。

だからそのまま書き続けることにしたけれど、ネガティブな感情は排除したつもり。
人からは愚痴の発散のように受け止められそうな部分があったとしても、自分ではそういうつもりはない。

ホームグラウンドの職場では、メインでは特にAさんとの比較になる。
自分にとっての「イーブン」で「ライバル」と思ってる人がこの人なのだと思う。
他の人のときはある程度の余裕を持って見ていて、勉強になることを発見したりはするが、ライバルとまでは思っていないのかもしれない。
それは能力とは違って、慣れている・いないという事情も関係するし、「その時点では余裕を持っていられても、先々は脅威かも」ということは自覚している。

サブでは特にBさんと比較することが、自分の中では多かった。
Eさんは、新人さんらしいエピソードがいろいろあって印象深いけれど、「イーブン」の「ライバル」はBさんなのだと思う。

でも自分のことは少し高めに見積もるものだから、AさんもBさんも、実際は「イーブンよりちょっと相手が上」なのかもしれない。

もうこの仕事も10年になる。
なんと、クリーニング店勤務に並ぶ年数だ。

これだけ長く続けてきて、当然、自分なりの姿勢や思想というものがある。
新しく取り入れること、これまでのやり方を修正することもある。
でももうここまで来たら、全部一から変えるなんてことはない。
自分なりに「良い」「正しい」と信じてやっているわけで、少しの変更は加えても骨子はそのままだ。

わたしの考え方が正しいとは限らないけど、それを言ったら他の先生だって同じこと。
指導要綱がある学校の先生でさえ個人差があるのだから。

前回この章の筆を置いたときは、「自分の美学」をまとめた。

その後、わたしはさらに仕事を続け、少しずつ「ベテラン」になっていった。
いい意味でも悪い意味でも「ベテラン」。

ある日、ホームグラウンドの職場で言われた。
「それでは3日間担当してくださる先生をご紹介します。○○先生です。
ベテランの先生ですからね、何か聞きたいことがあったら、この機会に何でも聞いてくださいね」

ベ、ベテラン――?

耳慣れない響きに恐縮したけれど、でも年も年だし、肌もフレッシュなEさんのことを思えば、ベテランと言われて「違います!」と反論するのも変か・・・・・・
そう考えて、「ベテラン」という言葉を受け入れた。

異動などで新しい上司と出会うと、ずっとやっているわたしは「ベテラン」と呼ばれる。
休むことがあったり、慣れていないからとあれこれ任されていない人がいたりする中、トップバッターの地位にいつのまにか立っていた。(明確な地位では全然ないが。)

「自分なりの美学」は、そこに他人はいない。
「他の先生はこうしてるけど、わたしはこうする」という自己主張をする域にまでは、達していなかった。

でも今は、他の人のことも目に入るようになってきた。
「わたしのほうが優れた講師だわ」「いや、やっぱりそれはひいき目だった。あの人のほうが優れているかも」
そのせめぎあい。

「あなたに頼むのが一番信頼できる」と何かの講座を任せてもらうような、有難いことも起こる。
そうすると、他の人と組んで仕事をしたとき、「この人よりも良いと思われたけど、本当にいいかな?」と自分を省みる。

他人と比較することが増えてきた。

ただ吸収するだけの時期は終わり、今さら変えられない核の部分ができてしまったから、そのためにも他人と自分を比べるようになった。
本当にわたしのポリシーやスタンスは正しいものだろうか? と。
実は受講者さんはやりにくかったり、他の人のほうが良かったりするかもしれない。

気づいたからといって今さら変えられないとしても、勘づいても認めないかもしれないとしても、そうやって省みることで安心したいのだ。
「やっぱりわたしのやり方のほうがいい」とか「あれはわたしには合わないから真似はできない」とか「あれもいいけど、わたしのも悪くない」とか。
――まあ、これは、ベテランの悪い面だ。

自分がいつのまにか「ベテラン」になり、「この人と比べてわたしはこう」「全体から言ってわたしはこう」というのが必要にもなり、多くもなってきた。

だから言わずには終われなかったのだ。
だいぶまとまりのない比較になってしまったが。

どの人にも「いいな」と思う点と「ちょっとな」と思う点があるもので、たぶん先方もこちらのことをそう思っている。
そのことを書かずにはこの章を閉じることができなかったので、うまくまとまらないまま書かせてもらうことにした。

ベテランになったってことなのかな。やっぱり。
つまり、年をとったのかな・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 15.Bさん

Bさんにも確固とした意見がある。

ただその意見は、インストラクターとしての暗黙のルールについてではなく、正義や正しいことについての意見やポリシーなのだった。

「講習は受講者さんのためだけにあらず。主催者、引き受けた派遣会社、組んだメインのためでもある」
これもわたしの座右の銘のひとつだ。
それに伴って、「メインに合わせる」とか「渡されたテキストに合わせる」とか、いろいろなルールがある。

Bさんのポリシーは、それよりも一段高いところにある。
もっと大きな、社会的正義とでもいうか、そんなところにある。

だからもしメインであるわたしが、「こうしてください」と言ったとしても、Bさんの正義に反することだったら聞いてもらえない。
「でも、それだと、受講者さんが困ると思う」
「そういうやり方をしちゃうと、受講者さんはやりにくいんじゃないかしら」

シフトが組みづらくなったある年、わたしが「誰もいなければ仕方がないから、一人でもやりますよ」と言ったら、ずいぶん反感を感じられたようだった。
「でも、それは○○さんはいいかもしれないけど、受講者さんは大変だと思うわ。
それに一度、一人でやってしまうと、次から何かあったとき、他の人も一人でやって当然てことになるかもしれないわ」

どのプリント問題を渡すかということについても、Bさんはより高次の正義に従っているのだ。
「ずっと先まで勝手に進められちゃうと、私一人では見きれなくなるし、先に進んでる人の相手をしていると他の受講者さんたちに迷惑がかかっちゃう。
だからあまり先の問題を渡すのは、どうかと思う。今やっている部分の問題を出して、皆が次の章に入るまで何枚でも今の内容をやっていただいたほうがいいわ」

おっしゃることはいちいち「ごもっとも」という正義の名のもとに語られるので、メインだからといって我を通すのは、なかなか難しいところである。

Bさんは受講者さんからとても好かれる人で、Bさんがいてくださるとクラスの空気はだいたいとてもよかった。
事務員さんなどからも「人格者」と評価されていた。
わたしに意見をするときも、にこやかにわたしを立てる様子も見せつつ言ってくださる。

――だから余計に「でもわたしはこうしたいんです」とは言えないところがある。

「教室内を全員遅れずについていけるよう、フォローする」ということにかけては、この方はプロらしいポリシーを持っていた。
だから講習はやりやすかった。

わたしが密かに「プロ」と「プロ未満」に分けているカテゴリだと、Aさん、Bさん、わたしがプロだ。

ただね、ご自分がサブでいるときは、メインのやりたいようにやらせてほしいな、とだけは思った。

最後の2年くらいは、ご自分はほとんどメインをなさらなかったから、持ちつ持たれつではなくなってきて、若干困ったこともあった。
「皆さんできるから、もう少し進行のペースが速くてもいいみたい。このままじゃ退屈しちゃって、先に進む方が出てきちゃうかも」
言われて速めたら、
「速すぎてついていけない人がいるから、ゆっくり進めたほうがいいみたい」
とか。
「こういう順番でやります」と言ったら、
「でもそれだと、時間が足りなくなったら困るから、こちらを先にしたほうがいいと思う」
「でもこれこれこうなので、こうふうにやりたいんですよ」
「でもやっぱり、やるべきことを先にやって、それからこれをしたほうがいいですよ」
「わたしがやりやすいので、こうしたいんですよ」
「後から急ぐようなことになったら、受講者さんも大変だしね。やっぱりこうしたほうがいいわ」
結局このときは、「じゃあ、ご自分でメインをしてください」となったのだった。

いろんな面で、皆が信頼するのも納得の先生だったが、この一点だけには悩んだ。
「メインを立てる」「メインに従う」というのは、経験があったり、または人生経験が長かったりすると、難しいものなのだとつくづく思った。

受講者さんとのコミュニケーション、会話の面白さ、仕事の姿勢や心意気に対する信頼、いろいろな部分でAさんやわたしより上の方だった。
でもわたしは、最後にはAさんのほうがやりやすいと感じてしまった。

だから本当に、「メインに合わせる」って、大切なことだと思うのである・・・・・・




Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 14.Aさんはプロ

Aさんとわたしはやり方が違ったが、Aさんと組むのはやりにくくなかった。
つまり、お互いにプロだったのである。

今は現役を離れていて、この職場でしか仕事をしていないけど、かつて大手パソコンスクールで働いていただけに、プロ根性のようなものはなくならないらしい。

働いているのだから「現役だ」という見方もあるのだが、他の方々と違ってわたしたちは非常勤もいいとこ。
やってる内容もいつも同じ。
講習会と違ってアンケートもないし、受講者から評価もされない。
一緒にやっている人たちとは職業上の関係というより、なんだかご近所さん同士のよう。
遠慮があるので、それほど批判したりされたりしない。
だからBさんなどは、どちらかというとプロというより「人格者」のイメージ。

Aさんとわたしでは、メインとしてのやり方は違ったが、サブ論は似ていた。

●メインのやり方に口出ししない。
●教室内がほとんど遅れることがないように、メインを煩わせずフォローする。

どちらもがメインをするような関係の場合、なかなか相手をたてるのは難しい。
いつのまにか垣根がなくなってしまうことがある。

Aさんは、わたしが「最初にこの問題をやってもらう」と決めたのに、「こっちの問題のほうがいいんじゃないですか」というようなことは言わない。
もちろん、逆だったらわたしも言わない。
「今日はここまで進む予定です」と言ったら、「この辺までのほうがいいんじゃないですか」ということは言わない。
逆だったら、わたしも言わない。

もしかして「ここまでやるんですか? この辺でやめておいたほうがよくないですか?」と言ったとしても、「そうねぇ」と相槌を打ったのに、やっぱりメインが予定のところまで進めたなら、それはそれでよし。

メインが我を通せるくらいの言い方にしておくのも大切だし、どうしてもそうするというならフォローに徹する。

むしろわたしのほうが、「どう思います? 今日ここまでやったほうがいい?」なんて聞かれると、つい「これこれじゃないですか」と答えてしまったりする。
あ~、言っちゃった、と反省することも多い。

慣れた相手でもサブの心得を守り続ける、というのは大変だ。
知っているだけに、確固たるポリシーのもとに仕事をしていて偉いと思う。

Aさんは、前に語ったが、あまり練習をする時間をとらない。
だからプリント問題をそれほど使わない場合もある。

でももし時間にゆとりがあって、指定された問題を早く終わった人がいたら、いろいろなプリント問題を渡す。
これらは長年の間に少しずつ作成して増やしたものだ。
Aさんが作った問題もあるし、わたしが作ったものも、Bさんが作ったものもある。Eさんが作ったものもある。

どのプリントを1番先に渡し、どれを2番目に渡すか、プリント問題を管理するのはサブ。
――とAさんは認識しているらしい。
だからAさんがメインでわたしがサブをしているときは、「どれから渡します?」と聞いてくれる。

わたしの場合は、実は違う。
「この順番でやったほうが流れがいい」「覚えやすい」「ためになる」という意見が、実は自分の中で確固としている。

なので、メインをしているとき、わたしは順番を指定する。
「この順番でおこなってください」とあらかじめ受講者さんにも宣言することもある。
しなかったときも、「ここは!」という章のときは、Aさんに順番を伝える。

この点、Aさんは鷹揚だ。

メインは教室全体を運営する。
だからメインであるAさんが「プリント管理はサブがすればいい」という考えなら、サブが全部決めればいい。
メインであるわたしが「プリントの順番もわたしが決めたい」と思うなら、Aさんは従ってくれる。

これ、とても有難いと思うのだ。

だって心の中では、自分がメインだろうとサブだろうと、「こっちを先にやったほうが分かりやすいよね」というのがあるからだ。

今まであまり語ってこなかったが、Bさんは「私がサブをしているんだから、プリント問題は私に任せてほしい」という気持ちが見える。
だからわたしも譲歩して、絶対にどうしても、というとき以外はBさんをたてる。

それを思うとAさんは、パートナーとして大変やりやすい人なのだ。

それからもうひとつ。
前にも語ったが、基礎は知ってるとばかりに退屈して、勝手にテキストを先まで進めてしまう人がいる。
こういう受講者さんの扱いは、基本的にはサブがする。
メインは休み時間にサブから聞くか、練習の時間などに見回るかしないと、進めていることが分からないからだ。

進めてしまっている人に対して、「こういことをしてほしい」と指示するのは――サブであることが多いが、メインもいつかは気づく。

Aさんがメインのときは、「先に進んでいる人の管理はサブがする」という考えらしく、わたしに任せてくれる。
わたしがメインのとき、「この人はもっと難しい問題のほうが楽しそうだな」と思って勝手に違う問題を渡してしまっても、気を悪くしないみたい。

Bさんとのときは、Bさんがサブなら「進んでいる人の管理は私が」というお考えなので、わたしが勝手に違う問題を渡したりするのはお嫌いらしい。
Bさんはそう何度もはメインをしなかったが、自分がメインのときは「あの人進んじゃってます? こういう問題を渡してこうしてください」とわたしに言う。

メインのBさんが「こうしてほしい」と言うなら、わたしは従う。
でも、わたしがメインのときは、わたしがしたいと思ったら進んでいる人の管理もさせてほしい。
わたしはずーっと待たせて基本的な問題ばかりやらせるのは、好きではない。退屈だろうと思うからだ。
そんなにできるなら、もっとやりがいのある問題を渡したい。

ただそういう問題を渡してしまった場合、メインであるわたしは講習をしているから、厄介な問題の質問を受けるのはサブの方になってしまうのだが。

Aさんはそれでも気にしない。
Office製品のインストラクターとしてプライドもあるから、質問されたら答えてくれる。
分からなかったら、「他のとこ、先に進めてて」とサラッと言い、休憩時間や練習時間などにわたしに引き継いでくれる。機転がきくのである。

わたしも自分のやり方やポリシーがあるけれど、Aさんはなんだかんだ言って優秀だよな、と思う・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 13.Aさん

美人といえば、Aさんも美人だった。

Aさんは結局、初めからいて、途中いなくなった時期もあったが、戻ってきて最後はまたわたしと2人になった。
常にメイン、復帰後はさすがに譲歩してメイン・サブ交代制。
この人は条件が合うので辞めはしなかったし、なんとなくいつもライバルだったのかもしれない。

そんな関係の相手が、「美人」という、わたしにない特性を持っていた。

わたしは並だし、それも「ちゃんとお洒落して明朗な性格なら可愛く見えるかも」「人によっては可愛いと思うかも」というレベルの並ではない。
100人に聞いたら、100人全員が、「美人とはいえない」と答えるだろうという、並。

だからAさんと比べたら、どうしたって中身で勝負するしかないのだった。

そうすると、Aさんの講習に対して、自分はこうだああだ、Aさんはいい悪い、とあれこれ考えてしまう。
「いいところは認めて吸収しよう」と自分を励ましたり、「ここはやっぱりわたしのほうがいいのじゃないかな」と自分を肯定したり――
めんどくさいこと、この上ない。

美人は明るく素直で性格も良いが、不美人はひがみのために暗くて性格が歪んでいる――と言う人がいるが、Aさんとの関係におけるわたしは、多少それに近いものがある。
そんなこと言うなんて!と怒る権利はなさそうだ。

Aさんのほうはといえば、わたしに「負けた」と思ったことはないだろうが、たとえ思ったとしても外身では勝っているので、ひがむ必要はない。

Aさんはオーソドックスな講習をする人で、わたしも決して個性的なほうではないのだが、わたしとは違うポリシーを持っていた。

誰とでも考え方の違いというのはあるが、Aさんはポリシーのしっかりした人だった。
ナチュラルそうな笑顔に惑わされて気づかなかったが、何年も経て、この人にはポリシーというものがあって、それは意外と理路整然としっかりしたものなのだと分かってきた。

決定的に違うのは、意識だったと思う。
前にも語ったが、「インストラクター業はサービス業」とわたしは思っているところがある。
この職場はそういった通常のスクールや講習会とは違う、学校のようなところなので、サービス業よりは教師業のような人のほうが多い。
あとは、優しい、福祉業的な気持ちの人。
サービス業の気があるのなんて、わたしくらいのものかも?
だからAさんのほうが場に合っているのかもしれないが、Aさんはソフトな教師業だった。

わたしは、受講した人にできるだけ楽しくやってもらいたい。
それなりの満足感や、達成感、楽しさを感じてもらいたい。
受けた人から良い評価をもらえたら、それがわたしの満足につながる。

だからたとえば、こんなの基礎だから全部知ってるという人が、「これは決まりだから」と担当の先生から言われて受けに来ていたら、様子を見る。
そういう人は退屈して、勝手にテキストを先に進めていたりするから、そうしたらどんどん問題を渡したい。
そのほうが楽しい。そしてひとこと、「たまに発見があるかもしれないから、説明は説明で聞いてね」と言っておく。

もっと難しい関数がやりたいと思っているなら、基礎のテキストを全部やってもらった後なら、そういう問題を用意してあげたい。

休み時間に話すことで空気がほぐれるなら、できるだけ受講者さんと話したい。

それは立派な心がけからではなくて、それがわたしの満足だからだ。

だから、皆が聞いてくれなくなるようなことは避けたい。
テキストに載っているからといって、Wordで入力の練習などをあまり長くするのは、嫌いだし、しない。
Excelをするときに、スクロールの練習とか、ファイルを開いたり、セルをクリックしたりする練習などは、省略する。今どきそんなの、誰でもできる。
そこをたくさんやっていると、退屈してしまって、初回からあっという間に空気がだれるときがある。
特に若い人が多いときはそうだ。

だから省略する。
もし、そういうところもしっかりやりたいという人がいたら、ごめん!という感じ。

ほらね。殊勝な意味合いではなくて、これがわたしの好みのやり方なのだ。

Aさんはもっと教師的なのだと思う。
それも小学校じゃないな。中学校とか高校とか、専門学校とか。

退屈して聞かないというなら、それはあなたの勝手だけど、覚えられなくても知らないよ?
私はとにかく、あなたがたにテキストに載っていることをきちんと伝えますからね。
それを聞くかどうか、役に立てるかどうかは、あなたたち自身の問題ですよ。

――とでもいう感じかな。

だからわたしみたいに教室の空気に一喜一憂したり、左右されたりしない。
わたしは「できる人ばかりで退屈してるのかな? 少しスピードを早くしようかな?」とか、「ついてこられない人が多そうだな。ゆっくりやろうかな」とか、1回のコースの中でも変わってしまう。

Aさんは変わらない。
常に安定してゆっくりだ。
一番できない人に合わせる。それほどできない人はいないときでも、基本はゆっくりだ。

それが「取りこぼしのない、誰でもついてこられるスピード」で、本当はどんな講習でも一定の丁寧さを貫くべきなのかもしれない。
Aさんは貫く。

それによって、勝手にテキストを進める人が続出し、クラスの半分以上が話を聞いていなくても、まったく動じることなく進めていた。
たぶん、誰一人聞いていなかったとしても、Aさんはペースを乱さないだろう。

それはすごいことだ。わたしにはできない。

さらにわたしは、講習そのもの、講習のやり方そのもの以外にも、あれこれと相手を見てしまう。
前にも書いたけど、相手の障害に合わせて説明ややり方を変えたりする。

でもAさんは、そういうことはほとんどしない。
それもポリシーなのだろうと思う。

「私はパソコンを教えるために雇われていて、それをするためにここに来ている。
障害だの福祉っぽいことだのについて考えることは、私の仕事ではない」

あるとき、もともと少人数で3人だったのだが、規定は規定なので2人で対応した。
ある日、他の2人が休んでしまって、受講者1人対講師2人になったときがあった。

交代で教えることにしたが、最初のわたしのとき、受講者さんは自分のことを話し始め、とまらなくなってずっと話し続けた。
さすがに講習に戻りたいのだが、なんとか「じゃあ、この問題をやってみて」という方向に持っていっても、「はい」と言って向き合った1秒後に、「そういえば」と振り返る。
「自分のおやじも、そういうところがあったんですよ。子供の頃――」と話が始まる。

むりやり断ち切るか?
普通の学生さんならそれも必要かもしれない。
でもこの人にもし、何か傷つきやすい面があったり、障害上話が止まらなくなる特性があったりしたら?
脳の障害や、精神の障害、障害自体は身体でもストレスから何らかのストレス障害が出ていたり、いろいろな障害があるから判断は難しい。

たまたま事務職の人がその日、同じようなことを言った。
「この間、食堂でお昼を食べていたら、受講者のある人が前に座って、いきなり話し始めてずーっと話してるんですよ。
彼の親孝行の話まで30分聞き続けて、もう固まっちゃいましたよ。
でもぶったぎっていいものかどうかがね――ああいう障害の人は意外とナイーブなところがあったりするので」

わかるわかると思ったが、Aさんは自分の番が来たとき、「私は話は聞かないよ」とわたしに宣言し、本当に聞かなかった。
「あ、あと、もうひとつ話したいことがあったんですけど」と言いかけると、「いいよいいよ、話さなくて」と言う。

このくらい確固としたポリシーを持っているのは、すごいと思う。「配慮は私の仕事じゃない」のだ。
Aさんにしてみれば、わたしは弱くて、授業もきちんとできないダメな講師に見えるかもしれない。

意識以外にもうひとつ、大きく違うところは、わたしは練習問題重視派、Aさんは講義重視派ということだ。

説明も重要だけど、あれこれ説明されてそのときは分かったと思っても、自分でやろうとすると忘れていることも多い。
実際にやってみないと感覚がつかめないものもある。

だからわたしはなるべく練習問題をする時間を多めにとりたい。

Aさんはほとんどが講義で、練習問題の時間は1つの章につき10分とか15分とか。
わたしなど30分くらいは最低でもとりたいのに。

これもどちらがいいというのではなくて、わたし自身が練習問題で自分は伸びたと思っているから練習問題派で、Aさんはたぶん、できるだけ多くの知識を伝えたいのだ。
わたしも説明を省くわけではない。ただ、説明したらあとは「習うより慣れろ」で、という考えなのだ。
Aさんは、角度を変えて説明したり、自分なりの説明や「ちょっとやってみましょう」をたくさん入れたり、また「ここは飛ばそう」ということもしない。
Aさんに言わせれば、「練習なんて自分でもできる。せっかくの講習時間は、講師がいてこそのことをすべきだ」ということなのかもしれない。
そしてそれも一理あると思う。

周りがどう思おうと、Aさんの講習に不満を言う人はいない。もちろんわたしも言われたことはない。
つまり、どちらがいい悪いということはないってことなのだろうけど、ついつい考えてしまうのだ。

話を「ぶったぎられ」ていた受講者さんだって、悪く思ってはいないようだった。

わたしはちょっぴり、「美人は得だ」とつぶやいてしまうこともある・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:あるとき、あるコースで 04

パソコン初心者で、かつ利き手が麻痺してしまって左手操作をしている甲乙さん、講習は大変だったと思う。

だけど、そんな甲乙さんも、少ーしずつ操作に慣れていった。
たった2週間ほどだけど、どんどん進歩していく。
今まで10秒かかって押していた1つのキーが、9秒で押せるようになっている。
それは5文字の単語なら、5秒短縮されるということだ。

最後の日は、セキュリティ知識を講義し、メールの使い方を学ぶという回。
意外とPCメールをやったことがないという人も多い。特に若い人は。
でも、そういう人たちも携帯でメールはしていたりするので、応用がきく。
当時は携帯だったが、今はスマートフォンがあるので、なおさら応用がきく。

もっと進みが速かったクラスの場合は、ビジネスメールについて少し話したり、ビジネスメールを作成する練習をしたりする。
でも今回は、それは少し触れるだけにとどめ、なるべくメールをやりとりしながら練習してもらった。
(たいていの先生が、状況に合わせて微妙に内容や説明を変えて講習をすると思うけど、わたしもそうしている。)

甲乙さん、この日は今までになく楽しそうだった。

メールアドレス表をあらかじめ配る。
教室内のそれぞれのパソコンのメールアドレスと、座っている人の名前が書いてある。
「教室内の誰でもいい」として、送信・返信の練習からしてみる。
いつもはテキストと同じことをするだけで精一杯なのに、「顔文字を入れたい」と自ら希望。

教室内を回っているとき、
「甲乙さん、ときどき受信トレイを見てみましょう。ここをクリックして・・・・・・あ、誰かからメールが来てるみたいです」
と言うと、「戊己庚くんからだ」といそいそ返信。同じクラスの人で、仲良くしているらしい。

楽しいことが一番の上達の早道だよね、とこちらまで嬉しくなる。
まぁ、もしかすると、「今日でこのつらい日々も最後だー!」と思って嬉しかったのかもしれないけど。

いろいろと至らないところが多い講習でごめんなさい、と心の中では忸怩たる思いもあったけれど、最後の日に楽しそうな顔を見せてくれてホッとした。
何も解決していないから、ホッとしている場合ではないけれど、やっぱり楽しんでくれると嬉しいものだ・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:あるとき、あるコースで 03

丙低さんのその後もお話しておこう。

丙低さんと甲乙さんは、最初のうち、タイを張る遅さだった。
ローマ字表を見ながら、1つ1つキーを押し、それでも間違い・・・・・・。

甲乙さんは女性だからか、講師が横にいることを嫌がらなかった。
男女差別をするつもりはないが、経験上、女性初心者にはサブ講師にすぐ来てもらいたい人が多い気がする。
むしろ、誰もいないと、「本当にここをクリックしてもいいのだろうか?」といった風情で固まっていることも多かった。

男性は――あまり講師がそばにいるのはできない人みたいで嫌と思う人もいれば、そういう意味ではなく自分で考えたいという人もいる。
もちろん女性にも、そういう人はいる。

それから男性の中には、呼んだらすぐ来るべきと思っている人がいて、自分が呼んでいるのに、たまたまサブがほかの人をフォロー中ですぐに行かなかったりすると、怒る人もいる。
もちろん、ほとんどの人はそんなことはなく、「ああ、あっちで質問に答えているな」と待っていてくれるのだが、たま~にいるという話を聞く。

丙低さんのほうは、最初の日、「これは遅い!」と気づいてよく回っていたら、帰りにBさんが言った。
「丙低さん、先生が横で見てると緊張して打てないっていうから、あまり近寄らなかったの」
そうだったのか、と、なるべく次の日から近寄らないようにしようとした。

でも、無理があった。
寄らないでいると、気が付いたら間違ったまま進んでいたり、勘違いをしていることがあったりしたのだ。
なるべくじっとせず、“全員見回ってます”風に通り過ぎながら、画面を確認することにした。

わたしは今回、前で進行する役だが、人数が多いので割とこまめに回っていた。
まあ、わたしはもともとメインでもちょろちょろするタイプなのだ。
たとえば、「では、ここまで入力してください」と言って、自分もそこまで入力し終えると、全員が終わるまで見回って補助したり。
誰かが手を挙げて講師を呼んでいるけど、フォロー役の人が他の誰かの補助をしている最中のときは、一瞬中断して自分が行くとか。
まあ、ケースバイケースだけど。

丙低さんに話を戻すと、そんなふうにして、なるべくストレスにならないよう見回ることにした。

歩きながらちらっと画面を見て、「あ」と思ったら、「ここはこうですよ」と指摘する。
なるべく冗談ぽく。
丙低さんは、そのほうが気楽に受け止めてくれるようだった。
わたしもこのテキストを使って講習すること、かなりの数になるので、いわゆる「チラ見」で何をしているか把握できる。

はじめのうちこそ、甲乙さんか丙低さんか、と常に操作追いつきラストを競っていたが、やがて丙低さんは慣れて、講師の手を離れていった。

Word、3日目くらいには、「ずいぶんスムーズに操作するようになられた」とBさんと話し合った。
Bさんの推測では、「前にやったことがあって、忘れていただけのものを思い出したのかしら」ということだった。
そういうこともあるかもしれない。
でもあのローマ字入力の困難と一本指入力は、前に使った感じでもないが――これは、分からない。
事故や脳卒中などで高次脳障害になると、いろいろなことを忘れてしまうこともある。
ご本人は初めてのつもりでも、以前もパソコンを使ったことがあるのかもしれない。

または、毎日やっているうちに、マウス操作に慣れたのかもしれない。
また中には、講師用の画面を見るとか、同じボタンを自分の画面で探してクリックするとか、そういった講習のやり方そのものになかなか慣れない人もいる。
それが慣れてきたのかもしれない。

丙低さんの隣の席も男性だった。
たまたま隣の男性が見かねて、「そこだよ、もっと右」など、サポートしてくれた。

操作がスムーズになるにつれ、丙低さんも冗談に答える余裕が出てきて、「そこ、こうですよ」と通りすがりに言うと、笑いで答えてくれるようになった・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:あるとき、あるコースで 02

30分くらいかけて、あれこれした復習が終わって、「名前を付けて保存しましょう」という頃になって、「○○先生、甲乙さん、今ようやくファイルを開いたところなんですけど、どうしたらいいですか?」とCさんに言われて愕然とした前回。

そんなこと今言われても、どうにもできない。
「もう各自練習の時間にするので、甲乙さんにも練習問題をしてもらってください」と言うしかなかった。

そしてその練習中に、また驚くことになった。

練習問題はたくさんやってもらいたい。あまり得意でなくて、なかなか進まない受講者さんには、適宜フォローを入れる。
そのときは、メインもサブも教室内を見回って、つまずいている人を助けるのだ。
どうすればいいか教えることもあるし、わたしは人によっては「テキストのここに載ってますよ」と教えることもある。
全部教わってしまうと覚えられなくて、また次に同じ問題をしてもやっぱり「どのボタンですか?」と聞いて終わってしまう人もいるからだ。

でもCさんには、あれこれ考えて対応してくれとまで言うつもりはない。
見回ってくれたら充分だ。

この回には甲乙さんがいて、いつも遅れ気味だった。
甲乙さんにこそ、たくさん問題をやっていただきたい。
でもCさんが既に甲乙さんのそばについていたので、わたしは他の人をフォローすることにした。

しばらくしてふと見ると、まだCさんは甲乙さんのところにいる。
しかも、たまたま空いていた隣の席に座り込んでしまって、2人でテキストを覗き込みながら話している。

――そりゃ、甲乙さんは初心者だけど、いくらなんでも!

練習している人は、その人以外にも10人15人といるわけだ。
それを1人で見回るのは限界がある。

だからできれば、上手に「フォローしたり、見回ったり」をしてほしいのだ。
やむをえない場合というのもあるが、それにしてもひたすら座りっきりである。

そこまでどっしりと腰をすえているというのに、練習問題は一向に終わらないように見える。
甲乙さんにたくさん練習してもらおうと時間は多めにとっていたが、たくさんできたとは思えない。

もういくらなんでも練習を終わりにして、次に進まなければならなかったので、わたしは2人に近づいていった。どこまで終わっているのか、確認しようと思ったのだ。

するとCさんは、「じゃあ、分からないところは○○先生に聞いてみましょうか」と華やかに微笑んで、受講者さんに言ったのだ。
受講者さんは「この問題が分からないんです」とわたしに言う。

ええっ!!??
今までいったい、何を!?

どうも、受講者さんが分からない問題を、「どうやるんでしょうねぇ? 考えてみましょう」とただにこやかに隣にいただけらしいのだ。

う~~~ん・・・・・・

もしご自分も分からないのなら、もっと早い時間にわたしを呼んでほしい。
確かにわたしも見に来なかったかもしれないけど、それは他の17人だか18人だかを全部一手に引き受けていたからだ。
同じ給料をもらっているのだから――!
(この職場はメインもサブもないのである。時給も待遇もまったく一緒。)

Cさんは2日だけで、その後Dさんに代わったが、代わってもらって本当に良かった。
最後までその調子では――

ただ、いつもはそこまで初心者という人は少ないので、これほど困らされたのはこの回だけだった。

Cさんは、男性の受講者さんにはとても好かれていた。
美人だったのだ。
いつも笑顔で、明るく優しそう。

なにしろ自分の笑顔の威力を知っているから――

と、わたしなど意地悪な気持ちも沸き起こってしまう。
わたしの笑顔にはそんな力はないので、ひがみだと受け取られても仕方ないが。

「どんな方がサブでも、それなりに教室を引っ張っていくのが理想のメイン」なんて偉そうに書いたことがあったが、こういう日もあったのである・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:あるとき、あるコースで 01

あるとき、あるコースが始まった。
いつものWordとExcelの基本的なことを講習する仕事だ。

なんと受講する人は、20人近くいた。
――たくさんいてくれたら、にぎやかでやりがいもあるってものだが、いつものBさんは途中から来られなくなるので、Cさん、Dさんと交代するはずだった。

始めてみたら、どうにもならないくらいゆっくりペースの人が2人いた。
これまでパソコンを使ったことがないという男性と女性だ。
女性のほうは、その上、利き手が麻痺してしまって、慣れない手で慣れないパソコンを使っているという困難がある。

女性を甲乙さんとして、男性を丙低さんとしよう。
甲乙さんはこのコースで一番大変だった人だ。
わたしも気を遣ったけれど、なにしろご本人が一番大変だったろう。

いつものように「Wordを使うのが初めて、という方はいらっしゃいますか?」から始める。
2、3人の手があがった。
「ありがとうございました。では、初めての方がいらっしゃいますので、ゆっくり進めます」

そうは言っても、今どきの人はWordが初めてなだけで、パソコンには慣れていたりする。
インターネットを見たり、ゲームをしたり、その他いろいろ使っていて、ボタンの位置さえ教えられればパッと操作できたりする。
それに昔の講習会の「Word初めて」さん達と違って、入力は普通のスピードでできる人が多い。
今はSNSやブログや掲示板などで、皆、入力に関しては鍛えられている。

ところが、始まってみると、甲乙さんと丙低さんは遅かった!
どっちが遅いか、カメの歩みを比べているかの勢い。
他の全員がとっくに終わっても、まだやっと5分の1くらいしか終わってないことも。
二人はローマ字対応表を渡されていて、それを持参している。
それでも「うけたまわり」を「うけtまわり」、「ばしょ」を「ばしゅ」などと、ミスしてしまう。
こういうのって、結構気づかないで変換してしまう。
ほかの人なら「あ、間違えた」とBackSpaceして入力し直すのも速いが、甲乙さんと丙低さんは――

あれ、どこが違うんだ?、と探すのにほかの人より時間がかかり、
ここが違う、けどどうするんだっけ?、と文字を消す方法に迷い、
もう一度入力するとなると、また時間がかかり・・・・・・
焦ると、間違っていないときまで「あ」と急いでBackSpace。
なぜそういうときだけ早いのだろう。

かと思えば、「Word初めて」と手を挙げていた若い男性は、飲み込みがよくてやたら進むのが早い。
その彼の後ろの席で、甲乙さんは四苦八苦してようやく数語入力していたりする。

甲乙さんの大きな問題は、これまで利き手だった右側が麻痺して使えなくなったこと。
わたしたちが左手でマウスを使おうとしても、大変だ。
それで、操作がとても遅くなってしまっていることが分かった。

その上甲乙さんは、それまでパソコンを使ったことがなかった。
まったく触ったこともないわけではないみたいだけれど、本当に触ったくらいのものらしい。
これがまた10代とか20代前半とか、若ければもっと大胆に操作するかもしれない。
けれど、「ここ? ここでいいの?」とおそるおそるクリックする感じ。

サブにまわったBさんは、つききり状態になることが多かった。
でもBさんは講師歴があり、やり方を把握している。
甲乙さんにつききりになりながら、ほかの人の画面をチラッと見回してくれているのが、前からでも分かる。
そして必要のないときは離れている。
このコースは慣れているので、「あ、ここはつまづきそう」というところでは、遅れがちな人の画面を見回ってくれる。
ところが、このときBさんは、都合でWordしか出られなかった。

Excelの始めの2日間のCさんは、普段PCインストラクターをしない方。
そのため、甲乙さんはちょっと取り残されがち。
練習問題をする時間に、わたしがつききりになって、ようやく追いついたりした。

2日目には、ちょっとややこしい「絶対参照」の部分に差しかかった。
テキストでやってみた後で、別ファイルを開いて復習することにした。
甲乙さんも丙低さんもいるので、丁寧にゆっくり、飽きるほどゆっくり開く。
ほかの人は飽きてたと思う。
「開くボタンをクリックしてください。Excelの画面左上の、ボタンが並んでいるところ。上のほうのツールバーにあると思います。左から2番目の黄色いフォルダのマークのアイコンです。ここのところです(と、講師用画面ではボタンのところをマウスで指している)。これをクリックしてください」
この調子でえんえん、フォルダからファイルを開くまで説明する。

さて、いよいよ開いて、練習。
「セルB2のフォントサイズを16ptにしてください(言いながら、講師用画面の説明用Word画面に入力。聴覚障害の人用だけど、操作が遅れた人もこれを見て進めているみたい)」
しばらく時間をおいて、
「できましたでしょうか? B2をクリックします(とB2を指して時間をおく)。上のほうに並んでいるツールバーの、フォントサイズのところ、今は11となっていますが、こちらの下向きの三角形をクリックします。一覧が出てくるので、16をクリックします。B2のフォントサイズが16になります」
こんな感じでずーっと繰り返していく。

Cさんは甲乙さんの後ろの空席に座っている。
特に隣で何か操作を教えているふうでもない――ということは!
甲乙さん一人で出来ている!?

それはすごい!

甲乙さんがついてこられるように、ゆっくり進めた。
セルを結合し、塗りつぶし、罫線を引き、合計や平均を出し、絶対参照を使って売上と構成比を計算。
「では、最後に『名前を付けて保存』をしてください。メニューバーの『ファイル』をクリックして・・・・・・」
と言っているところに、Cさんが近づいてきて言った。
「○○先生、甲乙さん今ようやくファイルを開いたところなんですけど、どうしたらいいですか?」

・・・・・・

どうしたらいいですかって・・・・・・Cさん・・・・・・
仕事してくださいよ・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 12.まるで素人

あるとき、全然別の講座をやっている人が、わたしたちのパソコンの講習にお手伝いにやってきた。

ちょっと経緯があるので、やっぱり一応説明しておきたい。
1.Aさんが急に体調をくずし、休職状態に(妊娠のためと判明)。
2.BさんがAさんの分をとりあえずカバーしたが、既に予定があって無理な月もあった。
3.誰か代わりをと探したが、見つからなかったし、わたしたちも紹介できなかった。
4.一般教養やビジネスマナーなどのコースを担当している女性講師が、紹介したらしい。
5.紹介された3人ほどが、Bさんが出勤できない日に交代でやってきた。(このうちの1人がEさんだった。)
6.その3人も出られない日があったとき、ビジネスマナー講師が自らやってきた。
7.これなら自分でもできる、しかも時給も良い、ということで(たぶん)、次からは毎回自ら来るようになった。彼女自身の出勤日と重なったときのみ、他の誰かが呼ばれた。
(職場側は「代理の人を1人お願いします」と依頼し、誰が出るかはビジネスマナー講師が決めていたらしい。)

だけど、わたしには異論があった。

「これなら自分でもできる」というのは、わたしに負担をかけているからだ。
「いや、あなたはできていない」と、わたしには納得のいかない気持ちがあった。

この方、Cさんとしておこう。
Cさんは、やはりPCインストラクターではない。
でもそれは仕方がないのだろう。誰もいなかったから、「とにかくいないよりましでしょう」と来てくれているのだから。

と、最初は思ったのだが、毎回毎回この方が来るようになり、さすがにわたしも困った。
誰もいないとき1回や2回は、どんな人だって仕方がないと我慢する。自分でその人の分まで仕事をする。
でも「自分が出られるときは必ず自分、出られないときだけ他の人」となると、「他の人のほうにしてください」という思いがむくむくと――

他の人のうち、数日間だけやってきてその後来なくなった人は、まあこの方も負けず劣らず何もしてくれない素人さんだったが、そのときだけで終わったからいい。
もう一人のDさんは、普通に仕事をしてくれたので、できればDさんが良かった。
なんならEさんでも、Cさんよりはいいと思った。
なぜなら、Eさんには「こうしてください」と言えるが、他の分野で名を成してコースまで担当しているCさんには、あれこれ指示もしにくかったからだ。

Cさんはずっと座っている。手が挙がったら行けばいいと思っている。
――あなたは素人か? と意地悪な気持ちがわく。少なくとも教養講座ではプロなのだろうに、想像がつかないのだろうか?

さらに手が挙がって行っても、パソコンに詳しくないので教えられない。
――だからあなたじゃなくて、他の人をよこしてほしい。と思ってしまう。

もうひとつ言うなら、講習中はどこをやっているか聞いているべきだ。慣れていない人ならなおさら。
進行しているメインの話を聞いていたら、そして自信がないなら自分も空いているマシンで操作していたら、つまずいた人がいたときちゃんと教えられる。

Cさんがどこかの席に行って、でもどうやら教えられないらしく、時間がかかっている。
わたしはその人が追いつくまで進行を止めて待っている。
でもなかなか終わらない。
Cさんはテキストを手にとり、画面とテキストを何度も見比べたりしているが、どうもどこでつまずいたのかも分からないらしい。
――こうなってしまうから、慣れていない人は、手遅れになる前に教室内を見回るべきなのだ。そうしながら、ちゃんとメインの話も聞いておけば、サブで基礎編なんだから慣れてなくても大丈夫。

でも、これって、教わらなくてもだいたいの人はできることだと思うよ?

あまり時間がかかると、結局はわたしがその席まで行ってフォローする。
ただ単に1つ前の操作を聞き逃してしまっただけ、という状態を見て、いくらなんでも――とフォローの仕方に不満を覚える。

覚えるが、言えない。

Cさんは一般教養やビジネスマナーを教えているが、「私はパソコン講習のサブもよくやるんですよ」とおっしゃっているからだ。
「一度なんて、メインの先生がお年を召した方で、プロジェクタが見えるように照明を落とすと目がショボショボしてテキストが見えなくて、ほとんど私がメインとして講義したんですよ」とまでおっしゃっていたからだ。

とてもわたしなどが「こうしてください」と言えるものじゃない・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 11.エンターテナー

エンターテナーなインストラクターというのが存在する。

そんなことを言い出したのも、Eさんの話し方は「とつとつ」といった感じだったからだ。
平坦でメリハリがない。

でも、わたしもそれほど緩急や高低をつけてインパクトのあるメインではない。
冗談も言わないし。

Aさんも平坦なほうだ。
最初にサブをしたときは、違和感があったくらいだ。
イロハPCスクールの先生たちとは違ったからだ。

派遣で様々な講習会にも行き、別格にエンターテナーな先生も幾人か見た。
もちろんそういう方々は特別だ。

まあ、これが最初というEさんや、あまり講習形式のメインに慣れていないらしかったBさんは、この際除く。

わたしも除いておこう。

大手パソコンスクールで正社員勤務を何年かしていたというAさんにしても、エンターテナーとはほど遠かった。
その意味ではイロハPCスクールの黒部先生や榛名さんや本栖さんのほうが、はるかにメリハリのある華やかな講習をしていた。

それというのはつまり、講習会と学校授業方式の違いなのかもしれない。

講習会は舞台みたいなもの。
毎回毎回「最高の舞台を見せるのよ!」とモチベーションを上げて臨むもの。

学校の授業なら、華やかさや面白さはそれほど求められないだろう。

つまりわたしも、そこで長くやっているということは、平坦型が当たり前になっているのだろう。
――まあ、わたしにはエンターテナーの素質はないから、たぶん講習会ばかりやっていたってなれないだろうけど。

エンターテナーになりたいとは思わないまでも、少しは気をつけて、ときには初心を思い起こすことが大切だと思った。

Eさんには災難だったかもしれない。
インパクトに欠ける講習を見過ぎてとつとつとしたしゃべりになってしまって。

――でも。
わたしはそういえば何度も言ったんだっけ。
多少時給が安かったり、時間が短かったりしても、いろんな仕事をしていろんな先生を見なさいって。

別にわたしのせいじゃないか・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 10.強いて言うならそれが素質

その頃は説明用にテキストをWordなどのソフトに入力していた。

そこには障害のある人たちがやってくるので、口で説明しても聴覚障害があると聞こえない。
そこで話したことをパソコンで入力する。
講師は、しゃべるし入力するしで大変なのだ。

わたしは自分用に入力したファイルを作って活用することにした。
①セルB1をクリック
②=を入力
なんていう操作部分まで入力していると、受講している人が飽き飽きするくらい時間がかかるからだ。

するとBさんが、誰がメインをすることになってもいいようにそのファイルをくれと言う。
「自分用に作っているから、テキストとまったく同じではないので」と言ったが、それでもいいと言う。

そうは言っても、いざ使い始めたら「やっぱりテキストと同じがいいと思うわ」「だから最初から言ったでしょ」となりかねないと思ったので、全員用のを作りましょうと提案した。
サブが手の空いているときに作ることにした。
終わらなければ、次の回サブをする人が引き継ぐ。

最初の年はBさんとわたしが作成し、次のテキスト入れ替え時はEさんが作成した。

説明には画像も入れた。
「コピーボタンをクリック」と書くより、ボタンの画像を入れて「(コピーボタン画像が貼ってある)をクリック」と書いたほうが分かりやすいと思われたからだ。

Eさんは熱心に作ってくれた。
熱心すぎて、「サブの仕事が優先ね」と言ったほどだ。

インターネットで一生懸命ボタンの画像を載せているサイトを探していたけど、何もかもすべて出ているわけじゃないから、プリントスクリーンした画面をペイントで切り取って使ったほうが早くない?

Eさんが「他の先生たちはどうしてるんですか?」と聞くので、「やっぱりペイントだと思う」と言った。

インストラクターはマニュアルらしきものや説明資料を作ることがよくある。

それでもEさんはできれば説明サイトなどを利用したかったようだ。
確かにそのほうがきれいに切り取られた画像だ。
でもそんなに必死に作らなくてもいいのだ。
ただの入力省略用なのだから。

使いたい画像全部が見つかるわけではないので、最終的にはEさんもプリントスクリーンで必要箇所を切っていたようだ。

「だいぶできました?」
「3章はだいぶできましたけど、すごく重いんですよ」

――?

「ボタンのところとか全部画像だから、そりゃ重いかもしれないけど、そんなに気になるほど重くはないと思うけど」
「でもすっごく重いんですよ」
と、ファイルのプロパティを出して見ていた。

「ファイルの圧縮もしたんですけど」
「多少重くても使って支障がないレベルなら、もうそれでいいですよ」
前のテキストのとき作ったものは、使うのも不便というわけではなかったから、わたしは適当に流そうとしてみた。

「ええ――」
と彼女は納得していないようだったので、「どのくらい重いの?」とファイルを開いてみた。

すると全然開かない。
開きかけてぐるぐる砂時計が回ったまま、ずーっと変化がない。
ようやく開いたと思ったら、スクロールするのもやたら遅くて全然ファイルがうごかない。

これは重いわ。

「画像の圧縮は2回してみたけど、すごく重いんですよ」
――そうなんだ。そんな機能があるのか。
この人、意外に知識があったりするのよね。

それにしてもこんなに重いのはなぜなのか?
プロパティで以前のものと今Eさんが作っているものを、それぞれ確認して比べてみると何倍どころか桁が違う。

わたしの能力では原因の特定ができないが、でも何かあるとすればボタンなどの画像だろう。
文字データでこんな差がでるとは思えない。
皆で使うのものだからシンプルに、って書式もほとんどつけていないのだ。

ためしにボタンの画像をコピーして、他のファイルに貼ってみた。
1つだけにしてサクサク動くなら、画像が重いってことだ。

すると、ボタンの絵じゃなくて画面全体のスクリーンショットが、ベローンと表示された。

「この画像どうやって取り込んでる?」
「トリミングでその部分だけにしてます」

それだ! たぶん。

「トリミングはそう見せているだけで、実際に画像を切り取ってしまっているわけじゃないから、ファイルサイズとしては大きい画像がやたらたくさん貼られてることになっちゃってるんですよ」
――いや、わたしもトリミングのことを深く考えたことはないけど、そういうことだね。たぶん。

「やっぱりペイントでやるほうがいいと思いますよ」

このことは、知らなかったことを指摘しているのではない。
わたしもはっきり認識していなかったし、後で話したBさんだってそうだった。

おかしいと思って画像の圧縮とやらはしながら、解決できなかったことだ。

つまりインストラクターはそんなに物知りではないことも多いのだ。
中には、元ネットワークのスペシャリストでプログラムもできてハードにもめちゃくちゃ強い、なんて人もいるかもしれないけど。まあ、あまりいないだろう。

でも何か不具合があったときは、何らかの対処をしなくてはならない。
「思いつく」っていうことも、素質なんだと思ったのだった。

わたしはパソコンセンスがあるほうではなおが、そこは経験によって少しは補われる。
知識がつくということとは別に、見当をつけやすくなっていく。
「センス」はなかなか磨けないが、勘が少しは働くようになるのだ。

彼女は自分でいろいろな設定もするし、このエピソードのときもう働き始めて3年くらいは経っていたが、いろんな場面で「思いつく」ことができなかった。
この日に限らず。

それはなかなか――先の道のりが長いことだと思ったのだ・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 9.Eさんは、やっぱりEさん

Eさんはその年、「たぶん今年いっぱいで辞めると思います」と言っていた。
せっかくメインデビューを果たした年だったのに、それはまるで最後の花道みたいになってしまった。

でもわたしは、どうやら彼女はもうライバルではないらしいと分かったので、鷹揚な気持ちで見守ることができた。
今となっては、彼女もそれなりにやりやすい。
年上だからとこちらが気を遣わなければならず、またあちらもサブであっても親しさからわたしに意見なさるようになっていたBさんよりも、Eさんのほうがやりやすかったかもしれない。
そんなふうに思うようになっていた。

EさんがExcelでメインをしていた。
何度目だったろう?

手順を追ってみよう。
下のような表があって、問題は以下のとおり。

ちなみにこれは練習問題。
「間違いやすいところを一緒に確認しましょう」とわたしもするので、Eさんもしていた。
しかも彼女はちゃんとこの部分用にPowerPointを用意してきている。

1.セルF3に東京支店の合計を計算します。
2.セルF3の数式をF6までコピーします。

zu_hyo_03.png

F3に合計を求めたら、その数式をフィルハンドルをドラッグして、下までコピーする。

zu_hyo_04.png

でもこれは、数式だけじゃなくて、書式もコピーされてしまう。
「塗りつぶしの色はなし、太線もなし、太字もなし」っていう書式がコピーされて、
最後の行の合計にもそれがコピーされてしまった。合計行は太字で緑の塗りつぶしなのに。

zu_hyo_05.png

だから、「オートフィルオプション」というボタンをクリックして、「書式なしコピー」というところをクリックする。
このボタンは、オートフィルコピーをすると右下に表示されるものだ。

zu_hyo_06.png

すると、ほぉ~ら! ちゃぁんと数式だけコピーしましたね!

という説明をする――

さらにEさん、常に「やる気!」だから、別の説明も付け加える。
わたしはあえて説明しないところだ。
そこを付け加えているのは、彼女なりの考えがあってのことで、オリジナリティなのだろう。

zu_hyo_07.png

オートフィルオプションというボタンは、次の操作を何かすると消えてしまう。
そうなってから「あ、書式ごとコピーされちゃってた」と気づいたら――

zu_hyo_08.png

この「書式のコピー/貼り付け」ボタンを使いましょう。
隣のセルをクリックして、「書式のコピー」ボタンをクリック。
これで隣のセルの書式がコピーされましたから、白くなったG6をクリックして――
また「書式の貼り付け」ボタンをクリック。

「こうすれば戻りますのでね」とやってみせる彼女。

zu_hyo_09.png


あ、惜しい!

確かにそれは「書式」をコピーするボタンだが、やってみるとなぜか太線だけはコピーされないのだ。
だからわたしは説明しない。太線は別途つけなければならないからだ。
「このボタンをクリックすると、太字と緑の塗りつぶしはコピーされましたが、なぜかセルの上の太線はコピーされません。
太線に関しては、上のセルを選択して、罫線ボタンから「下太罫線」をクリックして設定してください」
とまで説明するのは、単なる練習問題の中のほんの1問についてなのに、長すぎる。

それを言っちゃったか。

しかしこういう細かいことは、ベテランの人だって知らないことがたくさんあるから、別にいけないことではない。
「あ、罫線だけはコピーされませんでしたね。罫線はこうやって太くしてください」
と落ち着いて付け加えればいい。
で、次からはそもそもこのボタンを紹介しないか、もっとうまく説明するかすればいい。

わたしはまさに上から目線で、「大丈夫、間違ってるわけじゃないから」と心の中で鷹揚なつぶやき。

――そうしたら!
「はい、これで隣のセルと同じ書式がコピーされましたね。こうやって直してください」

え!? え!?

明らかに線が違うのに、今この場で自分の操作している画面を見ていても気づかないなんて、
それは間違っている!! それは間違っているよ、Eさん!!

だって、わたしたちは、「終わりました」と言われたら、見比べて
「あ、ここが太字になっていないですね」「ここの線が太線になっていないですね」
って注意する側の立場なんだよ?

気づきもしないで「はい、できました」って、それは――もっと大きな意味でダメだよ・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 8.でもやっぱりEさんはEさん

メインデビューを果たしてから、Eさんはサブとしても少し成長した。
それにEさんが講習を進めていく中で、「これはうまいな」と思う説明もいくつかあった。

Eさんを見直さなければならない、と思った。
この人はメインのほうが向くのかもしれないなぁ、とも思ったり。

でもやっぱりEさんはEさんだ、という一面もあった。

あるとき集まっていたのは、脳や記憶に障害のある人たちだった。
本来の担当の先生から「たぶん、進みは遅いと思います」と初日に伝えられた。

たとえば、高次脳機能障害だったりすると、前に覚えていたことも忘れてしまっている人もいる。
記憶力に障害が残って、今日習ったことも、明日は忘れている、明日もやっても明後日はまた忘れている、という人もいる。

サブとしてはEさんもそういうコースを何度も経験済みだ。
言わなくても大丈夫だろう。メインをやっている人に、余計なことは言わないほうがいい。
メインに合わせるというのも、サブの重要な仕事だからだ。

でもEさんは、トコトコと講習を進めて行き、特にゆっくりでもなかったので、遅れる人が続出した。
わたしとしては「できない」とは言いたくなかったから、とにかく一人でクラス全体をフォローしようとやってみた。

でも限界ってものがある。

何かひとつ操作するたびに4人5人が遅れたとして、わたしが1人2人3人4人とフォローしていたら講習が全然進められない。
フォローもまた、「ここをクリックしてください、次はここをクリックしてください、そうしたらここをクリックです、OKです」とすばやく進められない。
たとえば事故や脳梗塞などで右手に麻痺が残り、年をとってから人生初の左手マウス、左手一本指入力、という人もいる。
早口で言われても意味が分からないので、ゆっくり丁寧に説明しなければならない人もいる。

Eさんはどうやら、わたしがフォローをしている間は進めずに待ってくれているようだった。
実に長い時間、静かに待っている。Eさんも、他のできている受講者さんたちも。

わたしはあまりに待ち時間が長くなるようなら、メイン席から会場にまわって、自分もフォローをしたりするが、Eさんはただじっと座って待っていた。
きっと忘れちゃったんだな、わたしがそういうふうにしていたことを。
Eさんはもともと、何かを注意しても、次のときや、次とまではいかなくても3回後くらいのコースになると、すっかり忘れている人だった。

それにしても、これほど多くの人がつまずき続けているということは、進め方が早いっていうことだよ?

自分が楽をしたいというのでは決してないが(と思いたいが)、受講者さんたちも遅れっぱなしか、または待ちっぱなしでまずいだろう、と考えた。
そこで「メインに合わせる」の禁を破って、Eさんに言ってみることにした。

「Eさん、あんなに遅れる人がいるってことは、ちょっと進みが速いのかもしれない。
今回、こういった障害のあるクラスを進行するの、Eさん初めてだから感覚がつかめないのかもね。
もう少しゆっくり進めてみたほうがいいと思うんだけど――」

Eさんは「ああ~、そうですよね。分かりました」と素直に聞いてくれた。

でも一向にゆっくりにならない。
だから遅れる人も続出しっぱなし。
さすがにわたしも、「あまり遅れる人がたくさんいたときは、あなたもフォローして」とは言えない。これはやり方の問題だもの。人それぞれポリシーがある。

全然ゆっくりになってないじゃん! どういうこと!?

「Eさん、ゆっくりやってる?」
「ええ、一応ゆっくりやろうと思ってます」

――?

「ゆっくりやるっていうのは、たとえばクリックするボタンにマウスを合わせて見せるでしょ。それを5秒のところ10秒置いておくとか。
しゃべり方をゆっくりにするとか、次に進む前にひと呼吸置くとか、そういうことだけど?」
「ああ、そうなんですか!? 私はゆっくりやるって、間延びさせてやるってことだと思ってました」

たぶん、彼女の言う「間延びさせる」とは、こういうこと。
早く終わってあまりに時間が余ってしまったら、テキストに載っていない関数などをサービスでやることがある。――わたしは。
そういうことがないように、早く終わりそうでも間に繰り返し説明を入れたり、同じような練習を即興でやらせてみたりして、時間をつぶすってことだと思う。

――違うかもしれないけど。

とにかくあまりに面白かったので、大笑いしてしまった。
「Eさん、違うよ! 間延びさせてやるだなんて、Eさん面白すぎる!」

Eさんは厳しい言い方をされなければ気にならない人なので、一緒に笑って「えー、だってそう思いましたよ」と言っていた。

いや、まさか・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 7.お手本を見せる

Eさんがメインデビューすることになり、そのときわたしはサブをした。

よく「サブってこうあってほしい」と彼女に言ってきたし、適当な仕事ぶりで良しとするわけにはいくまい。
慣れた職場のことだからそんなに気張る必要はないけれど、後輩だからいいや!と怠けてしまうことは避けようと考えた。

わたしが理想とするサブはあまり目立たないこと。

受講している人の進行状況は適宜見守っているけれど、ぐるぐる教室を回らなくてもいい。
後ろから見ていてもだいたい分かる。

細かいところまでチェックしておきたいときや、間違えやすそうな箇所をやっているときは、見回るようにしている。

できるだけ進行が滞らないようにするには、適宜受講者画面をチェックして、溝が深く広くならないうちにフォローすることが大切だ。
教室内を回っていなくても、必要に応じて立ち上がり、後ろのほうから画面を見る。

Eさんもよく教室内を回っていたが、何を基準に回っているのか分からなかった。
「そろそろ見回りに」というパトロールみたいな意味だったのだろうか。

でもポイントを抑えて回ればそれで充分だ。
サブは退屈するという欠点もあるが、仕事量が少ないという利点もある。

ただ適宜受講者画面はチェックして、見回りポイントを逃さないようにする必要がある。
「今、つまずきやすい箇所に差しかかった」というのは片耳で聞いていれば分かるが、誰かがつまずいているとか、なんとなく全体に退屈しているらしいとかは、見ないと分からない。

最小限の動きで効果的にクラスをまとめておく。

あとはのんびりしていればいい。

テキスト外のことをやっているな(なら注意しとかないと、誰かがつまずいたときフォローできないな)、――とそのくらいは把握しておくべきだけど。

休み時間になったら、サブ役が教室のドアを開ける。
授業が始まったら、閉める。

どうやってもいいのだけれど、「邪魔にならない」という観点から、わたしは廊下から開けたり閉めたりする。
教室の後ろの扉を開け、そのまま廊下に出て、廊下を歩いて前の扉まで行き、廊下側から前の扉を開ける。
始まるときも、廊下を使う。

必要のないときは、なるべく受講者さんの目につくところをウロウロしない。
それが黒子の美学。

Eさんはそれまで、どちらかというと逆だった。
サブしかしなかったから、そういう機会がちょっと心地よかったのかもしれない。

ずっと黒子でいるのってつまらない。
歩いていくと「あれ?」と人に見られているのが、ちょっと快感だったりする。
注目を集めるっていうか――

そういうところは、フライトアテンダントとか、新車発表会のコンパニオンとか、そういった華やかな職業と通じるものがあるんだと思う。
もちろんあんなに華やかじゃないんだけど、ほんの少し通じるのだ。

で、Eさんは、後ろの扉を閉め、皆が席に着いて静かになっている中を、ずーっと前まで歩いて行って前を閉める。
壁ぎわに通路がないので、机の間を抜けて行くのだ。
開けるときは、まだ静かなうちに前まで歩いて行って注目を浴びながら開け、それから後ろに戻って後ろを開ける。

誰か来ていない人がいると、大注目の中、メイン用机の横にある内線電話で事務室に電話し、「××さんが来てませんけど、お休みですか」と聞く。
これは気づいてすぐにやめてもらったんだけど。
目立たないっていう話じゃなく、忙しい事務の人に欠席者の確認をしてもらうのはどうかと思ったから。
最後まで来なかったら「休み」と記入すればいい。
わたしたちの役目はそこまでで、出欠席を把握したり、欠席なのか遅刻しただけなのか、などの管理は正規の事務員さんたちの仕事なのだから。

そんなEさんだったが、このメインデビューのとき以後は、わたしの真似をして目立たないように扉を閉めるようになった。
――お手本を見せたのが良かった? 最初から口で言うのじゃなくて、彼女にメインをやらせて手本を示すべきだった?
まあ、でもそれはやっぱり、わたしのせいじゃない。

それに、メインもやるようになってそれで満足感を味わえるから、だからサブのときは目立たなくても気にならないということもある。

まぁ、とにかく、やりやすくなった・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 6.どんな人の講習でも勉強になる

なかなか人の気持ちや場の空気を汲んでくれないEさん。
それはインストラクターにとって致命的ではないかと思うが、それでもわたしと共に何年も働いてきた。

我慢はやがて実を結ぶ。
最初の年はほんの1週間くらい、次の年もその次の年もそれぞれ2日とか5日とか微々たる出勤日数。
それでも辞めずにいたところ、あるときAさんが第2子を出産することになり、穴が空いた。
Eさんはそこを埋め、日数は一挙に増えた!
やがてBさんが「もう少し出勤日数を減らして、趣味に力を入れたい」と言い出し、またEさんの出番は増えた。
2年後か3年後、Aさんが戻って来たときも、もはやEさんの取り分は減りはしなかった。

そこまで来たので、これ以上ごねてはまるで小姑だ。
わたしはEさんに「まだ約束の他の職場でのサブは経験してないという話だけど、今年から交代でメインをやりましょうか」と告げたのだった。

Eさんは頑張り屋ではあった。

説明するべきことは、とにかくすべてPowerPointにして用意してきた。
さらに喋るつもりのことをびっしりと入力した紙を印刷して、それを見ながら講習を進めた。

「交代でやりましょうか」と言ってから、わたしがメインをしているときのEさんはとても真剣な顔をしていた。
そして時々、すごい勢いでカチャカチャカチャ!とキーボードを叩いていた。

――説明の仕方を真似ようということだね?

それにしても、これまでずっと一緒にやってきているのだから、今さら必死で聞かなくてもわたしのやり方も説明も、嫌というほど知っていそうなものだが。

このことについては、たぶん言わないと分からないと思ったので、まだ彼女の番が回ってこないうちに、帰り道に言っておいた。
「自分が進行するとなると、いろいろと思いつくことがたくさんあるでしょう?」
「そうですね」
「Eさんももう何年もサブをやってきたのだから、その経験を生かして、ここはよく皆がつまずいていたなとか、ここの説明はいつも皆分かっていないようだったなとか、組み立てるといいと思いますよ」
「そうですよね」
「サブのほうが後ろから見てるから、そういうことがよく分かるし、メインをやるときに絶対役に立つものですよ」
「やっぱり、メインだけやってちゃ分からないことってありますよね」
「そうそう。いろいろなところでサブをすれば、いろいろな先生方の説明の仕方とかも参考にすることができるし。
わたしの説明でも、Eさんから見たら、ここは分かりにくいなというところもあるでしょうから、Eさんなりに分かりやすい説明を考えたらいいですよ。
でもいろんな先生の講習を聞くのは勉強にはなるけど、真似をしたり、同じ言い方をしちゃダメですよ?
それはその先生が苦労して考えたり組み立てたりしたものだから、ね。
いないところでは分からないかもしれないけど、ご本人がいるところや、共通の知り合いがいるところで真似をしたら、失礼だし、気を悪くされちゃいますもんね。そこは気をつけたほうがいいですよ」
「ああ~」

そのようなことがあって、ついに迎えた彼女のメインデビューのときは、どこやら他のところで聞いたり読んだりしたらしい説明が満載だった。
いくつかは「彼女自身が考えたものかな」というのもあったが、「これは絶対どこからから持ってきたな」と思うものも多かった。
別にそれは悪いことではない。
誰だって人の技を盗んで成長していくのだから。
今はインターネットでも大勢がExcel講座のようなものをやっているので、手法や言い方のサンプルはいくらでもある。

彼女が熱心に作成したPowerPointを見ていて、なるほどと思うところもたくさんあった。

本当は何かしら操作をして実例を見せたいけど、ちょっとやってもらうのは面倒だ、とわたしが諦めていたところで、彼女はまさに操作をさせていたり。
そういうところが2ヶ所あった。
これは彼女の発案かもしれない。思ったよりやるなぁ、と感心した。

わたしは少し、彼女を甘く見すぎていたかもしれない。

というか、彼女は気配りが要求されるサブより、なんだったらどっかり座って自分のペースでただ喋っていればいいメインのほうが、合っているのかも?

メインをやるとなったら、わたしもAさんもBさんもかなわないほど、熱心に資料を作ってもきた。
(Cさん、Dさんなどはメインをしなかった。)
彼女は、頑張り「過ぎ」、やり「過ぎ」てしまうことはあっても、怠け者ではなかった。

Dさんも一度だけ――コース1つではなくて、本当に1コマだけ、やってもらったことがあった。
Dさんは、Eさんと比べて、わたしは買っていた。
何も言わなくても教室内を見回ってくれたし、手の空いたときに次にやる練習問題をそっとやってみたらしく、休み時間に「ここの問題ができなかったんですけど、どうやるんですか?」と質問してきた。
練習問題をしてもらうときは、わたしたちは二人とも教室内を見てまわっているから、誰かに質問されても大丈夫なようにと事前に見ていたようだ。
これはインストラクターとしては大切な心構えで、よく気がついてデキる人だと思った。
だから彼女には、かなり早い時期に1コマだけやってもらったのだった。
その後機会があれば、メインをしてもらってもよいかと思っていたが、そこまで行く前にご主人の転勤で辞めてしまった。

Dさんのほんの1コマの講習も、「ああ、なるほど」と思う説明があった。
それはインターネットセキュリティの授業だったので、わたしにとってそれほど得意でない分野なので、なおさらだった。

誰の講習でも、「その言い方はうまい!」と思うことがある。

でもたとえばAさんは、わたしのやり方と同じことは絶対しない。
それはわたしへの礼儀というより、プライドによるものだとは思うが。
わたしのほうも、Aさんと一言半句同じ言葉で説明するなんてことは、控える。
真似され、盗用されたら、いい気持ちがしないだろうと思うからだ。

でもその場にいない人のやり方は、かつてのイロハPCスクールの先生方や、後輩のDさんEさんや、いろいろな人のものを参考にさせてもらっている。
自分なりにアレンジしたりはするが、かなり参考にさせてもらっているものもある。

あしからず・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 5.正直な人

Eさんにとって、わたしはとても小姑的だったかもしれない。
Eさんからしてみたら、いつまでもあれこれと注意して、本当にうるさい存在だったかもしれない。

わたしはEさんに対して、最初は何も言わなかった。
あるとき、これでは仕事にならないと限界が来て意見するようになり、目に余ることがあると帰り道に注意した。
わたしも口うるさくて悪かったかもしれないが、Eさんのほうもわたしを立ててくれたわけではない。

たぶん、Eさんは損な人なのだ。先輩には上手にお世辞を言っておけばいいのに、たぶん気づかない人なのだ。
――それともわたしが嫌われていたのだろうか?

受講者さんに対しては、機会があればコミュニケーションを持とうとしていたし、優しくしようとしていた。
でも一緒に働く人や、自分をどこかで推薦したり誉めたりしてくれるかもしれない先輩にも、同じように心を配ったほうがいい。
これはたぶん、生き残っていくインストラクターなら誰でも知っている極意だと思う。
仲間内、あるいは雇っている派遣会社やスクールの担当者に、悪い評判が伝わらないようにするのも、ある意味仕事の内だ。

たとえ「この人、ベテランて言ってるけど、たいしたことないな」と感じる相手だって、持ち上げておいて損はない。

もちろんEさんが何もしなかったわけではない。
でもそれは、どうも「ハートをわしづかみ」とはいかなかった。

前回語った、参考までに受けたExcel講座の先生に難しい質問をした、と得意そうに話していたこともひとつ。
わたしに得意そうに話すのはいいが、たぶんExcel講座の先生もその場で、「この子、難しい質問をして、どうだ!と得意になっているんだわ」と思ってしまったことだろう。
本人は「場を盛り上げるため」と言っていたけど、それでは下手をしたら、他の人たちまでインストラクターへの不信感を募らせてしまうかもしれず、それこそ難しい問題である。

わたしに「これはどうやったらできるか?」と聞いたときもそうだ。
わたしはあなたに教える義理はないのに、時間を割いて考えてあげたのに、そのそっけない態度は何? と思われても仕方ない。

わたしは怒ったわけではないのだけど、なんというか、盛り上がりはしなかった。
お世辞で持ち上げてもらうことを期待していたわけでもないのだけど、ただ――盛り上がりはしなかった。
つまり、予期せぬところで「まあ、嬉しいことを言ってくれる」と喜ばせてくれると、そりゃやっぱり嬉しいよな、ってことだ。

Eさんは、できればたくさん出勤したいと希望していた。
他にも講座があるなら、今やっているものばかりでなく、そういうのも担当したいと願っていた。
コースの数は決まっているから、わたしにとって彼女は枠を争うライバルだ。
まだそこまで成長してはいないけど、いずれそうなるかもしれない――心穏やかではいられない若手だ。

そういう関係の相手にはなおさら、無邪気に装っておいたほうがいい。

わたしは派遣会社から講習会にサブで行ったときは、メインインストラクターには「わたしなどサブのほうが気楽です」という顔をするよう心がける。
「あなたのライバルになる気はありません」「あなたの仕事を奪う気はありません」というのが伝わると、相手の心も和らぐ。

でもEさんは、なんとわたしに言うのだ。
「○○先生が担当している別の講座、あれは時間数が長いんですよね?
時給はどのくらいなんですか? 今やっている講座より高いですか?
一日に4時間で帰るより、たくさん働けたほうがいいですよね」

――狙っているのね?

「来年は、できれば毎回出たいって希望を言ってみようかと思うんですよ。
そうでなければ生活が苦しいから辞めるしかないって伝えてみるつもりなんです」
――毎回出るということは、あなたとシェアしているAさんとBさんはゼロになるっていうこと?
「そういうわけじゃないんですけど」
――じゃ、わたしの取り分を狙っているのね?
「いや、○○先生はテッパンだから」
――じゃ、どういう意味?

こういうことをわたしに言うというのは、加勢してほしいという意味なのだろう。
話が出たときに、「Eさんはよくやってくれるから」とか「Eさんがいないとシフトが埋まらなくて困りますよね」とか、陰や日向で加勢する。

でも、わたしの座を狙っている人に加勢するかっていったら、あまりしない。
お人よしの人でも熱心にはしないと思うし、わたしは心が狭いのだ。特に収入がかかっているときには。

でもEさんもEさんなりにわたしを持ち上げてくれたりする。

この大決断の前の年も、Eさんは「もっとたくさん出たい」と希望していた。
「○○先生は、どのくらい出勤するんですか? 毎回ですか?」
「そう。一応ね」
「○○先生は大丈夫ですよ、信頼されてるから。――○○先生は、休まないから」

――え?
わたしの価値って「休まない」ことだけ!?

それはちょっと――もうちょっと何か社交辞令を付け加えてもいいのじゃないだろうか?

腹が立つというより、面白かった。

Eさんはインストラクター派遣会社の養成講座を受けた。
その後、仕事はしたかと聞いてみたけど、いつ聞いてもしていなかった。
小田原とか宇都宮といった、片道2時間以上かかるような場所での講習とか、やり手がいないような案件はメールが来るらしいが。
それはわたしにも来る。でもできない。彼女もわたしも。

「でもインストラクター以外の仕事は、結構回してもらってるんですよ」
一般事務とか、その他の軽作業とかだ。
夜間のパソコンセッティングなどもずいぶんしたそうだ。

そういうことを聞いていたので、苦笑した。
そりゃ、上手にお世辞のひとつも言えなきゃ、インストラクターの仕事、来ないよ・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 4.立てるべき先輩方

Eさんは頑張り屋ではあった。

PCインストラクターになりたいというので、とにかく経験を積んだらと進めた。
その頃はまだ彼女に対して、同じ立場なのに先輩面して教えるのもどうかと思って、遠慮していた。
でも全然、察してくれないので困ってもいた。
どこかで磨かれてきてくれないかなあ、と虫のいいことを考えていたというのもある。

しかしなぜか、Eさんはどれほど進めても、結局、他では一度もサブをしたとは聞かなかった。
わたしは何度か「サブを経験したら、きっともっといろいろ分かると思うから、どこか他でサブをやったら、交代でメインをするようにしましょうか」と提案していた。
Eさんはメインをやりたがっていたから、サブをしたら絶対言うと思うのだが、言わなかったし、聞いても「あまりサブの仕事が来ないんですよ。メインの依頼ならよく来るんですけど」と答えるばかりだった。

本当にメインの依頼なら山のように来ていたかどうかは、知らない。

どうも他の場所でサブをすることには抵抗があるようだったが、やる気がないわけではなく、わたしが教えた派遣会社2社に登録に行っていた。
ちなみに「登録に行ってきましたよ! ○○さんの紹介だって言っておきました!!」と言われて、ちょっとひるんだ。
「お友達を紹介したら紹介料1万円」キャンペーン、なんていうのがあった時代も存在したが、別にそれらの派遣会社はそんなことしていなかったし、言わなくて良かったのに、と思ってしまった。

なんとなく、「あなたのために言っておきましたよ! プラスポイントになるでしょ?」というのを感じたし、先方にも「私は紹介されて来た!」と言うことで箔をつけようとしたのだと思った。
真偽はともかく、そんなふうに思わせてしまうのが、彼女のアピールがちょっと「過ぎちゃう」点だ。
自分もそう見えるときがあるのかなぁ、気をつけたほうがいいなぁ――なんて思った。

ただ、それらの会社で仕事はしなかった。
1社は小さい会社なので、時給が安い。でもその分、人手が足りなくて、多少のことは目をつぶって働かせてくれる。
「ちょっと悪い条件だと思っても、そういう仕事は他にやり手がいなくて未経験でもやらせてくれるから、経験を積むにはいいですよ」と何度も言ったことがあるけど、結局やらなかった。

もう1社はインストラクター業としては名の知れた会社だったので、ベテランも多くてとても仕事は回ってきそうになかった。
でも仕事はしなかったが、そこのインストラクター養成講座に通ったそうだ。

そっちのほうが怖くないか?
デモンストレーションとかさせられたりして。そうでもないのかな?
講座を受ける人はお客さんだから、後輩としてサブに入るより厳しくないのかも?

ともかく彼女はその全何回だかの養成講座を受けに行き、受けた感想を教えてくれた。

養成講座を受けている最中に、勉強の一環として、そこで開講されているExcelか何かの講習会に生徒として参加したそうだ。
「最後に、質問のある方はいませんか?っていうのがあったんですけど、誰も質問しないんですよ。
それで、場を盛り上げようと思ってちょっと難しい質問をしたんです。
そうしたら、後からその先生から養成講座の先生のほうに、テキスト外の質問をさせないでくれって話があったんだそうです」

それってどうなの?
インストラクターが難しい質問をされて、答えられないからって養成講座の先生に文句を言うなんて!

というような気持ちが込められていたと思うが、これはなかなか難しいところだ。

最初はわたしも笑って聞いていたが、ずっと後になってまたその話が出たときは違う観点の話もしてみた。
その頃にはEさんもわたしと同じ職場で、だいぶ経験を積んでいた。

Excel講習会の先生が、その質問に答えられなかったとは限らない。
答えられるけど、でも答えていたら時間がかかる――でも時間超過は厳禁である。
それに、この基礎編の受講者さんたちに理解できるとも思えない。
だからといって、「ではそれは終了後に個人的にお教えするのでいいですか?」とも言いにくい。その場にいる人たちは「自分も聞きたい! いつか役にたつかも!」と思うかもしれないからだ。
それは無謀なことだけど、ご本人は無謀には思わないことがよくある。

うーん、困ったわ。
しかもコイツはインストラクター志望者なのよね。本当のお客さんでもないのよね。

インストラクター志望なら、そういう場をわきまえない質問がどんなに困るか、想像できても良さそうなものなのに。
そんなことじゃ、いいインストラクターになんてなれっこないわ。気配りがなってないもの!

・・・・・・とまあ、こんな具合に怒って、養成講座の先生への抗議になったのかも。

いずれ一緒にやっていくかもしれない人たちなのだから、先輩は立てたほうがいいのである。
狭い市場を争うライバルに成長するかもしれないのだから、新人は要注意なのだ。そう思っている先輩たちとうまくやっていかなければならない。

かくいうわたしも、Eさんに「実は人に頼まれてこういう表を作っていて、これをこうしたいんですけど、見てもらえますか?」と質問されたことがある。
「これはこうするしかないと思う」と答えて、後から別の方法も思いついたので自宅からメールでも付け加えた。

Eさんからの返信は「分かりました。ありがとうございました」というような内容のもので、ちょっとそっけなく感じたのだった。
わたしも試されていたのかな? すぐにバシッと素晴らしい答えを出せなくて、馬鹿にされているのかな? と疑心暗鬼になった。
認めるのはあまり嬉しいことではないが、年寄りの若い人への嫉妬と不信である。

Eさんが嘘でも「忙しいのにありがとうございました」とか「私には思いつかないことでした、さすがですね」というようなことを言ってくれたら、わたしもだいぶ気分が良かったのではないかと思う。
「社交辞令で本気じゃないのよ」と思っても、気持ちよく「社交辞令よね、分かってるわ」と言える。
そもそも誉めてもくれなければ、「社交辞令よね」にさえならないのだ。

このときの経験から、感謝と賛辞は大げさなくらいでちょうどいい、というのを肝に銘じている。
それはどんな人間関係においても大切なことだが、特に多くの人が自信やプライドを持っているこの狭い世界においては、重要なことだと思ったのだ。

それで舞い上がっちゃって勘違いする困った人には、言わないほうがいいこともあるけど・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 3.アピールする

Eさんとわたしは似ているところがあった。
たくさん仕事をしたかったのだ。

断続的な出勤なので、他の人たちはそこまで必死に追い求めてはいなかった。
もちろん時給が良く、仕事そのものも「先生」でやりがいや満足感を得やすいので、誰でもたくさんやりたかった。
ただ「もっと多く勤務したい」という気持ちの必死さは、わたしとEさんが一番だった。

だから2人とも機会があれば自分を売り込んだ。
でもこの売り込みというのは、実に難しいものだ。

日本人は出しゃばらないことや、謙虚、人を立てることを良しとするので、やりすぎると逆効果になる。
でも何もしないでいては、何も伝わらないことも多い。
このバランスをとっていくのが、なかなか難しいわけだ。

社会人経験がそれなりにある人には当たり前のことで、その辺りを上手にしている人も多いと思う。
でもわたしはバイトだのパートだの単発だのばかりで、そういう機微を知らなかったので、ここで覚えた。

講習会をしている人でも、PCインストラクターは、直接仕事ぶりを見る人――つまり講習を受ける人と、インストラクターを雇う人が別なので、多少のアピールは必要だ。

思い返せば自分にも「あのときは失敗したな」という思い出もある。
相手は全員が仲良く横並びしていてほしいと望んでいるのに、わたしだけあざとくアピールをしていたり。
もっとさりげなくしておいたほうがよかったという空気感のときに、ちょっと露骨すぎたり。

上手な人はアピールしていないように見せかけながら、自分の有用さを伝えられるものなのに、わたしのは分かりやすかったり。

Eさんを見ていると、かつての自分が思い起こされ、こそばゆいときもあった。
こそばゆいを通り越して苦笑いのときも。

ただわたしは、「わたしにできるかな」と不安になる面も持っているので、Eさんほどアピールしていないことも多い。
逆に不安を言いすぎて、あまり難しいことはできない人、能力の低い人と思われることもかなりある。
だから、少しはアピールするのも大切なのよね。

Eさんのアピールで、わたしから見て一番失敗していたと思うのは、ある放課後のことだ。
そのとき教室に、ある講習を担当している事務員さんがいて、わたしがそれを担当するので打ち合わせをしていた。打ち合わせといっても世間話的な立ち話だ。

わたしはあるパソコンで何かしていたEさんに言った。
「Eさん、わたしはもう少し話していくから、先に帰ってください」

Eさんは「分かりました」と言って近寄ってきた。
「あのパソコンなんですけど、どうしてもメールを送るとエラーが出ちゃうんですよ」
「ああ、さっきのやつ?」

その日はわたしがメインで彼女がサブだった。
メールの練習をする講習のとき、その席は途中からエラーが出始め、直らなかった。
この日はなんだったか余裕がなく、「あれ?」と思ったが、助けに行けなかった。

「今も確認してみたんですけど、全然行かないんです。
SMTPの設定がおかしくなっているんだと思います」
――設定がおかしくなってる?
でもSMTPなんて、誰もいじってないと思うけど。

横にいた事務員さんが言った。
「使えなかったら困りますよね。私が××先生に言いましょうか。××先生に見てもらっておきますよ」

よろしくお願いします、ということでEさんを送り出し、わたしは話の続きをした。
が、話しながら頭の中で考えていた。

××先生も自分の仕事の合間に見てくれるのだし、事務員さんを通して呼びたててなんでもないことだったら?
自分でも一度確認してみたほうがいいのではないか?
でもこのコースはこの日で終わり。今確認しないとチャンスがない。

そこで事務員さんをお待たせして(教室の施錠があるから)、問題のパソコンを起動した。
メールソフトを起動、テストメールを問題のパソコンから問題のパソコンに送ってみる。
送信できなかったというメッセージが出る。

ん? これは――

それにテストメールは無事に届いているようだし――

「××先生にお願いしなくても解決しそうです。大丈夫です。
ありがとうございます、お手数おかけしてすみません」
「なんでエラーが出てたんです?」

――そりゃ気になりますよね。

「アドレスが間違っていると、送信できなかったというメッセージが出て、送信トレイに格納されるんですよ。
その後、送受信のたびにそのメールも送信されて、そのたびに「アドレスが違うから送信できなかった」とメッセージはでてくる。
でも他のメールは送られているし、アドレスが間違っているメールを修正するか、いっそ削除してしまえば(どうせ練習で作成したものなのだから)もうメッセージは出て来ない。

こんなのを誰だか偉い先生に見てもらったりしたら、「なんてレベルが低いんだ」と思われる。
誰が言ったかなんて分からないんだし、わたしまでその「レベルの低い人」の中に入ってしまうだろう。

水際で食い止められて良かった。

でもEさんには残念なことに、水際では止まらず、事務員さんに一部始終見られてしまった。
Eさんはかねがね、わたしがときどきしている別の講習に興味を持っていて、できればやりたいと願っていた。なのに、その担当である事務員さんの知るところで、やらかしてしまった。

事務員さんは「あの先生は、あまりパソコンに詳しくないんですか?」と冗談まじりに言っていた。
Eさんには災難なことだった。Eさん自ら言い出したことだけど。

わたしも別に暴露したかったわけではないが、こっそり誰もいないところで確認してあげる時間的余裕がなかった。
でもどうだろう? 彼女は貪欲にわたしの仕事を狙っていた若手ライバルだったから、余裕があっても配慮してあげたかどうか――

自信がないな・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 2.今どきの人たち

一番強烈だったのは誰かというと、わたしよりずっと若くて、経験は皆無に等しかったEさんだ。

というか皆無だった。
「経験がある」と聞いていたが、なんだかあまりに何もしてくれないので、「どういうところでインストラクターをしていたのか」と尋ねてみたのだった。
彼女は愛すべき正直者で、ちょっと自分を飾ってもすぐに本当のところをバラしてしまう。
「デイサービスで絵を教えたことがある」と白状(?)したのだった。

その後、彼女と多く組むようになったので、このままでは講習にも差し障りが出ると思い、「申し訳ないけど、先輩として言わせてもらうね」と『新人教育』を始めた。
このことは前にも語ったと思う。

このEさんは、Cさんの紹介で来た人だった。Cさんの紹介で来た人は3人いたが、他の人たちもPCインストラクター歴はほとんどない人たちだった。
そしてEさんのほかにも、講習中ただただじっと座ったまま終わる人がいた。

わたしは厳しく見えるほうではないし、この人たちはわたし以外の人と組まなかったから、悟りようがなかったのかもしれない。

わたしも最初の職場イロハPCスクールで、温かく迎えられ、優しく指導されていたら、何も分からないままで、ある日キレた先輩に注意されることになったかも。
面接のときから「経験がないなんて論外」というような言われようだったし、同じ時に入った鳴沢さんは「講習会のサブが夢」「夢がかなったので一生懸命フォローした」と語ったたりして、ぼんやりしていてはいけないのだと頭に叩き込まれた。

慣れた職場で、慣れた内容のサブをやるときはもう緊張しないし、片手間に何かしたりもできる。
でも最低限は教室を見回っておかないといけないと思っている。メイン講師が席を立たなくてもいいくらいには。あるいはメイン講師の進行を遅らせずに済むくらいには。

でもそれを教わってこなかった人たちは、たぶんベテラン世代の先生から「どっかり座っちゃって全然動かないのよ!」と言われるだろうという仕事ぶりだった。
手が上がったら行けばいいと思っている。

あれ?と思っても手を挙げない人も多いから、ちゃんと見ていてくれないと。
何をする仕事だと思っているのだろう。

そうも思うけれど、わたしがこの世界に入ったのは、まだ全盛期を知っているインストラクターがかなり生き残っている時代だった。
なりたければ無給でも下積みを積んで、という時代を知っている人たちだ。
わたしは先輩たちがいるだけで威圧感を感じるくらいだった。

そういう空気を知らない人にとっては、いろんなことも言われなきゃ分からないかもしれないな。

誰に言われたわけでもないが、わたしは特に講習会インストラクターには急な休みや遅刻なんてあり得ない、と思っている。
電車が遅れたって、遅刻できない。
時間になったら始まってしまうのだから。

そしてこれは「この人はプロだな」と感じるインストラクターだったら、誰もが同じように思っていたと思う。
講習会に行って遅れてきたメインは見たことがないし、サブでもいなかった。

でも新しい世代の人にとっては単なる普通の仕事。
「子供が小さいので、休めそうだからいい仕事だなと思いました」と言われたときは驚いた。

休めないよ!?

でも――休んじゃうのかも。今の人は。
それで、雇う側も仕方ないな、と認めるのかも。

「今の人」というのは「今どきの若い人」という意味ではない。
「最近この仕事に就いた人」という意味だ。

いろいろと変わってきているのかもしれないな・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:それぞれのスタイル 1.他の人ってどんな?

いろいろな講習会に行ったが、いつもその日限りだった。
いろいろなメインインストラクターを見たが、何度も同じ人とすることはなかった。いろいろなサブインストラクターと組んだが、最高でもコース2回分しか一緒にやらなかった。

印象に残っている人はいるが、その人と自分を比べてどうこうということはなかった。

しかしホームグラウンドにしていた職業訓練をする学校のようなところでは、ずっと同じ人たちと顔を合わせる。
コースは、終わってもまたしばらくすると始まる。
一年に何回も、基礎を教えるコースを開くので、何回も誰かとメイン・サブのコンビを組む。
同時期に4人5人が交代で出ていた時期もあって、出会った人の数は7人ほどいる。
この中には、本当に臨時という感じで、インストラクターではない人もいたから、そういう人は比較の対象にはならない。
でもある程度組んだ人は、やはり何度も見るので、講習スタイルについて知り尽くすことになるし、当然評価や比較をしてしまう。

それは、うまく利用すれば自分の糧になるので、悪いことではないと思う。

またこの職場におけるわたしたちは、全員横並びで順列がない。
業務内容としても同じことを交代でするし、どちらが上ということもないので遠慮がない。
相手も同じようにわたしを値踏みしたり、密かにダメ出しをしたりしているのだろうから――お互いさま。

一緒に組んだ人すべてではなく、わたしにとって自分を振り返るきっかけになった人に限って、思い出してみたい・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:その後の講習会派遣

わたしは3つのインストラクター系派遣会社に登録していた。
PCサイエンス、PCプラネット、PCワールドだ。

PCサイエンスは、早い段階ですっかり連絡も途絶えてしまった。
会社自体、組織改編などがあったのだと思う。講習会事業は一切しなくなったようだった。

PCプラネットは、連絡が来ることがだんだん少なくなっていったが、講習会自体は後々までやっていたようだ。
去年請け負った仕事が、今年はPCワールドに取られたり、PCワールドがやっていた仕事を今年は取ったり、ということもあったようだ。

しかし最近では、インストラクターの仕事の募集はめっきりなくなった。
普通の派遣もしていたので、派遣会社としてはまだ存在しているのかもしれない。
去年は2回くらい、一般事務と販売の募集メールが来ていた。

最後までわたしに仕事をくれたのは、PCワールドだった。
もはや、少ない市場でなんとか生き残っているインストラクター系はここだけなのかもしれない。
普通の派遣会社が講習会を請け負って、講師を募集しているのもときどき見る。
――でもそれもだいぶ少なくなった。

本当に市場は縮小しているのだろうと思う。

派遣としてインストラクターをするのは、限界に来ている。

ある日、PCワールドからメールが来た。
今まで、ときどきピンチヒッターの仕事を依頼してくれたコーディネーターさんからだった。

この人は、何度か仕事をしたら、「よかったら次の3ヶ月コースの仕事をやってみませんか」と連絡をくれたことがある。
でもわたしは、他に仕事をしているので、単発的に空いている日に入ることしかできない。
それを説明してからは、単発の仕事の依頼だけになった。
そういう仕事は、あまりたくさんはないから、散発的に仕事をしていた。

「このたび、××部に異動となりました」というお知らせだった。
そういうときにする挨拶メールらしい文章が並んでいて、「今後は××という者が担当いたしますので、××からご連絡させていただくことがあるかもしれません」とのことだった。

わたしは悟った。
もうPCワールドから仕事の依頼が来ることはないだろう。

新しいコーディネーターさんは、たぶん日頃から仕事をしている人にまず依頼をするだろう。
以前、派遣会社の営業さんが「前に仕事を頼んで知っている持ちごまに電話することもある」といようなことを言っていた。もちろん「持ちごま」なんて言葉は使ってなかったけど。

単発的な仕事では、急なこともあるし、スキルにそれほど条件がつかないこともある。
たった1人の、悪い言葉でいえば「誰でもいい」人員を募集するのに、いちいちネットなどで公示していられない。
知っているスタッフに電話をしてしまうことも多いのだそうだ。
――なるほど、それは当然だ。

前のコーディネーターさんと知り合ったのは、ある仕事の依頼のときだった。
どうしても誰も見つからなかったらしく、登録スタッフリストを片端から当たっていたのだと思う。
偶然、わたしは仕事を受けることができた。

そういういきさつで、わたしは前のコーディネーターさんの「持ちごま」のひとつになった。

新しい人に変わったら、それらの履歴はリセットされてしまう。
そうなると、年に数日あるかないかという出勤しかしていないわたしは、リストから外れていってしまうだろう。

たまにホームグラウンド以外の仕事をさせてもらえるので、有難い会社だったが、諦めの気持ちになった。

そしてそれは正しかった。
その後、PCワールドで仕事をしたことはない。

時代は移っていき、今はあまり講習会を開くということがないのだと思う。
ないわけではないけれど、前のようにあっちでもこっちでもいろんな講習会が開かれているわけではない。

だから仕事を求めて、他の派遣会社を探しても無駄だと思う。

少し前に語ったアナザーステージも、「いずれは講習会を受託していきたい」と語っていたが、今のところ社内研修だけで終わっている。
講習会事業を展開していくには、これまでとは違ったやり方が必要になるのだろう。

派遣会社から講習会に派遣されていく、講習会講師の仕事は、どうも受難の時代が来たようである・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:PCワールド 就職支援セミナー 2.先生方

このくらいの内容だったら、わたしも事前に予習などしなくても対応できるし、楽な内容だった。
わたしもベテランになってきたということなのだろう。

しかし一緒に組んだ先生と、隣のクラスを教えていた先生は、さらにさらに大ベテランだった。
年もどう見てもわたしよりも上だったし、PCワールドに長く所属しているらしく、お互いに知り合いで内輪の話も詳しかった。
隣のクラスのサブの先生は、年はともかく、ずっとPCワールドでやっているのは同じらしく、やはり内輪の話に参加していた。
そういう意味では、わたしだけがまるで新人だった。

ベテランの先生方は、見るからにPCワールドの大ベテランだと思った。
失礼ながらこのお年では、新しい会社に面接に行くなんて、しないだろうし、しても受からないかもしれない。
わたしもベテランは、特にPCワールドではよく見たが、隣のクラスの先生ほどの大ベテランは見たことがない。――年齢的、外見的にという意味だ。

PCワールドでは、もう若い人はいないのだろう。

受託するような講習会などはだいぶ減ってしまっている。
パソコンスクールも街中でめっきり見かけなくなった。

仕事が縮小しているから、新しく人を雇うことはない。
以前からいる人たちは、今さら他に移っても仕事がないと思って、今いる場所に留まっている。
辞めたりフェードアウトしていく人がいても、仕事の数も減っているので、補充する必要はない。

昔ながらの人で今でもやっている人だけが残る。どんどんベテランのみになっていく。
だから隣のクラスのサブの人くらいの年齢になっても、まだサブをすることがある。

そういう時代の流れを感じた。

一緒に組んだメインの先生に連れられて、隣の建物にあるうどん屋に全員で行った。
メイン2人とサブ2人。

「この公益法人の講座は初めてでしょ?」
聞かれたわたしは、正直に答えた。
「2年前くらいに2回ほど来たことがあります」
――冷やかな空気。

もっと控えめにしたほうが良かったかもしれないが、もう気を遣うのも疲れる年代になっていた。
――どうせ今日限りで会わない人たちだろうから、どうでもいいや。

わたしもずうずうしくなったものだ。

皆さんのほうも、わたしに気を遣うことなく内輪の話をなさっていたので、いろいろと聞かせてもらうことにした。

仕事が少なくなったという話題。
隣のクラスのメインが言う。
「変な仕事ばかり来るのよ。地方でVBAを3週間教えるとかねえ」
「地方に3週間も行くの?」
「あたしがVBAの資格を持ってるからかもしれないけど、よくVBAの仕事が来るのよね」
「VBAの資格を持ってたら強いですよね!」(これは隣のクラスのサブさん)
「資格たって、たいしたもんじゃないのよ? でも持ってるって言っちゃうと来ちゃうのよね」

自分もホームグラウンドでVBAのコースを担当することがたまにあったので、この話は興味があった。
控えめにしているのが普段のわたしのモットーだけど、「もういいや」という気持ちになっていたので、口をはさんでしまった。

「そういうとき、テキストは何を使うんですか?」
「うちで出してるVBAの入門テキストがあるのよ」知ってます。「それを使うわね」

あれを使うのか。――そうだと思ったけど。
でも、あれで3週間もどうやって引き延ばすんだろう?
その後の応用テキストまでやるくらいかと思った。

「3週間て長いですよね。あの1冊に3週間かけるんですか?」
――せっかくの機会なので聞いてみた。旅の恥はかき捨て。
「でも3週間くらいできるわよ。IFの条件分岐とか出てくるところがあるのよ」知ってます。「あの辺りをゆっくり説明するとかね」

うーん。それでも3週間にはならないんじゃあ?

わたしがやるとしたら、途中に簡単に練習できるような課題を用意したりするだろう。
そういうことを教えてほしかったんだけど、それは虫がよすぎるか。

「この間Accessをやったのよ」(もう話はベテラン勢同士に戻っている。)
「あら、いいじゃない」
「できる子たちでねえ、時間が足りないかと思ったけど、大丈夫だったわ」
「何日?」
「3日」

うーん。基礎と応用で3日だったら、時間が足りないと心配する。
けど基礎だけだったら、妥当じゃないかなぁ?

「やっぱり大きな会社で働いてる子たちは違うわね」
「企業研修だったの?」
「そうなのよ。若い子もいて、理解できるかちょっと心配したけど、なんとか大丈夫ですって言ってたわ」
「頭がいいのよね」

うーん。今どきの「若い子」は、高校や大学でもOfficeを習ってくるし、もともとパソコン慣れもしてるし、つまずきはしない。
そして今どきの「若い子」は社会性が高い(か、もしくは高いと見せかけられる)人が多いから、「全然大丈夫」だって「なんとか大丈夫」って社交辞令を言うと思うよ。

ふと、わたしは思った。
やっぱり、講習会インストラクターだけをやっていると、実情がつかめないことがある。
1日や2日の講習会では、その人たちが普段どのように仕事をしているかまでは、聞く機会がない。

それに、こう上がつかえていては、PCワールドでの仕事は今後も「誰もいないときのピンチヒッター」だけだろう。
いや、それさえ、ないかもしれない・・・・・・




Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:PCワールド 就職支援セミナー 1.講習

PCワールドでの仕事、就職支援セミナーでもサブをしたのだが――実は内容をあまり覚えていない。

この講座はある公益法人が主催していて、会場もその公益法人が入っている建物で行われた。
これもいってみれば職業訓練だ。離職者訓練、求職者訓練、いろいろに呼ばれる。

わたしは前にもこの就職支援セミナーに、サブとして来たことがあった。
ほんの2つほどだ。2日のコース1つと、3日のコース1つ。
それが1年前だったのか、2年前だったのか、それとももっと前だったのかも忘れた。

ただ、行ってみたら何もかも違っていたことだけ、覚えている。
あのとき一緒に仕事をした五色先生や別所さんはいなかった。
内容も前のときとは違っていた。

前と同じような講座もあったのかもしれないが、わたしが行った仕事は全然違うものだった。
受講する皆さんは、ビルクリーニングの講座を受けている人たちだった。
どのくらいの期間か分からないが、清掃業の講習を受けて、最後に1日だけパソコンを学ぶ。
――何しろ、今や、どんな職に就くときも「WordやExcelは使えますか?」と聞かれる時代だ。
業務ではパソコンを使わなくても、どこかで使うことも増えた。販売業の人が発注や売上管理をするとか、軽作業の人が出怠勤を報告するとか。

この日の内容についてはすっかり忘れてしまった。
でも忘れるくらいだから特殊なものではなくて、WordかExcelだったと思う。

今、記憶を掘り起こしてみると、元気で明るい中高年女性が2人、目立っていた。
たぶん大きい声でよく話していたから記憶に残っているのだと思う。――もちろん講習を聞かずに喋ったりしているわけではない。

でもそれ以外の人も元気で、ある程度の期間を一緒に学んでいるので、「クラス」という印象だった。
つまり、皆がお互いを知っていて、そりゃ好きな人も嫌いな人もいるだろうけど、「仲間内」という雰囲気。

始まる前に主催の公益法人の人が来て、クラスに話をしていた。
「皆さんはまもなくこの講座を修了され、いよいよ就職となるわけですが、今日はWord(だかExcelだか)を学んでいただきます。
これまで皆さんが習得されてきた技能とは種類の違う内容ですが、今日もしっかり講習に臨んでください。
どこの会社に行っても、パソコンというのは知っていて損はないという社会になりましたので、関係ないと思わずに、この機会に覚えてくださいね」
――とまあ、こんなことを言っていた。

講習は滞りなく、問題もなく、順調に進んだ。
わたしはサブだったし、特に事前に予習などをしなくても、このくらいの内容ならもう大丈夫というくらいの経験者になっていた。

講習中に質問をする男性がいた。
「今言っていたこれこれは、こういうことですか」
「ちょっと今のところ、分かりにくいので、もう一度言ってください」

フレンドリーな態度ではない。
どちらかというと、批判的な口調に聞こえる。

でも大きな不満があるわけではなくて、そういうふうに聞こえてしまう人なのだろうと思った。
突っかかってくるほどのことはなかった。

休み時間ににぎやかな女性陣が、チラッと話しかけてきた。
「あいつ、いつもああなのよ」
「こっちまで迷惑するのよね」

いろいろと忘れてしまっている講習のことなので、正確なセリフは覚えていないが、そういうようなことをチラリと言っていた。
元気な中高年女性なので、わたしにもフレンドリーに「ですます」なし。
こちらは一応「そうなんですか」と言っておいた。

でもその女性たちも、それ以上言うことはなく、困ったことには発展しなかった。
「クラス」って感じだなぁ、とわたしは思った。

講習の終わりには、また公益法人の人がやってきて、「どうでしたか?」というような締めのお話をした。

講習そのものは楽な仕事だった・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:PCワールド 離職者訓練1ヶ月コース 3.担当してみて

PCワールドの担当者からは、「新宿教室での開催です」とメールで言われていた。
わたしはそこに行ったことがない。

面接は本社で違う場所だった。支社というのがあるようだが、そこには行ったことがない。
セミナールームがたくさん用意されている、パソコンスクールとして使えるオフィスは本社・支社とは別に2つある。
わたしはもうひとつのほうは経験済みだったが、新宿教室には行ったことがなかった。

何時の電車に乗ればいいか――初めてのところだから、遅れないようにしないといけない。
インターネットで地図を調べて、場所を確認したりもした。

わたしが代理で行く日の講習内容について知らせるメールに返信したとき、わたしはいろいろな確認の意味で、「当日持参するものはこれこれで、新宿教室に何時までに伺えばよろしいのですね?」というようなことを書いた。

すると担当者からすぐに返信が来た。
「新宿教室ではありません、××教室です。誤って記載していて申し訳ありません。××教室に行ってください」

さりげなく確認してみて良かった!!

朝、新宿教室まで行ってしまってから間違いが判明しても、もう遅かったろう。
時間までに××教室まで移動することはできなかった。たとえインストラクターとして30分早く着くようにしていたとしてもだ。

××教室なら場所が分かるので、心配することはない。
時間に遅れないようにすればいい。

この講座を1日だけでも垣間見て、今後、他の仕事にも役立てられるかな、と少し思った。

入力練習に自分で選んだ課題を使うというのは面白い。
入力やタイピングの講座というのは激減していたから、そのまま使うことはできなかったろうが、アイディアはいつか使えるかもしれない。

それともうひとつは、資格試験用のテキストをじっくり見られたことだ。
持っていないと言うと、PCワールドは一冊送ってくれた。
そのテキストは講座終了後に送り返したが、何日かゆっくり見る時間があったので興味深かった。

そうか、こういう機能まで試験範囲に入っているんだ――
これは、普通のテキストにはあまり出ていないけど、よく考えれば会社では使うかな――

「豆知識」として何かの講座でちょっと伝えてみてもいいし、「仕事ではよく使います」と説明を補足するのもいいな。
などと、参考になった。

模擬試験のようなスタイルは、サボりにくいので、いつかどこかで使えるかもしれないとも思った。
時間制限があるのもメリハリがあるし、結果が出るのもいい。

ただこのテキストで講習をするのでなければ、テキストをそろえるのが難しそうだが。

また、自分も職業訓練を受けた身として、資格の学校などで行われている職業訓練を垣間見られて、それもまた興味があった。
やはりPCワールドは「パソコンの使い方」ということに特化した会社なので、こういう講座を開いてもパソコン中心になるな、と思った。
たぶん、資格の学校系はどこも「実践中心」なのだろう。

実際に機能を学ぶ。練習問題や課題や模擬試験で練習する。
Word、Excel、PowerPointなど、具体的な内容。

わたしが受けた職業訓練は、公的なところだったので、もっと「授業」に近かった。
計算機工学の基礎のほんの初めのところをかじる「計算機工学入門」みたいな内容もあった。

どちらがよかったかというと、わたしは実務優先でなく、いろいろと学べたのが良かったけど――好みとか目標によると思う。

1日だけなので、あまり受講者さんとも話したりしなかった。
数少ない話をした女性が、「とても楽しい」と言っていたのが印象に残った。

ある程度大きいお子さんもいらして、主婦をしている方だった。
働いていた頃も当然兼業主婦だったろう。

「ここまで通うのにお時間がかかるんですか?」
「××からなんです」
「遠くて大変ではないですか?」
「そうなんですよ。1時間以上かかっちゃいます。でもとっても楽しいから苦にならないです」
「そうですか~ 楽しいのが一番ですからね」
「勉強するってことが楽しくて!」

分かる!
わたしも職業訓練を受けていたとき、とても楽しかった。
その前に、自動車教習所で運転免許を取ったときも、自分でびっくりするほど楽しかった。

大人になってから何か学ぶって、すごく楽しく感じることがありますよね。
と共感した・・・・・・




Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:PCワールド 離職者訓練1ヶ月コース 2.当日

1日だけ代理ということで引き受けた離職者訓練。

どんなテキストを使っているのかと思ったら、資格試験用のテキストだった。
PCワールドの親会社が出しているもので、わたしは初めて使うものだった。
PCワールドから派遣される講習では、当然親会社のテキストシリーズを使っていたが、資格試験用のテキストを使ったことはない。
他の仕事でも資格試験用のものは使ったことがなかった。

大丈夫だろうか?

しかしPCワールドの担当者が事前に送ってきた知らせによると、わたしのすることはほとんどないらしかった。

1ヶ月の間、その日どの部分をやるかというのが細かく決まっていたようで、カリキュラムは順調に進んでいた。
テキストでは、資格試験に出てくる機能についての説明があり、サンプルで操作、それから練習問題をいくつかする。
また次の機能についての説明があり、サンプルで操作、それから練習問題をいくつかする。
で、その学習部分はもう終わって、今は最後の模擬試験に入っている。
資格試験用のテキストなので、模擬試験問題は何バージョンも豊富に用意されていた。

わたしが担当する日は、あと2~3回でこのコースも終わり、というとき。
1ヶ月毎日通って、受講者さんも慣れている。指示をされればすぐできる。
やる内容は、講義ではなく模擬試験をひたすら解くという、練習主体。
つまずいている人がいれば対応して、質問があれば受けて、あとは見守っておけばいいらしい。

なんとラッキー!

朝、行ってみると、受講者さんたちはもう、「今日は代理が来る」と知っている。前もって担当講師が言っていたのだろう。
挨拶をして、どうぞよろしくというところを強調しておく。

この講座はサブがいない。
だから、もともとの先生も、メインというより唯一の講師。
決まったサブがいたら、その人にいろいろ教えてもらえばいいが、この講座はいつもの講師が休んだ以上、後は受講者さんだけが頼りだ。

受講者さんたちは講師と良い関係を築いているようで、皆さん代理のわたしに優しくしてくれた。
こういうのって、もともとのクラスの雰囲気がいいか悪いかで変わってくるものだ。
わたしは見たことのない講師に感心した。

もともとの講師からの申し送り事項が書いてあったメールを印刷して持参していた。
それを見ながら進めていくことにする。

「まず最初に入力練習を15分すると伺っております。そうなんですよね?」
フレンドリーな人たちがそこここでうなずいてくれる。
「では、ご準備ください」
皆さんごそごそと準備をする。

何を準備しているかというと、なんと入力課題は自分で用意するのだそうだ。
新聞でもいい、雑誌の切り抜きでもいい、本でもいい、文章が書いてあるものなら何でもいい。
何かしら、その日の入力練習に使いたいものを持ってくる。

へぇ~! これは面白いやり方だ!
今どき、入力の練習がある講座なんて、本当に少ないから、いつか使えるアイディアなのかどうか分からないが、面白い。

「始めてください」

後はわたしは時間を計っているだけ。
前に立っているのも何なので、なるべくじゃまをしないように机と机の間を通り、教室の後ろに移動して見ていた。

さまざまな紙を立てかけたり、置いたりして、皆さんカチャカチャと入力していた。

模擬試験のほうも、まったく同じようで、問題なかった。
わたしはただ、見ているだけ。

模擬試験の起動は、ただファイルを開くのとはちょっと違う。
またこのテキストは、学習をする部分でも、通常の手順とは違う方法で開くことになっていた。

でもそれも皆さん慣れている。
今日までずっとこのテキストを使っていたのだ。
分からない人はいなくて、画面を見ているわたしのほうが、「そうか、こうやって開くとこうなるのか」と勉強になったくらい。

模擬試験も、終わると自分で間違った単元のサンプルファイルを開いて、復習を進めてくれる。
わたしは何もする必要がなかった。

この仕事は、「大丈夫かなぁ?」という思いがとても強いものだったが、仕事としては今までで一番楽だったかもしれない。
何の準備もいらないし、仕事中も何の苦労もなかったのだ。

これで時給がもらえるなんて、有難い・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:PCワールド 離職者訓練1ヶ月コース 1.連絡

PCワールドからメールが来ていた。
「講習を2つお願いしたい」と言ってきたのだ。

1つめは離職者訓練の代理講師。
もうひとつは、以前もやったことがある、さる公益法人主催の就職支援セミナー。

前回の就職支援セミナーでは、別の派遣会社PCプラネットで出会った別所さんと偶然再会した。
あのときのメインは、普段はいろいろな会社に出向したりしてマニュアル作成を担当しているという、社員の五色先生がメインだったけれど、今年も五色先生や別所さんはいるのだろうか?

今回どちらも現在失業中の人に対する公的な講習らしいが、それぞれ違うものだ。

1つめの離職者訓練は、PCワールドで行う。
わたしはここに行ったことがあった。
ある区のExcelの講習で、男性講師と女性講師のサブをした。

わたしは「持ちビル」と考えていたが、正確には「持ちオフィス」だった。いや、「借りオフィス」か。
大きな美しいビルで、「10階はA株式会社、11階~13階はB株式会社」というふうになっていて、20階くらいの高層階にPCワールドがある。

ここはフロア内にいくつものセミナールームが用意されていて、パソコンスクールとしても使える。
でも定期的なスクールとしての授業は行われていないようで、受託した講座をここで開いているようだった。

たとえば前回のある区のExcelの講習。
わたしは区や市のパソコンの講習会というのにいくつか参加した。
それらの講習会は、公民館や区の施設のパソコンルームを使って行われた。
でもそういった部屋を用意できなかったり、したくなかったりする場合もあるだろう。
PCワールドは区のExcel講座を受託し、普通は内容、テキスト、講師を準備するが、PCワールドはさらに会場も提供した。

それからよく資格の学校などで行われている離職者訓練。
失業者訓練、離職者訓練、求職者訓練、職業訓練、いろいろな名前で呼ばれる。

わたしも失業者訓練に通った。
ハローワークなどの情報でそのとき知ったが、職業訓練校という学校もあり、そこではいろいろな訓練が行われている。
それ以外に、公的なさまざまな施設を使って、職業訓練コースが開講されていた。

さらに時代が後になると、受託訓練も増えた。
もともと資格の学校やパソコンスクールなどは、パソコンのある教室もその他の設備や備品も完備されている。
そこに「これこれの期間で、こういうことを習得するコース」と委託してしまい、後は受託した学校が講座運営をする。
公的機関は余計なコストや人員を割かなくて済む。
全部通いきると、受講料の一定割合が戻ってくる仕組み。

その後の時代になると――わたしは追っていないので、よく分からない。

こういった離職者訓練は、資格の学校側が受講者の募集をしなくてもいいし、食いっぱぐれがない。
相当あちこちで開講されていた。

どうやらPCワールドもやっていたようだ。

わたしが通った失業者訓練は半年だったが、資格の学校がやっているものではよく3ヶ月というのを見かけた。
今回のPCワールドの講座は、1ヶ月。

――短い!

そのコースの1日だけ、講師がどうしても都合がつかないということで、代理をしてほしいという話だった。
1ヶ月コースの最後のほうだった。もうあと2回か3回くらいで終わるという時期。

せっかくだから引き受けてみようと思って、引き受けた・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


おまけ:ある企業の講師 28.また違う時代の流れ

アナザーステージでの仕事をして、一番有難かったことは、時代の変化を感じられたことである。

ここのテキストはオリジナリティがかなりあったので、なるほどと思うところや、知らなかったことなどがあって勉強になった。
それをホームグランドで活かすこともできた。

でも、そのことも含められるかもしれないが、今がどういう状況なのかということが分かったのが最も貴重な収穫だった。

じゃあ一口に言って「新しい時代」ってどんな時代かというと、「誰でもある程度PCが使える時代」だ。

そんなの、前から分かっていたはず。よくここでも語っていたではないか。
「今は一度もパソコンを使ったことのない人など、ほとんどいない」「講習会をやっても、マウス操作の練習からするなんてなくなった」

そうなんだけど、「ある程度PCを使える」の「ある程度」がどのくらい高いか、がハッキリと認識されたのだ。
「インターネットくらい見たことがある」とか、そんなものじゃない。
入力なんて当たり前にできる。昔みたいにキーを探し探し1本指で押す人は、ほとんど見なくなった。
インターネットを使わせれば、検索でさまざまな情報を収集できる。
WordやExcelなど、基本的なところは誰でも使える。学校でも学習する時代なのだ。

ホームグラウンドでの企業人相手の講習でも、そういうことは感じていた。
今や、業務に使う機能については、並のインストラクターなんかよりずっとディープに使っている人が多い。
並じゃないインストラクターはもっともっと詳しいかもしれないが、仕事で使うっていうのは相当なもので、インストラクターしかしたことのない人には想像もつかない使い方をしていることがある。
社会人相手の講習をすると、こちらが勉強になることはしばしばある。
そういう経験を積むことで、並じゃないインストラクターになることもできるだろうけど、通りいっぺんにテキストや講習会のサブをするくらいでは仕事のレベルに追いつけない。

そういう時代が来ていると思っていたが、アナザーステージでもやはりそうだった。

「講習会の仕事ってめっきり減ったなぁ」と思っていたが、それも当然だ。
皆で一斉に基礎を習うなんて、必要がなくなっているのだ。
「応用編」を謳っている市販のテキストも、業務で使う人は知っていることが多い。

――正確に言うと、自分が使う部分は知っていることが多い。
そして、自分が使わない部分は、どうせ要らないのである。

具体的に例を挙げるとこういうことだ。
自分の業務では、いくつかの関数を使ってこのような表を作っている。そういう人は、テキストで説明されているような単純な使い方は、とっくに超えているのだ。
もっと複雑に組み合わせて使っていたりする。
でもその人は小計(古いバージョンでは集計)機能はあまり使わないから、存在も知らなかった。
テキストを見て「へぇ~」と思って感心はするが、でも知らないなら知らないでもいいのだ。だってこれまで使わなかったってことは、これからも使わない可能性が高いからだ。
全部を知っている必要はない。自分の業務に必要なところだけ知っていればいいのだ。
でも必要なところはテキストなんかよりも、ずっとずっとディープに使っている。
だからもし、部署が変わって違う機能を覚えなければならなくなったら、周りの人に教えてもらってすぐに覚えられるのだ。

逆に、ある人はフィルタ、並べ替え、シートのコピーや移動やシート間の計算をよくしていて、でも関数はほとんど使わない。
テキストに出てきた関数に、「へぇ~」と感心して達成感を感じるが、1週間後には忘れてしまっても問題ない。
どうせ使わないのだ。

「応用編」は既に社会人としては「当たり前」「基本」の範疇に入ってしまっていて、全然応用じゃない。
「基礎編」なんて、講習を受けても知らないことはない。
いや、もちろんたまにはあるのだ。「へぇ~、自分は右クリックでやっていたけど、そんなやり方もできるんだ」とか、些細なことはいろいろあるだろう。
でもそのために1日がかり2日がかりで講習を受けなくてもいい。

ホームグラウンドに「基礎を覚えたい」とやってくる社会人たち、「基礎を教えてほしい」と送られてくる社会人たちの「基礎」というのは、もはや相当高いレベルなのだ。

前から感じていたそのことが、「やっぱりね」と証拠を得たような気持ちになった。
それがひとつ。

もうひとつは、これまた感じていたことではあるが、社会人は時間がないということ。

ホームグラウンドでも、たとえば4日間というような長い講習になると、「そんなに仕事を休めない」という人も多い。
会社が「そんなに続けて休ませられない」ということもある。

アナザーステージでは、ひとつの講習が1時間、1時間半、2時間。一番長かったAccess基礎でもたった3時間だった。
以前の講習会全盛時代だったら、Access基礎なんて、丸2日か3日の講習だ。
それでさえ、「就業時間中には時間を取れないから、終業後の時間帯に」と言われたりしたのだ。

効率化やリストラが行われて、新人でさえ、あるいはかつてなら悠々と仕事ができた上層の人たちでさえ、たくさんの業務を負わされている。

そりゃ昔ながらの1日がかり2日がかりの講習会も、(さらに)減るわけだ。

1時間半や2時間という限られた時間の中で、それなりに目的を達しようとすると、どうしても市販のテキストでは難しくなる。

では今回VBAのNo.1をして、またしばらく後にNo.2をして、さらにしばらくしたらNo.3をしよう、というのも難しいだろう。
No.1を受けた人が次も受けられるとは限らない。
そうなると、No.1でマクロ記録を確認し、シート遷移やシート追加などの「VBAを使ってみた!」的なことをし、No.2でプロパティやメソッド、No.3で変数や条件分岐、と段階を追った内容にするのは考えものだ。
No.1だけ受けた人は、たぶん業務でほとんど使えないだろうからだ。

だからマクロ記録をして、いきなり変数、条件分岐――さすがにこれはIFだけ、これで2時間ということになる。

なるほど、そういうことか!

今までときどき担当女性さんから、「このような研修をする予定ですが、内容についての提案を提出してください」と全講師宛に依頼メールが来たとき、わたしはずいぶん見当はずれな返事を返してきたんだな、と分かった。

そういうアナザーステージのような会社の新しい状況、時代を、わたしは理解していなかったのだ。
固い頭で、「2時間ということなら、マクロ記録をして、シート追加のような簡単なVBAで体験をし、プロパティとメソッドというところで時間切れだと思います」というような返事をしていた。

でも本当は、2時間で「業務で使えるレベル」の骨子をやって、もっと詳しくは自分で勉強してね、という内容が求められていたのだろう。

数は少なかったがいくつか講習をしているうちに、やっとこういうことを学んだ。
その意識の変化というものを、ホームグラウンドでの仕事に活かせるようになっていった。

その点が一番有難かったと思うのだ・・・・・・



Chapter 4 おまけ
(その後のほんの少しの経験、語り残したこと)


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