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Yさん10:社会見学

「Yさんはとても自立心があるんですね」

Yさんは自分一人で、将来の道としてエコールを選んだ先輩に会いに行ったこともあるという。
「話を聞いてみようと思って、行ってみたんです」

当時のYさんにとって、一人で出かけるなんて、人生初のことだった。
親と出かけたり、学校の先生が引率していたり、ボランティアが介助していたり――。今でこそ一人で通勤もしているが、まだ養護学校時代(旧 特別支援学校)までは、一人で出かけるなんてあり得なかった。
一人で出かけることが「あり得ない」という自分になりたくなくて、Yさんはエコールを選び、一般企業への就職を目指したのだ。

「**のアパートに一人暮らしをしているっていうので、行ってみて、話したりしたけど、そういえばずっと会ってないなぁ。今度会いに行こうかなぁ」

もちろん養護学校でも、生徒が自立できるように少しずつ促す。ただYさんが、そのステップの小ささと到達地点に飽き足らなかっただけで、逆にYさんが求めるほどのスパルタをしたら、ついていけない生徒もいるだろう。
遠足はいってみれば自立の最たるイベントだったそうだ。

最近は、電車の中で見かける遠足らしいお子さんたちも、どうやら事前に目標を立てて班行動らしい。
目標を書いた紙を持っていたり、「何班」と服に付けていたりする。

Yさんたちも目標を立てて、班行動をする。
確か、班は上級生も下級生も混じっていると聞いた気がする。・・・・・・が、昔のことすぎて定かでない。
社会見学のようなもので、遠足ではなかったかもしれないという気もする。

とにかくそれをするために、班で集まって話し合う。
着いたらどこに行くか、何をするか。
計画も立てる。どこどこまで行くのに何分、何々をするのに何十分、どこどこを見て何十分――。

目的地はひとつだったか、複数あって選べたのだったか、忘れてしまった。
とにかくそのとき、目的地の中にお台場があった。

お台場!
Yさんはとても嬉しかった。

Yさんはテレビ好きなのだ。見たいものは録画もして、見逃さない。
好きなタレントもたくさんいる。男性の渋いタレントも好きだが、やはり可愛い女の子タレントは大好きだ。特に好きな女の子が、やはりいる。ファンなのだ。

お台場といえばフジテレビがある。
ぜひ行きたい!!

現地に着いたら、先生たちは手出しをしないことになっている。
班で考えたように自分たちで行動する。誰にも頼れない。頼るとしても、自分たちで周囲の人に頼まなければならないのだ。
「でもちゃんと見てるんですけどね、離れたところとかで」

――Yさんは生徒10人に担任5人みたいな話もしていたから、班ごとに見守り役の先生が2人くらいついていても不思議ではない。

これから先の話では、フジテレビ用語や階・場所などはもう忘れてしまったので、正確ではない。
言いたいことが伝わればいいと思って適当に書いているので、悪しからず。

「絶対行ってみたかったのは、2階のフジテレビショップだったんですよ」

「1階にもショップはあるんですけど、2階のショップにしか売ってないものがあるんですよ。**のストラップとか、**番組のグッズとか」

「2階まで上がって行くのは時間がないよって言う同じ班の奴もいたけど、どうしても2階のショップに行こうと思って。ここまで行って2階に行かないと意味がないって説得したんですよ」

「自分たちには行けっこないって思ってる奴も多いから」

「他の班は、外から見て終わりだったり、簡単に行ける場所にいくつか行って終わりだったり、フジテレビの中に入らない計画が多かったし。中まで入る班は少なかったんですよ。だからそこまで行ければ充分じゃないかって言う奴もいて」

Yさんにとっては、大好きなテレビの局がある場所。行かないなんて考えられないだろう。
行ったら絶対、限定グッズも欲しいだろう。
Yさんがそれほど「行きたい」と願ったなら、その強い意志に皆は押し切られるかもしれない。

「下級生たちは、自分たちだけでフジテレビの中に入るってこともビクビクするくらいだから、説得しましたよ。絶対行ける、僕が計画を立てる、せっかくだから行こう、って。時間内には帰って来られないって心配してるから、僕が責任持って計画を考えるって言ったし」

――ある意味、Yさんの苦手だった熱血先生並みに、熱血の説得だったかもね。

Yさんは言葉通り、あれこれ事前に調べた。
自由行動の時間は限られている。その時間内で、フジテレビまで行き、見学し、2階のショップで買い物をする。そして集合場所に戻る。

見学できるのは、こことこことここくらいだろう。そうでないとフジテレビショップに行けなくなる。
何時までにショップに着いておきたい。

大人の考えとしては、もしYさんたちが多少遅れたとしたって、先生たちが置いて帰るわけはない。
何かあれば、見守り役の先生もいるという話だから、助けに来てくれるだろう。

でも生徒にとって先生は強大な存在らしいから、時間に遅れるなんてタブーなのだろう。
それにYさんだったら、「もう時間がないから戻りなさい」と先生がどこかから現れたら、それは最悪の結果になるだろう。クライマックスの2階のショップまで行けなくなるかもしれない、行けても買い物できないかもしれないのだから。
当時のYさんに、「買えなかったらまた別の日に来よう」と一人で行くことはできないだろうし、親御さんに頼んでも連れていってもらえないのだろう。
――今は、子供に手をかけ、時間をかけ、「やりたいことはできる限り体験させてやろう!」という親御さんも多いようだけれど、話を聞いたのも相当昔のことで、さらに当時のYさんにとっても過去の話なのだ。

「行く前にすごく調べたんで、着いたらとにかく「フジテレビに行こう!」って言って向かったんです。中に入って見学もしました。でも本当は、**も行きたかったんだけど、時間がなくなってパスしたんですよ」

どこのテレビ局にも見学できるエリアが広くとられていて、来訪客を楽しませるようになっているだろう。Yさんとしては、こことこことここに行きたいと考えて決めていたけれど、やはり全部回るには時間が足りなかった。
その時点で、「もう時間がなくなっているから、帰ろう」と言い出す仲間もいた。

「でもフジテレビショップは絶対行きたかったから、まだ大丈夫だから急いで行こうって行ったんです」

――買いたかったものは買えました?

「時間があまりなかったけど、いくつか買いました。急いで見なきゃならなくて。本当はもっとゆっくり買い物したかったけど」

「下級生の中には何を買っていいか分からない奴もいたから、一緒に見てやらなくちゃいけなくて」

買い物に行って、何を買っていいか分からないなんて、不思議に思える。
テレビ局のショップなら、自分の好きな番組の何かを買えばいいし、好きでなくても人気番組のものを買ったりするだろうし。
欲しくても値段が高すぎれば買えなかったり、重くて持てないようなものは買えないけど、これなら買えるかな、と自分なりに決められる。
そりゃね、「うわ、これ買おうかな」「これ、買っちゃってもいいかな?」「えー、それ?」と迷ってわあわあ話すことはあるかもしれない。女の子同士だったら、きゃあきゃあ話すかもしれない。
でも時間がなければないで、「時間ないよ」「これ、買うわ」「じゃ、俺、これにするわ」と適当に決めそうなものだ。

だけどそれが、Yさんがこだわり続けた、自分の限界が狭まることなのだろう。
手厚く守られることが悪いわけじゃない。必要な人もいる。
でもYさんは殻を破りたかったのだ。

同じ電動車椅子に乗っていても、あるとき事故などで中途障害者になった人とYさんは違う。

中途の人は、自由が何かは知っている。
Yさんたちはことによると、扉が開いていても鳥かごから外に出られない、外に出られるということを思いつきもしない、かもしれない。

それまでできていたことができなくなり、それまで広かった世界が狭まり、中途の人は適応に苦労するかもしれない。
逆に、Yさんが描いてみせた生まれながらの障害者は、はじめから世界が狭いことがあるのだと知った。

もし周囲が、「うちの子には他の子と同じようにさせたい」と思っていたら、世界は広がるかもしれない。
でもそれが合わない場合もある。当人にとってとてもきつい、苦しい場合だってある。

Yさんのように、自分で飛び出して行きたくなる人もいるだろう。
でもできない場合もある。あえてしないこともある。
飛び出さないからといって、それが間違いだと安易に非難できない。
どちらが正しいかの基準はない。「絶対飛び出すべき、それが正しい」と押しつけることはできない。それはただの「その人の意見」だからだ。

正しい正しくないではなく、ただ――
Yさんの話は強く印象に残ったということだ・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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