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Yさん02:Yさんの仕事

Yさんの会社では障害者雇用は初めて。
大きい企業だったから、企業グループ全体としては初めてではないだろうが、その会社では初の障害者だった。

Yさんは、新人であると同時に、これまでになかった初の障害者でもあった。
会社の人たちはYさんに気遣いをしていたろうけど、なにしろ初めてのこと。
そしてYさんの側も、「会社で働く」というのは初めてのことだった。いや、そもそも「社会に出る」ということからして、初めてだった。アルバイトなどをしたことはないだろうから。

Yさんは新人らしい仕事も割り当てられているようだった。
たとえば書類のホチキス留めとか。
たまたまわたしが紙資料を配ったときに、そういうことを言っていた。

スキルアップ研修では一斉授業をしない代わりに、知っておいたほうがいいかもしれないことを印刷資料にして配ることがある。講師によっては板書するかもしれないし、一斉授業をしている科目もあるが、わたしの科目はほとんどが自習タイプになるので、適宜配っている。
渡す資料をホチキスなどで留めるかどうかは、そのときどきで決めている。
手も麻痺があったり、片手しか使えなかったりする人には、ホチキス留めをしていないほうがいい場合もあるように見える。
こだわりがあって、ホチキスを留める位置はここがいいと思う人もいるかもしれない。
留めずに渡して、「ホチキスはここに置いておくので、留めたければ自由に使ってください」と言うこともあるし、そのままがいいかホチキス留めがいいか、先に聞くこともある。
随時いろいろな補足資料を渡して、最終的にかなり多くなる場合は、あらかじめ留めて渡すこともある。もしかしてめくりやすくても、日が経つにつれ増えて、わけがわからなくなる。

Yさんの場合は、手にも少し麻痺があるようだったので、まず留めずに渡して、ホチキスがあるということを伝えた。
受講者さんは少ない回だったので、Yさんが見終わったらわたしがホチキスで留めてもいいと思った。

Yさんがホチキスで留めるというので、「(わたしが)留めましょうか?」と聞いてみた。
Yさんは「大丈夫です、自分で留めます」と言う。

「これも練習だから」

会社でもたとえば会議資料や書類などのホチキス留めを頼まれることがあるらしい。
しかし手にも不自由があるので、ぴったり角を合わせた状態で留めるのが難しい。
麻痺というより、若干の筋肉の不随意運動だ。頚椎損傷の人のような、握力がないとか、力が入らないというのではない。逆に、意思に反して急に力が入りすぎたりする。そうでないときも自在に動かすのは難しい。あとからYさんは脳性まひだと分かった。

「ぴったり角を合わせて留めるのが、自分には難しいんです」と、なんとなく危なっかしい手つきでホチキスを操るYさん。
危険があるというわけではなく、手元がふらついているというような感じ。確かにこれではピッタリ角を合わせたまま、パチンとホチキスに力を入れるのは難しそうだ。

「会社の資料なんだからきちんと角を合わせて留めて、って言われちゃうんで。これが結構難しいんですよ」

そりゃ難しかろう。
あまり気にしない性格だからとか、無造作に作業するタイプだからとか、そういうことなら「きちんとそろえて」と注意するのも必要だと思うが、Yさんは気をつけるとかそういう問題ではないようなので、ただYさんのストレスになるだけのように見える。

しかしそれはわたしが言うべきことではない。
会社の上司や周囲の人も、やがて分かってやり方を考えるだろう。Yさんに依頼する業務の内容に配慮するとか、その分Yさんができるほかの業務を多く割り振るとか、便利な補助具を準備するとか。
Yさんのほうも、やがて工夫するだろう。あったほうがいい補助具があれば、会社に購入を依頼するとか。そもそもこの業務は無理があると思ったら上司に相談するとか。
自立を望んでいるのだから、自分にできることとできないことの判断をして、それを上司に相談したり、周囲に説明したりできるようになることも、大切なステップだ。

花咲さんも「そうね。練習ですね」と励ます。

今、手探りで歩み寄っている段階の会社側とYさん。余計な口出しをする時期ではないということだったのだろう。

会社側、あるいは上司の方は、手探り段階に見えたが建設的な手探りだった。

ホチキス留めのような、いかにも新人さんがとりあえず頼まれそうな業務だけでなく、もっと踏み込んだ業務も頼んだりしている。
Yさんが「会社ではExcelをよく使っていて、VLOOKUP関数を今はよく使って作業している」と言っていたからだ。

Excelはどんな会社、どんな部署でもヘビーに使われているように思える。全部とは言わないが、かなり多くの会社でヘビーに使われている。
使い方はさまざまなので、ひたすらグラフなどを駆使して報告書を作っている人もいれば、データを抽出したり加工したりするだけで計算はしない人、関数をバリバリ使ったファイルで仕事をしている人、いろいろだ。
で、その関数を使うとき、「関数使ってます」と言いながらΣボタンをクリックするだけのSUMしか知らない人もいれば、使いこなすのがちょっと難しい関数まで使っている人もいる。
VLOOKUP関数は、ワンランクアップな感じの関数だ。今や使える人は多いが、「あ~、あれが使えるんですか」というひとつの基準になっている。

Yさんが学校で習ったであろうその関数を、「じゃあ使ってこの仕事をお願い」と頼んでくれるのは、Yさんに新入社員として成長を期待している証と感じられる。

かつて「その会社で初の障害者雇用」として雇われた聴覚障害の人が、「ちょっとそこに座っていて」状態だと言っていた。忙しくて誰も仕事を教える暇もなく、どう扱っていいかも分からないため、「座ってて」から抜け出せない。スキルアップ研修に行くとなったら、「そのテキストを就業時間中いくらでも勉強していていい」と言われる。
ようやく仕事を頼まれても、誰でもできるようなコピーとり。と嘆いていた。

Yさんは、たとえ今、多少彼に合わない業務を割り振られていたとしても、それは新人なら誰でもそうである程度のものだ。彼には未来がある。
良い未来になったらいいと思った・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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