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ちょっと覗き見 03:運営

顔合わせだと思って行ったら、業務説明だった事前打ち合わせ。

向かいに座った権現マネジャーが持つ分厚いファイルは、なるほどこれがと感心のため息だった。
受け入れた実習生さんに関する情報が、分かる限りすべて納められている。

一般的な申し込みといえば、住所、氏名などの基本情報に、学歴職歴などの履歴、資格、交通経路、志望動機や希望などだろうか。
健康診断を受けて、その結果を添付する場合もあるかもしれない。

わたしがある意味学校と言える職業訓練に通ったときは、「必要書類に健康診断書とあるが、必要ない」と電話がかかってきた。
スクールは障害や、その時点での身体の状況に合わせて支援や配慮を考えなくてはならないだろうから、やはり健康診断も必要だったかも。

他にも、必要とあらば付ける書類があるのだろう。

もう上級マネジャーでいえば3代前の話、わたしなど入ってまだ2年目か3年目のとき、有馬さんというテンポラリーさんがいた。
有馬さんは以前も登場している。
その当時はアシスタントテンポラリーさんではなく、派遣さんだった。わたしが仲良くしてもらった派遣さんたちのいるコースに、4月に新しく入ってきたテンポラリースタッフ。それが有馬さんだった。

有馬さんはなにしろ若くて、学校を出たばかりのような年齢で、見た目も若かった。
可愛らしい女性で、スーツがよく似合っていた。

テンポラリーなのに、派遣さんたちとも仲良くしていた。
そりゃ皆さん仲は悪くないけれど、たとえば派遣さんだけの忘年会に有馬さんも来ていたり、有馬さん以外ではそんなのあまり見たことがない。
そこには何か、目に見えない線があるのだ。その後、派遣さんは直雇いのアシスタントテンポラリーさんに変わったけれど、テンポラリーとアシスタントテンポラリーの間にははっきりと線がある。

有馬さんはそういったものを超えた人だったのかもしれない。――そのせいか、1年で契約を打ち切られてしまったが。

有馬さんはまだ入ってわずかだった頃、言っていた。
「自分のコースの実習生さん全員の資料をとじたファイルがあるんです。それはテンポラリーしか見られないんです」
派遣さんたちから言わせれば、実に不当なことである。
「実習をするとき、どんな障害かとか、詳しい内容が分からないとやりにくいでしょう?」
だからもちろん教えてもらえるのだが、直接その資料を見られるのは、テンポラリーまでなのだそうだ。(もちろんレギュラーは見られる。入りたてだろうが、なんだろうが。)

たとえば実習中にやたらとトイレに行って、その上なかなか戻ってこない人がいたら――
不真面目なのか、それとも障害による症状の一環なのか?
障害特性だとして、それは排泄に困難や問題があるからなのか? それとも精神や高次脳などの障害で、長時間集中するのが難しいのか?
一見肢体障害に見えて、「ああ、排泄に困難があるのかな?」と思っていたら、実はうつ病も患ったことがあって、やたらと離席するのは心の問題だったとか? ・・・・・・事故で身体の障害になった人の中にも、不自由な状況からうつ病になることもある。事故や脳卒中などで肢体障害になり、同時に高次脳機能障害にもなったということもある。
今はその状況が改善されているから、特別な配慮は不要ということかもしれないし、ものすごく配慮が必要な状態かもしれない。

そういうのが分からないわよね!
と思っても、レギュラー、テンポラリーまでしか見られない。
そこで派遣さんたちは、なにしろ年だって有馬さんのお姉さんというには大きすぎるくらいだから、うまく頼んで見てもらう。

有馬さんにとっては、そういうことが若干のストレスらしかった。
確かにそういう情報は必要だ。なのに、入って3ヶ月くらいの自分も見ている資料が、何年も仕事をしてベテランであっても、派遣さんは見られない。

これが噂の資料かと思って、興味津々になった。

派遣さんがアシスタントテンポラリーさんに変わってからは、見られるようになったのかもしれない。
その点はよく分からない。
が、あのときの有馬さんが目に浮かんで、なんだか感慨深かった。

さて。
ひととおり説明した後、権現先生は立ち上がった。
「それでは、どんな実習をしているか、見ていただきましょうか」

わたしはついていき、あちこちを見学させてもらった。

「ここでは、パソコン操作を実習してもらっています」
なるほど、パソコンがたくさん並んでいる。
部屋が仕切ってあるのではなく、会社のフロアみたいに、広くてデスクの島がある配置だった。
島ごとに「今やっているのはこれ」ということらしい。

「ただ今は実習生の数が多くて。パソコンが足りない状況なんですよ」
この頃は、特に手厚い支援が必要な人が入るビジネス演習コースは、飽和状態だった。
発達や高次脳の人が多かった。そういう人たちの一層の社会参加が叫ばれていた時代だった。
「うちはいろいろな作業を実習していますから、1人1台はないですけど、パソコンを使わない実習と使う実習をうまく組み合わせて、やりくりしているんですよ」

「ここがパソコンを使わない実習ですね。事務職の軽作業などをやってもらっています」
――ここはちょっと、はしょりたい。
ここを見たとき、「え、そんなこと、今の時代します!?」と激しく驚いたので。
ネタとしては面白いかもしれないが、ちょっと、語るのは憚られる。
スクールは、欠点が皆無だとは言わないが、それなりに熱意を持って、理想に燃えつつ運営されていると思うので、この一点だけをもって「えー!?」と皆さんに思われたくない。

いや、まあ、そのくらい「え、そんなこと!?」と驚いたのだ。

しかしわたしも「そうなんですか~」などと相槌を打ちながら、何も言わずに殊勝げにうなずいていた。
たとえ相手から悪く思われても実習生さんのため!という理想はなかったので、理想のもとにこの作業を実習に組み入れている方たちを非難はできない。

「結構、今でもこういう作業の需要があるんですよ」
・・・・・・はあ。そうなんですか。

「ここもパソコンを使わない作業ですね。在庫管理などを体験してもらっています」
ああ~、雑然と古そうな機器が置かれていたのは、そういうわけだったのですね。
「スクール中から、使われていない古いOA機器などを集めてきて、置いてあるんですよ。これを数えて、管理表に記入するという実習です」

「こういった作業は、○○先生にはお願いしないと思うのですが、こういうことをやっているというのを見ていただいたほうがいいと思いますので」
「はい。こんなふうに実習をしているなんて、初めて見せていただいたので、とても興味深いです」
「実際は○○先生には、PowerPointとかメールとか、そういう内容をしていただくつもりです」
「はい。よろしくお願いいたします」

付け加えておかなければなるまい。

ビジネス演習コースは、たぶん今はもう、わたしが驚いた作業などは実習に組み入れていない。
権現マネジャーはその後異動してしまわれたが、たとえ今でもビジネス演習コースにいたとしても、やはり取り入れなかったろうと思う。

時代に即しないことを頑としてやり続けていると誤解されないよう、念のため・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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