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Aさん 04:BさんとCさん

文書作成術のスキルアップ研修には、AさんとBさん以外にCさんという肢体障害の人も来ていた。
下肢に障害があり、補装具を片足につけていた。長距離を歩くのはちょっと大変。

BさんもCさんも以前にも会ったことがあり、わたしは顔なじみだったが、AさんBさんCさんお互いは初対面。

Bさんが作る文章は文法もきちんとしていて、敬語も間違わない。
Bさんは文書作成については実によくできた。スキルアップ研修に来る必要はないと思った。
それでも上司から「よく分かっていない箇所があるようだから、行って来たら」と言われて来たという。

――どこだろう、それは?
日本語としてだけでなく、ビジネス文書としてもほぼ完璧だったと思うけれど?

わたしが何か見落としていて、Bさんが会社に戻ったとき「なんだ、役に立たない研修だな」と思われたらどうしようか?

Bさんは穏やかにクールに「でもまだよく分かっていない箇所があるみたいで」と受け入れていて、とても「デキた人」という印象だった。
Bさんからしたら、Aさんは「若いなぁ」とため息をつきたい気持ちになることも、あったかもしれない。
でもいつもBさんはAさんを、丹念に倦まずに諭していた。

Bさんは聾者として手話もできるし、健常者並みに会話もできるので、手話を教えることもあると言っていた。
わたしが手話を聞いたときも、的確に教えてくれた。

お互い教える者として、Bさんの教え方には共感した。
ひとつのことを聞かれても、知っていることだと、ついつい余分な知識を付け足してしまう。

もしExcelだったら、事務の仕事に行ったら隣の席の人に、「コメントを挿入したんだけど、消えちゃう」と聞かれて、「そのセルを右クリックして、コメントの表示/非表示をクリックしてみてください」と教える。「もう一度同じところをクリックすれば、今度は非表示になりますよ」と付け加えてもいい。
でも「画面上で見えていても、印刷には表示されないんですよ。もしそのシートを印刷することがあるなら、印刷のときページ設定のダイアログボックスを出して、シートタブでコメントにチェックを入れるんです」という説明は要らない。
仕事中は忙しいのだから、今必要なことだけ分かればいいのだ。印刷に表示されることが必要なら、そのときにまた聞いてくる。
これが授業をいているというなら、その説明も必要だけれど、聞かれて答えるだけなら不要だ。ついつい余すところなく教えたくなってしまうけれど、的確に教えるというのは大切なことだ。

手話も、やっぱり「***って手話で何というの?」と聞いたら、喜んでたくさん教えてくれることがよくある。
でももしそれが、Excelのことをこちらが教えている最中に、ちょっと分からない手話があって聞いたのなら、本当はそれだけ教えてもらえればいい。休憩時間に雑談中に聞いたなら、「そして使うときは、こう間違えやすいから注意して、これとも似てるからこうで――」と発展すれば、たくさん知ることができて有難い。

Bさんはさすがに普段教えているだけあって、こういうことが的確で、尊敬したし共感した。
だって、プロの講師だって、ついつい陥りがちな罠だから。

このときの回では、Aさんが職場のことをずっと話していたので、触発されてかBさんもCさんもよく職場の話をしていた。

Cさんはそのとき、正社員ではなく嘱託という立場で、月給も安い。
具体的な額を言うのもどうかと思うが、これを書いている時点で高卒の初任給の平均額、マイナス3万円てところ。
とても少ないので、残業などもするが、プラス2万円がいいところ。

Cさんは自立していて一人暮らし。家賃を払うと生活が大変になる。
そこで、別の会社に面接に行ってみようかと思っている。
実は以前わたしが担当したスキルアップ研修で、Cさんは同じくらいの年の肢体障害の人に出会っている。
肢体障害といってもさまざまで、Cさんとその人とでは全然違う障害だが、同性で話題も合ったのか、よく話していた。
その人の会社は、待遇もよく、給料もよかったようだ。そういう話を昼休みなどにしていたらしい。

「あの**さんの会社に行ってみようかと思ってるんですよ」

しかしCさんは、長時間立っていることが困難だ。
住まいはかなり郊外。**さんの会社は都心にあり、Cさんの住まいからするとちょっと反対側になってしまう。
そこまで公共交通機関で通うのは難しそうだと言う。
とはいえ都心だから、駐車場などは会社にはないし、借りたら駐車場料金も高いだろう。

Cさんはかなり真剣に経済状況の改善を考えていて、「**線は早く乗れば座れると思うけれど、**線は立つしかないだろう。朝の電車はいつでも混んでいるから、立っているのも一段と大変だろう」とあれこれ悩んでいる。
当時の都心の電車の中には、通勤時間帯は座席数の少ない車両も多かった。少しでも多くの人を乗せるためだ。だからなおさら、座れる確率も少ないのだ。
朝の殺気立った時間帯では、補装具をつけて杖を持っていても、席を譲ってもらえるとは限らない。席の近くに立つことさえできないかもしれないし。

Cさんからすれば、Aさんのような聴覚障害の人は、雇ってくれる会社も多く、また選択の自由もあるように見える。
だってもしAさんがその会社に行こうと思ったら、行けるではないか。自分は車通勤ができるかとか、電車で通えるかどうかとか、会社が駅から近いかなど、いろいろな条件で選択の幅が狭くなる。

それも一理ある・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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