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Yさん 01:Accessにて

あたふたしていたある秋の一連のスキルアップ研修、YさんはAccess基礎、Excel応用、Word、文書作成術と連続で来ていた。

Access基礎は3人だった。肢体障害で電動車椅子に乗っているYさん、肢体障害のZさん、もう一人は聴覚障害の若い男性。
その秋の一連のスキルアップ研修では、個性の強い人たちがいたけれど、このコースは講習らしい講習だった。

それなら楽だったかというと、そうでもなかった。
わたしはAccessを業務でディープまたはヘビーに使用したことはない。Accessを使って業務用システムを作ったことなどないのだ。
そういうPCインストラクターはそりゃ多い。わたしだけじゃない。
AccessをプログラマーやSE並に駆使して、業務用システムを構築した人なんて、そうそういない。

でもAccessの講習としても、わたしはスクールで何度かスキルアップ研修をしただけだから、自信を持てない。

これが講習会なら、決められたテキストに沿って進めるだけ。休み時間の質問程度で恐ろしく突っ込んだ質問をされることは少ない。
テキストがあってその通りに全員で進んでいる講習会というのは、求めたレベルより低くても何も言わずに帰る人が多い。知りたかったことをすべて講師に聞こうという意気込みで、休憩時間も終了後も高度な質問をしまくることはない――時にはあるとしても、めったにない。
もし求めたレベルでなかったとしても、「この講習会は思ったより簡単な内容だったんだな、次はもっと応用的な講習会を探して申し込もう」と考える。わたしだってそうだ。基本的に質問というのは、今回の講習内容に沿ったものになるのであって、日頃の業務で困ったことがあるから相談に乗ってくれというのは多くない。それに、そういう質問に対して「それは現物を見ていないので、なんとも言えませんね」とか「今回のテキストにあったように、根本的な考え方としてはこれこれこうですが、業務となると仕事の流れに沿って考えますし」とか、そのものズバリでない答えが返ってきても、それほどガッカリしない。「そうだよな」と納得してもらえることが多い。

しかしスキルアップ研修は、個人個人のペースで進めてもらって、ことによると希望で多少内容を変えることがある。
たとえば、Aさんは初めてだからテキストを繰り返し進めるが、Bさんは以前も勉強したことがあるのでテキスト確認は最小限にして問題集をたくさんやる、Cさんは自己流で使っていてきちんと基礎固めをしたいということだから、基礎コースだけど終わったら応用テキストに進んでもらう、というように。
こうなってくると、「僕は今、業務で以前に作られたAccessシステムを使っているのですが、それをこういうふうに変更したいんです。どんなふうに直したらいいでしょう?」なんて言われるかもしれない。それを「そうですねぇ、今回のテキストとは違う内容なので、お答えできませんねぇ」とは言いにくい。
「実物を見ていないのでなんとも――」と答えても、「今日、帰りに会社によって、サンプルデータを明日持ってきます」なんて言われかねない。

それでも来る人がAccessを使ったことがなくて、「やってみようかな」とやってきた程度だったらいい。わたしもゆとりの心でじっくりフォローできる。
本気でやろうと思っている人が細かく突っ込んでくるのでおろおろするのだ。そういう人は仕事上の必要に迫られて来ているので、あやふやなまま答えるわけにもいかない。

このときはZさんという人がいて、会社ですぐにでも使うということだった。
現在はExcelのシステムを使っているけれど、それをAccessシステムに移行するのだそうだ。
だから小さなところを突っ込んで質問してきて、かなりドキドキした。
今だったらもう少し余裕を持った気持ちでいられたろうが、当時は今よりもっとドキドキだった。今よりさらに能力が低かったからだ。

Zさんにドキドキさせられた分、Yさんをフォローするのは楽しかった。
楽しかったという言い方は誤解を招くかもしれないが、YさんはAccessは初めてだと言い、そして熱心だった。
熱心な受講者さんというのは、やはり講師をするこちらも楽しいものだ。でもZさんの熱心さとは違って、基礎を一からやっている熱心さなので、ハラハラドキドキすることもない。質問されても答えられるし、「ああ、そこは確かに分かりにくいけど、こういうことなんですよ」と自信を持って説明できる。
――さすがに当時のわたしだって、基礎のテキスト内容くらいは堂々と答えられる程度にはなっていた。

Yさんは二十歳くらいの若者で、顔立ちは整っていた。でもとても若く見えたので、当時倍とはいかなかったがかなり年上のわたしからしたら、「かっこいい!」というより高校生さんのような感じだった。
でもスキルアップ研修は一応「社外研修」という扱いになるので、毎日スーツを着てきていた。クールビズ風にノージャケット、ノーネクタイの日もあったが、少なくともワイシャツとズボンは会社用だった。
花咲さんに「会社じゃないから、楽な服装でもいいのよ」と言われても、「いや、やっぱり研修だから」と答えてビジネススタイルを通した。

Yさんは本当に若くて、後で知ったらまだ二十歳を越えていなかった。
会社では彼のような肢体障害者はあまりいないようで、上司もYさん自身も手さぐりの就職。Yさんは若かったので、他での就職経験はなかったのだ。

――大きなグループ企業の会社だったので、企業全体では法定雇用率を達成しているのだろうと思うけど、詳しいことは分からない。Yさんが働いているのはその中のひとつ。特例子会社ではなかったし、親会社でもないようだった。

上司の方は、Yさんにいろいろと気を配っているようだった。花咲さんとあれこれ相談していたらしいからだ。
花咲さんはスキルアップ研修運営のための事務をするが、その中で企業と連携をとる役割も果たしている。
たとえばPC系のスキルアップ研修であれば、バージョンを確認する必要もある。業務でどのようなことをするから、どういうことを覚えてきてほしい、と会社側から希望がある場合もある。必要な配慮について花咲さんから確認することもある。
そういった折に、困りごとの話になることもある。花咲さんは上級マネジャーに報告して、スクールとして相談窓口となるか、上級マネジャーが話をするか、指示を受けて花咲さんが対応するか、状況を見ながら対処する。

Yさんの上司は、Yさんに友達がいないことを心配していたそうだ。
もちろん「友達」というのは、会社内の話だと思う。お昼を一緒に食べる人、仕事中に軽く話をしたりする人、帰りに駅まで一緒に帰る人、そんな同僚のこと。
「この研修で、友達と仲良くできるといいのですが」というようなことを言っていたそうだが、その点は大丈夫だったようだ。
YさんはAccessの期間中、同じ肢体障害のZさんとお昼を一緒に食べていて、楽しそうに話していた。Zさんとは年がずいぶん離れていたけれど、年が近いもう一人の若者は聴覚障害で手話が必要だったから、仲良くなるには時間がかかる。

こういうスクールみたいなところは当事者にとって過ごしやすい部分がある、と改めて思った。
そのためか、最終日にわたしが「明日からExcel基礎だ」と言うと、Yさんは「受けたほうがよかったかな」と言っていた。Yさんは基礎は受ける予定がなく、そのあとのExcel応用だけ来る予定だった。
――いや、いらないと思う。会社で既にVLOOKUP関数を使っているくらいなら。

3人目の聴覚障害の若者は、手話族のいないスキルアップ研修だったので、若干寂しかったかもしれない。杞憂かもしれないし、本当のところは分からないが。
彼は昼休み、携帯をカフェテリアのテーブルに置いて、手話で話していて驚いた。そういうテレビ電話みたいな使い方ができるのか。

Yさんに関しては、やはり周りが構えてしまうところがあって、まだお昼仲間ができるところまでいっていないのかもしれないと考えた・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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