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Yさん 12:電車に乗るということ

Yさんと2人きりで、いろいろなことも話したりしたスキルアップ研修、最後の日。
これがこの年最後のスキルアップ研修でもあった。

翌日からPCプラクティスが始まるので、周囲は騒がしかった。
いつもはそんな準備なんて特にないのだけれど、そのときはたまたまバタバタしていたのだった。

まず、不調なPCを直しに、情報系に詳しい先生がやってきた。
お若いけれどレギュラースタッフで学事グループの白鳥さんも、途中で様子を見にやってきた。それは、スキルアップ研修が終わった時点から翌日までに、すべてのPCにキーボードカバーをかける作業をするためだった。
そのときまでカバーはなかったので、たまたまそうすることになった時で、今回だけの話。
実際に終了時間になると、インターンシップとして働いている知的障害のあるスタッフさんがやってきて、白鳥さんと共にキーボードを消毒、カバーかけ。
何台もあるPCを順々に作業していった。

「明日から使うテキストを置いておきますよ。どれを置けばよいですか」と白鳥さん。
朝来たらやるので全然いいのだが、「大丈夫ですよ。遠慮なさらないでください」と言ってくれる。

そんなところへ、当時の岩室上級マネジャーもやってくる。
難しい顔で作業を見回っている。
あとから知ったところでは、今度入ってくる実習生さんのための措置で、単なる備品装着とは違ったようだ。だから上級マネジャーまで来て、監督していたんだ・・・・・・
・・・・・・まあ、そのわけを知ったのは、後も後、何年も経ってからだった。

上級マネジャーとは最後に少し話をした。
PCルームで使用されているMicrosoft Officeのバージョンを、できれば今回から変えたかったがやむなく延期になった話。
当時、PCプラクティスは人手不足のためPCインストラクターやITトレーナーをしたことがない人が、メンバーとして入っていた。そのことについて、いつまでもそういうわけにはいかないので、適任者を知っていたら紹介してほしいという話。
わたしもスクールで多くの時間を働くようになり、他での講師の仕事は激減していた。紹介するほど深く知っている人というのは、あまりいない。

そんな話をいろいろしていたら、この日で最後だったYさんとゆっくり挨拶を交わせなかった。

やれやれ、すっかり遅くなった―― 急ぎ足で駅まで行ってみると、ちょうど改札のところにYさんがいた。
Yさんは3つくらいのスキルアップ研修に来ていたが、帰りに一緒になったことはない。道の途中で出会ったことはあっても、同じ電車に乗って帰ることはなかった。

最後だし、改札で出会ったので、そのまま一緒に乗車することにした。

Yさんは切符を買う(当時はまだICカード全盛ではなかった)。回数券を買って使っていたけれど、なくなったのだそうだ。Yさんはしっかり者だ。

駅員さんのいる改札脇の窓口へ入る。
自動ドアが開いて、車椅子で中に入っていくと、駅員さんが察して来てくれる。車椅子でやってくる人のほとんどは、電車の乗り降りの介助を求めているのだろう。
「**まで行く」ということを告げる。その場合、1駅乗って同じ鉄道会社の別路線に乗り換えだ。
駅員さんは「次は――」と、チラッと時刻表を見て、「じゃ、エレベーター降りたところで待っていてもらっていいですか」と言った。

自動改札を通り、エレベーターでホームに降りる。
まもなく電車がやってきた。しかし駅員さんは来なかった。
人々が電車に乗り、ホームががらんとして少し経った頃、さっきとは違う駅員さんがやってきた。
「遅くなってすみません。次の電車でいいですか?」

――嫌とも言えないでしょう。もう電車行っちゃったし。

よく見かける光景だけど、ホームと電車の間のわずかなすきまにボードを置いてくれて、そこをYさんが車椅子で通る。
「ご案内、終了です」 駅員さんがマイクで知らせ、電車は発車する。

1駅行ったところで乗り換えなくてはならない。でも、降りるホームに駅員さんはいない。
電車が出てしまうのではないかとひやひやした。
もし、来てくれなかったらどうなるのだろう? このままこの電車で全然行きたくないどこかの駅まで行ってしまうのだろうか?

でもこのままこの電車に乗っていたって、どの駅に着いても、駅員さんが近くにいなければどうにもならない。電車から降りられないのだから、ちょっと顔を出してホームから呼ぶってこともできないだろう。
通りすがりの人に頼んで駅員を呼んでもらうとか? 見ず知らずの人に?

自分はホームに立ってみたものの、駅員さんはいない。またYさんのところに戻る。でも電車が動き出してしまったら困るから、駅員さんを探そうとホームに降りる。
そんなふうに、不安になって電車を降りたり乗ったりしているうちに、駅員さんがやってきた。「すいません、場所間違えちゃって」

――あ、そうですか。いつもこんなに待つわけじゃないんですね。そうですよね。いつも待ってる様子を見てますよ。

駅員さんが「一番前に乗りましょうか」と言うので、前まで行った。
駅員さんは先に歩いていったので、歩きながらYさんに聞いてみた。
「心配になっちゃいました。こういうことはよくあるものなの?」
「よくありますよ」

思えば、人の善意と、システムや仕事の正確さに頼ったやり方だ。ちゃんと駅同士の連絡をとってくれているはず、という信頼、駅員さんが仕事を果たしてくれるはず、という信頼。数々の信頼をしなければ移動できない。

来た電車は途中駅を飛ばす電車だったので、途中まで一緒に乗り、途中の駅でわたしは降りた・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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