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人に歴史あり

何度もスキルアップ研修に来てくれていて、すっかり顔なじみのDさん。
頚椎損傷で車椅子。上半身も麻痺があるため、電動車椅子。
いつも飄々としていて、冗談が多い。

自虐ネタもさらりと口にする。

「寒かったら言ってくださいね、温度調節したりしますから」とわたし。
「本当に。寒かったらすぐ言ってください。膝掛けとかもあるから」と花咲さん。
「いやー、大丈夫ですよ。一番寒さを感じる下半身が、感覚ないですからねぇ」
Dさんはさらっと冗談を言う。

「同じ会社の**さんとか、この研修にも来たことがあると思うけど」
「はいはい、いらしてましたね」
「彼なんかはもう、冬は会社休んでもスキーに行きたいっていう感じですからね」
「ああ、そうなんですか」
「寒いときに寒いところに行くなんて、信じられないですねぇ」
「そうですね」
「遭難するかもしれないしねえ」
「そういう危険もありますよね」
「ま、自分はこの体ですからねえ。安全ですよ。行けないし」

こういう冗談は微妙に笑いにくいものである。
だからDさんは、すぐに次の言葉を続ける。

「**くんなんて、あれですよ。寒いときは海外でサーフィンするほうがいいって、言ってますよ」
「あはは、それはそうですよね~」
「でも給料安いから行けないけど、ってオチがつきますけどね」
「そうなんですか? そんなに安いんですか~?」

わたしは美人でも、美スタイルでもない。
誰が見ても間違いようがないので、諦めているし、受け入れている。(太っていることに関しては、受け入れずに努力すべきなのかもしれないが。)

「太っているから、これこれこういうことがありますけどね」と笑い話のつもりで言っても、「えー、・・・・・・そんなことー」と困ったように返される。
たいていは困る。よほど気にしない人か、相当気心が知れている人でないと、「そうなんだー」とか「だよね」とか笑ってはくれない。

だからわたしもすぐに言葉を続けて、笑っていいものかどうか、相手が困るタイミングを無くすように心がける。
Dさんの気持ちが、少し分かるのである。

そりゃ、痩せていたほうがいろいろいいことがあるけれど(健康以外にも)、でも、それを暗く愚痴るほうが会話が楽しくなるなんてはずはない。明るく冗談話に持っていく。
今、現に太ってることは、仕方ないじゃん。太ってるものとして話を進めなきゃ。
とまあ、そんな感じだ。

Dさんの考えについては、「気持ちが分かる」とは言ったが、斟酌するつもりはない。
わたしは「練習をたくさんするほうが楽しそうだ」とか「口を出されるのは嫌いみたいだ」とか、感情を察するのは割と得手だが、人のポリシーや哲学までは分からない。
きっとこうだろうと推測することはあっても、完全に正しいかどうか判断できない。
Dさんの会話に関するポリシーは決して些細なことではないから、勝手な推量はしないでおく。

とにかくDさんは、障害を受けたことを受容して、今ではそれを笑いのタネにできるくらいになったのだ、というように見える。

しかしDさんは、かつての仲間には知らせていないそうだ。
Dさんはかつて、体を使う技術職だったという。その頃の知り合いには、受障したことは言っていない。

ご家族は息子が受障したことを受け入れられずにいる。
Dさんが静かに受け入れているように見えるのもなんとなく好まない。

Dさんはこういう話をずっとしなかった。
何度も何度もスキルアップ研修に通っていたけれど、したことはなかった。
たまたまあるとき、条件がそろったのだろう。人数が少なかったことや、お昼を一緒に食べたことや、季節が穏やかだったことや、いろいろな条件が。
ふと軽く話してくれたのだった。

人にはいろいろな過去があり、いろいろな思いがある。

一度、その世界ではなかなかの有名人だった人が、スキルアップ研修に来たことがある。

輝ける将来を期待していい人だった。嘱望されてもいた。
事故が将来の道を変えた。

人にはいろいろな過去があるが、やり直すことはできないので受け入れるしかない。

何度もスキルアップ研修に来た人で、とても陽気なEさん。
要領のいい人で、頭がよく、学歴も高いのだが、「難しい仕事をやらされるから、会社ではできるって言わない」そうだ。

お笑いコンビみたいな当意即妙の会話が得意で、そういう会話ができる人がいると実に楽しげだった。

要領がいいから、そもそもスキルアップ研修に来るのも半分リフレッシュ休暇みたいなもので、サボったり、それを注意すると言い返してきて笑いに終わったり、という楽しい人だ。
同じ会社の人など、「いい気なやつだなぁ」と呆れ気味なところもあったかもしれない。

でもそれほど陽気一方の人なのに、昔は出社できないくらいうつ状態になったこともあったという。
ご本人は言わないので、それを知ったときは驚いた。
――え、あのEさんが!?

やっと出社したと思ったら、次の日からまた3ヶ月くらい休み。
今からは想像もつかない状態だったそうだ。

いろいろな過去があるものである。今のEさんしか知らない者は、信じられない。
感情の浮き沈みが激しく、元気に見えても急に落ち込む特性は、精神障害以外にもあるらしい。

Fさん。車椅子。
スキルアップ研修を通して、長いおつきあいだった。
できた人で、会社では兄貴分。花咲さんの信用も篤い。
車椅子なのでどこにでも車で行く。男性らしく、車にはこだわりがある。

わたしにとっても、楽しく雑談に興じてくださるが、節度をわきまえてもくださるという、とても有難い人。

Fさんは、脳性麻痺のような生まれつきのものではなく、きっと脊髄や頸髄の損傷なのだろうと思っていたけれど、どういう経緯だったのか聞いたことはない。
もちろんこちらから聞いたことはないし、Fさんが話したこともなかった。

あるときFさんが来たスキルアップ研修に、聴覚障害の人がやって来た。
二人は初対面だし、わたしにとってもこの聴覚の人は初めて。

PowerPointなので、わたしはいつものようにオリジナル作品を発表してもらった。
聴覚の人は、テーマに趣味のバイクを選んだ。
お互いに感想を述べ合うというとき、Fさんは「いいですね。魅力が伝わって来ました」とさすがそつのない感想。「自分も事故に遭う前はバイクに乗っていました」

それが受障の原因だったのか、単に「それ以来バイクに乗っていない」というだけのことなのか、知らないままだ。
ただ、元々バイク好きだったのか~、それなら車にもこだわるのは納得だなぁ、とだけ思った。

人にはいろいろな過去があり、いろいろな思いがある・・・・・・



●8年目:いろんな出会い
Chapter 4 どこかの誰かのストーリー



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