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ある秋の一連の日記 07:Excel基礎

参加したのはVさんとWさんとXさん。前のスキルアップ研修から引き続きの3人で、3人とも聴覚。
VさんとWさんは今年か来年か再来年か、そのくらいには今の会社で定年を迎える人たち。
Xさんは若くて、会社に入ったばかり。「彼はうちのレベルに達していない」と会社から送られてきた。

VさんとWさんは、本当に基礎。
まずは一緒に表を入力して作ってもらう。

普通スキルアップ研修では、テキストを見ながら自分で進めてもらうようになっていたが、VさんとWさんにはそれは難しそうだ。
Excelがどうのこうのというより、パソコンがどうのこうのなんだもの。

その間、Xさんにはいつも通り自学自習してもらう。
練習問題もたっぷり渡しておく。
ときどき覗くが問題なさそう。

VさんとWさんには、まずセルに入力をしてもらいながら、また指位置を指摘する。
今度はテンキーで数字入力もするから、かなり崩れやすい。いったん手を放してしまうと、また手をのせたとき指がホームポジションに行かない。
いったん体にしみついたら、放してまたのせるときには、自然に人差し指がFとJを探すけど。

今度は計算がある。
でも足し算やSUM関数くらいのもの。
オートフィルなどは使ってもらう。

罫線を引いて、項目名のセルに塗りつぶしを設定して、完成。

とにかく慣れることが重要な時期なので、罫線は格子くらいしか使わない。
列幅を広げたりするのは、今回はできなくていい。だから用意した問題は、長い文字列などのない表ばかり。そのままの列幅で大丈夫なようになっている。
会社でExcelを使うとは決まってないし、必要になったら会社の人に教えてもらえばいい。
VさんとWさんに関してわたしの仕事は、会社の人が教えてくれたとき「ああ、なるほど」とすぐに理解できるくらい、パソコンに慣れてもらうこと。

1つ単純な表を作成したら、似たような単純で小さい表を作る問題を、いくつか渡す。
完成図があって、それを見ながら同じように作るタイプのもの。

①以下のように入力しましょう。A1:売上表 A3:東京 A4:大阪・・・・・・
②表全体に格子線を引きましょう。
③表の項目名に、黄色の塗りつぶしを設定しましょう。
というタイプのものではない。

VさんとWさんは聴覚だし、視覚的能力に優れているはず。
それに本当に簡単な表ばかりなのだ。問題文をいちいち読むより、見本を見ながら作るほうが早い。
プリントを渡したときに、「こことここは計算」と伝えてある。

同じことをするのだから、きっとサクサク進むはず――というわけには、残念ながらいかない。
「Vさん、指」「あ、そっか」(この辺は、適当なジェスチャー)
「Wさん、そこは計算です。け・い・さ・ん」(ジェスチャーと口話)
Wさんは「あ~」という笑顔。

1問終わるのにすごく時間がかかる。練習問題をするというより、結局全部一緒にやってる感じ。
「ここは線をつけてください」(と言いながら、紙に「線」と書く)
Wさんは画面を指さす。線はあるというしぐさ。
「それは、わかりやすいように線を見せてるだけで、このボタンを使ってちゃんと黒い線を引かないと、印刷しても出ないんです」(ほとんど筆談)
印刷プレビューを見せると、Wさんは「あ~」と納得。
でも罫線ボタンの場所も使い方も覚えていない。

この間、Xさんは順調にやっているはず――Xさんはそんなにできないわけじゃない。たぶん基礎には来る必要がない。ただ会社に言われて来ているだけだ。
そこにはきっと、Xさんに筆談で仕事用ファイルの構造や意味、使われている関数を説明するのが面倒だったというのもあるのだろう。

聴覚の人は雇いやすい。
施設設備が健常者とほぼ一緒でOKだからだ。
また知的障害などのように業務を限定されることもあまりない。電話は出られないとか、人と話す営業職などは難しいとか、その程度だ。
でもいざ雇ってみると、忙しい合間に筆談でコミュニケーションをとって、仕事のやり方を教えるのは面倒だ。
それに、聴覚の人は世代や個人差もあるが、少し考え方が独特だったりする。うまく伝わらなかったりして、少しばかり厄介なときもある。
ちゃんと分かり合えるのだけれど、その少しの手間が、忙しく仕事をしているときはかなり重荷なのである。

それでスキルアップ研修に、「ここで教わってきて」と送られることがある。
Xさんも多分にそういう事情があったのだろうと推測していた。

仕事は忙しいから仕方ないとはいえ、なんだかそれもどうなの? という気持ちが湧くケースもあるが、うーん、でもXさんの場合はちょっと気持ちが分かる。

Xさんはとても真面目で、熱心。
疑問点があると質問してくれる。答えるとその内容をメモしている。

自分なりに要点をまとめて分かりやすくメモするのではなく、一言半句メモしたいというような熱心さ。
彼のメモが終わるまで、どこにもいけない。
いったん納得して、それからメモをとるときにもう一度「こういうことか?」と確認が入って、その答えをすべてメモして、さらに説明の中のさまざまなことについて「これはこういうこと?」「あれはこういうこと?」と確認され、その答えもすべてメモして――
そして最後に、わたしが説明のためになぐり書きした筆談用の反故紙を、「これをもらっていいか」と聞く。

Xさんの周りは大量の紙が散乱していた。
すべての作例、すべての練習問題を印刷しているし。

心配性でもあるのだろう。
あとになって忘れたらどうしよう、と不安で、すべての紙を持ち帰る。
そんなに何十枚もの紙を毎日持ち帰ったって、家で見返すことなんてできないでしょう――
――でも、しているらしい。

テキストは、重かったら置いて帰っていいですよ、といつも言うけれど、必ず持ち帰る。
そして次の日の朝は、「昨日のここ、家で確認してみたのだけれど、もう一度教えてほしい」と質問から。
操作してみたら納得で、いちいち説明など要らない、という人もいるけれど、Xさんはまったく逆。

わたしはなんだか吸い取られているような気分だった。
とにかくいつも、びっちり質問があり、解説を求められるのだ。休み時間もびっしり。帰りも「放課後」的な時間帯にたくさん質問がある。
質問というか、多くの場合はXさんは分からないことはない。確認だ。「こういうときはこういうことか?」というような。
でも「そうです。そのとおり」では終わらない。

講師冥利に尽きる受講者さんかもしれないけれど、VさんとWさんにも時間と注意がたくさん必要だ。
するとXさんは我を通さず待っていてくれて、終了後に聞いてくれる。
だから、なかなか帰れないのだった・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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