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Aさん 05:コミュニケーションの齟齬の現場

文書作成術のスキルアップ研修、最終日。
Aさんに会社からメールが入った。

わたしが担当しているときは、一斉授業をしている状態が少ないので、仕事関係の連絡には鷹揚にしていた。
マナーモードにはしていてもらいたいが、緊急の用件なら休憩時間以外でも廊下などに出て連絡してもらってかまわない。

Aさんはメールに返信した。
しばらくしてまたメールが返ってきたらしい。
Aさんはまた返信し、そしてまたメールが返ってきて、Aさんはちょっと訳が分からないというような顔でいる。

それほど落ち込んでいるようでもないのだが、それまでの経緯があるので「大丈夫ですか?」と聞いてみた。

このときは3人しかいなかったし、よく会社の話などもしていたし、特にBさんにはAさんのお姉さん役をしてもらってもいたので、仲間みたいな親近感が流れていた。
またスクールの事情で、PCルームではなく小さい部屋でこじんまりと開催していたので、より近い空気だったせいもある。

Aさんはチーフだったか、チームリーダーだったか、とにかくリーダーにあたる女性からのメールだったと言った。
――なんだか怒っているようなのだが、どうしたのかよく分からない。

Aさんは「どういうことだろう?」とメールを見せてくれた。
見せてもらうべきではなかったかもしれないが、いったい何がどう問題となっているのか知れば、アドバイスができるかもしれないと思った。

まず、リーダーから最初に来たのは、Aさんがするべきだった仕事についてだった。
平均年齢の若い会社らしく、堅苦しいメールではなかった。
「***の書類は、**書と**書を火曜日までに分類して、***の作業をしてまとめておくように頼んであったはずだけれど、どこに置いてあるのか分かりません。至急連絡ください」というような内容。

それに対してAさんの返事は、予想に反して「どこに置いてある」ともなんとも書かれていなかった。
「***の書類は面倒だよな。**さんは偉いよ」というような内容だったかな?
とにかく、どこにありますとも、忘れていました申し訳ありませんとも、書かれていない。
それどころか、完全にすれ違っている。Aさんは言われていることが分かっているのだろうか?

リーダーからさらにメール。
「***のことに関しては、火曜日までに必ずまとめておかないと困るってことを、話してあったよね? どういうことですか? やってなかったの? こちらはとても困っています」

Aさんが返信。
「**さんもいろいろがんばっているんだな。俺も研修がんばるよ!」

リーダーから返信。
「話にならない。もう返信しなくていいです」

・・・・・・そしてAさんは、「なんだか怒っているような感じだけれど、どうしたんだろう?」と疑問に思っている。

これはもう日本語がどうのこうのという話ではない、と思った。
Aさんと他の人は、まるで違う世界に生きていて、言葉はAさんの世界に入っていくとき不思議な屈折をするかのようだ。

なまじ同じ言語を使って、意味の通るセリフを交わしているから、「何を言ってるの!?」という思いが強くなる。
いっそ外国語を話しているほうが、まだよかった。言葉がうまく伝わらなかったのかな、と思えるから。

このメールのやりとりをBさんも一緒に見てくれていて、(このときはもうAさんはBさんに相談することに慣れていたから)、Bさんは「これはおかしいよ」とハッキリ言ってくれた。
たぶんわたしが言うより、素直に聞けるだろうから、まずはBさんにお任せした。

Bさんは手話と口話で、「こういう返事の仕方はないよ」などと注意してくれている。

しかしそもそも、Aさんは「これこれこういう業務を、火曜日までに仕上げる」という最初の指示を理解していたのかどうか疑問だ。
とはいえ、指示をしたときAさんは「わかった」ということを言ったろうし、伝わっていないとは想像できないだろう。

それとも、指示の意味は完全に理解していたけれど、自分がそれを遂行しなければならないということに対してルーズだったのだろうか?
これまでの生活で、「これこれこうしなさい」とルールを言われても、破ったとききつく言われることがなかったとか? 相手はきつく言っているのだが、顔が相当怖くないと、聞こえないだけに口調だけでは相手が怒っていることが分からないできたとか?
障害者だから、周囲も強く言わずにいたとか? ただただ手を貸すだけで、これまで過ぎてきたとか?

Aさんは花咲さん、Bさん、わたしが口をすっぱくしてなんとか教えようとしたことが、身になったかどうか分からない。
もし自分が、2日や3日でなくずっとつきあっていく会社の人間だったら、Aさんを導けたかどうか分からない。

このAさんのコミュニケーションの問題に、聴覚障害がまったく関係していないとは思えなかった。
こんなふうに不利になることもあるんだ――

Aさんは忘れられない人である・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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