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ある秋の一連の日記 02:始まる前

花咲さんがスキルアップ研修の話を持ってきた。
同じような経済状況でも年齢的に疲れてきた今と違って、仕事はいくらでも欲しかったので有難かった。

「内容としては、パソコン入門とタッチタイピングなんですけど、どちらもまとめてしまっていいですか」
――はあ、まあ、仕事があればなんでもいいですとも。

「人数は3人です。2人は聴覚です。その人たちはパソコンをほとんど使ったことがないので、パソコン入門とタッチタイピング、両方の内容で」
「はい」
「もう1人は、片手入力の人なんですよ。この人は仕事でパソコンを使っているんですけど、タイピングがスムーズでないので、勧められて来ることになったんですって。だからパソコン入門はいらないんです」
「なるほど、分かりました」

でも自分にはあまり分かっていなかった。いろんなことを知らなかった時代だ。
誰も説明してくれなかったし―― 聞いても分からなかったし――

今にして思うと、たぶん「勧められて」というのは、カウンセラーさんのような人だと思う。
ジョブコーチみたいな人なのか、地域の支援アドバイザーなのか、今でもその仕組みがはっきり分からないが、相談を受け付ける窓口みたいな人がいるらしい。

「入力をするとき姿勢が悪くなってしまうため、このままでは障害が進んでしまうから、スムーズに入力できる方法を教えてほしい」ということを後から聞いた。
障害特性を知っていて、姿勢が悪いと進むということも知っている。改善策として専門機関にタイピング研修を申し込ませた。
――このアドバイスはプロのものだ。会社の上司などではないと思う。

まあ、申し込んだはいいけど、担当するのは専門家でもなんでもないわたしだった。
あまり考えたくない、忘れたい記憶だ。

花咲さんは、実はわたしと同じ年にスクールで働き始めた。
同じ年の同じ月。2週間しか違わなかった。(お互い「10月から」ということだったのだが、PCプラクティスは10月上旬はなかったのだ。)
花咲さんのほうも、当時はまだ中間地点で、どんな障害でもどんとこい!というわけではなかった。

「片手入力だそうなので、それが心配ですね」
――確かに。通常のPCインストラクターに求められるのは、ホームポジションに指を置いて、決まった指で打っていく、普通のタイピングを教えることだ。
片手で打つって、いったいどうするのか、ピンとこない。手もとを見ながらポツンポツンと入力する、タッチタイピング以前の人のイメージしか浮かんでこない。

「片手入力について、江津先生に聞いてみましょうか!」と花咲さん。

わたしも江津先生も、水上先生の紹介で玉名上級マネジャーを通してスクールに入った。
玉名上級マネジャーは花咲さんとウマが合っていて、つまり玉名上級マネジャーを通してつながっているメンバーだった。
だからスクールの先生をほとんど知らないわたしでも、聞きやすいというわけだ。

このときにはもう玉名上級マネジャーはいなくなっていた。
次の岩室上級マネジャーになっていたのだ。

江津先生の仕事が終わった頃を見計らって、2人で聞きに行った。
花咲さんが説明する。「今度、片手入力の人がスキルアップ研修に来ることになったんですよ」
一通り説明してくれたので、わたしも「片手入力の方法などがあったら江津先生に教えていただきたいと思って――」と切り出す。

江津先生は玉名上級マネジャーがいなくなった後、しばらく機嫌が悪かった。
玉名上級マネジャーは人との触れ合いを上手にする人で、みんなが仲良くしているのが好きだった。そういう意味で、わたしともフレンドリーに接しておいたほうがいいと思っていたのかな。いなくなったから、もうあんたに用はないってことなのかな。そう思ったくらいだ。
――ちなみにこれは水上先生も言っていた。
でももしかしたら、そういうルーズな「人が苦労して作った資料も、人が苦労して身につけた知識も、全部共有」「自分の評価にも手柄にならない」という、昔風の公共職員的な体質が嫌になったのかもしれない。
それなら、わたしは実に悪いタイミングで教えを乞いに行ったことになる。

江津先生は一言、「やってあげたいけど、手を出せないから」
スキルアップ研修を担当してあげたいが、体制の問題でテンポラリーは担当できないからどうしようもない、という意味だ。

――つまり、わたしではダメだということか。

それはもっともだけど、それこそ手を出してもらうわけにもいかず、自分でやらなきゃいけないのだから、聞けることは聞いておかなければ。
「基本的にはこうするとか、こういうやり方でやるとか、ありますか?」
「ない!」
「・・・・・・」
「私は何百人も見てるからできるんですよ」

何百人はオーバーだけど。
だって江津先生がスクールに入ったのは、わたしより半年あとだ。
いろいろな障害の人全員をあわせて何百人くらいでしょう?
片手入力の人を何百人は見てないでしょう?

でもなんとかくいさがって、ひとつだけ教えてもらった。

片手入力だと横スライド率が大きくなる。ホームポジションに常に置いておくわけにもいかないので、自分の指が今どこにあるか分かりにくい。
そこでたとえばAなどにシールを貼っておく、というアイディア。
ただのシールではなく、可愛く立体的になっているシール。女の子たちが喜びそうなやつだ。
指がさわれば「ここが端(つまりA)か」と分かる。
反対側のLなどにも貼ったりする。

どこに貼るかは、その人のやりやすさで決めるそうだ。

うーん、わたしで大丈夫かなぁ・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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