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ちょっと覗き見 02:開始前

ビジネス演習コースでほんの2、3日働くことになったので、事前にビジネス演習コースのマネジャー、権現先生にご挨拶に行った。

先方から「少し説明したい」と言われ、PCプラクティスが終わってから、午後に行くことになった。
無給である。この日は仕事ではないから。
派遣の顔合わせみたいなものかな?とわたしは思っていた。
「無給なら行きません。PCプラクティスの休み時間にでもしてください」とは、もちろん言えないし、言うつもりもない。こんな機会はめったにないのだから、実は結構楽しみにしているのである。

午後から行くダブルワークは休むことになった。
実はこの時期、仕事が立て込んでいて、あまり休めないはずだった。
でも万難を排してビジネス演習コースの仕事をするつもりだった。

――スクールの話としてはどうでもいいことだが、第二の職場のわたしの仕事はこのとき本当に立て込んでいて、わたしはかなり頑張った。
ビジネス演習コースの講習が終わってから、なんと夕方第二の職場に着いて、7時半くらいまで3時間半ほど働くという、あほみたいなこともした。

そこまでしてもビジネス演習コースに行って、今でも良かったと思っている。
後にも先にも、そんなチャンスはこれきりだったからだ。

立て続けにアシスタントテンポラリーさんが辞めてしまうというめったにない出来事と、たまたまそのとき白崎上級マネジャーだったことが重なった、実に珍しい僥倖だったのだ。
白崎上級マネジャーが、これまた後にも先にもこれほど「ルール無用、それもいいんじゃない?」という人はいない――この堅い職場には珍しい、恐ろしく融通の利く人だった。
アシスタントテンポラリーさんが次々いなくなるなんて、それもあまりないことだが、たとえそのような非常事態でも、白崎上級マネジャーでなければわたしが助っ人に呼ばれることはなかったと思う。

で、たぶん実際のところ――
白崎上級マネジャーはアシスタントテンポラリーさんを探していた。でもなかなか見つからない。
ビジネス演習コースからは矢の催促。
「いや、探してるよ? ちゃんと探してるんだけど、まだ見つからないんだよねー」と言っても通じない。「なんとかしてくださいよ!」

黙らせるための方便だったのだと思う。「とりあえず見つかるまでのつなぎに、PCプラクティスの先生を確保したから」

つまり、「うるさいなー」「これで文句ないだろ?」ってところ。

でもいいのだ。わたしはそれで。そのおかげで貴重な体験ができる。

わたしは前日の顔合わせも嬉々として行った。
このフロアに堂々と入れるだけで満足。
この場所で、普通に椅子に座っているなんて、それでもう満足。

「あ、どうも。ビジネス演習コースの権現です」
「○○です。よろしくお願いいたします」

権現先生は、決して大声など出さなさそうな、静かな話し方をする人だった。

――でもハッキリしたポリシーがあって、意志は固い人だということは分かっている。
ビジネス演習コースの江津先生は、もともと恩師の水上先生つながりで既知の間柄。その江津先生が、実習の進め方その他で権現先生と衝突して、かなりのバトルを繰り広げていることを、裏側から知っていたからだ。

知らなくても強い態度には出なかったろう。わたしは事なかれ主義だから。

「こちらに座ってください」と言われ、権現先生と向かうあう形で、隅のほうの席に座る。
わたしは殊勝にメモを取り出し、「ご指示を真剣に聞きますよ」ということを態度で表す。
権現先生は、分厚いファイルや書類の束を置いている。

「いつから来てもらえるんでしたっけ?」
「明後日からです。今週は明後日と木曜日に参ります」
「そうですか。よろしくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
「じゃあ、ちょっとご説明したいと思うんですが――」
「はい」

「今ですねえ、うちには**名ほどの実習生がおりまして――」

それから権現先生が説明してくれたのは、何人かの名前を挙げて障害について詳しく教えてくれるという、わたしの予想外のことだった。
わたしは面接というか、顔合わせみたいなものかな、と考えていたのだった。

しかし権現先生のほうは、事細かに一人一人について語っていく。
・・・・・・**さん、この方は高次脳です。熱心で、やる気はあるのですが、どうしても記憶障害が強く出てしまうので、覚えても忘れてしまうんですね。忘れてしまったことを指摘されるとちょっとイライラするという傾向はあります。あ、でもキレるということはあまりないので、大丈夫だと思います。今は繰り返しExcelとかPowerPointとかをやっていて、もう何度もやっているのでだいたいできるんですけどね。どうしても忘れてしまうことも多いので、テキストは――えーと、今は**出版のだったかな? ・・・・・・

――これほど洪水のような情報を、たった2日3日しか来ないわたしが知って、どうしろっていうんだろう?
わたしは不思議な気持ちだが、それを表に出すことはせず、素直に聞いておくことにする。

・・・・・・あとですねえ、**さん、この方は、アルコール依存症で、ですが今は落ち着いていて、ほぼ問題なく実習にも毎日通って来ているので。

――あ、この人はPCプラクティスのとき、「精神障害」ということで来ていた人だ。
アルコール依存症も精神障害に入るのか。

・・・・・・ま、ちょっと今、寮のような施設に住んでいて、できればそこを出たいというので、家を探しているところなんです。あまり寮母さんとうまくいっていないようで、もめると次の日は遅刻したり、まあ、そういうこともありますが、生活指導などは○○先生にお願いすることはありませんから・・・・・・

――寮に住んでるとか、寮母さんとうまくいっていないとか、そんな細かい事情まで、わたしが知る必要があるんだろうか?

権現先生は詳細な状況説明をえんえんとし、わたしは「これが**名分続くとしたら、いったいどのくらい時間がかかるだろうか?」と恐ろしくなった。
しかしほんの6、7名くらいで説明は終了した。

――なぜ!?
ここまで具体的なディテールを詳細に語ってきたのに、6人か7人分で終わるっていったい?

後から考えると、これには事情があった。
権現先生とわたしとは、すれ違っていたのである。

わたしは白崎上級マネジャーから「2日間くらい。もしかしたら3日くらい」と聞いていた。
ところが白崎上級マネジャーは、権現先生たちビジネス演習コースの人には、それを言っていなかったのだ。ただ「人を見つけた。その人が手伝うから」というような言い方をしたのだと思われる。

権現先生は、わたしが何ヶ月もビジネス演習コースに来るものと思っていた。つまり、次の年度が始まるまで、というように捉えていた。
そこでわたしに担当してもらいたい実習生さんを決め、(たぶん難しい人は避け、素人でもやりやすい状態の落ち着いた人を選んだと思われる)、で、その担当する実習生さんについて詳しく説明していたのだった。

2日か3日、ビジネス演習コースに行ったところで、「来月はいつが大丈夫ですか」と聞かれたので、「ほんの2、3日と聞いている。予算の都合もあって**日までしかビジネス演習コースでは雇えないと言われている」と答えると驚いていた。
そして白崎上級マネジャーに「どういうことですか!?」と噛みついたらしく、わたしは白崎上級マネジャーから「言っちゃったんだ。内緒だったんだよ」とやんわり注意された。

あのですね。
そんなこと分かりません。ちゃんと「言わないでね」って言ってくれないと。

――余談だが、こういうことの繰り返しで、わたしもだいぶ覚えた。
余計なことは言わないこと。何を言っていいか、何を言ってはいけないか、確認しながらやっていくこと。
今でもやっぱり、間違えてしまうことはあるけれど。

権現先生は分厚いファイルを閉じて、立ち上がった。
「それでは、どんな実習をしているか、見ていただきましょうか」
「はい、ぜひ。よろしくお願いします」

とはいえ、今は無給なんだよね。
こりゃ、ほんのちょっとの顔合わせどころか、一日仕事だなぁ・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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