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肢体障害:選択肢を提供する

肢体障害とひとくちに言ってもさまざまだ。

下肢麻痺で車椅子を使っている人も肢体障害。
片腕が義手の人も肢体障害。
脳卒中などで体の片側が麻痺している片麻痺の人も肢体障害。上肢も下肢も麻痺していることになる。でも片麻痺だから、両足が麻痺しているわけではなく、車椅子ではない。

車椅子に乗っていると言っても、これもまたさまざま。
腰から下だけが麻痺していて、上半身は普通に動かせる人。
胸から下に麻痺があって、腕や手の指を動かすときも力が入らないことがある人。
首から下という人は就職にしろ通うにしろ困難なので、スクールにはほとんどいないが、そういう人もいる。

どの方法を使うのがいいのか、その人にとって最も適しているのか?
障害の状況だけでなく、個人の好みというものもあるので、さまざまだ。

選択できるよう、選択肢はできるだけ多く伝えたい、とわたしは思っている。
そのために、講師はさまざまな方法を知っておくことが望ましい、とも思う。

何度も例に出すが、たとえばWordにおける「コピー → 貼り付け」の作業だ。

●リボンのボタンを使う
●ショートカットメニューを使う (右クリック)
●ショートカットキーを使う (Ctrl+Cでコピー、Ctrl+Vで貼り付け)
●選択範囲をCtrl+ドラッグ

単純に考えても4つの方法がある。

さらに、ショートカットメニューを使う場合も、複数のやり方がある。
●対象箇所で右クリック
●キーボードのショートカットメニューキーを押す

できるだけマウスを使いたくないという場合、キーボードでもショートカットメニューを表示できる。
このキーが用意されているキーボードの場合は、最下段Ctrlの左辺りの位置にある。たいていは、ショートカットメニューにマウスポインタが見えているような図が描かれている。

コピーというのは、範囲選択してからコピーするものだが、選択方法もいろいろある。
●マウスでドラッグする
●キーボードとマウスを使って選択する
  ○単語単位=ダブルクリック
  ○文章単位=Ctrl+クリック
  ○始点をクリック、終点をShift+クリック
●キーボードで選択する
  ○始点にカーソルを移動、Shiftキーを押しながら終点まで↓キーや→キーで選択

もしマウスでドラッグする方法を使うなら、行単位の選択も併せて覚えてもらったほうがよい。
行の左端の余白部分(選択領域と呼ばれる)でクリックする方法だ。何行も選択する場合、ドラッグよりもマウスを動かす範囲が少ないので、手にも多少の麻痺がある場合は楽だ。

同じように上肢にも多少の麻痺があっても、脳性麻痺が原因の場合と頚椎損傷が原因の場合は、若干状態が違うように思う。
これまで出会った脳性麻痺と頚損の人たちが何人くらいになるのか、数えたことはないが、かなり多いと思う。わたしはほんの数日だけ企業からやってくるスキルアップ研修も担当し続けてきたので、入れ替わり立ち代わり、いろいろな人と出会ってきた。さらにPCプラクティスは、コースに関わらずすべての人が受けるものなので、スタッフの先生たちより数だけは多く見ている。
一律に語ることはできないけれど、脳性麻痺の人はマウス操作を選択していることが多く、頚損の人たちはヘビーユーザーになると、できるところはキーボードを多用するほうがいいらしい。
頚損の人たちは、最初はマウスから入る。パソコンをヘビーに使うようになると、上肢に麻痺がある人でもできる限りキーボードオンリーにするようになる。もちろん受障以前に慣れていた方法がある場合は、そちらを使うことも多い。
ただ、思うに、入力するために棒などを手にセッティングしなければならないので、キーボード・マウス・キーボード・マウスと交互に使うのはやりにくいのかもしれない。それでキーボードを使ったらそのままキーボード、マウスを使ったらそのままマウスなのかもしれない。
脳性麻痺の人は、たいてい入力は指でしている。

つまり、「マウスでドラッグする選択方法を使うなら、行単位の選択も覚えたほうがいい」と言ったが、一律ではないということだ。

下肢だけに麻痺があり、上半身は健常者同様に動くなら、行単位の選択を覚えようが覚えまいがいい。「これを覚えておいたほうが効率よく選択できますよ」という意味で伝えるが、強制はしない。
講習対象が健常者の場合も「行単位の選択はこのほうが便利ですよ」と教える。ご当人がつい今まで通りドラッグしていれば、「行単位はこのほうが早いですよ」とか「箇条書きの行頭文字がついているときは、特に行単位で選択するほうがいいですよ」(行頭文字の位置がずれたりするから)と言う。
下肢のみ麻痺の人には、それと同じ程度にお伝えする。

しかしもし脳性麻痺の人が「自分はマウスのほうがやりやすいので」とマウスで選択する方法を選んでいるのなら、行単位の選択をもう少し熱心に勧める。

行単位の選択は、左端の選択領域をダブルクリックすると、段落単位の選択になる。(ちなみにトリプルクリックすると、文書全体の選択になる。)
段落全部を選択することはよくあるから、これも覚えておくといい。マウスを動かす手間が省けて効率的だ。特に脳性麻痺の人の場合、手が多少ふるえてしまって、ドラッグでの選択は身体が緊張するもののようだからだ。

また、範囲選択がマウスでドラッグする方法なら、ピンポイントのところにドラッグすることができれば、Ctrl+ドラッグが効率的だ。
ただしこれは、ピンポイントのところにドラッグすることに支障がなければ、だ。

さて。
ここまでは肢体障害のみの場合だ。

もし脳梗塞など脳血管障害による肢体障害の場合、高次脳機能障害を併せ持っていることも考えられる。
この場合は特別な注意が必要だ。

記憶障害があるなら、「こうすると便利」「こうもできる」「これも覚えるともっと効率がよい」とあれこれ言われても、いっぺんには覚えられない。
覚えなくてはならないことは最小限にとどめるのがよい。

しかし自分で判断をしていくことが困難な症状も出るときがあるので、「あなたが決めてください」と任せてしまうのもどうかと思う。

わたしの場合は、できるだけ相談して決めるようにしている。
これまでどのような方法を使っていたか確認する。それがよければ、そのままその方法を採ってもらう。
「とりあえず3つの方法を試してみましょう」と操作をしてもらって、どれが良かったか聞く。「自分はこれこれがやりやすかった」と言われたら、それでやってもらう。
翌日には忘れてしまうことがあるので、こちらで覚えておいて、次にフォローするとき「昨日、**さんはマウスが使いやすいとおっしゃってましたよ」とご本人が選んだ方法でフォローするようにしている。なるべく選んだ方法一択で進めていくよう、講師側で誘導していることになる。
何度も違う方法を使っているようだったら、「以前伺ったときマウスがいいとおっしゃっていましたけど、拝見しているとキーボードをお使いになることが多いようですね。そのほうが覚えやすいでしょうか?」ともう一度確認してみる。

肢体障害だけの人と、高次脳と肢体と併せ持っている人とが同じ講習を受講していたら、ケースバイケースで対応する。
多くの選択肢を説明するとき、最後に「覚えやすいものを1つだけ覚えてください」と付け加えるとか。
高次脳の人には各自練習の時間や休憩のときなどに聞き取りをし、またこちらからも全部覚える必要はないことを伝え、フォローするとか。
肢体障害だけの人が1人で、併せ持つ人が多い場合はそちらに照準を合わせた説明をし、肢体障害だけの人には個別にフォローするとか。

もし脳障害と肢体障害の両方があるようだったら、より一層ケアしながら進めていく必要がある。

とはいえ、肢体障害だけならケアが不要というわけではない。
受講者さんにお任せしてすべて済むなら、講師など要らないではないか。

また、選択肢は多ければ多いほどいいというわけでもない。
特にマンツーマンではなく全体に講習をしているとき、あまりにもいろいろ伝え過ぎても混乱するばかりだ。

たとえば、ExcelでSUM関数を入れるとしたら?
●リボン ホームタブのボタン(Σ)を使う
●数式バー左のボタン(fx)を使う (マウスをあちこち動かしたくなく、普段決まった関数だけ使うなら、便利)
●リボン 数式タブのボタン(Σ)を使う (手がふるえたりするので、ホームタブのボタンでは小さくてクリックしづらいとき便利。同じボタンだが数式タブのボタンは大きいのだ)

それ以外に「Alt+Shift+=」でもできる、と伝えたからといって、どうだろう?
選択肢を増やすのも麻痺があるからであって、麻痺があるのに3つのキーを同時に押すというのはやりにくい。
麻痺があってショートカットキーとして便利に使えるのは、2つのキーまでだ。これまでの経験から、わたしはそう思う。

一言にまとめると、「肢体障害の人が受講している場合は、選択肢を多く提案する」のがよいと思う。
●健常者向けの講習を基準とするなら、肢体障害の人がいるときはそれより少し多めに選択肢を伝える。
●あまりやりにくい方法は一斉講義の説明からは省き、知りたい人だけに個別に伝える。
●高次脳機能障害など、他の障害も併せ持つ人がいる場合は配慮する。

それから講師として大切なことを付け加えておく。
●講師はさまざまな方法を知っていたほうがよい。
●知識が多いとつい全部教えたくなってしまうので、引き算を心がける。

どんな講習でも――健常者向けでも障害者向けでも、この「引き算」というのが一番難しいものである・・・・・・



●9年目:ハートの中心
Chapter 2 ちょこっとTips -進め方編-



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